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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

敵はギルド!? デバフという概念が存在しないこの世界で

作者: ノ木瀬 優
掲載日:2023/07/13

【sideカイル】


 冒険者生活、1日目。僕を待っていたのは、先輩冒険者である、盗賊(シーフ)ガッツさんからの罵声だった。


「おいコラ! カイル! ちんたら歩いてんじゃねぇえ!!」

「はぁ……はぁ……ご、ごめん、なさ、い……」


 現在、僕はギルドで唯一のB級冒険者パーティー『森の狩人』に荷物持ち(ボーダー)として雇われている。冒険者としてデビューする者は、D級以上の先輩冒険者パーティーに同行する事が、僕らのギルドの慣例だからだ。ここで先輩冒険者に力不足と判断された者は、冒険者としての資格を失ってしまう。だからこそ、冒険者を目指す者は、この日の為にちゃんと鍛えておくのだ。


 しかし、街を出発して30分も経たないうちに、僕の足は悲鳴を上げていた。


「ちっ! 超上級(Sランク)の『重量操作』のスキル持ちだってぇから期待してたのによ!」

「ガッツ……気持ちはわかるが、それはこの子の責任じゃないだろ? あんまり怒るなよ」

「……ちっ! わぁってるよ!」


 憤慨するガッツさんを、重戦士(タンク)のウッドリーさんが宥める。


 ガッツさんの言う通り、僕はギルドで冒険者登録をした時に、スキル持ち、それも超上級(Sランク)のスキル持ちだと判明し、職業(クラス)として荷物持ち(ボーダー)を選択した。新人冒険者が、どのようなスキルを持っていて、どのような職業(クラス)に進むかは、その場の冒険者達にも開示されるので、僕のスキルと職業(クラス)についても、皆に開示された。(ちなみに情報を開示しない事も出来るらしいが、それだと冒険者パーティーが慣例(・・)を引き受けてくれないため、基本的に新人冒険者は、自分の情報は開示するらしい)


 超上級(Sランク)のスキル持ちだと判明したからこそ、普通はD級、よくてC級の冒険者パーティーがやるこの慣例(・・)を、B級冒険者パーティーの『森の狩人』がやってくれたのだ。それなのに、僕は今、彼らの期待を裏切ってしまっている。ガッツさんの怒りの視線が、そして他の3人のメンバーの憐みの視線が痛い。


「とはいえ、『暗き森』まではまだ半分以上あります。このままではさすがに厳しいですよ。リーダー、決断する時です」

「……そうだな。ミリアの言う通りだ」


 回復師(ヒーラー)のミリアさんの提案を、リーダー兼剣士アタッカーのファボックさんは受け入れてしまう。僕は、彼らの期待に応えられなかったのだ。


「はぁ、はぁ…………ご、ごめん、なさい……5人分の……荷物……僕一人じゃ……」


 通常、荷物持ち(ボーダー)職業(クラス)を選んだものは3人分の荷物を持って長時間移動できれば、合格とされている。4人分持てる者なら優秀、5人分持てる者は超優秀、そして6人分持てる者は、僕らギルドに1人しかいなかった(・・・・・)


 冒険者登録の際、僕は3人分の荷物は運べることが分かっていた。ぎりぎり4人分でも無理をすれば運べなくもないと思う。しかし、5人分というのは、僕には完全に重量オーバーだ。


「ちっ! …………だいたいよ! 俺達は『重量操作』のスキルを持ってるっつーからお前を雇ったんだぞ!? 超上級(Sランク)だから期待してたんだ!! それなのに――!」

「ガッツ、よせ! 彼のせいじゃないって言ってるだろ! フリーの荷物持ち(ボーダー)は彼以外いなかったんだし、そもそも悪いのはギルドの(・・・・)クソどもだ(・・・・・)!!」


 『重量操作』のスキルは、本来、荷物や魔物の素材などの重量を『軽くする』スキルらしい(・・・)。このスキルを持つ者は、たとえ中級(Bランク)のスキルだったとしても重宝されるそうだ。


 そう聞いていたのに(・・・・・・・)


「そうよ。彼のスキルが重量を『重くする』スキルであることを隠して、『重量操作』のスキルだとしか言わなかったのはギルドの責任だもの。彼を責めるのはお門違いよ」


 スキルは冒険者として登録して初めて使えるものなので、冒険者登録した者は自分のスキルについて、慣例(・・)の時に先輩冒険者から詳しく聞く事になっている。


 街中でのスキルの使用は原則禁止という事もあり、僕も『森の狩人』の人達も、僕のスキルは重量を『軽くする』スキルだと思っていた。


 ふらつきながら7人分(・・・)の荷物を持って町から出た後、『重量操作』のスキルを使った僕は、初めて、自分のスキルが重量を『重くする』スキルだと知ったのだ。


「でもよ! だって……これでやっと……やっとユーリとリリスを助けられるはずだったのによ!!」

「ガッツ……気持ちは分かるが、これじゃ2人を助けるどころじゃない。カイル君も頑張ってくれたが、やっぱり無理だったんだ。一度街へ戻ろう。リーダー命令だ」

「――っ! くそがぁぁああ!!!」


 僕のスキルが重量を『重くする』スキルだと判明したのに、『暗き森』に行く事を強行したのには理由がある。


 実は、彼ら『森の狩人』は、彼ら4人の他に、荷物持ち(ボーダー)のダムラスさんと偵察係(レンジャー)のユーリさん、リリスさんの3人を加えた7人のパーティーなのだ。それが、危険度Bランクの『暗き森』で夜営していた時に魔物に襲撃されてしまったらしい。


 その襲撃で魔獣に足を喰いちぎられたダムラスさんをガッツさんが担ぎ、ミリアさんが回復のスキルでダムラスさんを癒しつつ、ファボックさんとウッドリーさんがしんがりを務めて、何とか帰還を試みるが、運の悪い事に、帰還の途中で、他の魔物に襲われてしまったそうだ。


 ファボックさん達とはまだ合流できておらず、戦えるのが、盗賊(シーフ)のガッツさんだけというまさに絶体絶命となったその時、ガッツさんが制止するのも聞かず、ユーリさんとリリスさんが囮となったらしい。


 妹達を助けに行きたいが、今ここで自分がダムラスさん達から離れたら、彼らを守る者がいなくなってしまう。血のにじむ思いで、妹達を見送り、ガッツさんは街へと急いだそうだ。


 途中でボロボロになったファボックさん達と合流したガッツさん達は、こうして、何とか街まで戻る事が出来たとの事だった。


 その後、魔道具でユーリさんとリリスさんが生きている事が確認できたので、すぐにでも助けに行くつもりだったそうだが、それは叶わなかった。


 というのも、荷物持ち(ボーダー)のダムラスさんは、ギルドで唯一、6人分の荷物を運べる荷物持ち(ボーダー)だった。ファボックさん達の怪我は、ミリアさんの回復のスキルで癒えたものの、欠損してしまったダムラスさんの足は、ミリアさんの回復のスキルでも、修復出来なかったそうだ。


 いくらB級の冒険者パーティー『森の狩人』でも危険度Bランクの『暗き森』に行くのであれば、いつでも戦えるようにしておく必要がある。今までは、ダムラスさんが6人分持ち、他の皆で1人分を分け合って持つことで、いつでも戦える体制を整えていたらしい。


 ゆえに、ダムラスさんが抜けてしまった彼らは、急いで、他の荷物持ち(ボーダー)を雇う必要があった。しかし、この時間、目ぼしい荷物持ち(ボーダー)は他のパーティーと冒険に出てしまっている。そこで白羽の矢が立ったのが、丁度冒険者登録をしていた僕というわけだ。


 彼らの話を聞いた時、僕はとても誇らしい気持ちになった。街で唯一のB級冒険者パーティーに頼られている事も嬉しかったし、僕の力でユーリさんとリリスさんを救ってみせると使命感にも燃えていた。それなのに、街を出たところで、発動した僕のスキルは、僕の、そして彼らが思っていたものとは全く異なるものだった。


 それでも彼らの期待に応えるべく、何とか荷物を減らして出発したのだが、結果はこのざまだ。


(くそ……くそぉぉおお!!!)


 僕は歯を食いしばって前に進もうとするが、もはや1歩も歩く事が出来なくなっていた。


「無理をするなカイル君。君なら十分荷物持ち(ボーダー)としてやっていけるよ。君のスキルは荷物持ち(ボーダー)向きじゃなかったが、ガッツみたいに努力すれば、『スキル無し』でもB級になれるぞ」

「――え?」


 冒険者で『スキル無し』な事は珍しい事ではないが、B級冒険者になるような人は、たいてい何かしらの、その職業(クラス)向きのスキルを持っている。『スキル無し』でその領域まで上り詰めるのは、並大抵ではない努力をした証拠と言えるだろう。


「……ちっ! 何見てやがんだ! あぁ、もう! 分かった! 従えばいいんだろ従えば! 少し休んだら街へ戻る! そんかわり、今日中に他のパーティーの荷物持ち(ボーダー)に連絡して明日こそ『暗き森』に行く! いいよな!?」

「ああ、もちろんだ。カイル君、荷物を下ろして休んでろ。帰りは荷物を分担して持っていく。その代わりペースを上げるから、頑張ってついて来てくれ」

「くっ……はぁ……はぁ……わ、わかり、ました……」

 

 悔しいが、ファボックさんの言う通りもはや限界だった。指示に従い、荷物を下ろそうとした時、近くの茂みがガサッっと音を立てる。


「っ!? 敵襲! 2時の方向!!」


 ファボックさんの叫びに応じて重戦士(タンク)のウッドリーさんが先頭に、その後ろにファボックさん、ガッツさん、ミリアさん、僕の順番で隊列を組む。というより、まだ動けずにいる僕をかばうように、皆が隊列を組んでくれた。


「――来るぞ」


 そして、それ(・・)は茂みからゆっくりと姿を現した。


「「「「グリフォン!?」」」」


 グリフォンはキメラ種に分類される魔物で、危険度Bランクの『暗き森』の深部に生息している魔物だ。B級冒険者パーティーである『森の狩人』の戦闘系の職業(クラス)についている者なら、『一人でもまぁ、8割方勝てるだろう』というレベルの相手であり、現状、大した脅威ではない。


とはいえ、普段はこんなところにいるはずのない魔物の出現は、僕たちに少なくない動揺を与えた。


「なんでこんなところにグリフォンが!? 『暗き森』まではまだまだあるぞ!」

「そんな事言っている場合じゃない! 幸い戦闘メンバーはそろっている。ウッドリー、ガッツ、やるぞ! ミリアはカイル君の援護を!」

「了解!」

「おう!」

「了解です! カイル君、荷物を外して逃げる準備をしておいて。万が一の時は、荷物は捨てて逃げるわよ」

「は、はい! ――え!?」


 ミリアさんに言われて背負った荷物を身体に結び付けている留め具を外そうとしたが、留め具は一向に外れる気配が無かった。


(なんで!? 荷物を減らした時は確かに外れたのに!?)


 どれだけ力を入れても、留め具はピクリとも動かない。


「外れない! 留め具が外れません!!」

「落ち着いて! 外せないわけないでしょ! 見せて! …………え?」


 留め具を見たミリアさんが、驚いて目を見開く。


固定(ロック)の魔法がかかってる? なんで!? 遅延魔法? 発動条件(トリガー)は…………『魔物の接近』!? 何よこれ!? ――っ!? カイル君! この留め具って、ギルドから支給された物よね!?」

「そうです! 荷物持ち(ボーダー)の基本装備だって!」


 職業(クラス)を選択した時に、ギルドから最低限の基本装備が支給される。荷物持ち(ボーダー)の場合、服一式と荷物を固定するロープ及び留め具がそうだ。


「っ! なんでこんな事を!? これ、魔物を倒さないと外せないようになってる! そんな仕様、今まで……あ! ま、まぁ、でも大丈夫よ。リーダー達ならグリフォンの1匹くらい余裕で倒せるから――」

「ミリア! 伏せろ!!!」

「――っ!!」

 

 ガッツさんの叫び声に反応して、ミリアさんが僕を押し倒す。その直後、僕の頭があった場所を鋭いかぎ爪が撫でた。


「な、何が??」

「あれは……ワイバーン!?」


 ワイバーン。小型ながら竜種に分類される魔物で、グリフォンと同じく、『暗き森』に生息している魔物だ。個々の戦闘力ではグリフォンに劣るが、飛行速度はグリフォンより早く、複数で連携しながら獲物を追い詰めるため、グリフォンより危険な魔物だと言われている。そんな魔物が数匹、僕たちの頭上を旋回していた。


「ミリア! カイル君! 無事か!!」

「ええ、無事よ! こっちにワイバーン。数は6以上!」


 ファボックさん、ウッドリーさん、そしてガッツさんが、駆け付けてくれる。流石はB級の冒険者パーティー。どうやらグリフォンは倒したようだ。3人は、今度はワイバーンに対して横並びの隊列を組む。ミリアさんも懐から護身用の小刀を取り出した。


「カイル君、後ろに気をつけろ。ワイバーンは連携して攻撃してくる。俺達からあまり離れるな。とりあえず荷物は外して良いぞ」


 先ほどの僕とミリアさんの会話が聞こえていなかったであろうファボックさんが僕に言った。


「それなんだけどリーダー。カイル君が支給された荷物の留め具、魔物が近くにいると外せないように細工されているわ。多分ギルドの仕業。もしかしたら私達、はめられたのかも」

「なんだと!?」


 ファボックさんがミリアさんの言葉に反応した瞬間、ワイバーン達が一斉に襲い掛かって来る。


「――ちっ!!」


 それに気付いたファボックさんは、すぐさま反応し、飛び込んできた2匹の足を切り落とした。


「全員、カイル君を守れ! 隊列を崩すなよ!!」

「ふんっ!!」


 反対方向からやって来た2匹をウッドリーさんが立てて受け止め、そのまま弾き飛ばす。


「おらぁよ!!」


 さらに横からやって来た1匹をガッツさんが短刀で捌く。

 

「えい!!」


 もう1匹は、ミリアさんが振った小刀を警戒して、途中で進路を変える。これで6匹の突撃を防ぎきる事が出来た。そう思った直後――。


「まだだ!! カイル! 後ろだ!!」

「え? う、うわぁぁああ!」


 ガッツさんに声をかけられるも、僕は反応して避ける事ができなかった。ワイバーンに背中の荷物を蹴っ飛ばされたのかと思ったら、そのまま掴まれて、持ち上げられた。


「カイル!」

「「「カイル君!」」」


 足がつかない浮遊感。上から聞こえるバサバサと翼をはばたかせる音。極めつけは、『ギャーギャー』というワイバーンの上機嫌な声。間違いない。僕はワイバーンに捕まってしまった。


「そ、そんな!!」


 ワイバーンに捕まると、巣に連れていかれて、ワイバーンの子供の餌にされると聞いた。鮮度を保つために、なるべく生きたままで……。


「嫌だ! 嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!」

「カイ…………落ちつ…………重……」


 パニックになりかけた僕は、遠くから聞こえたガッツさんの声に少しだけ冷静さを取り戻した。


(え? 何?? 『落ち』? 『重く』?? そうだ!!)


 そこでようやく、僕は自分の唯一の武器を思い出す。


(『重量操作』! 重くなれ!)


 多少冷静になったものの、未だ命の危機にあった僕は、死に物狂いでスキルを発動させる。


(荷物! 僕! それにワイバーンも(・・・・・・)だ!!)


 とにかく無我夢中だった僕は、荷物と自分、自分を掴んでいたワイバーン、さらには、僕らの真後ろを飛んでいたワイバーンも『重量操作』で重くした。


「グギャ? ギャ! ギャギャギャー!!!」

「ギャーーー!!!」


 僕を掴んでいたワイバーンと真後ろを飛んでいたワイバーンが、そろって落ちていく。


(あ、ヤバい!)


 無我夢中だった僕は、自分がそれなりの高さまで持ち上げられていたことに気が付かなかった。


「う、うわぁぁああ!!!」

「ギャーー!!」

 

 ワイバーンと一緒に落下し、真下にあった木に突っ込む。


 バキバキバキバキ!!


 木の枝が容赦なく僕を傷つけていく。だが、僕を掴んでいたワイバーンはそれ以上に悲惨な有様だ。木にぶつかる直前まで必死に羽ばたいていたため、羽根を大きく広げた状態で木に突っ込み、木の枝は、胴体を傷つけるだけでなく、羽根を思いっきり貫いていた。


 そんな状態になっても、ワイバーンは僕を離そうとしない。このまま地面に激突すれば、僕はワイバーンに押しつぶされてしまうだろう。


(って、ここまで来たらもう重くする必要ないよね!? スキル解除!!!)


 スキルを解除すると、目に見えて落下速度が遅くなった。そして地上まであと少し、という所で、僕とワイバーンの落下は止まる。


「た、助かっ――うわっ!?」


 ドッシーン!


 一息ついた瞬間、完全にこと切れたワイバーンが僕を離し、僕と荷物はそのまま落下した。


「痛てて……」


 大した高さではなかったが、5人分の荷物の下敷きになってしまった僕は何とか荷物の留め具を外して、荷物の下から抜け出す。


(あのままワイバーンの下敷きになってたら間違いなく死んでたよ……あれ? そう言えば、留め具簡単に外れたな……)


 そんなことを考えていると、遠くの茂みからガサゴソと音が聞こえた。


(あ、ファボックさん達かな?)


 傷だらけで痛む身体を何とか起こし、音がした方を見る。


「………………え??」


 そこには、怒りの感情をあらわにした、2匹のワイバーンがいた。


「え? え??」


 そう言えば、竜種の魔物は、同種の魔物の血の臭いを嗅ぐと、手が付けられないほど怒り狂うと聞いた事がある。プライドが高い竜種は、同族が傷つけられるのが、許せないそうだ。


 そして僕は、先ほど木の枝に貫かれたワイバーンの下にいた。僕自身傷だらけで気付かなかったが、ワイバーンの血もたっぷり浴びていたようだ。


(や、やば――)


「グルルルルゥゥウ!!!」

「ギャーーー!!!!」


 2匹のワイバーンが、牙をむき出しにして威嚇してくる。


(ど、どうしよう……って、そんな事決まってる! 僕には出来る事は1つだけだ!!)


 今にもとびかかって来そうな2匹のワイバーンに向けて、僕はスキルを発動した。


(重くなれ!!)


「「グギャッ!!!」」


 スキルを発動した瞬間、ワイバーンは地面に伏した。


「グゥ……ギィ……」

「ギャゥ……」


 2匹のワイバーンは必死に起き上がろうとするも、起き上がる事が出来ないようだ。とはいえ僕もコレ(・・)以外の攻撃手段が無いため、とどめを刺す事は出来ない。


(ど、どうしよう……)


 このワイバーン達に攻撃される心配はないが、いつ、他の魔物がやって来るのか分からない。嫌な膠着状態が続く。


(やばいやばいやばい)


 焦り始めた僕の耳に、救いの声が届いた。


「カイルー! どこだ、カイルー!! とっとと返事しやがれ! カイルーーー!!!」


 こんな森の中で大声を出せば、魔物達を引き寄せかねない。それでも、ガッツさんは大声を出しながら俺を探しに来てくれた。


「ガッツさん! ここです!」

「――! こっちか!? ったく、心配かけやが――っ! 危ねぇ!!!」」


 そう叫ぶと、ガッツさんは短刀を取り出して、俺とワイバーンの間に割り込む。


「ファボック! こっちだ! ワイバーンが2匹いる! はやく――」

「ガッツさん、大丈夫です! あのワイバーンは僕が抑えてますから!」

「………………は?」

 

 僕の言葉が理解できないのか、ガッツさんは疑惑の目で僕をちらりとみた後、注意深くワイバーンを観察した。


「………………確かに。襲ってこねぇな」

「はい。ワイバーンを重くしてます。でもとどめが刺せなくて……」

「そうだな。俺も綺麗には(・・・・)狩れねぇ。ファボックがきたら首を落としてもらうか。もうすぐ来ると――」

「――ガッツ! 1人で行きすぎだ! ワイバーンは? って、なんだこれは!?!?」


 茂みからファボックさんとウッドリーさん、そしてミリアさんが現れる。


「カイル君! 無事だったのね! 怪我してない!?」

「! 気をつけろ! そのワイバーン、まだ生きて――ん? 動かない??」


 皆が現れたので、僕は先ほどファボックさんにした説明をした。ファボックさん達は半信半疑だったようだけど、ファボックさんに首をはねられるまで、ワイバーンが動かなかったことで、僕の話を信じてくれたようだ


「はぁ。ワイバーンを……いや、『敵』を重く、ねぇ」

「そんな事出来るのね。っていうか、それってかなり凄い事なんじゃ……」

「ああ。おかげでこんな簡単に『綺麗なワイバーンの羽根』が手に入った。これは高値で売れる。これなら他に荷物持ち(ボーダー)を3.4人雇ってもおつりがくるぞ」


 通常ワイバーンを倒すためには、羽根を攻撃して、ワイバーンを飛べなくする必要がある。そのため、『綺麗なワイバーンの羽根』はめったに手に入らない貴重品だ。


「急いで街に戻るぞ。カイル君。荷物はその(・・)留め具とワイバーンの羽根、後は最低限の食料だけ持って残りは破棄だ。費用はこっちが持つから安心してくれ!」

「え!? いいんですか!?」


 通常、荷物の紛失は荷物持ち(ボーダー)の責任となり、それを補填するための費用は荷物持ち(ボーダー)が支払う事になる。


「ああ、構わないさ。カイルのおかげで、『綺麗なワイバーンの羽根』が手に入ったんだからな。そのかわりといっちゃなんだが、明日、もう一度俺達にやとわれてくれないか? 今度は荷物持ち(ボーダー)としてじゃなく、付与師(エンチャンター)として、だ。もちろん、報酬はきっちりと払うぞ」

「っ! もちろんです!! ありがとうございます!」


 連続でパーティーに雇われる。それは、そのパーティーに認められた証だ。


「わー! よろしくね、カイル君!」

「我々にはサポーターがいなかったからな。正直、カイル君が手伝ってくれるのはありがたい。よろしく頼む」

「ちっ! 足引っ張るなよ! 明日こそ、ユーリとリリスを見つけるんだ!」

「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」


 魔道具により、ユーリさんとリリスさんが生存しており、その生命力が落ちていない事は確認してある。ファボックさん曰く、偵察係(レンジャー)である2人なら、『黒き森』でも2.3日は生存できるだろうとのことだった。


 とはいえ、彼女達の安全が保障されているわけではない。明日は絶対に失敗は出来ないのだ。


 僕たちは、万全の体制を整えるため、急いで街に戻った。










【同時刻 sideダムラス】


「どういうことだ!!!」


 ギルドの最奥にあるギルド長室。そこで俺はテーブルに拳を叩きつけながら怒鳴る。


「落ち着きたまえ、ダムラス君。足の傷に響くだろ? それにB級冒険者ともあろうものがそんなに声を荒げては、品位を疑われてしまうよ?」


 そんな俺の声を平然と受け流しているのは、半年前にこのギルドの長となった、カーチャルだ。その飄々とした物言いが俺の怒りを加速させる。


「これが落ち着いていられるか! どういうことか説明しろ!! なぜ『暗き森』の危険度が上がった事を隠していた!!!」


 なぜ、俺がギルド長を怒鳴りつけているか。その原因は、少し前に遡る。






 10分程前。足の治療を終え、ギルドの待合室で仲間が帰って来るのを待っていた俺は、ギルド職員が掲示板に張った案内を見て、驚愕した。


『『暗き森』にて、スタンピード発生中 危険度、BランクからAランクに変更。『暗き森』の周囲を危険度Bランクに設定』


 案内にはそう書かれていたのだ。


(やばい!)


 先程、仲間を助けるために出発してしまったファボック達は、当然この事を知らない。


(くそ! すぐにファボックに知らせないと! でもどうする? 今の俺の足じゃ、あいつらには追い付けないぞ…………とにかく情報だ! 情報を集めるんだ!)


 何はともあれ、正確な情報を集める必要がある。そう思って案内を見返した俺は、自分の目を疑った。


(日付が……昨日!?)


 この案内は間違いなく先ほどギルド職員が張り出したものだ。しかし、何度見ても、案内に書かれていた日付は、昨日の日付だった。


(どういうことだ!? 日付が誤っているのか? ……いや、違う。日付は判子で印字されている。他の掲示物の日付は合っているんだから、この案内だけ間違えるわけがない。という事は……)


 昨日届いていた案内をギルドが開示していなかった、という事だ。こんな大事な案内を開示し忘れるなんて、ありえない。つまり、意図的に隠していたという事になる。


「ギルド長を出せ!!!」


 俺は受付の職員を怒鳴りつけた。






 そして今に至る。


「危険度変更の案内の日付は昨日だった! その案内をさっき掲示したのを俺は見たぞ!! なぜこんな重要な事を隠していた!!!」


 再度怒鳴るが、カーチャルは飄々とした態度を崩さない。荷物持ち(ボーダー)とは言え、仮にもB級冒険である俺の威圧を軽く受け流し、カーチャルは答えた。


「隠していた、わけではありませんよ。たまたま(・・・・)この案内の掲示だけ漏れていてね。担当の職員には厳重注意しておいたから、怒りを収めてくれたまえ」

「っ!」


 『そんなわけがない!』と叫びたかった。『厳重注意なんかで許されるものか!』とも。それに、こうしている今も仲間が危険にさらされているというのに、カーチャルは『怒りを収めろ』と言う。まだ、何も解決していないのに、だ。もはや怒りでどうにかなりそうだった。


「ふ、ふざ、ふざけるな!!! 俺の仲間は、今、『暗き森』に向かっているんだぞ! あぁ、もういい! すぐに伝令を送ってくれ! ファボックにこのことを伝えるんだ!」


 とはいえ、今は責任を追及している時ではない。一刻も早く、この事をファボックに伝える必要があるのだ。何とか怒りを抑えて、伝令を出すようカーチャルに依頼する。しかし……。


「あぁ、残念だけど、それは出来ないよ」

「なっ! なぜだ!!」


「なぜって……『暗き森』が危険度Aランク。そして、その周囲がBランクとなった今、そこに送れる冒険者パーティーは、君達『森の狩人』だけだ。だけど、今この街に『森の狩人』のメンバーは君しかいなくて、その足の君を伝令に送る事は不可能だ。ゆえに、伝令を送れる冒険者はいない。だから、伝令は送れない。それくらいは理解できるよね?」

「っ!」


 怒りが頂点に達して言葉を発する事が出来ない。言っている事は間違っていないのだが、『誰のせいでこうなったと思ってるんだ!!』と怒鳴りつけたくなる。


「かわり、というわけじゃないけれど、君が希望していた完全回復薬(フルポーション)。は隣町に在庫があるみたいだよ。お願いしたら、明後日には届けてくれるそうだ。届き次第、連絡するから今はゆっくり休んでくれたまえ」


 そう言うと、ギルド長は、『話は終わりだ』と言わんばかりに、テーブルに置かれた紅茶を飲みだした。恐らく、これ以上は何を言っても無駄だろう。


「クソが!!!」


 俺は立ちあがると、ギルド長室の扉を乱暴に空けて廊下に出る。


完全回復薬(フルポーション)が届いたら、すぐに連絡を寄越してくれ! 絶対だぞ!!」

「ああ。もちろんさ…………………………………………残念ですよ。ええ、本当に――」


 最後につぶやいたギルド長の言葉は、俺には届かなかった。


【sideカーチャル】


 ダムラス君が出て行ったギルド長室にて、私は一人呟きました。


「…………残念ですよ。ええ、本当に。B級冒険者パーティー『森の狩人』。バランスの取れた良いパーティー。私、結構好きだったんですけどねぇ」


 強い個人がいるパーティーではなく、パーティーとして強い『森の狩人』は、見ていて気持ちいいパーティーでした。本当に、心から応援したくなるパーティーです。


 今、この時でなければ、ですが。


「それでも。()この街に(・・・)B級冒険者パーティーがいると、困るのですよ」


 私はギルド長の机に保管されている極秘の計画書に書かれた人数を思い浮かべます。もはや、時間はありません。こうでもしないと、予定人数には到底届かないのです。


「悪く思わないでくださいね。なんとか貴方だけ(・・)は救えそうなのですから」


 ダムラス君の足が欠損してくれたのは、正直ラッキーでした。『森の狩人』にいられると困りますが、街で一番優秀な荷物持ち(ボーダー)であるダムラス君だけは、出来れば生き残って欲しかったです。それに、超上級(Sランク)スキルの持ち主である()を、自信の実力に気付かれる前に消す事が出来るのですから。


「本当に……悪く思わないでくださいね」


 将来大物冒険者になったであろう()を失うのは、ギルドにとっても不利益が大きいのです。


「私だって辛いんですよ……」


 そんな身勝手な私の呟きに応えてくれる者は、誰もいませんでした。



【sideユーリ】


「………………行ったわね」


 私の索敵スキルに引っ掛かっていたワイバーンの群れが通り過ぎた事を確認して、私は洞窟から顔をだした。


「……はぁ。ありがとう、ユーリお姉ちゃん」

「何言ってるの。リリスがここを見つけてくれたから助かったんでしょ。さ、移動するわよ」


 リリスの探索スキルが無ければ、この洞窟を見つける事は出来ず、私達はワイバーンの群れに見つかっていただろう。そうしたら、今頃どうなっていたか……考えたくもない。


「もう移動するの?」

「ええ。|こんなところ《魔物たちのテリトリー内》に拠点を作るのは危険だわ。明日になれば、きっとお兄ちゃん達が助けに来てくれるわ。それまでの辛抱よ」

「……うん! 分かった!!」


 私だってこの洞窟にずっと隠れていたい気持ちはある。しかし、この洞窟が、魔物の住処でない保証はない。それに、いつもの『暗き森』より、魔物の数が多く、洞窟に隠れていたら、周囲を囲まれてしまうかもしれない。その状態で、魔物が洞窟に入ってきたら、私達に逃げ場はない。


 であるなら、魔物に囲われないよう、常に移動し続けていた方が安全なのだ。


(そうよ。絶対、絶対に2人で生き残るの!)


 私が敵を探索し、リリスが地形を索敵する。2人で完璧な偵察が行える私達だから、あの時(・・・)囮となったのだ。


(ダムラスさんが怪我しちゃったから、今日は無理だろうけど、明日になれば、お兄ちゃん達は必ず来てくれる。だからそれまでは私がリリスを守るんだ!)


 双子なので(とし)の違いはないが、私はリリスのお姉ちゃんだ。絶対に妹を守り抜く。そう心に決めた。


 お兄ちゃんが護身用に持たせてくれた短刀を握りしめて、私はリリスと『暗き森』の中を進むのだった。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます!

少しでも、面白い、続きが読みたいと思って頂けましたら、ブックマーク、高評価を頂けると嬉しいです!

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