【47】自問自答 (短編小説)
何でそうなった?
そんな疑問なんか意味は無いのさ、原因が究明出来て、一つの謎が解けた、それだけだろうさ? それで何になるのさ?え? 次に活かせる? まぁ、それはそうだけれどもさ、それも、果たして、そんなに重要なもんかなぁ? そいつを活かして乗り越えてもさ、また、直に大して間も置かない内に、次のアレやらコレやらが襲い掛かって来るのさ。つまりは君はその様な混沌の全てをさ、かの京都の有名なる碁盤の街並みみたいにして、区画をすっかりと明瞭にして、それで、やれやれ、ようやく整理が付いた、なんて、そんなナンセンスな事を試みようとしているのかね? そいつはまた、果てしがない話で、同時に度し難い悲劇だか喜劇だかになるだけなのでは無いのだろうかねぇ? スライム状の形の無いモノに仕切りを入れてもさぁ、そいつらは間もない内に互いに再び引っ付くんだ。例えを少し変えてみたらばあれだよ、まるでサラサラの砂地を延々と掘るみたいにして、あれ、やったことあるかね? 次から次へと、周囲の砂が流れ込んでくるよね、周りにのけて置いた砂も、いつの間にやら流れ込んでくるよ、堂々巡りさ。 ふむ。「自分の手の届く範囲」かぃ、うん、それならば良くわかるよ、実際に俺なんかもそうやっているのだからね。それにしてまた、難儀な方法を選んだものだよねぇ、もっと楽な方法だって有る筈じゃないかね? え? それをやると、ストレスが半端ない? うん、確かに君みたいな変わり者だとさ、もぅ、変な所が引っ掛かって、引っ掛かって引っ掛かって、掛かりっ放しの、まるで悍馬みたいな気質だからね、確かにそうだろうさ、だがね… それにしても、だよ、勿体無いねぇ。うん? 自分の行動の主人は自分に帰すべきだと。なるほどその気持ちも判る。随分と身に沁みて判るんだよね、でもさ、世の中は、自分とそれ以外、そいつが互いに齎す相互作用の性質があって、完全に切り離す事なんか、出来ないものだよねぇ。上下だって、左右だって、次元だって、時空だって、宇宙だって、銀河団だって、銀河だって、星系だって、恒星だって、惑星だって、生物だって、人間だって、昆虫だって、細胞だって、細菌だって、ウィルスだって、原子だって、電子だって、素粒子だって… きっと互いが互いを意識した瞬間から相互作用の柵からは逃れられないのさ。 例えば「壁」を作ったとしてだよ、そいつを細胞に例えようか、細胞だって、細胞壁を持っているよね? けれども、全く他とは別の、確り独立した、自己以外の他の世の中全てから完全に遮断されて成立している、そんな自己完結した存在なんて、そいつは無理でさ、常に周囲から取り入れて、また、排出をやっているんだよ。 つまりはそれが生命さ。そうやって、相互作用により、揉めたり拗れたり絡まったり、和音になったり結合したりして、その後の互いに影響を遺して行ったりするもんさ。傷跡ではない、そいつは絆跡なのかも知れないよねぇ、なんともさ、果てしがない話にはなって来るんだよ? その性質のお話をやりはじめたりするとさぁ。まぁね、一つの妥協案としてはだよ、あまりどぎつく鬩ぎ合う、犇めいている、拮抗状態で緊張している、その様な最前線を避けてこぉ、流れの穏やかな、『祖父の家』みたいな時間がゆったりと流れており、また、どぎつい刺激物も少ない。その様な場所へとこぉ、精神的なモノの身を置いてみれば、良いのではないのかな? うん、先ずはそれが良いと思うのだよ。 けれどもさ、一つ、言える事は、だよ、そんな上記みたいな、目まぐるしい環境、そいつはね、お宝の宝庫でもあるのだよ? 運命と言う賽子、そいつの乱数がとても大きく変化しやすい、可能性に満ちている、その様な場所なんだよ。祖父の家は云ってしまえばそれはさぁ、その意味では澱んでいて、澱の中で、かろうじて緩やかにそいつが流れているんだよね、そして、祖父が死んだらその場所はね、やがて、すっかりと時間が止まるって寸法さ。そんな場所にはそんな場所なりに、独特なリスクもあるんだろうさ。まぁ、ゆっくりと考えてみなよ、幸いにも、こうやって時間を得たみたいだしさ。しかしながらね、私にはそいつはどうにも、囲碁や将棋で例えたなら、あれだよね、「千日手」と言う状態にね、見えないこともない、いや、実際、良く似ている様に思うよ? 兎に角ね、「何でそうなったか」じゃないんだ、きっとそれをやりだしたら果てがないのさ、だから、今の状態、こいつを上手く有意義に活かしつつ、可能であったならば、楽しむのさ。ああ。この「楽しむ」ってーのは、何よりも重要だと思うよ? 詰まらない時間を過ごせばさ、そいつは何とも詰まらない時間を過ごしていた事になるんだよな、事実がその時点で確定されてしまうのさ。詰まらないだろ? そんな事はさ。




