4話 革命のピース
あなたの記憶の本棚に、ぜひ私の作品を入れさせて頂けませんか?
想護に魔力が宿ってから数日が経ち、月に一回だけある特別授業の日が訪れた。
この学校は完全なる実力主義の学校な為、この特別授業での成績によって成績が大きく変わってくる
その授業の内容とは、生徒と生徒同士の模擬戦だ。
「今回の組み合わせはいつも通り前回の模擬戦の成績から決める。ただし、麗明とアイクのデータは無いから、2人は例外ね!」
大していつもと変わらない流れで説明が進み、それぞれの組が分けられる。
落ちこぼれと罵られていた想護は成績は下の方という訳ではなく、彼の成績は今までもそれほど低くはない。よって、今回は彼は幼馴染みの夏希と組む事になった。
彼のもう一人の幼馴染みである元気はというと、成績も最上位に並ぶほどなので、彼は荒山と組む事になる。
「想護、私が可愛いからって手加減しちゃ駄目だよ?」
「心配しなくても、もちろん勝つ気で行くよ」
いつもと違って少し自信のある想護を見て夏希は少し驚く。
だが、彼女はそれと同時に嬉しくも思った。いつも周りとの劣等感を感じていた彼が、少しでも自信を持ってくれたんだ。これは彼女にとっても喜ばしい事だ。
「じゃあ、2人共準備はいいね?」
2人が互いに位置につき、合図を待つ。
この特別授業が行われるのは想護が毎日のように通っている訓練室で、ここで発生した傷や状態異常などは全て身体的なダメージではなく、魔道具に蓄積された魔力の減少に変換される。だが、いくら変換するとはいえ痛みはある為、想護はいつも使う短剣ではなく、木製の殺傷異能力の低い短剣を使う。
対する夏希は武器は使わず、単純な魔法による戦闘。だが、今回はそれに混じって異異能力も使うだろう。
「それでは、始め!」
やがて始まりの合図が鳴り、その瞬間に想護が走り出す。その速度はアイクが教室で見せたあの速さには届かないが、それでも夏希が目で追うのがやっとな程だ。
「ちょっ、速っ!いつの間にこんな......!」
「ちょっと色々あってな!」
想護が夏希の背後に回り込み、間合いに入るが、その瞬間に彼の足が滑る。
夏希の得意とする魔法は水の魔法。魔法を使って地面を濡らし、足を滑らせたのだ。
「ちょっと調子に乗り過ぎじゃないかな!」
「別に、僕は冷静だけど?」
想護が足元の水を飛ばし、夏希の顔にかける。
相手の魔法を逆手にとった妨害攻撃、それによって出来た隙に彼は攻撃を叩き込んだ。
「うぐっ!」
「このまま削るぞ!」
この模擬戦の勝利条件は相手の負傷度を半分以下まで減らす事だ。負傷度はモニターにゲージとして映し出され、それが半分以下まで減れば勝ち。
想護はさっき夏希に攻撃を何発か叩き込み、負傷度を減らした。いや、減らしたはずだった。
彼がモニターに目を向けると、そこに映し出される夏希の負傷度ゲージはまったく減っていない。想護がそれに不思議に思っていると、夏希が不敵な笑みを浮かべた。
「驚いた?これが私の異異能力、"潤癒"。生きとし生けるものを癒す力!」
彼女の異能力"潤癒"は、生者であればその対象の怪我や病気をある程度は癒す事が出来る。
さらに、その対象に水の魔力が宿っているならば、その効果は倍増するというまさに彼女に適した異能力だ。
「なら、一気に決めればいいって訳だな?」
「この私がそんな隙を見せると思う?」
夏希の足元に魔法陣が展開され、複数の水の玉が浮かぶ。
その一つ一つがトラックのタイヤ程の大きさであり、これは圧倒的な質量攻撃である事が分かる。
だが、それに対する想護も策が無い訳じゃない。
「前の僕なら、負けてただろうな......」
「何?これを見ても、まだ何か策があるの?」
想護は目を閉じ、自身の身に宿る透明な魔力を全身に巡らせる。その魔力はやがて彼の持つ木製の短剣にも宿り、彼は短剣を構えた。
そして魔力が全身に、次に短剣に巡った事を確認すると、彼は短剣を空中に浮かぶ複数の水玉に向かって何度か振った。
その瞬間、魔力の刃が飛び、その刃が夏希の水玉に命中した。
「なっ!?これはまさか......!」
その様子を見ていたのは夏希や教師である風嵐だけでは無い。何人かのクラスメイトも、そして彼を日頃から罵っていた荒山もだ。
今まで魔力すら無かった想護が、魔力の刃を飛ばした。その事実に、この場の全員が驚愕した。
「行くぞ、夏希」
「っ......!」
夏希はすぐに体勢を立て直そうとするが、想護はさっきよりも速い速度で一瞬にして夏希の背後をとる。
そして魔力によって強化された身体と短剣によって、速くそして高い威力の攻撃を一気に何度も叩き込んだ。その瞬間、彼の猛攻によってモニターに表示される夏希のゲージが半分以下まで一気に減った。
つまり、この試合は想護の勝ちだ。
「勝負あり!想護の勝ち!」
その瞬間、この模擬戦の会場は唖然とした。
確かに想護は今までも魔法が使えない身でありながらも成績を保ってきたが、今回は相手が相手だ。
夏希の成績は最上位にこそ届かないが、クラスの中でもかなり上位の成績で、その成績は右肩上がりに伸びている。
そんな彼女を落ちこぼれだったはずの想護が負かしたのだ。傍から見れば、ありえないの一言に尽きるだろう。
「うわ〜、負けちゃった〜!いつの間にそんなに強くなったの?想護」
「別に、これは僕の努力の結晶だよ。これでやっと、お前らと一緒に歩けるんだ」
想護の嬉しそうに笑う顔に、夏希も笑みを浮かべる。想護がこんな風に笑ったのは、彼が幼かった頃を最後に、久しく見ていなかったのだ。
そんな彼を見て、模擬戦の外から見守っていた風嵐もふと笑みを零した。
「嬉しそうですね、風嵐先生」
「ふふっ、当たり前だろう?僕は彼の教師だ、生徒の成長を喜んで何が悪いのかな?雷代先生」
彼の隣に立つのは神経質そうな顔をした細身の教師だ。
彼はこの実力主義の学校の中でも特に魔法に拘っており、魔法の使えない想護を心の底から嫌っている。その為、今回の勝敗に納得がいってないのだろう。
「あの子、何か不正でもしたのではありませんか?そもそも、属性のない魔力など見た事が......」
「雷代先生、あまり僕の生徒を馬鹿にしないでもらいたい。彼はそんな真似をするような子じゃありませんよ?」
風嵐が少し強くそう言うと、雷代は小さく舌打ちをして、その場を去る。
その後ろ姿を見て、風嵐はため息を吐く。
「はぁ、これだから価値観のねじ曲がった老人は嫌いなんだよね〜。若い芽を摘もうとするんじゃないよ、まったく」
そして風嵐は再び想護に目を向け、笑顔を浮かべる。
彼の目に映るあの青年、あれは才能の塊だ。確かに魔法は使えないかもしれないが、そうじゃないのだ。
彼は自分の境遇を恨み諦めるのではなく、抗い続けた。彼はこの魔法主義の世界を変える大きな革命のピースとなる。
それが、永生 想護という男なのだ。
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