【55】四月の食人鬼 (未完成)
う―――――ん…
駄目っぽいです。
複数話になりますよ、コレ。
膨張が止まらないです。
すみません。
何処に有るのだろうか、話に出てきた鏡の神社は。
某マップで、集落を流れている川の下方に位置していて水が溜まりそうな場所へと向かうつもりで草の中を歩いている。その辺りの場所にて、あの話に出てきた、集落出身の足軽さんは謎の神社へと辿り着いたと言うお話だったからだ。それ以外については、全くのところ、無計画である。当たり前だ。話が途方も無さすぎるのだから。
――彼等の行動原理はもはや極めてシンプルにはなっているのだよねぇ、即ち、対象を喰う為に襲う。実験の際の観察の経過から判明するに、視覚、嗅覚、聴覚、筋力など、基本的な能力はそうは普通の人間とは変わらない筈でね。ただし、思考力に関して、かなりシンプルな構造にはなっていて、3大欲求について。まずは食欲かな? 食欲には忠実みたいで、一応ね、徒党を組んでみたり、連携して対象を狩る事は出来るのだけれどもね、後述するけれども、時間の経過と共に、知性は落ちてゆくみたいなんだよねぇ… 性欲はまだ判っていない事が多い。これから色々と試してみようと思っている段階さ。そして、睡眠に関しては… どうも、彼等はね、睡眠は必要が無いみたいなんだよ。うん。一日中、動き回る。そして、その、睡眠をやらない事が引き金となり、このバグたんぱく質『呪い2型』はね、どうも、脳味噌の神経細胞を急速に劣化させてゆくみたいなんだよねぇ、ホラ、クールー病の原因となったバグたんぱく質の『プリオン』と、そこはあれと一緒さ。類似したバグたんぱく質だけに、性質に似通うモノがあったのだねぇ、これは。クールー病に疾患した患者は、矢張り脳味噌の神経細胞を次第に蝕まれて行き、やがては脳味噌の中身がスポンジみたいにスカスカになっていくのだよねぇ。そうやって死に至るのだがね、クールー病の場合は。しかしねぇ、この、『呪い2型』バグたんぱく質の場合は、全身が腐敗し切って骨だけになるか、または、脳味噌を破壊されなければねぇ、動き続けているみたいだよ。そして、脳味噌の劣化を防ぐ手段としては、他の人間を襲って食す事。これで、明らかな脳細胞の劣化の遅延が可能となるみたいさ。巷に溢れているゾンビ小説は知っているかな? たまに、『知性体』と言う、妙に知恵を付けていたり、身体が強化された個体が出てくるのだよねぇ。あれみたいな現象が起こるのかどうなのか? これについても、調査はやっているのだよ、うん。未だに結論は出ては居ないのだけれどもね。注意点としては、力は、脳味噌のリミッターが外れるのじゃないだろうかなぁ? 自分の関節を破壊するのも、筋繊維が断裂する事も、関係が無いとばかりに行動しているから、キミが気が付かない状況で不意打ちされる事が一番危険なのではないだろうかねぇ。キミ、隠れんぼは得意かな? あの集落に戻るとするならね、そのスキルは必須だよ、うん。
視覚・聴覚・触覚は普通で、力がヤバい。
不意打ちされないようにして、出来れば潰す時には1対1の不意打ちで、逆に不意を突いて一撃で倒す。ソイツを意識しなきゃ駄目だな。なんて考えつつ、既に集落へと戻って来ている。時間は夜の11時過ぎ。集落の砂利道は食人鬼と化している彼等との、不意なる遭遇の懸念があるし音を出すリスクが有るために避けるのだ。昔の職歴と趣味が幸いして、気配を消しながら草地を歩く事には慣れているのを活かす。集落の砂利道から少し離れた背の低い放棄された田畑の中の草地を歩いている。そして、通り抜けついでに、気配を殺しつつ、集落の家を覗いていくのである。僕と同じ目的で、農業に従事する代わりに村役場から貸し家と自動車が貸与される、その特典に惹かれてやってきた世帯、若い夫婦世帯、四人家族世帯、アジアの研修生ばかりが8人集まって住んでいる世帯、そして、僕は一人暮らしの世帯であったが、彼等とはお互い比較的に近所であったものだから、一応、様子を見て回っているのである。長女の話によると、20〜30人に攻め込まれたと言っていたし、かなり慎重に気配を消して周囲の気配を探りつつ、点けられた儘の部屋の電灯を頼りに、中の様子をそうっと。窓から見て回っている。
若い夫婦世帯は残念ながら無事では無かったのだろうと思う。状況から見るに。先程、それを確認して来たばかりだったから。そっと、急には動かずにゆっくりと覗き込んだ台所からでも判る、居間の、広がっている血の少々どす黒くなった赤色。死体の肢体の一部らしきものが散乱しており、二人… 二匹の食人鬼達がそれを咀嚼していた。転がる遺体の男性ものの作業服を着たままの断面の、黄色い人間の脂肪分と畳に広がった血の赤がやけに真夜中の電灯に照らされて艶めかしく、あたりには生臭い臭いが溢れていた。若い夫婦の奥さんの方は、長女を追っていたあの爺さんが生首を持っていたので、これでこの世帯の二人は絶望であろう。
四人家族については、生き残りの長女から聞いた話と、そして、あの、明日からは『魔王』として日本に君臨するであろう初老の男。『世界グレートリセット委員会日本支部』の長が話した情報を総合するに、こっちも絶望的であろう。父親は身を挺して長女を助けて彼等に喰われ、母親と弟は木漆様を祀る催しの中で変異した『出物』達に饗されたのだろう。今はアジアから来た農業の研修生8人が住んでいた一軒家へと向かっている。
…
弱り切ったか細い悲鳴が何人かから漏れている。まだ辛うじて息が残っている様子だ。服は脱がされ、肛門から串刺しにされている。腹からワタや内臓の臭みのある消化器官を抜く為なのか、開かれた腹が鮮やかに焼かれつつある黄色い脂肪の断面と、ぽっかりと虚ろに開いた腹の切り口が黒い穴を見せている。肛門から通されて口から出ている太い鉄串に通されて遠火で下からゆっくりと炙られている。場所はアジアからやって来た研修生達の住んでいた住宅前の広い庭である。炙られている数は7体。その内、首が無いものが1体。すっかりと焼けたものなのか、鉈で手足を切られて切り分けられているモノが1体である。もはやこうなって仕舞うと、人間も道徳も男女もエロスも卑猥も無いのだ。切り分けられた肉の塊を12人の食人鬼達がギラギラした目を剥いて歯を剥き出しにして貪っている。そんな謝肉祭だった。丸ごと炙られた内臓らしき部分を手に掲げ上げて、ソイツを下から眺める様にしながら口をあんぐりと開けて、手を下ろして口に含んで束の間、ウットリと目を細めている脂ぎった中年だったかつては集落の男性だったモノ。今では立派な四月の食人鬼である。
「この子、好きじゃったけぇ、好きな子の子っこは美味いのぅ、まだ若くて健康じゃけぇ、子っこパンパンでツブツブしとるよ、これ食ったら子持ちのシシャモ食われんけん。」
背の低い草地は身を暴露してしまう恐れがあったので、静かに彼等の食事に用いられている木炭の明かりとグロテスクに香ばしくたんぱく質と脂質と糖鎖が炙られた匂いに気が付いてから、ゆっくりと落葉樹が茂る場所へと移動しながら彼等の様子を眺めているのであった。
卵巣を食っているのだ。あの中年だったモノは。かつて密かな思いを寄せていた若いアジア人女性の。思えば、あの中年はとあるアジア人女性の若い研修生に、普段から時々、ねっとりと粘り付く様な目線で畑仕事に興じていた彼女の肢体を視線で這わせていたのを覚えている。
肉の焼ける獣を呼び覚ますみたいな香りに、香味野菜が焼ける匂いも混じっている。タレの匂いも香ばしい。しかし、彼等は人間を屠殺して食しているのだ。
匂い。そいつが僕の中の常識を麻痺させて行く。
嗚呼、何だか美味そうな匂いで、その匂いはけれども、焼かれている人間であり、忌むべき状況と、日常では決して有り得ない出来事。今、僕はとんでもない絵を目にしている。家畜がそうされる様に、その対象が人間に置き換わっただけであるのだ。常識が常識では無くなったみたいな、何だろうか、この状況に置かれて、嘔吐だとか、そう云うモノが働いていないのだろうか? 麻痺したみたいに、嫌悪感やら拒否反応のセンサーはすっかりと沈黙しており、ただ、可も不可も伴っていない、何の感情も無い中立的な視点で起きている出来事をただ見て仕舞っていた。




