【12】パンツ佐藤 (エッセイ)
コレは、中学生になってからのお話……
ある日、「パンツ佐藤」と言う、とても風変わりなあだ名を持っている奴が居た。
ボクが通う中学生は、北にある小学校と西にある小学生の生徒達が合わさって通っていた学校で、彼は北にある小学校出身だったのである。ボクは西にある小学校出身で、北の小学校出身の彼の過去を知らない……
そのあだ名の由来。
北の小学校にはプールが無くて、水泳授業の時は西の小学校へ借りてプール授業を行っていたのである。
ある日、北の小学校のプールの授業中に、プールにパンツが浮いていた。そいつを見てパンツ佐藤は、散々にもぉ、散々にその水面をわがままに遊泳するパンツを言葉で弄り倒した。
「きっったねぇーなぁ、オイ!」
「黄ばんでんじゃねーかっ!?」
「だれだよパンツ落とした奴!」
「素直に言えよー!」
やがて、授業を終えて、各々着替え始めた時に、そのパンツは先生が確保して干してあったらしいのだが………
「先生、それ、ボクのパンツです……」
嗚咽しながら名乗り出たのはその、パンツ佐藤本人であったと云う。。。
黒歴史は恐ろしい。
俺は大爆笑した。
だって、面白いのだもの。
散々に自らが先陣を切ってプールを遊泳している不審パンツを言葉で弄り倒し、また、罵倒し、まるで、俺とは無関係だと言わんばかりの態度の、コイツは立派な天然の『前フリ』をやらかした。
そして、授業が終わるまでその前フリを寝かせて熟成させてからの、まさかの『自分でしたオチ』
完璧である!
お笑いの理想的なサンプルである。
これでは中学生になって間もなく、HEROっ気を出して軟式グローブにHEROKEをローマ字で書いた俺なんてちっぽけなものなのかも知れない。
(そのお話については、『【9】HERO失脚』を参照。)
その後、俺は、中学時代も。
そして別々の高校になった高校時代に駅とかで見掛けても、更に言えば、社会人として街を歩いていた時に偶然に彼と遭遇した時にも。
「よっ!パンツ佐藤」
と、声をかけていた(笑)
そして、その言葉に思わずビクッと身を竦ませつつ振り向く(確実にトラウマになっている様子である)彼が、俺を見出してから、やや顔を赤めつつ、
「○○君、その呼び名はいい加減にもう勘弁してくれないかなぁ、僕ももう 高校生/社会人 なんだからさぁ…あの頃は僕もかくかく、しかじか… 」
の下りが始まる、なんと言えば良いのか、ある種のお約束が成立していたのであった。
今はもう、俺が地元の北海道を遥か遠くに離れ、帰郷の意思すらも持ってはいない。だから、きっとこれから、パンツ佐藤と遭遇する事はもはや、人生の中での見込みは限り無くゼロに近いのだろう。だが、しかし、もし仮に、彼と偶然にも遭遇して、そこに彼の昔の面影を見出し彼を呼び掛ける時には、きっと俺はこう言うであろうと思う。
相変わらず、
「お前……もしかして、パンツ佐藤か!?」
パンツ佐藤。
今は会うことも無いのだが、どうか、健やかに、そして、アホっぽく、生きていて欲しい。
彼がまた、人生の中で、相変わらずの噴飯モノのギャグをかまして、新たなる黒歴史伝説を作っている事を密かに遠方より祈っております。
あの頃俺達アホでしたよ、ハイ。