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空の支配者と七人の英雄たち  作者: あまつか飛燕
《駆けだす友人編》王族の仕事
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権謀術数の使い道

「意外でした。ハルデヒト様がそのように考えるとは」


「友人を頼るのは意外か? まぁ王族が、と言うのもあるかもしれないがな。何も悪事を頼むわけではないのだ。堂々と頭を下げよう」


 リヌスの言葉にハルデヒトは飄々とそう答えて見せる。王族が軽々しく頭を下げるものではないと官僚たちは言うが、そんなものはどこ吹く風だ。

 数日走った馬車は、もはやハルデヒトの第二の故郷とも言える街の入り口で停止した。


「ハルデヒト様、到着いたしました」


「よし、乗り換えだ」


 横付けされたのは、平民の使う普通の馬車だ。そうでなくとも王族用の者は目立ちすぎる、これから会う人の素性を考えれば警戒するに越した事は無い。


 アコーズの街に入ったハルデヒト達を乗せた馬車は、表通り沿いのある店の前で止まった。帽子を目深に被り二人が店に入り、店員に名前を伝える。奥の個室に通されると目的の人物は既に来ていた。


「久しぶりだな。と言っても半年ぶりぐらいか」


「お久しぶりです。リヌスさんも」


 ぺこりと頭を下げるのはシルフィだ。ハルデヒトが目を付けたのは"明報ルヴァン"という組織だ。


「手紙で内容は伝えた通りだ」


「把握しています。今になってアロンドルフが侵攻してきて、しかもその場所がケルムントだなんて……向こうに知り合いはいませんが、同じエルフたちの国として許せません」


「そこでだ。今度、第一次増援として海路で軍を派遣する。その際にシルフィも現地に入ってほしいんだ。無論、信頼のおける人がいれば同行させてもらっても構わない」


 シルフィは鞄から地図を取り出しテーブルに広げた。ミリウスとその周辺国を描いた広域地図だ。


「手紙を読む限り、アロンドルフは街道からケルムント側に侵入して国境線に近い街に対して示威行動を取っているとのことで間違い無いですか?」


「そうだ。占領まではされていないようだが、時間の問題だという官僚もいる。シルフィはどう考える」


「私が国家間の事に意見するのも僭越だとは思いますが……」


 シルフィがちらりと様子を伺うと、ハルデヒトは無言で頷き先を促した。


「占領まではされないと思います。そこまでしてしまったら明確な戦争行為、ハルデヒト様相手に今更言うことでは無いと思いますが、密約に従ってアロンドルフは三方から攻撃されます。

 この行動の目的は正確にはわかりませんが、余程の見返りが確約されていない限りはそのようなリスクのある行動には出ないでしょう」


 その答えに、ハルデヒトは思わず溜息が漏れた。自分も全く同じ事を考えていたのだ。しかも密約まで知っているとは、明報ルヴァン侮りがたしと言ったところか。


「アロンドルフとて馬鹿ではない、何かしら勝算があっての事だろう。しかしその勝算がはっきりとわからないことには、こちらも派手には動けない。そこでシルフィ達に現地に入ってもらい、アロンドルフが宣戦布告も無しに軍事行動を行っているという事を取材してほしいんだ」


「そして、周辺国向けに発信してほしいという事ですね? わかりました」


「すまないな。もちろん報酬は弾む、危険な仕事だとだとは思うがよろしく頼む」


 頭を下げて、とりあえず取材については約束が取れた。今回の目的は、アロンドルフの不法行為を世界に向けて発信することだ。国としてこのような行為がありましたと諸外国に喧伝するのは容易だが、アロンドルフがどのような難癖をつけてくるのかが読めない。


 ならば民間の機関から発表した方が良い。もしこの内容に何か難癖をつけるようなら、第三国による国内の民間報道機関への介入だと堂々と言う事ができる。傍から見れば本来は国の行う発表を民間に出し抜かれたと取られ、国は何をやっているのだという叱責もあるかもしれない。だが今の状態ではアロンドルフを黙らせ、周辺国に事実を歪曲なく報道する方が大事だ。


 案の定この事を官僚や高級貴族にも指摘はされたが、体面を気にするあまりに本来の目的を見失ってはならぬという兄の言葉で救われた。


「あとは、取材で得た情報をいかにして持ち帰るかだ。恐らくアロンドルフは何かしらの妨害に出ると思う。陸路でツァングルード山脈を越えるには、そもそもが難所だし途中でどんな妨害に遭うともわからない。かと言って海路では時間がかかり過ぎる」


「ドラゴンではダメなのですか?」


「竜騎士か。それもいいんだが、無用な武力衝突を招く可能性もある。向こう(アロンドルフ)は通常戦力のみで、竜騎士までは展開してないようだからな」


 この示威行動をあくまでアロンドルフの専横とするのなら、ミリウスは派手に動いてはならない。直接対峙させるわけではないにしても、竜騎士部隊の導入は過剰戦力だ。挑発と取られてもおかしくない。


「なるほど……しかし一番早い方法がドラゴンでの輸送です。どうにかなりませんか」


「そうだな。それこそカイルでもいればハルピアに頼めるんだが……いや、そうか。その手があったな」


「カイルに頼むんですか? でも今どこにいるんだか」


「いや、そうじゃない」


 ハルデヒトはニヤッと笑い、シルフィに思いついた案を話す。シルフィは驚いた表情で見返し反論も述べたが、最終的には承諾した。今はなりふり構っている暇はないというのは承知の上だ。


 *


 数日後、シルフィの姿はミリウス国軍の船の上にいた。ツァングルード山脈を右に見ながらケルムントまで三日、そこからは護衛を付けて馬でアロンドルフ軍がいる現地までさらに三日。


 幸いな事にその間、動きは無かった。それがかえって不気味なのだが、今はその意味を深く考えている余裕は無い。

 現地は既に、示威行動と言うには遥かに行き過ぎた状態となっていた。国境沿いの街は占領され、ケルムント側からは完全に封鎖されている。中の様子も伺い知る事ができない。


「ミリウスの記者さんかい。アイツら、突然攻めてきて俺らから何もかも奪いやがった。俺なんかでいいならいくらでも答えるから、ちゃんと世界にこの事を伝えてくれ」


「いくら獣人が人族より力が強いと言ってもね、あんなに大軍で来られたら敵わないわ。旦那も戦ったけど、結局力押しされたのよ」


「着の身着のままで逃げてきたんだ、今は偉い人が用意してくれたテント暮らしさ。せめて子供の服ぐらい替えが欲しいんだが、それすら叶わん」


「わたしゃもうここで七十年も生きてきたけどね、こんな事は初めてさ」


 幸いな事に占領前に街を逃げ出す事の出来た獣人に話を聞く事ができたが、皆がこんな事を話していた。

 故郷の村を賊に襲われ、同じような体験をしたシルフィにとっては、許せない蛮行だ。


 四日ほど現地で取材し、ハルデヒトと約束した場所へと向かう。そこは占拠された国境沿いの街から馬で半日走った場所にある、中規模の街だ。

 一応地図には載っているものの、取り立てて大きな産業があるわけでもなく恐らくミリウス本国で知っている者は少ないだろう。


「ここが、冒険者ギルドね」


 ギルドは世界のどこにでもある。ケルムントとて例外ではない。現地入りしてから四日後、ここで迎えが来る予定なのだ。


 受付で名前を言うと、迎えは既にきていると言う。


「アンタがシルフィかい?」


 呼ばれて振り向くと、明るい茶髪をショートにそろえた女性が立っていた。


「はい。私がシルフィです」


「よしきた。アタシはカムール、アンタ記者さんだろ? オラン王国ってわかるだろ、見ての通りそこの出身さ」


「オラン王国って言うと、あのテルルー海の向こうの」


 ミリウスからテルルー海を挟んで反対の、西側にある大陸の強国、オラン王国。シルフィも記者の道に飛び込んでから知った名前だ。

 向こうの大陸の人は顔の彫りが深いと聞いていたが、噂に違わず特徴的な顔立ちをしていた。


「その通り。で、アンタをルヴァンまで連れて行けばいいんだろ?」


「そうです。よろしくお願いします」


「いやいや、それだけで百万エルンって言われりゃ飛びつくってモンよ。だけどアンタ、ドラゴンに乗った経験は?」


 ハルデヒト曰く、要は軍のドラゴンでなければいいのだ。

 竜騎兵を、たとえ単騎とは言え緊張状態にある場所に送れば角が立つ。ならば竜に乗る冒険者に頼めばいいと言うわけだ。


 冒険者は不可侵な存在。戦争時に傭兵として国が雇う事はあるが、原則として依頼主と引き受ける冒険者の間に国家が介入する事は無い。ギルドが反発し撤退するとでも言い出せば、ギルドの納める膨大な税金は入らないし、これまで冒険者がこなしていたありとあらゆる事を国が肩代わりしなければならなくなるからだ。不利益が大き過ぎる。


 そこに目を付けて、ハルデヒトは個人としてシルフィをルヴァンに連れ戻す事を竜を用いる事を条件に依頼を出したのだ。


 しかしこれだけの依頼で百万エルンとは、さすが王族と言ったところか。


「大丈夫です。友人にもドラゴンに乗れる冒険者がいるので」


「へぇ! 名前は?」


「サラスティアって子です」


「ほぉー、同じドラゴン乗りの冒険者は大体知ってるつもりだけど、その名前は初耳だ。最近なったのかい?」


「はい。去年冒険者になったばかりで」


「去年!? それでもうドラゴンに乗れるのかい!」


 そう言えばそうだったと反省。普通はドラゴンと戦って倒して、言う事を聞かせるといった風にして乗るのが普通だ。サラのような例が極めて珍しい。


 これ以上突っ込まれても困るので、適当に話を濁して街外れに待たせているという竜の元へと向かった。


「あ、この鞍って」


「おう。依頼を受ける条件にあったんだが、なかなかいいヤツだな」


 カムールの竜に据え付けてあった鞍は、前にルミアスが見せてくれたものだった。だが少し形が違うような気がする。改良を加えたのだろうか。


「マリーなんとかって店のやつだ。前のは軍の払い下げだったが、どうにも激しい挙動がしづらくてな。ま、その辺は腕でどうにかしてたんだが、その点これは安定性が違う、なんでこれが今まで出てこなかったのかってぐらいだ」


「やっぱり鞍があると違うものなんですか? 私もその友人の竜に乗せてもらったことはありますけど、鞍無しだったので」


「鞍無し!? 正気じゃねぇな、その友人とやらは。依頼に"運ぶ人の身辺について詮索しないように"とか書いてなければ、もうちょい色々聞けるのに」


 どうも、依頼書を出す際に色々と手を回してくれたようだ。多分自分の立場を鑑みてのことだろうが、こうして口を滑らせた時にも役に立つという訳だ。ありがとうハルデヒト様。

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