【46】向日葵と家族と隠れんぼ (短編小説)
これは、とあるチャットで知り合った人物を素にして、何か面白い世界が見えた気がしたので、少々、そのイメージの飴細工を練り練りしてみたお話です。
お盆の真夏のとある一軒家
蝉しぐれが鳴いている
近所の山から
オーシツクツク オーシツクツク
オーシツクツツクツクツ―――
モーイーヨー モーイーヨー
モーイーヨー モーイーヨー
ギャアァアァアァアァ―――――
まるで隠れんぼを姦しくしている様に
または 人間の 蝉しぐれの飽和にうんざりとした気持ちが反映した それは 一種のオノマトペであるのやも知れない
ともかく その 一軒家に視線を戻そう
部屋の中を向日葵が
覗き込んでくる家庭
猫の母方家庭は
母親から生まれた娘猫が
更に母親の娘の面倒を見たりするものである
人間の家庭でも わりとよくある それは光景
そんな家庭を 窓から覗き込んでくる 向日葵
縁側の戸 全開で 筵を垂らして日陰を作ってある 仏間の6畳にて 川の字で眠る猫三匹 筵を通じて その様子を眺めている風な向日葵である 笑っている風に見える 蝉が鳴いている オーシツクツク オーシツクツク
件に述べた それは 猫の母方家庭
眠る猫達のすぐ上を 撫でるみたいにして 掠める様にして 静かに首を振っている 扇風機の風の中で 不意に どれかが くしゅん! とくしゃみをやって そうしてから うっそりと起きて縁側から外へ どうやらそれは 長女の猫である 彼女は日除けの筵を 頭を押し付ける風にして押し遣り 隙間から抜け出す 笑っているのは向日葵である そんな様子を 見い出している様だ 鳴いている蝉が モーイーヨー モーイーヨー モーイーヨー
真夏の日差し 飽和する蝉しぐれが滲みる 彼女の視界には向日葵 目が合う 笑っている 向日葵の脇を過ぎて歩き 彼女なりの所用を済ませてからまた戻る 筵を頭で押して 隙間からまた部屋へ 向日葵が 筵越しに こちらを眺めやる まるで笑っている様だ そして蝉の鳴く声である ギャアァアァアァアァ―――――
寝起きで フスゥー と真夏の日差し浴びて暑さに閉口したものなのか 無意識に鼻を鳴らす長女猫 その様子に 寝起きのまだその余韻も醒め遣らぬ内から タバコを銜えている そんな蓮葉な女性の姿が 何故だろうか重なるみたいにして視えてくる 何だかそんな雰囲気の長女猫である 向日葵が筵を通して こちらを観ている 笑っている様子だ 鳴いているのは蝉である オーシツクツク オーシツクツク オーシツクツツクツクツ―――
そして 三匹の川の字 猫たちのお昼寝の家庭に
不意に 玄関の 横にスライドするタイプの戸が ガラガラと音を立てて開き スーパーの買い物ビニール袋を両手に吊り下げ持っている 小学生の末娘と 二十歳を越した歳の離れた娘と その 両方を生んだ母親 二人の娘の年齢はわりと離れていて 末の娘が 先程 中庭に出て戻った 長女猫を名指しで呼ぶ 向日葵が こちらを見ている風である 筵越しに 笑っている次第だ 何処かで 蝉が鳴いている聲の モーイーヨー モーイーヨー モーイーヨー
「あーっ! ひよちゃん! また勝手に扇風機のスイッチ入れとるよー!」
末の娘の 声のトーン
長女猫は その末娘の様子をだまって伺いつつも
なにか 責められている
不穏当なる 気配を感じたものか
長女猫『ひよちゃん』
は 人間の末の娘に文句を言い返すみたいに 一声
短く鳴くのである
「んにゃ〜…」
そして 次の拍子には 逃げる長女猫と それを追う人間の少女と それを眺めている人間の母親と 右の眉を若干上に上げた表情のままそんな長女猫と人間の末娘の追い掛けっこを眺めつつ タバコを口に咥えている人間の長女と 目を閉じて 気持ち良さ気に人間の方を向いて やんわりと ゆっくりうっとりと目を閉じて 無言でいながらも何よりも雄弁に 何ら今現在の境遇や生活に一切不満が無い事を告げている母猫と 長女猫と人間の少女の追い掛けっこに 今にも参加したい風に 身体を低くして腰を左右にフリフリとしながら
「いーれーてー」
のタイミングを測っている末娘猫と
立ち交じっているその様子を
庭の向日葵が 筵越しに
まるで中の様子が視えているみたいだ
笑っている気配がしている
鳴いているのはどうやら 蝉であろう
ギャアァアァアァアァ――――
猫の母方家庭は三匹で
人間の女性ばかりの家族も3人で…
まるで その2つの家庭は フラクタルの関係であり
そんな様子を筵越しに伺うみたいにして
向日葵が笑っている
蝉が鳴いている
オーシツクツク オーシツクツク
オーシツクツツクツクー
モーイーヨー モーイーヨー
モーイーヨー モーイーヨー
ギャアァアァアァアァ――――
今にも隠れんぼをやって遊びそうな
なんだかそんな向日葵と蝉しぐれと
猫と人間の母親家族であった




