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異世界リハビリ診療録  作者: 1TOC
第1章:ケース①門番シグルト
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第1章 2 『リハビリの初回評価』

テルマ・クリニックの診察室で待っていると、カナタが何やら数枚の紙を持って入ってきた。

俺はすぐに座るよう促され、少し緊張しながら椅子に腰掛けた。

カナタは俺の表情を見て、優しく微笑んだ。



「シグルトさん、まずはあなたの症状について詳しく説明しますね。この話をリーネとレインにも聞いてもらいたいと思いますが、よろしいでしょうか? 彼女たちも、あなたをサポートする上で、この情報を知っておくことが大切です。」



俺は少し驚いたが、カナタの提案に頷いた。

彼女たちがしっかりとサポートしてくれるのなら、それは心強いことだ。



「もちろん、お願いします。」



カナタは頷き、リーネとレインを診察室に呼び入れた。彼女たちはすぐに入ってきて、俺の隣に立った。


カナタは、何やら書かれている紙を俺だけでなく、リーネとレインにも渡して説明を始めた。



「シグルトさん、先ほども言ったように、あなたの左半身の麻痺は『マジカ・ピラミディア』という魔力の流れが遮断されたことで起こっています。これは特に火のエレメントがうまく働いていないのが原因です。」


火のエレメント。

オーク族にとっては身近なエレメントだ。

生まれた時からあるものだから、いまさら意識なんてものもしていなかった。



「ご存じだとは思いますが、エレメントはその人の魔力に影響を与えます。そしてその魔力はその人の体や心に影響を与えます。リーネ、レイン、ここまでは正しいよね?」



 カナタの説明を聞いていたリーネとレインの2人は、長い耳を動かしながら小さくうんうんとうなづいていた。



「そしてエレメント…シグルトさんの場合は火のエレメントですが、これは筋肉の緊張を適度に抑え、柔軟性を保つ役割も果たしています。つまりこのエレメントの不調の影響で魔力が遮断されると、筋肉が硬直し、動きが制限されてしまうんです。」


カナタは俺の目を見ながら、ゆっくりと説明してくれた。リーネとレインも真剣な表情で話を聞いている。




「オーク族のように筋力が非常に高い者ほど、このエレメントの影響を大きく受けやすいんです。筋肉が強い分、火のエレメントが正常に働かないと、筋肉が過度に緊張し、硬直してしまいます。これがシグルトさんの左半身に起きている現象です。」




俺はカナタの言葉に耳を傾け、これまで感じていた違和感の原因が少しずつ理解できてきた。


「要するに、俺の体は火のエレメントがうまく働いていないせいで、筋肉が固まってしまっているってことか…。」



 カナタは頷き、「その通りです」と答えた。


「これを解きほぐすために、まず徒手療法で筋肉をほぐし、その後リハビリを通じて筋肉の柔軟性、そして魔力とエレメントの調整をし、動きを取り戻していきます。」



 カナタはリーネとレインに向かって、「今からシグルトさんのリハビリを始めます。彼の状態や反応をしっかりと観察しながら、一緒に学んでください」と伝えた。

二人は真剣な表情で頷いた。




 カナタは俺に向き直り、優しく言った。

「さあ、始めましょう。今日はまず、左半身のこわばりをほぐすことから始めます。」




 カナタは俺の左腕に優しく手を添えた。彼の手がゆっくりと筋肉を押し、伸ばしていくのを感じた。


硬くなった筋肉が少しずつほぐれていく感覚が、まるで火のエレメントが少しずつ戻ってくるように感じられた。



「どうですか? 少しずつですが、筋肉が柔らかくなってきていますね。」



 カナタの声に頷くと、俺は少しだけ腕を動かしてみた。

今まで感じていた重さや違和感が少し軽くなり、腕がスムーズに動くように感じた。



「たしかに、全然違うな。こわばりが少なくなった。」



 手を握ったり開いたりしながら、自分の体の変化を感じていた。

こんな短時間で変わるのか。


驚きと同時に「治るんじゃないか?」というイメージが湧いてきた。



「この感覚を忘れないように、しっかりとイメージとして焼き付けておいてください。動かしやすさを体に覚え込ませることが大切です。」



 カナタは俺の肩を軽く叩きながら言った。俺は目を閉じて、今感じている動きやすさをしっかりと意識した。左半身にまだ残る違和感が、次第に薄れていくように感じられた。



 次にカナタは、じっと俺の体を観察しながら、まるで内側を感じ取るかのように静かに集中していた。


彼が集中している間、俺は微かな緊張感を覚えながら、じっと待っていた。



「シグルトさん、火のエレメントの流れが特に左半身で滞っています。この部分を意識して、次のトレーニングを行ってみましょう。」



 カナタは手をかざし、俺の体に魔力の流れを感じ取らせるような感覚を送ってきた。

彼の言葉に従いながら、俺は自分の体の内側に意識を向け、火のエレメントが滞っている場所を感じ取ろうとした。




 そうか、いままで当たり前のように手足を動かしていたが、こうやって意識することなんてなかった。ましてやエレメントの流れなんてものは、エルフ族の考えそうなことだって決めつけてたな。


 俺は動かなくなってから改めて手足を意識することの重要性を痛感した。



「さて、イメージできましたね。次に握力トレーニングを始めましょう。さっき解した筋肉を使って、しっかりと握ってみてください。」



 カナタから渡されたグリップを握りしめると、先ほどよりも確かに力が入るような気がした。最初は思うように動かなかったが、カナタの指導に従い、少しずつ力を込めていく。



「いい感じですね。力任せではなく、グリップに手がなじむようなイメージで握るようにしてみてください。」



 カナタの言葉に励まされながら、俺は握力トレーニングを続けた。今まで感じていた重さや違和感が少しずつ和らいでいくのを実感し、内心で少しずつ自信が湧いてくるのを感じた。



 その時、横でリーネが真剣な表情でメモを取っているのに気づいた。彼女はカナタの動きや俺の反応を観察しながら、何かを学ぼうとしているようだった。



「この子も勉強してるんだな…。」



 俺は心の中でそう呟きながら、彼女の真剣な眼差しに少し刺激を受けた。彼女もまた、俺と同じようにこの場所で何かを学び、成長しようとしているのだ。



握力トレーニングを終えると、カナタは俺の肩を叩きながら微笑んだ。



「今日のトレーニングはここまでです。お疲れ様でした、シグルトさん。少しずつでも、この感覚を忘れないように、日々の生活に取り入れていきましょう。」



 俺は大きく息を吐きながら、汗を拭った。まだまだ道のりは長いが、今日のトレーニングで確かに何かが変わり始めた気がした。




「ありがとう、カナタ先生。また明日もよろしく頼む。」


そう言って俺は、少し軽くなった左腕を感じながら、クリニックの玄関に向かった。



「シグルトさん、帰りは大丈夫なんですか? 送りましょうか?」


カナタ先生はまだ少し引きずりながら歩いている俺を見て、心配してくれたのだろう。



「大丈夫、これもリハビリなんだろ?」



 そう言って俺は、カナタ先生たちに軽く手を振り、クリニックを後にした。まだ体の中に残る暖かさが、明日への希望を支えてくれているようだった。


【カルテ2】


患者名:シグルト

記載者:カナタ




S)「たしかに、全然違うな。こわばりが少なくなった。」


・左半身の麻痺とこわばりの訴えあり。

・発症当初は手足の脱力感が強かったが、現在は特に左半身の筋肉が硬直しており、動きの制限の自覚あり




O)

・エレメント・サイト:左側への火のエレメントの遮断の確認。

・筋力検査: 左半身において筋肉のこわばりが顕著で、特に火のエレメントが遮断されていることが原因と考えられる。徒手療法により、筋肉の柔軟性がわずかに改善。

・握力トレーニング: トレーニングを行うことで、握力がやや改善し、動きやすさが少し戻っている様子。



A)

・シグルトの症状は、火のエレメントの遮断による筋肉の硬直が原因であると考えられる。

・これにより左半身の痙性麻痺様の症状がみられているが、徒手療法により筋肉の柔軟性が少しずつ回復している。




P)

・徒手療法: 継続して左半身のこわばりをほぐすために徒手療法を行い、筋肉のこわばりそのものを改善する

・マジカ・イメージング:左側上下肢への魔力の流れをイメージングによって改善する。

・握力トレーニング: 引き続き握力トレーニングを実施し、筋力を回復させるとともに把握動作につなげる。

・経過観察: 定期的に筋力の回復状態を評価し、リハビリプランを調整する。


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