【45】揚げパン (エッセイ)
揚げパン そいつは…
なんにも 無かった時代故に
何でもあった あの頃の郷愁
物理的に あまり無かった故に 頭の中では何でも溢れ返っていた 例えばそれは 教室の机 そいつを集めて 沈没船ごっこだとか 机の下のリノリウムの床は あれは大海原で サメが居て 落ちたら数秒でサメの餌 例えばそんな遊びを続けて 冒険の舞台は沈没しつつある教室からの脱出 次の廊下に至る時には 何人ものサメの餌の犠牲を出しつつ 靴箱から 外へ 引き続いて 地面は大海原で 家の塀のブロック壁や そんなモノを安全地帯として伝う 横断歩道は白いとこセーフ そんな感じに帰宅していた あの頃の 郷愁
神様がまだ 私に へロケ とゆー洗礼名をあたえたもうよりも ずっと昔の出来事…
(※へロケ については『【9】HERO失脚』参照)
揚げパンで昔みたいに なんにも無かったから 頭の中にはなんでもあった みたいな感じで 敢えて 揚げパンを食べないで 揚げパンのイメージだけで遊んでみようか こんな朝方から 考えてみれば 今 揚げパン そいつを食ってみても 昔みたいな あの 腕白時代に揚げパンを食った時みたいな そんな感動は 今は失われている 故に人生のここいら辺りで かの 揚げパン そいつについて 語りたくなったと言う訳だ 或いは もしかすると そうやって見たら 昔に食べた揚げパンの感動 そいつをもう一度味わえるのかも知れない と そんな可能性について 考えが及んだ次第だ
揚げパン そいつは かつての 蛋白坊主だった 我々のそいつは貴重なご馳走であり 腕白源を担っており 一番人気であり その出現率は 極めて低かった 給食メニュー表 ソイツに 『揚げパン』が記載されているのを 目敏く 発見した奴が先ずは 一番槍の手柄を得るのだ 桶狭間にて 今川義元の居場所を 報告した人間が 一番手柄とした 織田信長 なんとお見事な采配であろうか 情報の有効性 そいつを 彼は重視していたのである
そして 待望の 揚げパンが給食メニューに 出されるその日… 朝から胸がざわついて 何だか静かに ラヴェルのボレロ そいつが次第にヒートアップするみたいに 通学 1時間目 2時間目… 番町皿屋敷のお岩さんみたいに カウント始まる 後○時間… まだ来ないー
そうやって やってきた 給食時間
今 揚げパン ソイツを食っていたあの頃を振り返って 大の大人が あの頃に揚げパンを食した童心の心理 そいつで遊んでみよう
揚げパン 噛み締めた第一歩 まるでそれは 砂場の砂利を噛んだみたいな 粗野なるまぶされた砂糖の「ジャリッ」とした なんだか頭蓋に響き渡る不快な感じと やがてやって来る 齎されるであろう「甘み」 ソイツだけを信じて 不安なままで 噛み締めて耐えながら 予定の爆撃コースを 敵の迎撃を意識して 進み行く99式艦上爆撃機さ
やきもきとは裏腹に しぶとく進むみたいにして そしてやがて広がるのは ふくよかなる油分 粗野なる砂利の艦爆砂糖を 上からフワッとナチュラルに被さってくるみたいに 直掩の零式艦上戦闘機で やがて辿り着き 一体となる甘み
来たよ!まるでそれは ゼロ戦が 九九式艦爆の援護に覆い被さって来るみたいな なんかそんな味のタイム・ラグの優美さ そんな「糖」と「油」の あれは味の戦場の中の 蜜月の世界であろう
やがて 敵艦隊見ゆ! 軽空母の如き長方楕円のコッペパンの船体へと突き刺さるのである 油分 そいつが揚げられ表面が硬化したコッペパンへと 250kg爆弾の如くに その油分を落とす 自由落下の加速の役割は 噛み締めている歯
自由落下の加速 歯の打撃力を付与された 油分250kg爆弾が 揚げられたパンの船体表面を穿ち 貫いて そのまま船体を引き千切る 「やったぞ、命中だ!」噛み締める 柔らかくなるパン 広がる甘みと油分 口内海戦は次第に熱を帯びてくるのである
そして すっかりと 丸々一本の揚げパン そいつを平らげた攻撃部隊は 悠々と胃腸拠点飛行場へと 凱歌を上げて帰路に就くのである
揚げパン
どうだろうか。
食べたくなったかな?
これを見ている みんなはどうだろうかな?




