【22】味のある飲食店 (エッセイ)
立川市のとある中華屋。
「喧嘩中華」と名付けた、大変に味がある店がある。
フツーに、店主の旦那がもう、スタッフとして働く奥さんの事を
「このクソババー」
と、罵倒する。
昭和が終わり、平成を経て、今は令和の時代である。
そんな何だか、文化も面取りがなされて、熟成してきて、何事も上品になってきた。
昔には、あちこちで見かけた犬の糞、ゴミ箱にはゴミが溢れ返り、タールを染み込ませた木造の電柱には立ちションの形跡、繁華街の朝のあちこちには飲酒がもたらした結果の「酸っぱい匂いのお好み焼き」そして、子供が割と平気で町中にて火薬鉄砲で遊んでいた。
今ではそんな風景はすっかりと鳴りを潜めた、なんか大変にアレな、だけれども今こうして耳にすれば、それは何処か郷愁を感じる、その類の罵詈雑言。
今では過激な画風の漫画家、漫○画太郎先生の漫画の世界の中でしかなかなかお目にはかかることがない、鼻孔の奥が殴られたときみたいにツゥーンとしてくる、香ばしい昭和の世界の罵詈雑言であろう。
「味も大事だが、それ以前に味がある」
のである。
ディ○ニーランド方面の甘美なファンタジー世界の夢ばかり食べてきて、汚れる事を知らない純粋な子供達を、昭和のコレ的な、今では絶滅の危機に瀕している、そんな香ばしい阿鼻叫喚ファンタジー世界のさなかにぶち込んでみたらばどうなるであろう?
と。
その誘惑に駆られて思わず妄想してしまう。
最初は罵詈雑言のショックで泣くだろう。
子供の適応力の、その速さを侮るなかれ。
きっとその中華屋を出る頃には、もぅ、
「うるせーよクソジジー死ね!」
くらいは簡単に吐ける、昭和の悪童もどき令和仕様の一丁上がりである。
例えるならば、その中華屋は、あれだ。
「スラム街テーストな負のディズニー○ンド」的な魅力に満ちている様に思えるのである。漫○画太郎画伯の、あの、見た瞬間に鼻にまで「ツゥーン」と来る香ばしいインパクト世界に似たその香ばしさである。子供の感性にはきっと激烈に響いてくるだろう。そして、子供は影響されるのである。ドリフの真似をやって怒られていた我々世代の如く(笑)
ここの中華屋は、わりとそっちの方の「味」に魅力があり、某マップのこの中華屋をタップすれば、その魅力に溢れている普段の店主とその奥さんの荒々しい喧嘩漫才みたいな遣り取りについて、コメントされたりしているのである。
もぅ、お昼とかの注文ラッシュで弱り果てて、
息も絶え絶えとなった肺活量で、殆ど声らしき声にならない罵声を吐く店主と、いつもある程度は我慢しているが、一線を超えてゾーン領域に差し掛かると機関銃の如くにそれに応戦する奥様との、赤と黒のエクスタシー。
話は変わるが、私のチャット仲間の一人に、チャットの世界ではわりと饒舌にその、幼い頃の面白いエピソードやなんかを、大変に豊かな感性で語る、男子版さくらも○こ先生的な仲間が居て、そんな彼は実際の社会の中では大変に照れ屋であり、あまり自ら人に話し掛けるタイプではないと言う。
そんな彼が行っていた中華屋さん。
店主がその彼と、大変に似通った性格らしく…
(ガラガラ)
彼が「……」
店主「……」
彼が「……(メニューを指差す)」
店主「……(小さく喋るも聞き取れない)」
そして、麺をザルで湯切りするときだけ、見ていて心配になるくらいに壊れたロボットみたいな動きになる店主は、
「あば○る君」に似ているらしい。そして、肝心の味はと言えば、中華屋なのに、そこの中華は不味いらしい。
ナンテコッタ……
そんな事断言されたらなんかもぅ、
逆に、
逆に
行ってみたくて
食べてみたくてたまらなくなるのである。
彼が「……(お礼を行って出ようとするも聞き取れない)」
店主「……(なにか言っているが聞き取れない)」
不味いらしいのだが、その中華屋は。
不味い以前に「味」があるのだ。
是非とも一度は行ってみたかったのだが。
もぅ、どうやらお店はやっていないらしい。
残念だ。
味以前に「味」がある。
その様なお店がまた、
令和に消えてゆくのが。