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異世界リハビリ診療録  作者: 1TOC
第1章:ケース①門番シグルト
5/24

第1章 4 『前進と葛藤の中で』

リハビリの三日目。

昨日よりも軽くなった体を感じながら、再びテルマ・クリニックを訪れた。


左半身のこわばりは徐々に和らいでいるが、まだ完全には動かない。

それでも、昨日のカナタ先生の言葉が俺の心に響いていた。


「リハビリは心のトレーニングでもある」


その言葉を胸に、今日も前進しようと決意した。



 クリニックに入ると、カナタ先生とリーネが既に準備を整えて待っていた。カナタ先生はいつもの穏やかな笑顔で俺を迎え、リーネは真剣な眼差しで俺を見ていた。


「おはようございます、シグルトさん。今日も少しずつ進めていきましょう。」


 カナタ先生の声がいつもより少し力強く感じられた。それが不思議と俺に安心感を与えてくれる。


「おはよう、カナタ先生。昨日の言葉、ありがとう。今日は少しでも前に進めるように頑張るよ。」


 俺がそう答えると、カナタ先生は頷き、今日のリハビリ内容を説明し始めた。


「今日は、これまで行ったトレーニングの復習に加えて、さらに一歩進んだ動作訓練を行います。昨日の感覚をしっかりと覚えておいてください。そして、今日は新しいアプローチとして、シグルトさんの体の動きに合わせた魔力の流れを調整していきます。」


 魔力の流れを調整する? カナタ先生がそんなことまでできるのか。


「リーネがシグルトさんの体の魔力の流れを確認しながらサポートします。今日は彼女に任せてみましょう。」


 リーネが一歩前に出て、俺に微笑んだ。彼女の瞳が青く輝き始め、周囲の空気がほんの少し変わるのを感じた。


「シグルトさん、今日は私が魔力の流れを見ながら動きをサポートしますよ。少し不思議な感覚かもしれませんが、リラックスしてくださいね。」


 俺は少し緊張しながらも、リーネに身を任せた。彼女の手が俺の肩に触れると、体の中で何かが流れ始めたような感覚が広がった。


それは温かく、心地よいもので、俺の体を優しく包み込んでいく。


「シグルトさん、まずは左手をゆっくり握りしめてみましょう。」


 リーネの声に従い、俺は左手に意識を集中させた。これまでとは違う、軽やかな感覚が指先に伝わってくる。少しずつ力を入れていくと、昨日よりも確かに力が入るのを感じた。


「確かに昨日よりも力が入る。少しずつだけど、力が入りやすくなっている気がする。」


 俺は自分の体の変化を実感し、少しだけ自信が湧いてきた。


「いい感じです。そのまま続けてください。魔力の流れがスムーズになっていますよ。」


 リーネの声に励まされながら、俺は左手を何度も握りしめた。今まで重かった手が、少しだけだが確実に軽くなっている。この感覚を体に焼き付けるように、動きを繰り返した。


「素晴らしいです、シグルトさん。次は立ち上がってみましょう。」


 リーネの指示で立ち上がると、カナタ先生がすぐにサポートに入ってくれた。俺はゆっくりと左足に力を入れてみた。昨日はふらついてしまったが、今日は少し安定している。


カナタ先生の手を借りながらも、確かに足が前に出るのを感じた。


「昨日よりも良いですよ、シグルトさん。この感覚を大切にしてください。」


 カナタ先生の声に、俺は再び自信が湧いてきた。少しずつだが、俺の体は確実に回復している。


このまま続ければ、また門番としての職務に戻れる日が来るかもしれない。


「その調子です。もう一度、ゆっくりと歩いてみましょう。」


 カナタ先生とリーネのサポートを受けながら、俺は慎重に歩みを進めた。

体の中を流れる魔力の流れがスムーズに感じられ、今まで感じていた重さが和らいでいる。


歩みを進めるたびに、俺の中に新たな力が宿っていくのを感じた。


「いいですね。そのまま続けてください。今日はこの調子で動作を繰り返し、体に覚え込ませましょう。」


 リーネの言葉に従い、俺は何度も歩く練習を続けた。最初は不安定だった足取りが、少しずつ安定していくのを感じた。まだ完璧ではないが、確実に前進している。


 しかし、リハビリの時間が終わる頃、俺は不安が再び胸に広がるのを感じた。


今日の成果は確かにあったが、それでもまだ自分が本当に回復できるのか、元のように戻れるのか、という不安が消えない。


「カナタ先生先生、少しずつ良くなっているのは感じるんだ。でも、本当にこれで元に戻れるのか…。」


 俺は心の奥にある不安をカナタ先生に打ち明けた。


 カナタ先生は少し考えた後、静かに頷いた。


「シグルトさん、その不安は当然のことです。リハビリは、ただ体を回復させるだけでなく、自分自身の価値観を見直す機会でもあります。焦る気持ちはわかりますが、今は目の前の一歩一歩を大切にしてください。リハビリを通じて、これまでとは違う自分を見つけることができるはずです。」


 カナタ先生の言葉は、俺の心に深く染み込んだ。焦りや不安を抱えながらも、今はこのプロセスを受け入れ、自分を成長させる時なのかもしれない。


「わかったよ…先生。俺、頑張ってみるよ。」


 そう言って、俺はカナタ先生とリーネに感謝しながら、クリニックを後にした。


まだ道のりは長いが、少しずつ前進している感覚が俺を支えてくれている。


そして、新しい自分を見つけるための旅が、今まさに始まったのだと感じていた。


【カルテ4】

患者名:シグルト

記載者:カナタ


S)

「カナタ先生、少しずつ良くなっているのは感じるんだ。でも、本当にこれで元に戻れるのか…。」

・シグルトは左半身のこわばりが徐々に和らいでいると感じており、体が少しずつ動きやすくなっていると実感している。

・しかし、リハビリの進行に対して不安が残り、元の状態に戻れるのかどうかに対して心配していることを述べている。


O)

・握力トレーニング: シグルトは左手の握力トレーニングを行い、以前よりも力が入りやすくなっている。リーネのサポートにより、魔力の流れがスムーズになり、動きが改善されていることが確認された。

・動作訓練: シグルトは立ち上がり、左足に力を入れて歩行練習を行った。昨日よりも足取りが安定している様子。リーネのサポートにより、魔力の流れが整っていることが見られた。

・心理的状態: シグルトはリハビリの効果を実感しているものの、依然として元の状態に戻れるかどうかに対する不安を抱えている。


A)

・シグルトの左半身のこわばりはリハビリによってさらに改善され、体の動きやすさが向上していることが確認された。

・しかし、心理的には元の状態に戻れるかどうかの不安が強く、これがリハビリの進行に対するモチベーションに影響を与える可能性がある。

・価値観の変容が必要であり、精神的なサポートが求められる。


P)

・握力トレーニング: 引き続き、左手の握力トレーニングを実施し、筋肉の柔軟性と力の回復を目指す。

・動作訓練: 継続して動作訓練を行い、安定した歩行ができるようサポートする。リーネによる魔力の流れの調整を継続し、動作をさらに改善する。

・マジカ・イメージング: リーネによるマジカ・イメージングを継続し、魔力の流れを整えることで、シグルトの身体機能をさらに改善する。

・ 再評価:リハビリの進捗状況に応じて、定期的にシグルトの身体機能と心理状態を再評価し、リハビリプランを必要に応じて調整する。


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