2話 本当の落ちこぼれ
あなたの記憶の本棚に、ぜひ私の作品を入れさせて頂けませんか?
四時限目が終わり、昼休みになる。この時間になると想護はすぐに教室を出る。それは教室に居づらいからとか、そういう理由ではない。
想護はいつも通り弁当を持って屋上に向かい、その扉を開ける。そして、そこには彼の幼馴染みである元気と夏希だけがいるはずだった。
「やあ、想護。僕もご一緒させてもらうよ!」
「......なんで、アイクがいるんだ?」
そこにはいつも通り一緒に座る元気と夏希、そしてなぜか編入生であるアイクがいた。想護がその異様な状況に困惑していると、彼の背後から声がした。
その声はとても透き通った美しい声で、その声の主はすぐに分かる。
「永生くん達はいつも屋上で食べてるの?私も混ざっていいかな?」
「......麗明さん」
想護が関わりたくない人物が2人も揃い、彼にとっては最悪の状況となってしまった。なぜこうなってしまうのかと彼は頭を抱えるが、わざわざ2人を追い返す訳にもいかない。
なぜなら、彼らは想護へ悪意のある目線なんて向けていないのだ。つまり、彼らは落ちこぼれである彼に対して、嫌な感情を覚えていないのだ。
「2人とも早く来なよ〜!人が多い方が楽しいし!」
「夏希の言う通りだな。想護、早く食べようぜ?」
この状況を想護があまりよく思っていないと知りながらも、元気と夏希が手招きする。2人は彼の状況を悪化させたい訳ではない。ただ、彼にはもっと人と関わって欲しいのだ。
だが、想護にとって今後も注目されるであろうこの2人と関わるのはリスクしかない。それでも彼は幼馴染みである2人が言うならと、そう思い渋々歩き出した。
そんな想護を見て、編入生である光凛も彼の隣に立って歩き出す。
「永生くん、君は大丈夫だよ」
「え?」
光凛はそう一言だけ残し、輪に混ざる。
想護は不思議に思いながらも4人の輪に混ざって、弁当を開けた。
そしていつもより少し賑やかな中、彼は卵焼きを一つ口にした。その卵焼きは、なぜかいつもよりも美味しく感じた。
◇◇◇
「え〜、もう聞いてると思うけど、今日は"異能力測定"を行うよ!」
昼休みが終わり、五限目の授業に入る。
今回の授業は特殊で、つい最近の研究で明らかになった人間の内に秘められた"異能力"というものを測定するらしい。
異能力は人それぞれで、魔法がなくとも炎を出せたり、空中に浮けたりと様々だ。
今回の授業ではそれを測定すると同時に、その異能力を活性化させる。
「じゃあ早速、この水晶に順番に手をかざしてもらおうか!この水晶に手を当てるとね、なんと空中に文字が浮き出て異能力の名前が分かるんだよ〜!すごいでしょ?」
クラスの大多数は自分の新しい力に期待していた。そして、魔法の使えない想護はその中の誰よりも期待していた。
それもそうだ。もしここで自分にもみんなと同じように特別な力が与えられたのなら、もう差別される事も少なくなる。
そんな希望が、彼にはあった。
「じゃあそうだね、出席番号順だから......まずは豪炎からだね!」
担任である風嵐の一言で、教室が少しザワつく。
荒山 豪炎は校内でもトップレベルの戦闘能力の持ち主であり、そんな彼にはもちろん期待が集まる。
そして荒山は、自信満々な顔で席を立った。
「見とけよ落ちこぼれ、この俺がどれだけ特別な人間かってのをよ」
荒山はそう想護に言い放ち、水晶に手をかざす。
その瞬間、水晶が炎のように赤く輝き、真上に文字が現れる。
浮き出た異能力の名前は"荒鬼"。その文字を見て、風嵐が何やら魔導書のような物を捲り、その異能力の説明を始める。
「ふむふむ、感情が昂る程、力が膨れ上がる異能力だね!うん、荒山にピッタリだし、とても強力な異能力だよ!」
「はっ!これで俺の力は更に強くなった訳だな!」
そして荒山は満足したように自身の席へ向かう。
その際、想護の横を通り、彼は自慢気に席に着く。
彼のその目は、まるで嘲笑うかのように、落ちこぼれの想護を見つめていた。
そして、数名の異能力が測定された後に、想護の番がくる。彼の苗字は永世、出席番号もかなり早い。
「頑張れよ、落ちこぼれ?」
「......ああ」
想護は席を立ち、水晶の前へ歩く。
すると自然と彼に注目が集まり、手に汗が滲む。
落ちこぼれである彼にどんな異能力が現れるかはこの教室の誰もが注目していた。その大多数がとても弱く、まさにゴミのような異能力が現れると思っている。
そんな中、もし異能力が与えられなかったらと、もし与えられた異能力がまるでゴミのようなものだったらと、そんな思いが彼の頭に過ぎる。
だけど、彼はそれでも水晶に手を伸ばした。
「ちっ、なんだよ......」
想護が水晶に手を当ててしばらく経つ。だが、その水晶は光り輝く事もなく、文字が浮かぶ事もない。
それが意味するのは、彼が無能力者だという事だ。
「ぎゃはははははっ!やっぱり落ちこぼれはどこまでも落ちこぼれだなぁ!」
荒山が笑い出し、それと同時にクラス中から笑い声が溢れる。
教師である風嵐はその状況を黙って見ている。なぜか、余裕の笑みを浮かべて。
「先生、次は僕が測定してもいいですか?」
「ああ、構わないよ。アイク」
急にアイクが立ち上がり、水晶の元へ歩き出す。
それを見て想護は席に戻ろうとするが、アイクが肩を掴み、戻ろうとした彼を引き止める。
そんな彼の行動に想護は少し困惑したが、アイクは穏やかな笑顔で話しかけた。
「大丈夫、見てて」
アイクが水晶に手を当て、水晶からの反応を待つ。
だが、想護の時と同じように、水晶は光る事も、文字が浮かぶ事もなかった。
つまり、アイクも無能力者なのだ。
「おや、これは困ったな。どうやら僕も無能力者なようだね?」
アイクは荒山を横目で見ながらそう言う。
荒山はそんな彼の視線に気付き、不敵な笑みを浮かべた。
「はっ、所詮はお前も落ちこぼれって事なんじゃねぇか?編入生?」
「うん、そうかもね......それじゃあ、試してみようか?」
その瞬間、アイクが全員の視界から消え、大きな音と共に荒山が地面に叩きつけられる。
倒れている彼のそばには、アイクが立っていた。
「あれ?おかしいな、僕は落ちこぼれなんじゃなかったっけ?」
「っ......!クソがっ!」
荒山が反撃をしようと魔法を唱えるが、アイクが彼の顔を掴み、その身体を持ち上げる。
一瞬で荒山を圧倒するほどの戦闘能力、彼は決して落ちこぼれなんかじゃない。むしろ、魔法無しでその戦闘能力は恐ろしさを覚える程だ。
「僕、魔法は使ってないよ?魔法もないし異能力もない。そんな理由で人を判断するようじゃ、一生僕には勝てないね」
アイクは冷たい目でそう告げ、荒山を離す。
そしてそのまま何事も無かったかのように席に着き、いつも通りの笑顔を浮かべた。
そんな彼に向かって、荒山が魔法陣を展開する。
「フラム......!」
「豪炎、この教室での魔法の行使は校則違反だよ?それとも、この僕と戦いたいのかな?」
荒山が魔法を放とうとするが、それを風嵐が止める。教師である風嵐の言葉には、彼も従うしかない。
そして騒動は収まり、水晶による測定が再開する。元気や夏希、そして他のクラスメイトの測定が次々に行われていき、その全員に異能力が発現した。
そんな中、編入生である彼女の番が回ってくる。
「よし、それじゃあ最後は麗明!」
「はい」
この授業の最後を飾るのは編入生であり、魔法の天才である麗明 光凛。
彼女のその圧倒的な才能に、このクラスはもちろん、学校中が期待している。
そんな彼女が今、水晶に手を当てた。
「......神光」
空中に浮き上がった文字は、"神光"。その異能力は風嵐の持つ魔導書にも記されておらず、詳細は分からない。
だが、その文字を写し出した水晶は、今までの記録にない反応、虹色の光を放っていた。
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