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【20】画伯伯爵の錬金術 (短編小説)





今日もまた例に違わず、無理難題のお客様だ、やれやれ。

資金は余り無い、供給出来る材料はチープ、それに比して持っている夢のなんとまぁ、大きな事だろう!

まったく。


彼の胸中である。


ヴィシー・フランス政権下の、とあるパリのアパート地下に、地下墓所(カタコンペ)の膨大なる通路の一部が通じている場所があり、そこの地下室に彼の工房がある。


通称、「画伯伯爵」を名乗る、今ではすっかりと科学の世界に、ドリルに、火薬に、プレス機に、エンジンに、それらに押し遣られてしまった、錬金術師(アルケミスト)である。


彼の仕事は、人の夢を練り合わせ、その夢作業の工程をスケッチ画にて顧客に説明し、顧客を納得させるにはどのようにすればベターであるのか、と。


そいつを充分に顧客達が納得するように描いた絵と共にプレゼンテーションを行ってから然る後に錬金術を行い、そして夢を練り上げ加工して、出来上がった作品を渡して少しばかりの対価を頂く。


パリの地下は、その昔は石灰岩の切り出し場であった。そして、その石灰岩の、抜き去った場所に今度は白骨を置いた。


それが地下墓所(カタコンペ)である。

彼の夢作業の風水的な都合に丁度良いのである。

人間達の残滓、2価の希望カルシウム成分の中に僅かに含まれているこれまた2価の欲望リン質。希望カルシウム質は夢を固定して、欲望リン質はその夢の形を練り上げる為の熱量を与えてくれるから、画伯伯爵はこの場所を好むのだ。


まさに、錬金術師たる彼、画伯伯爵にとって、それらは必須な触媒であったのだから。


昔の顧客達はこうも、夢ばかりが先行し、そして資金と資材の比率がそいつに対しては余りにも『冒険的(吝嗇的)』であると言うことはあまり無かったように思われる。


きちんと、地に足を付けていた、その様に感じられるのだが、あの、忌々しい自身の職業を隅に追いやってしまった…その、なんと言ったか?


そう、『産業革命』と言う奴と『紙幣経済』、この2本の(じく)、この2欠片のパズルのzig、2種類の治具(じぐ)が社会に広まって以来だ。


依頼が途端に、地に足が付いておらず、些か以上に冒険的であり、それに反して資金力は節約気味な、その様な浮ついた顧客達ばかりとなり、以来、まるでテコ(leverage)の様に、無理難題の軸の治具として、彼はその種の『穴埋め作業』をやらなければならなくなった。


そして、その、『穴埋め作業』に必要となる地下墓所の白骨達の、その品質こそがこの際は一番に彼の夢作業にとっては肝要となっており、『産業革命』と『紙幣経済』が起こる『前』の世界の白骨達の品質は、コイツはまさに画伯伯爵にとっては理想的であり、しっかりと豊富なる二価の希望カルシウム質を豊富に含み、また、二価の欲望リン質も、良質で健康的な欲望であり、その品質はAAAクラスなのである。その二価欲望リン質は静かに音を立てずに、白、または、透明に燃える性質がある。煙を出さない。素材を練り合わせ溶かす時に用いるが、この良質な欲望リン質の場合は、希望カルシウムに比してその量は本当に少なくしか採れないのではあるが、本当に(ごく)々、微量を用いる事により、その役割を充分に果たすことが出来る。


これがまた、『産業革命』と『紙幣経済』その『後』の白骨達と来た日には… 生前に散々に『希望』に(かこ)けて前倒しで前借(ローン)りしまくった希望カルシウム質はその中身がすっかりとスカスカで(もぬけ)(から)となり、また、欲望リン質に至っては、骨全体を構成しているスカスカの希望カルシウムの穴の中に(たむろ)した虫みたいに詰まっており、量だけはやたらと採れるのではあるが、ギラギラと下品に強い燃焼をして時には激しく爆発までする、そんな不安定なる性質の粗悪品(そあくひん)で、まるで使い物にはならないのだ。その二価欲望リン質は黄色くバチバチと音を立てて、沢山のどす黒い煙をだして燃えるのだ。この不安定なる欲望リン質の場合は、素材を練り合わせる時に使う事が難しくて、なんとかこの燃料を纏めた量で、燃やし専用の釜に入れて三日三晩、この激しい燃焼や爆発をする危険な物質を好き放題に暴れさせてから、溶け固まったそいつのそこから暫くの間は燻り続けている放熱を用いて素材を炙って錬成したりするのだが、まぁ、これが熱い。そして、あまりにこの塊に接近して作業をしたその日から数日は、画伯が1日の仕事を終えて彼のベッドで眠る時にその熱がぶり返してこれがもう、蒸し暑くてたまらない不快感を催して来るので、彼はこの方法を徹底して避けているのだった。


さて、その様な性質を持った白骨の2成分だが、無論(むろん)、それらの骸骨達が歩んだ生前の生き様により、『前』の白骨でも粗悪品だったり、『後』の白骨でも極上品だったりすることがごく(まれ)にはある。しかしながら、前と後では明らかに、人間達の意識やら生き方、在り方、考え方、それら全てが何か決定的に変わったのであろうか?


大体は傾向を見ると、画伯伯爵は彼の錬金術の材料として『前の白骨』に頼る事が多いのである。


画伯伯爵。

時代が時代であれば、彼は稀有な錬金術師(アルケミスト)

そんな彼が今や、少ない資材と資金で到底果たす事が不可能に見える強欲な依頼主の都合を何とか折り合いを付けて条件を満たす作業を強いられているのである。


穴の中に住んでいるのに、穴埋めだと?

こりゃ、大変な馬鹿みたいな作業さ。

まるで自分を埋葬するみたいではないのか、まったく!


とにもかくにも、唯一、幸いと言えるのはこの地下には、そんな彼の仕事を社会の(すみ)へと追いやってしまったその2つの治具(じぐ)、2かけらのzig、二本の(じく)たる、『産業革命』と『紙幣経済』が巻き起こる以前に鬼籍(きせき)(はい)られた、キチンと地に足を付けて生きてきた人間達の触媒、2価の希望カルシウムと同じく、2価の欲望リン質。


これらが(そろ)っているので、それらを用いて、彼が一旦顧客から頂いた膨大な夢や条件に比して貧相過ぎる至って質素な素材と資金を用いて練り上げた夢飴(ゆめあめ)を一旦、夢秤(ゆめばかり)の軸に取り付けてから、回転させて慎重に重心を調整してゆく。


そうすると、まだ1番最初の頃なんかは、この依頼主の練り上げた粗末な素材の弱点だらけの資質が、夢秤(ゆめばかり)の回転で露骨に判明する、夢ばかりが先行した悲惨な状況が浮き彫りとなるのである。バランスが悪く、回転するたびにガクガクとその挙動が不安定で夢秤(ゆめばかり)がブレて虚しい悲鳴を上げ続けるのだ。その音はまるで、「無理だよー 無理だよー」と(うな)っている様子に見えるし、また、明らかにそんな粗末な素材と少ない資金に比べると随分と遠大なる夢ばかりが先行している、そんな矛盾な姿が夢秤(ゆめばかり)の上で、一目瞭然となってしまうのだ。


当然とそうなると、全ての原因はつまりは、希望カルシウムの領域と素材の領域とが大きく欠けているのが、その原因であるのだから、貧相な素材と希望カルシウムの領域に於いて、彼は良質なる希望カルシウム質を肩替(ローン)りに、ウェイトバランサーとして、それでブレを調整してゆくのである。そうやって夢ばかり先行した矛盾をまるで模型にパテを付けて肉を盛るみたいにして二価の希望カルシウム質を用いて慎重に穴埋めしてゆくのだ。


そうやってからまた、練り上げた夢の飴細工を再び溶かすのであるが、この時にまた、しっかりとした拠り所を持たぬ、やや場当たり的な感情から生まれている素材の中に含まれていた、品質の悪い欲望リン質。過剰なる熱量しか持ち得ぬ、素材の中に含まれたそいつを綺麗に抜き去って行き、良質なる2価の欲望リン質と入れ替えて慎重に練り直し、また良質なる欲望リン質を少しずつ、少しずつ、様子を見ながら適時に加えてベストな状態へとしてゆく。


やがて。

そうやって出来上がった夢の飴細工を今度はさらに顧客の要望に沿ったニッチに加工してゆくのである。


しかしねぇ…

画伯伯爵は作業の片手間に思考している。彼の考えはこうである。あの様にして、希望を前倒して前借りし尽くしている、時間を前借りしているみたいな『紙幣経済』と『産業革命』後の彼等の白骨は… その内に二価の希望カルシウム質がすっかりと無くなってしまって、彼等の子どもや孫達は、このまま()の、(しつ)の悪い欲望に(あぶ)られ続けた結果として、カルシウム分が一切残らずに、あのギラつく火力を放つ欲望のリン質だけになってしまって、その内にもはや『骨』とは言えないような有様になるのやも知れないぞ、彼等の白骨の将来は。うーん、これは… いやはや、そうなって仕舞(しま)うともう、俺の商売が成立してゆかなくなり、いよいよと()って店仕舞(みせじま)いの日もこれは近いのかも知れないぞ、そうしたらばどうするのか? 『希望』がすっかりと枯渇(こかつ)してしまった世界では俺は魔術を一切行えないのだからなぁ… そうだ! もぅこの際は異世界にへと行ってしまおうか、よし、そうしよう。



……


さて、今回の依頼主は、ヴィシー・フランス政権下に取っては敵勢力のドイツ人の戦車乗りであった。

じゃがいもみたいな面構えである。




「戦場にて、見た敵が思わず(すく)(おび)え上がる、そんな威圧する飾り付けをして欲しい。」




当初に、そうやって画伯伯爵の前にこのじゃがいも野郎のドイツ人依頼主が乗り込んで持ってきた戦車は…軽戦車である。


……身の程を考えて欲しいものだ、

と、依頼の話を聞いた時に彼は思った。軽快に走りそうな車体、その砲塔に載せられているのはこいつは、砲身ではなくて、機銃である。


1号戦車初期型。

初心なかわい子ちゃんであろう。


大戦も拡大してロシアの戦車に苦戦しているであろう、そんなドイツ装甲軍の、開戦前に試作されたプチ戦車。彼は頭の中で更に頭を抱える思いであったのだが、まぁ、背に腹は代えられない。仕事無ければ食いっぱぐれるだけだ。そうやって、彼はまさに今、錬金術でこの1号戦車を加工し終えた所である。



やれやれ。

じゃがいも野郎の依頼は終わったよ。


ヴィシー・フランス政権下の敵さ!

そんな奴の無理難題な仕事をこなしてやったよ。


びしぃっ と、依頼主の要求に 沿わす


びしぃ と 沿わす


びしぃ沿わす

びしそわーす


ヴィシソワーズでも飲むか…

無粋なじゃがいもを上品に美味く纏め上げたそいつは…


今日の依頼を済ませた後に丁度よかろうさ。


朝方にパン屋で買って来て、先っぽを道を歩きながら失敬した齧り跡が残っている、紙袋から顔を出したバゲットを見やり、ようやくと一心地ついた彼の昼食が始まった次第である。




……


今俺は、異世界に転移した。

モンスターをハンティングするビジネスが基本的な様子だな、この世界は。それにしてもまたコイツは… 剣と魔法の世界か。うーん、なんともはや。この私の錬金術師(アルケミスト)としてのスキルが存分に活かせそうだな。

よし、頑張ってこー!





個人の少ない貯蓄を集めて、そいつを複合的に合わせて、そいつを銀行の手形として、更に更に大きな金を借りて、そいつを集中運用させて、投資すると言うテコ(レヴァレッヂ)そいつが、その資金が先進国に対して攻撃的に投下され、その国の例えば「今から○○年後までに農作物を幾ら」或いは「鉱石を○○トン」など、条件付けられて、将来に於いても安定的に奪われている。


第三次世界大戦は既に始まっている。

それは現代の人間達がその無尽蔵に増え続けてゆく紙幣に折り合いを付けようとして採取し尽くす資源であり、それらを将来の子孫たちから奪い続けている、その様な種類の全く新しい戦争の体系である。


そんな紙幣は、地に足を付けていない、彼らの運用は利子が利子を生み出しているのだが、まるで地に足を付けていないお金で遊び始めた様に見える。


食べ物は腐敗する。

製品は劣化したり壊れる。

お金だけは利子で増殖を続ける。


劣化しないで増殖し続ける。

お金だけ、劣化しないのは果たして…

自然の摂理に合っているのだろうか?


上記は私のものすごーく影響を受けた作家さん、

ミヒャエル・エンデ氏の著書になんか。

そんな事が書いてあった奴だ。


チャットで知り合ったとある人物の、仕事の話を聞いてイメージが出来た1話。


チープな鉄板を渡されて、軽自動車を加工したのだと。

顧客に施工後のイメージ図を描いて見せたりするのだと。

画伯ネタありがと。

お疲れさん。



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