【37】仕合せの… (短編小説)
本来はそっちでやろうとしていた短編集。
こっちは実は操作だとかを間違えて作ってしまいまして。
しかしながら、どうやらこちらの自由な感じの方がベターかと思い、以前に書く予定であった短編集の、1話だけ書いたモノ、そいつをこちらへと編入して、あちらは削除致しました。
統合ですね。
ブランクで 小説家になろう の、操作の世界観を忘れておりました。
フム、こんな夜更けに旅人か。
はてさて、どなたかな、お若いの。
………
お手軽に幸せになりたい?
なんと、まぁ、最近の世の中を反映して、性急な事だろうねぇ、よしよし、まぁ、掛けなさい、性急に、焦って事に及ぶと、とかく、この「幸福」ってーやつは上手く行かないのだ。
どうもそんな性質があるように見受けられるのだよ、まぁ、お茶でも飲みなさい、君が幸福とやらを求めているのであれば、まずは急いじゃあ、いけないよ。
ほら、ミヒ○エル・エンデ氏の作品の一話に、「モ○」と言うお話があったのをご存知かな?
そうだ、君はなかなかに博識だね。
あれの、
「急げば急ぐ程に、ゆっくりと時間が流れてゆく」
トンネルだったか、通路だったかが存在していたのを覚えておるかね?
その…通路だったかトンネルだったかに挑む際に、果たして ○モ はどうやったか?
確か…つまり…彼女は後ろ向きにゆっくりと歩いたのでは無かったかな?
それで、時間を貯金しなさいと勧めてきたあの、灰色の背広と、葉巻の男達をすっかりと撒いて、時間の国へと逃げ込めたのだよ、うむ。
「時間を無駄に使っている!」
「こんなものは時間の無駄だ!」
「もっと素早く、そして、効率的に!」
「こんなモノはみな非生産的だ!」
そんな類の口癖・行動・意識・植え付けられた啓蒙感…そいつをそう、……癖の強い野草から丁寧に、なお且つしっかりと、何度もアク抜きするみたいに…
先ずはそいつらをしっかりと消し去りなさい。
え?
それが「怖い」かね、え?
きっと、誰にでも初体験はあるもんだし、初めては緊張するものだがね…君は未だ、若のだよ、うむ。
社会と言う荒波の戦略的な海域を猛々しく進む戦艦。そいつがつまりは今のキミで、その上部構造が「禊」という名前の砲撃に晒されて全て吹き飛んだとしてもだ。
ドックに曳航して貰って、また、最初から作り直してもらえば良いのだよ。
そう、「時間に追われない」それ専用の新設計の時間特化戦艦として、まだ君は前線に復帰できるだろうさ。
そうして ――
それら全ての諸改装工事がすっかりと片付いた然る後に
―― 一匹の、人間不信の野良猫をお飼いなさい。
その猫がオスかメスかなんて事は問題はない、そのどちらでも良いのだよ。
恐らくは、その猫は最初は何処か、部屋の身を潜められる場所に、まっしぐらに、そう、剣林弾雨の前線の中で、あの機関銃陣地をジグザグに、雷のラインを描きながら走り抜ける歩兵の如くに駆け抜けて、身を潜ませたら最後、梃子でも動くまい、と、孫氏の兵法の、「不動如山」のくだりを頑迷固陋に固守するであろうね。
しかし、日々、餌を与えて、君が少しばかりの愛を注げば、その猫の頑なな姿勢は軟化するであろうさ、そうして、君と猫との新しき、友好的国交交渉のテーブルに、猫自らがやって来るだろうし、また、君が与える愛情を増やせば、相手は同じくらいの愛情をくれるだろう。
つまりはそれが、手っ取り早い幸福への、近道ではあると、私は確信している次第だよ。
まぁ、試すのか、試さないのかはキミの自由にしなさい。
…おや、まぁ!
キミはいつからそんなに物腰やら身のこなしがゆっくりとした所作になったのかね!?
ふぅむ。
そうだなぁ。或いは、キミはもう既に、幸福なのかも知れんよ。
フォッフォッフォッ…
では、さらばだ、お若いの。




