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異世界リハビリ診療録  作者: 1TOC
第1章:ケース①門番シグルト
4/24

第1章 3 『無力さの痛感』

リハビリの二日目。

昨日の疲れをまだ体に感じながらも、俺は朝一番でテルマ・クリニックを訪れた。


左半身のこわばりは少し和らいだが、まだ重さと違和感が残っている。

それでも、昨日感じた動きやすさを少しでも取り戻すため、今日もリハビリに取り組む決意を新たにした。


 クリニックに入ると、カナタ先生が待っていた。彼はいつもの穏やかな笑顔を浮かべながら、俺を迎えてくれた。


「おはようございます、シグルトさん。今日は、さらに体を動かしやすくするためのトレーニングを行いましょう。昨日の感覚を覚えていますか?」


「ああ、覚えてるよ。昨日は確かに、少しだけど体が軽く感じたんだ。」


カナタ先生は満足そうに頷いた。


「素晴らしいです。今日は、その感覚をさらに強めるために、少し負荷を増やしてみましょう。ただし、無理は禁物です。あなたのペースで進めていきましょう。」


 俺はカナタ先生の指示に従い、再び握力トレーニングを始めた。

昨日よりも力が入るように感じるが、それでも左手はまだ思うようには動かない。


焦りが胸の中でじわじわと広がっていく。


「シグルトさん、落ち着いて。焦らず、ゆっくりと進めていきましょう。」


 カナタ先生の声に、俺は少し深呼吸をして、気持ちを落ち着けた。

それでも、どこか焦燥感が消えない。


俺は元々強い力を誇っていた。


だからこそ、今のこの無力さがどうしても受け入れられない。


 次に、カナタ先生は昨日と同じく徒手療法を再び行い、左半身の筋肉をほぐしていく。

彼の手が触れるたびに、少しずつ筋肉が柔らかくなっていくのを感じた。


しかし、同時に胸の中で募る不安と苛立ちが、俺を少しずつ追い詰めていく。


「よし、次は少しだけ動作訓練をやってみましょう。昨日よりも動きやすくなっているはずです。」


 カナタ先生の指示で、俺は立ち上がり、左足を上げ下げする動作を試みた。しかし、思ったように足が上がらない。筋肉がまだ硬く、思うように動いてくれないのだ。俺はその場でふらつき、危うく転びそうになった。


「大丈夫ですか、シグルトさん!」


 カナタ先生がすぐに支えてくれたが、その瞬間、俺は自分の無力さに打ちひしがれた。こんなこともできないのか、と自分を責める気持ちが膨れ上がっていく。


「こんなことじゃ…俺はまた門番に戻れるのか…。」


 思わず呟いたその言葉に、自分自身が驚いた。俺がここまで弱気になるなんて。昨日までの決意が、今では揺らいでしまっている。


「シグルトさん、無理もないことです。マジカ・ピラミディアの改善には時間がかかるんです。ですが、確実に前進しています。昨日と比べて、少しずつですが良くなっていますよ。」


 カナタ先生の言葉は優しく、俺を慰めるようだった。しかし、その優しさが今の俺には少し辛かった。何もできない自分に苛立ち、何も変えられない現実に打ちのめされそうになる。


「焦らないでください、シグルトさん。リハビリは一歩一歩の積み重ねです。今日できなかったことも、明日できるようになるかもしれません。それがリハビリの進むべき道なんです。」


 カナタ先生は俺を見つめながら、落ち着いた声でそう言った。その言葉に、俺は少しずつ自分を取り戻していくのを感じた。焦ってはいけない。少しずつでも前に進むことが大切なのだ。


「わかったよ…先生。俺、頑張ってみる。」


 そう言いながら、俺はもう一度立ち上がり、再び動作訓練を始めた。まだまだ思うようには動かないが、カナタ先生の言葉を信じて、少しずつ進めていく。


「その調子です、シグルトさん。無理はせず、自分のペースで続けていきましょう。」


 リーネがその様子を真剣な表情で見つめ、メモを取りながら勉強しているのに気づいた。彼女の真剣な姿勢が、俺にも少しだけ力を与えてくれた。


 その日、リハビリが終わった後、俺はカナタ先生と少し話をした。

焦りや苛立ちを感じていることを正直に伝えると、カナタ先生は静かに頷き、こう言った。


「シグルトさん、リハビリは心のトレーニングでもあります。体を治すだけでなく、自分の心をも強くしていくことが大切です。辛い時や苦しい時こそ、成長するチャンスだと思ってください。」


 その言葉に、俺は少しだけ気持ちが楽になった。今はまだ思うように体が動かないかもしれないが、焦らずに自分を信じて進むことが大切なんだと理解した。


「ありがとう、カナタ先生先生。もう少しだけ、頑張ってみるよ。」


 そう言って、俺はクリニックを後にした。まだ道のりは長いが、少しずつ前進している感覚が俺を支えてくれている気がした。


【カルテ3】

患者名:シグルト

記載者:カナタ


S)

「こんなことじゃ…俺はまた門番に戻れるのか…。」

・シグルトは、左半身のこわばりが少し和らいだものの、まだ重さと違和感が残っているとのこと。

・また、リハビリの進捗に対して焦りと苛立ちを感じており、門番としての職務に戻れるかどうか不安を抱いている様子。


O)

・握力トレーニング: シグルトは昨日よりも少し力が入るようになったが、左手はまだ思うように動かない。トレーニング中に焦りと苛立ちの兆候が見られた。

・徒手療法: 左半身の筋肉がやや柔らかくなり、こわばりが改善されつつある。

・動作訓練: シグルトは足の上げ下げ動作でふらつき、転びそうになった。筋肉の硬直と不安定さが依然として存在する。


A)

・シグルトの左半身のこわばりは、リハビリによって少しずつ改善しているが、焦りと苛立ちが彼の心に影響を及ぼしている。これにより、リハビリの進捗に対する不安が高まっている。

・筋肉の柔軟性は改善の兆しが見られるものの、応用的な動作訓練においてはまだ不安定な状態が続いている。


P)

・徒手療法: 引き続き左半身のこわばりをほぐすために徒手療法を行い、火のエレメントの流れを改善する。

・握力トレーニング: 継続して握力トレーニングを実施し、筋肉の柔軟性と力を回復させる。

・応用動作訓練: 動作訓練を継続し、筋肉の柔軟性を高め、安定した動作ができるようにサポートする。

・エレメント・イメージング: リーネによるエレメント・イメージングを導入し、シグルトが自身の体内で火のエレメントの流れをイメージできるようサポートする。このイメージングを通じて、彼の体の柔軟性と動きやすさをさらに促進させる。


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