ぼく、白えんぴつ
「ーいらない」
ぽんと捨てられて、白えんぴつは悲しくなります。
「たーくん、何でぼくはいらないの?」
「色がつかないし。おもしろくない」
たーくんは4歳の男の子で24色の色えんぴつを使ってぬり絵をしています。
白えんぴつは言います。
「たしかにぼく、紙と同じ色だもんね」
「つまんない。だからいらないの」
子どもは素直だけれど、時にざんこくなことを言います。
白えんぴつは悲しそうな顔で言います。
「ぼくも使ってよ。何でもいいから」
「いやだ。お前なんかしまってやる」
そう言うと、たーくんはケースの中に白えんぴつを入れました。使っていないので、ほかのえんぴつに比べると、全然減っていません。
「またいらないって言われた」
「白はな…。使い方が分からないよな」
ほかの色えんぴつに馬鹿にされています。
「何でぼくだけ…。ひどいや!!」
白えんぴつは蓋のしまったケースの中で悔しがります。自分も赤や黄みたいに派手な色なら良かったのにと思っています。
「ぼくだけのけものだ! 神様のいじわる」
涙をふくと、白えんぴつは目を閉じました。やることといえば、寝ること以外にありません。
「また寝てるよ」
「だから駄目なんだよ。俺たちみたいに細くならないなんて、かっこ悪いの」
悪口が聞こえても、白えんぴつは無視をすることにしました。
ー誰かぼくを使ってくれないかな。
このままではケースの中で太ったまま終わりそうです。
ー何で白色なんてあるんだろう?
自分で自分を呪いました。白色なんてなければ、皆と仲良くなれたのかもしれないのです。
ーいいや、寝よ。
白えんぴつは寝ることで良い夢を見ようと思いました。しかし、一向に眠れません。
そのうち、白えんぴつのケースが開きました。ワクワクしましたが、たーくんが取ったのは、
「赤にしよ!!」
目立つ赤色でした。白えんぴつはがっかりして目をつむります。
「たーくん、ご飯!!」
「はーい」
ママに呼ばれて、たーくんは色えんぴつをケースの中にしまい始めます。皆、嬉しそうに帰ってくるのに、白えんぴつだけがポツンとしています。
ー次こそは。
期待しますが、たーくんは行ってしまいました。ケースの蓋は開いたままです。
ー何を塗っているんだろう?
白えんぴつは起き上がり、たーくんの絵を見ます。どうやら、ヒーローもののイラストを描いているようです。ピンクや黄などが使われてて、派手です。
ーぼく、やっぱりいらないみたい。
気づいた白えんぴつは、外へ出ることを決意しました。このままここにいても、仕方ないからです。
ーぼくを使ってくれる人を探すのだ。
コロコロと転がりながら、ケースから出て、部屋を出ます。すると、廊下でママと会いました。
「また片付けてない!!」
ママは怒ったように言うと、白えんぴつを拾いました。慌てたのは白えんぴつです。
ーママ、放してよ。
ママはたーくんの部屋に戻そうとしますが、たーくんが言います。
「白えんぴつなら、いらないよ。つまらないし」
「ぜいたくを言わないの。白えんぴつだって、使い方があるんだから」
白えんぴつはおやっと思いました。ママはアイディアがあるみたいです。たーくんも興味津々になっています。
「白えんぴつはね」
ママはたーくんの部屋にあった画用紙を手に取ります。画用紙は色がついていてキレイです。ママは黒い紙を出すと、白えんぴつを使います。簡単なお花の絵ですが、キレイに白色が描けています。
「こうやって使うのよ」
「ふーん、なるほど。今度、ぼくもやってみよ」
たーくんは白えんぴつを受け取ると、大事にケースの中にしまいました。悪口を言っていたえんぴつたちも驚いたように黙っています。
ーこうやって使うんだ。
白えんぴつも自分の存在価値が分かった気がして、思わず泣きました。ママに感謝です。
「たーくん、ほら、行くわよ」
「はーい」
たーくんは答えた後、白えんぴつに謝ります。
「ごめんね、今度使うから」
謝られて、白えんぴつは嬉しくなりました。これからが楽しみです。
「悪かったな、馬鹿にして」
ほかの色えんぴつたちも謝ってくれます。白えんぴつは嬉しくなって言います。
「ぼくも仲間に入れてくれる?」
「もちろん」
ケースの中で色えんぴつたちは明るくなりました。もう誰も白えんぴつの悪口を言いません。
ー良かった!!
白えんぴつはニコリと笑うと、安心してケースの中で暮らしました。