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【8】さんぽ市 (短編小説)





これは、架空の日本のどこかの街、または、町で起こったお話。


一人のピュアで直向きな女子高生が興した一つの動き、そいつが寂れゆく商店街へと起こした奇跡の軌跡である。


とある街で―― 或いは町で ――近年の大型ショッピングモールの日本国内に於ける赫々たる大進撃の中で、いわゆる、個人商店達が軒を連ねて連合している商店街のアーケードは客層を奪われ、生存権を喪失してゆく。


時代が「古い」と価値を審査して、そのままうらぶれてゆく、寂れてゆく、何だか、その老朽化した、ペンキの剥がれた鉄骨の、随所から滲み出る金属の酸化現象、錆もまた、寂れた風景の中で物悲しくなる。


このままでは本当に、もう、たいした間をおかずに、廃墟の遺構化しそうな、そんな商店街アーケード。


客足は伸びず、知り合いが、付き合い感覚で茶菓子を持ってきて時々訪ねて来ては、お茶を出し、大した経済効果も齎さずに、雑談や愚痴や退屈な会話をして去ってゆく。


まるで老人の歯みたいに、殆どが抜け落ちたみたいに、すでに商店街の各テナントは閉鎖が目立つようになり、シャッターは閉じられて、残りの僅かな店舗のみが、その老人の少なくなってしまった大事な生き残りの歯の様な様相を醸し出して、何とか存在している。


余命幾ばくもない、廃墟一歩手前の商店街のアーケードの風景………




一つの奇跡は若い純真な女子高生の姿をして、そのアーケードにやって来た。

これが全ての始まりで。


彼女は、商店街の残りの店主連中やその二代目の息子たち、そして今は閉店した店舗にかつて居た店主達やその意思を受け継ぐ気が無かった息子達を訪問してはその熱意と夢を語った。


「商店街を、復活させましょうよ!」


何を莫迦な……と。

最初の頃にはそう思っていた彼等ではあるが、彼女の語るその真摯な熱意、そして彼女の全身から溢れ出す若いオーラ、まるで瑞気(ずいき)を全身から放っている様な、そんな彼女の提案する、確かに経済学を齧ったと思われる、手書きを幾度もコピーして各々に手渡しにていた


『復興計画書』


何を莫迦な…と、馬鹿には出来ないなかなかに侮れないきちんとしたその計画書の筋道立った様々な改善プラン。


馬鹿なのは果たしてどちらであるのか、諦めていた我々と彼女との距離の隔たり。


次第に、一人、また一人、今度は三人、次の日にはまた二人と、殆ど毎日、その商店街へと、夕暮れにはやってきて、そうして語り、回っていた彼女の元へと彼らが集うようになり、様々な、暖かく柔らかいディスカッションとも呼べぬそんな何かを始めるようになり、彼女はあちこちへとわざわざ足を向ける、そんな必要が無くなった。


彼等のほうが、夕方になると、やって来ているだろう彼女の姿を探し回り、自然と彼女の元へと集うようになっていったからである。


彼女が計画した様々な改善提案―― 


①近年の、『棚卸し』の悪い部分、需要が一気に高まった時の備蓄薄体制への警鐘(兎に角、棚卸しすれば不要在庫を抱えないで、見た目の経営状況数値だけを見れば確かにロスが減りスムーズに見えるのだが、コアな客層が火を付けた後の一般人の遅い動きに対応出来ずに商機を失する、これは近年の外国人観光客への対応も含む)して、商品の将来性を読み、備蓄する体制。


②ネット社会に対応した情報の拡散及びコントロール及び抑制を企図した文章構築と、HPを通じた販売体形の促進。


③ ②と背馳するが、なんでもネットで買い物が出来る時代での、敢えての、「その場所に行かないと感じられない」聖地たる魅力の構築に将来性の見込めるアーチストを低コストの内に取り込み、動画に商店街の聖地やグルメを積極的に宣伝するPR戦略。


――他にも様々な改善提案があり、次第に彼女の熱意とその瑞気(ずいき)と、優れた計画書の熱に彼等は取り込まれてゆき、寂れた商店街は、彼等の手作業でのペンキ塗り、DIYでの各店舗のアンチエイジング及びモダン化、魅力的なグルメを充実させて行くようになり、しかし、まだ商店街アーケードは一般には立入禁止。


市の役所さえにも、彼らの活動の周知と理解及び可能な範囲でのPR活動への好意的中立、地元のテレビ局とも脈を通じ、更にはネットを用いた巧妙なる宣伝戦略。


『近日公開しまーす、お楽しみにー!』


市井(ちまた)の近所や遠方にも、その認知が及び、静かにブーム前の熱が一般社会までに浸透し始めていた………果たして、リニューアルされたアーケード商店街はどうなるのか?


みんなが固唾を飲んで、噂をしてそれを耳にした人間が更に増えて……更に更に世間の中での認知と熱が盛り上がる、さながらそれは『正のフィードバック』の様相、あの、オイルパニックでトイレットペーパーが品薄になるという情報が爆発的に広がったみたいな、ある種の狂騒にまで高まっていたのである。


商店街アーケード、リニューアル開放前日、各店舗が徹夜作業の、まるで学園祭の如き、素晴らしき、各々が楽しみながらの前準備の中に、彼女がやって来た。


そして、いつもの様に彼女の元へと集う商店街の店主連合。

彼女はもはや、現代のジャンヌ・ダルクと化しており、そのカリスマ性が更に飛躍を迎えていたのである。


女神はみなが集うと、やがて口を開いた。


後手に隠して抱えていたダンボールを前に差し出した。


『明日から、このノボリ旗を、商店街の各所に配置しましょう』


と、ダンボール箱から取り出して、足元に準備していたらしきコンクリート製のポール刺しに刺さっているポールに、鮮やかな桜色のノボリを付けて宣言したのである。


商店街の連中が感動の面持ちでその桜色の爽やかなノボリをみやる。これまでに随分と粉骨砕身してきた。コストを浮かせるために慣れない安全帯を付けて高所の寂れたアーケード門や渡してある鉄骨を塗り替えた。DIYみたいな事もやった。思えば大変な苦労の道のりではあったのだが、まるで辛さを感じる事も無かった。彼女の笑顔がいつもそこにあったからである。


そんな彼女がデザインを考案し、一部は手作りの心の籠もったノボリを、サプライズプレゼントにやって来たのであるから、感動もひとしおであった。



『さんぽ市』



一面、鮮やかな、目に染みるよな桜色の布地に、白抜きで書かれていたノボリ…………


苦難の先陣を常に歩み、微笑みながらも麒麟児(きりんじ)の様な洞察力を持った改善提案のアイデアの主、そして、常に身から放ち続ける瑞気(ずいき)…これから成功して大きくなる家の門扉(もんぴ)に立ち昇ると言われている、瑞気(ずいき)を、確かに彼女は全身から溢れ出させていた、そんな彼女からの、真心の籠もったサプライズプレゼント。


商店街の連中の心が一つの熱として束ねられた瞬間である。 


いつまでも、我々は彼女の元で、戦うぞ!

この商店街活性化運動を!

彼女に続くぞ!

常に彼女の元へと!

全ての労力を彼女へ!


中には泣き出し嗚咽している奴等も数人。

さぁ、心は一つに纏まった!

勝負はいよいよ明日だ!






その瞬間に、一陣の風が。

感動の女神を押し遣って。

別の女神の手をそっとエスコートしてやってきた。

『さんぽ市』の旗が翻り、裏向きになった、その、瞬間に。






人間の脳は、誤字を見ても、一見すると意図の通りの認識をするのである。

例えば、「手打ちうどん」


手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手抜きうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん手打ちうどん


この文字の羅列の中に

「手抜きうどん」

が紛れていたとしても、人はそんな事には気が付かないモノである。


裏返ったひらがなだって、ある程度は人間は把握する。


しかし、例えば『さ』のフォントが裏返った『ち』等の場合は、人間はこれは、『ち』と認識してしまう。





















































『ち○ぽ市』



  ず―――――ん!



どうみても、そのようにしか見えない。

脳が裏返ったひらがなを修正して解読するが、裏返った『さ』だけは、これはもぅ、『ち』にしか読めないよっ!


商店街店主連中がその瞬間に凍りついている。


いたずらなそよ風は、

感動の女神をそっと舞台裏に下がらせ



こうして

笑いの女神をエスコートしてきたのである。



笑いの女神来訪だが、しかしながら、今の雰囲気はこれは………


彼女は相変わらず緩やかに初々しく微笑んでいる。

恐らくは駆け付けて来たのだろう、まだ若干に息を弾ませているのだから、これは我々に一刻も早くコレを見せたくて、一目散にやって来ている、そうに違いない雰囲気かつ、みんなの心が一つに纏まった雰囲気の中では、これは…………


年末の、『笑ってはいけない202☓年商店街アーケード』的な、なんかそんな雰囲気である。


これは笑ってはいけないのである!


グッと、笑いを必死にこらえている商店街店主連中。その、軍隊並みの意志力はいっそ、見事と言うしかあるまい。


そんな、固まりつつも表情筋を強張らせ、直立不動の体制で、彼女本人がデザインした『さんぽ市』……いや、今や『ち○ぽ市』にしか見えぬ、大変に気まずいそのノボリを見やり沈黙を貫いている商店街連中の様子を怪訝に思い、彼女がノボリの方を振り向く。商店街連中の緊張がいっきに高まる!!








(ま、マズいってコレ、彼女振り向いたら自分の作ったノボリの致命的ミスに気が付くじゃん!)


(せっかく、俺達の為にわざわざああやって作ってくれたのになぁ…………)


(思春期の女の子にあのミス見せたら駄目だって!誰か遮らないか!すまん、俺は今、緊張で動けないんだってば!)


(お、俺も動けない!)


(だ、だれかー!この中に勇者の職業の方は居ませんかー!?ボクはしがない模型屋なんだ、誰か彼女をたすけてやってくれ!!)


(運命は…残酷だ…俺はね、無粋な下ネタを自分でやらかした事に気が付いた後の彼女を想像すると、とても、居た堪れないんだ!俺も今は動けそうに無い!!)





これだけの情報量のやり取りを、一切喋らずに沈黙を貫き通したままで、商店街連中は実に器用に、互いの目配せや僅かな身の動作のやり取りだけで交信していたのである!


宇宙人かっ!?

お前らは。


その間、誰も止められなかった故に、彼女は旗を見やり、そしてしばらくそれを見つめた後に、少しだけ逡巡したように、みんなの方へと振り返り、こう、言葉を紡ぎ出したのである。











































「あの…派手でしたか?」





そう、彼女はどうもこの様子だと、例えるならば家族でテレビを見ていた時に突然に始まって仕舞(しま)ったラブシーン的な、そんな、なんか大変に気不味(きまず)い雰囲気にさせられてしまうみたいな感じの、この裏返ったノボリの平仮名の、そう読めてしまいかねない、下衆な3文字の意味を未だ理解し得ない、純情を絵に描いた様な少女だったらしいのである。


商店街連中のテレパシーは続く。







(た、助かった、この子、意味知らないみたいだ。)


(あの年齢で…それはそれで問題ありなのではないか?)


(ま、まぁ、兎に角、彼女自身が自らのミスに気が付いて傷付かなくて、結果オーライなんじゃないのかな?)


(でもさー、これは不味くない?だって、明日はテレビ局の取材だとかあるでしょ?)


(それなー。)


(どうする?お前ら。)




((((((((……………………))))))))




(………彼女に助けて貰ったんだ、今度は俺たちが彼女を守る番さ!良いな?お前ら、彼女に、このミスについて、決して気が付かせるなよっ!!!)

 

((((((((((おう!)))))))))


お前ら…

器用だなwwwwww







【アーケード商店街新装開店一般開放初日】




その昔に、戦艦大和が沖縄へと特攻した時に、かの戦艦を護衛していた駆逐艦や巡洋艦は、大和を中心として、円形に配置され、そうやって沖縄へと向かっていった。


あれみたいなフォーメーションである。

彼女=戦艦大和


を中心に、円形となり、商店街連中の護衛。

過保護かっ!


そして、やって来たテレビ局の男性アナウンサーが、アーケード商店街をここまでリニューアルさせた彼女への取材を開始した。


そして、アナウンサーは気が付いた!

裏返った桜色の、白抜きの文字のノボリ。

今や裏返った結果として、まるで、


「ち○ぽ市」


と言う、脳髄までツーンと来るみたいな、

大変に香ばしいノボリに。

不良の溜り場の壁とかに、

如何にもかいてありそな3文字のひらがな。


男性アナウンサーが、

その瞬間に吹き出して、やがてテンションを急激に上げた彼が、彼女にそれを聞き出そうと今まで以上に彼女との距離を詰めようとしたその、瞬間に…


戦艦大和のすぐ側に位置した敵味方不明だったその男性アナウンサーと言う名の艦船を明確に『敵艦船』と断定した護衛駆逐艦艦隊達が一気に動き出して男性アナウンサーを取り囲んだ。


ズザザザザサっと船速を揃えて、

実に素早く極めて高度に連携された軍隊の動きで!






「ハハハ…お客人、少々、見せたいモノがありましてな、コチラへどうぞ。」






有無を言わさずに連行されて、

アーケード商店街の裏側にてボッコボコ!






「彼女の前で『それ』に触れんなぶっ殺すぞぐるぁー!」






最初は散々なめにあい、敵対的であったその男性アナウンサーも、彼等の熱意にほだされて、やがては味方陣営として取り込まれ……


大人の男性故の汚れつちまつた悲しみ のアイデアが生み出した、なんかトルコのカッパドキアの岩の柱的な形のその… わざとビニール面に書いてある「さんぽ」のフォントを裏返しにしたみたいなそんな包装でつつんだ確信犯的なやらかし商品「さんぽあめ」 もぅ、そーゆー形にしか見えないよっ… 的なバナナチョコなどの、下衆だが確かに魅力的な商品開発のアイデアに、商店街連中と協力してあたり、また、それらを彼女が恐らくはもう起きては居ないであろう時間帯のテレビの中で流してPR活動に協力を惜しまなかったと言われている。


少女マンガでどんなに間違えても、そのタイミングでその誤字は絶対にやっちゃ駄目だよって誤字をやらかした伝説的なマンガの権利許可を受け、開発された、例の有名な誤植。


「どうやら おれさまってば おさんこでるらしいんだぜ ったく、笑っちまうよなぁ」


を活かしてオマージュした、全体的に「おさんこ」のデザインを彷彿とさせるイケメンのオリジナルキャラグッズと合わせて、それらは 汚れつちまつた悲しみ 客層のからの収入の双璧となって行くのである。






「あ!ねぇねぇ、貴女がここのアーケード商店街を復活させて例のノボリを作った人でしょ?ちょっと、カメラさん、カメラ回してー!!」


「ハハハ…お嬢様、いきなりですがこちらへどうぞ。見せたいモノがありましてな、なぁーに、然程に時間は取らせませんよ…」






戦艦大和=無垢なる彼女

そいつを艦載機やら何やらから守り抜く、

護衛駆逐艦隊の戦いはまだまだ続いてゆく様である。


そして、アーケード商店街全体の、生き残りをかけた戦いもまだ、始まったばかりである。


(完)





『さんぽ市』『爆笑』

で恐らくはそいつが見られます。


『どうやらおれさまってばおち○こでるらしいのだぜ』

も、検索してみたら、出てくるでしょう。


トルコにある、『カッパドキア』『岩』で検索するとそこにはきっと、汚れつちまつた悲しみに 層が大爆笑な、そそり勃つそれらの狂騒を見ることが出来るでしょう。


誤植から生まれた真。

誤植が生み出した短編小説でした。

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