7話 休日の終わりはボス戦で
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想護と光凛の2人と分かれてからしばらくした後、夕暮れ時になった頃に元気と夏希はショッピングモールから出て帰路に着いていた。
想護には帰る旨をメールで伝えたし、二人の当初の目的は果たせたからだ。
「あの2人、やっぱり推せるよね」
「分かる、あれは推せる」
二人の当初の目的は想護と光凛をくっつけること。
光凛の様子からして彼女は想護に対して友好的どころか多分脈アリだ。だが、肝心の想護が彼女に対してあまり興味がないような様子。
それもそのはずだ、そもそも彼は光凛の事を高嶺の花のような存在として見ている。自分とは住んでいる世界が違うと、そう認識してしまっているのだ。
「想護って凄いよね、私に勝っちゃうぐらいだし」
「えっ、想護勝ったの!?夏希に!?」
「そうだよ?前の模擬戦で全力出したんだけど、まさな魔法を切られるとは思わなかったよ」
「マジかぁ、トイレ我慢しときゃ良かったかな......」
想護の事を二人は幼い頃からずっと見てきた。だからこそ分かる、彼は努力の天才だ。自分の境遇を覆そうと必死に努力し、そして見事覆してみせた。
彼はこれからももっと強くなる、2人にはそれがはっきりと分かるのだ。
「追い付かれないように頑張らないとな」
「だね、私も追い越してやらないと」
二人が他愛もない会話をしながら帰っていると、目の前に少し高身長な女性が現れた。
彼女は濃い緑色の髪色をしており、蔦を全身に纏っている。そんな彼女は2人の前に立ち止まると、不気味な笑みを浮かべた。
「あなた達、魔術高校の子?」
「はい、そうですけど......」
「下がれ夏希、様子が変だ」
あまりにも不気味な様子な彼女に、元気は最大限に警戒をする。その予感は良くも悪くも、的中する事となった。
「良かったぁ......!やっと見つけた」
その瞬間、彼女の足元から無数の蔦が伸びて2人を襲う。
その速さはまるで鞭のように速く、2人は反応し切れずにその蔦に飲まれた。
◇◇◇
「じゃあ、そろそろ日も落ちてきた事だし帰ろうか?」
「うん、今日は色々とありがとう。すごく楽しかった」
夕暮れ時になって想護と光凛は解散する事にした。
今日はかなり多く買い物をしたし、荷物を持ったままでこれ以上長くいる訳にもいかないだろう。
「また一緒に買い物してくれる?」
「ああ、僕も楽しかったし、時間がある時に」
「うん、今日は本当にありがとう。じゃあまたね、永生くん!」
光凛と分かれて、想護は帰路につく。
今日は本当に楽しかったのだろう。想護もかなりいい気分で帰路につけた。だけど、そんな彼が歩いている時、なぜだか突然胸騒ぎを感じた。
「この先は......」
いつもとは違う道だが、それでもこの方向の先にあるものを彼は知っている。
それは、元気や夏希が住む家のある場所だ。
嫌な胸騒ぎに焦りを感じ、想護は走ってその2人の家へ向かう。なぜかどんどん進む度に魔力が濃くなり、彼の中にある焦燥はより大きくなる。
そして、やがて想護はその惨状を目撃した。
「なんだよ、これ......!」
無数の蔦が四方八方に伸び、周りの建物や人を巻き込んでいる。巻き付かれた人の顔色は青ざめており、息はあるが非常に危険な状況なのは一目瞭然だ。
想護はそんな状況を見て、すぐに短剣を構えた。
「なんなんだこの蔦は!一体何が起こってるんだ!」
蔦を次々と切りながら想護はさらに奥へと進んでいく。
先に帰ったはずの元気や夏希が見当たらない事から、ずっと嫌な想像が自分の頭から離れない。そんな中、想護は蔦の中心部らしき場所に到着した。
「っ......元気!夏希!」
そこには蔦に巻き付かれ、意識を失っている2人と、その蔦を操っているであろう女がいた。
彼女は想護の声に反応して、まるで人形のように首だけを動かした。
「あら、新しい子。あなたも魔術高校の子?」
「そんな事よりお前は何者だ!何が目的でこんな事をしてる!」
想護は短剣を構え、冷静に彼女に問う。
すると彼女は不気味な笑みを浮かべ、口を開いた。
「私はドライアド、あなた達人間の魔力を貰いに来たの。人間の魔力は量は少ないけど、質はいいのよね〜!」
想護はその言葉から彼女の正体を推測した。
この魔法でもない力と人間の力を貰うという発言、おそらく彼女は魔物だ。
それも元気と夏希を相手にして圧倒している事から、最低でも上級の大物。想護が倒せるのは中級まで、このまま戦うのは得策ではない。
「......だからって退けないよな」
想護は決意を決め、ドライアドの動きを観察する。
大切な友達が命の危機にあるっていうのに、彼は逃げれる訳がない。今までどれだけ2人の笑顔に救われたか数えればキリがないのだ。
だから、今度は自分自身が2人を救う。彼には、それだけの義務がある。
「待ってろよ、2人とも。今すぐに解放してやる!」
その瞬間、想護が地を蹴って一気に距離を詰める。
どうやら身体異能力はそこまで高くないようで、ドライアドは彼の動きを目で捉える事しか出来ていない。だが、彼女にとってはそれだけで十分だ。
「危なっ......!なんて速さだよ!」
蔦がものすごい速さで伸びてきて、想護に襲いかかる。
魔力で身体異能力を強化している想護はその速さに対応し、見事に襲いかかってきた蔦を切り裂いた。
「思ったよりも強い......うん、美味しそう」
「厄介だな、手数が多い!」
無数に伸びる蔦に想護は防戦一方だ。
それでも何とかこの状況を打開しなければ、先に尽きるのは彼の方だろう。よって、彼は切り札を出すことにした。
「これを実戦で使うのは、初めてだな!」
想護がもう一本の短剣を取り出し、そして一旦距離をとる。
この短剣は彼が2本だけ持つ魔道具の一つで、その効果は硬さに関係なく対象を切断出来るというもの。この状況ではその効果はあまり意味はないが、それでも手数が増えるのはとてもありがたい。
ちなみに、彼が日頃から使っているこの短剣も魔道具であり、これは彼が使い続けたが故に魔道具と化した物だ。
この魔道具は通常の魔道具とは違って特に効果はないのだが、想護の魔力に浸されている為、彼の魔力との親和性がずば抜けて高い。それによって、想護の力を最大限にまで引き出すのだ。
「行くぞ!」
手数が増えた事によって想護の攻撃がより強力なものとなり、どんどん距離が縮まる。
だからといって油断は出来ない。どこから伸びてくるか分からない蔦を相手に一瞬でも隙を見せたら巻き付かれかねないからだ。
「ふふっ、ちょっといたずら」
「フェイント!?まずっ......!」
ドライアドの見せたフェイントによって、想護に少しの隙が出来る。その一瞬の隙に一本の蔦が彼に巻き付いた。
「ふふっ、これであなたも私の物。私の勝ちね」
「......ああ、僕の負けだ。ただし、油断は禁物だぞ?」
その瞬間、複数の雷の剣が出現し、周囲の蔦を全て切り裂く。それを操るのはさっきまで蔦に巻き付かれ、気絶していた元気だ。
実は想護は戦闘中にこっそり元気と夏希の蔦を切り裂いており、それからしばらくして2人は目を覚ましたのだ。
「流石は想護だな、助かったぜ」
「私、植物とは相性最悪なんだけど?ねぇ、魔物さん?」
元気と夏希が背を合わせ、ドライアドを睨みつける。その顔には、余裕の笑みが浮かんでいた。
想護はよく知っている。この二人のコンビネーション、その恐ろしさを。
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