8話 相性の善し悪し
あなたの記憶の本棚に、ぜひ私の作品を入れさせて頂けませんか?
元気と夏希が背を合わせて、ドライアドと対峙する。
今まで彼女と戦っていた想護はその場から少し離れて、観戦に回った。それは、2人の戦いをよく知っているからこその行動だ。
「夏希、いつも通りのでいくぞ」
「おっけー、ちゃちゃっと終わらせちゃおう!」
2人に対するドライアドは蔦を自分の周りに集中させて、守りを固める。
元気が攻めに強いのを悟っての行動だろう、やはり普通の魔物とは違ってかなりの知性がある。
「それじゃあ、レッツスタート!」
元気がそう言うと同時に、夏希が周囲に水の槍を飛ばす。たとえダメージを与えれたとしても、植物を操るドライアドにとって水の魔法はエネルギーの元とすらなる。
よって、彼女の蔦の伸びも早くなる。
「一体何を......こんな意味のない行動をして、意味が分からない」
「夏希、ちゃんと掴まってて」
「は〜い!」
元気が異異異能力を発動し、夏希を抱えながら蔦を避けて走り回る。
その間にも夏希は水の槍を飛ばし、どんどん蔦を濡らしていった。やがて無数の蔦が元気を囲み、二人が絶体絶命の状況に陥る。だが、その状況は二人にとって計画通りだ。
「それじゃあフィニッシュにしよう!さぁ、元気やっちゃって!」
「ああ、トネル・オーバーボルト!」
その瞬間、超高電圧の電気が放たれ、夏希の水の魔法によって濡れた蔦に感電する。
それはずぶ濡れのドライアドも同じで、彼女は蔦と共に激しく感電し、そして焼き焦げた。これが元気と夏希のコンビ技。水の魔法と雷の魔法による超強力な感電攻撃だ。
「ははっ、いつ見ても恐ろしいな」
推定でも上級の魔物を難なく倒すそのコンビネーションは、上級魔術師も顔負けの強さを誇る。
それを可能にするのは、二人の間にある揺るぎない信頼と愛情なのだ。
◇◇◇
翌日、想護達が協力してドライアドを討伐したという話はすぐにニュースとなり、彼らは学校で表彰された。
あのドライアドは上級の魔物であり、普通なら上級魔術師が対処する相手なのだが、今回は三人で討伐に成功したのだ。
想護は二人が起きるまでの時間稼ぎをしただけだが、それでもこの功績はこれから彼にとって大きな武器になる。
「すごいね3人とも、あのドライアドを火の魔法も使わずに討伐だなんて......」
「元気と夏希の連携があったからこそだな。僕はただ時間を稼いだだけだし」
「でもドライアドは無数の蔦を自在に操る相手。手数で圧倒的に不利なはずなのに、それをナイフで捌くなんて聞いた事がないよ」
光凛からの言葉に、想護の心は少し温まる。
彼女は想護に魔力を発現させるきっかけをくれ、それだけでなく今もこうして優しく言葉をかけてくれる。
「......ありがとう、そう言われると助かる」
「うん!どういたしまして」
今までずっと落ちこぼれと蔑まされてきた想護は、今ではこうして褒めてくれる友人もいる。
彼は、本来の明るさを取り戻していた。
◇◇◇
想護と光凛が楽しそうに会話をする中、以前から彼を落ちこぼれと嘲笑っていた荒山はその様子を不機嫌そうな目で見つめていた。
その光景を見るのも聞くのも嫌になった彼は、教室を飛び出して学校から出る。今はまだ放課後ではないが実戦成績の最上位者である彼は少しぐらいサボってもこの学校ではそうそう咎められる事はない。
「ちっ、なんであいつばっかり......気に食わねぇ」
彼が猫背になりながら街中を歩いていると、ふと道端に見知った顔を見つけた。
彼女は荒山と同じ一年の生徒であり、そして校内のランキングの一位に君臨する者。"氷谷 郁美"、それが彼女の名前だ。
「氷谷、なんであいつがこんなとこに......」
荒山が不思議そうに氷谷を見つめていると、彼女がその視線に気づき、彼の方に振り向いた。
そして壁にもたれかかっていた彼女は飴を咥えながら彼のところへ歩いて来る。
「荒山じゃん、今日学校でしょ?何サボってんの?」
「いやお前もだろ、お前こそこんなとこで何してんだよ」
荒山と彼女はそこまで仲が悪い訳ではなく、2人とも互いに普通に接している。
普段の荒山の行動から考えると彼女に嫌悪感を抱いていそうなのだが、今の彼は穏やかなものだ。
「私は普通にサボってる」
「ふ〜ん、じゃあ俺と喧嘩しようぜ。ちょっとイラついてんだよ」
「えぇ......あんた炎の魔法使うじゃん。相性最悪なんだけど」
彼女は氷の属性の使い手で、確かに荒山と魔法の相性は最悪だ。
だが、嫌そうに目を細める彼女は以前、彼に勝利している。つまり、これは荒山に対する煽りなのだ。
「はっ、やる気満々じゃねぇか。ほら、行くぞ」
踵を返して学校へ向かう彼の背中を氷谷は少しだけ笑みを浮かべながら追いかけた。
◇◇◇
2人が訓練室に入ってからしばらく経つ。
だが依然として戦いは続いており、室内には轟音が鳴り響いている。
「さっさと本気出せよ、氷谷!」
「うるさいなぁ、そっちが本気出させてみなよ?」
荒山の炎の火力は世界的に見ても上位に食い込む。そのため氷谷が創り出した氷なんかはすぐに溶けてしまうのだが、それでも彼女は素早い魔法の展開と特出した操作技術で彼の炎を凌いでいた。
彼女の強みは魔法の威力でも、魔力量でもない。ひたすらに研鑽されたがゆえのその技量なのだ。
「いいぜぇ?そこまで言うなら本気でぶっ飛ばしてやるよ。前の俺とは一味違うぞ!」
その瞬間、荒山の魔力が倍以上に跳ね上がり、彼の身体から赤いオーラが立ち上る。それは彼の異異異能力"荒鬼"の効果だが、彼は今彼女に対して憤りなどの敵意はない。
彼の異異能力が発動しているのは、彼の感情の昂りゆえだ。
「フラム・キャノン!」
荒山の手から一軒家と同程度の大きさの火球が放たれ、氷谷へと迫る。
それと同時に彼女は即座に氷の壁を創造した。だが、火の球は彼女の氷の壁など簡単に溶かしてしまう。そのため、彼女は壁が破壊される度に新たな壁を繰り返し創り出した。
やがて火球の威力は完全に失われ、跡形もなく消えた。
「へ〜、それがあんたの異異異能力?らしいっちゃらしいね」
「お前も渋ってないで、さっさと見せろ!その力ァ!」
複数の火球が出現し、彼女に襲いかかる。そして火球が目前まで迫った時、彼女はずっとポケットに入れていた手を出した。
「いいよ、見せてあげる」
そして彼女が一瞬、瞳を青く輝かせると、荒山の放った全ての火球が消え、室内は静寂に包まれた。
対象を消す力?それとも魔法の無効化?そんな思考が荒山の頭に巡るが、彼が瞬きをして再び目を開いた時、そのどちらも違う事が分かる。
なぜなら、彼の周りを火球が囲っていたからだ。
「なっ!?」
その瞬間、火球は荒山へと直撃し、破裂する。
彼は炎に耐性を持っているが、流石にあれだけの威力を食らっては無傷ではいられない。いや、それよりも問題はそこじゃない。
彼は見たのだ。火球が出現する直前、何か円形の穴ようなものが空中に浮かんでいたのを。
「ははっ、やられたぜ。でも分かったぞ、お前の異異異能力!」
火球は消えたんじゃない、一時的に別の次元へと飛ばされていただけだ。
つまり、彼女の異異異能力は次元を開く力。正しくは違うのだろうが、効果は大体同じなはずだ。
「私の異異能力は"格納"。対象を異空間へ格納出来る。まあ、上限はあるんだけどね」
「はっ、なんて事のない便利異異能力。だが、戦闘に応用するとそうなる訳か......」
以前も言ったが、彼女の強みはその技量。異異能力や魔法の強さなんかは関係ない。
彼女のいる戦場において、その場の物全ては彼女の武器になりうる。それが氷谷 郁美という果てしない研鑽を積んだ者の強さだ。
「それじゃあ、続きだね」
膨大な魔力を持って生まれた荒山という一人の天才に相対するは、至って普通の異異能力を持ってして生まれた凡才だ。
ただし、果てしない研鑽を重ねた凡才なのだ。
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