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空の支配者と七人の英雄たち  作者: あまつか飛燕
《駆けだす友人編》真実を求めて
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取材を進めて

 幸いにして重傷を負っていた旦那さんと一命を取り留め、意識は戻ってないものの容態は安定しているという。そのおかげか女性の方も昨晩に比べるとずいぶん落ち着きを取り戻していた。目の下にクマが出来て一睡もしていないんだろうなとも思ったが、しかし改めて取材を申し込むと快諾してもらえたのでメモ帳を開いた。


 朝イチで再びの取材を終えてシルフィの抱いた感想は、明らかに護衛がクロだろうという事だ。

 もし偶然に盗賊がこの家族を襲ったというのなら、これだけの騒ぎになって護衛を務めた冒険者が未だに捕まらないというのは腑に落ちない。


 そもそも朝になって捜査を担当する憲兵に話を聞いたところ、この護衛依頼についてすぐにケール共通ギルドに照会をかけたが、そもそもそんな依頼は貰っていないというのだ。


 だが当然被害に遭った家族は反論し、すぐにギルドの発行印のある依頼引受証明を提出した。今頃はそれを携えて、早馬がギルドに向かっているだろう。結果は午後には分かるようだ。


 だがシルフィとて、その間ただ待っているというわけにはいかない。取材するからには徹底的に、現場に赴き目撃者を探し、言質を取り裏を取る。その結果、犯人を見つける事だってある。

 本来事件の捜査は憲兵がやるものだが、新聞記者が事件を解決した例も少なくないのだ。


「行ってきます!」


 シルフィが元気に声を上げると、色んな声が飛んでくる。


「おう! 気を付けろよ!」


「危ないと思ったら引くのも大切だからね!」


「スクープ楽しみにしてるぞ!」


 言われなくてもシルフィ自身、事件を解決しようという気があるわけではない。専門家でもないのに首を突っ込むとロクなことが無いという事ぐらい、農業をやってればよくわかる。


「まずは……ケール共通ギルドかな」


 ギルドはケール穀倉地帯内にあるので、向かうのなら朝から行かなければ今日中に戻って来れなくなってしまう。

 そもそも朝イチで被害に遭った家族に取材をしているので、このまま真っ直ぐ往復しても遅くなってしまうだろう。


 足を向けかけて、ふと立ち止まった。ギルドには今頃、依頼引受証明を携えた早馬が事情を聞きに行っているはずだ。その結果が出てからの方が、より有意義な話が聞けるだろう。


「そうだ、ナイリィさんが言ってた……」


 シルフィはふと、ナイリィ編集長が言っていた言葉を思い出した。家族は正式に依頼を出したのに、ギルドは受けていないと言う。その食い違いが気になると言っていたのだ。


 ケール共通ギルドへは郵便で依頼を出す。まずはその郵便屋に話を聞いてみよう。幸いにしてエマにあるので、時間がかかるわけでもない。

 ついでに家で準備出来なかったし、帰りに今日の昼ご飯も買おう。目抜き通りに昼間だけ出る屋台に、新メニューがあったはずだ。


 *


「特に変わった事は無い、ですか」


「そうですねぇ。あの日だと他にも配達に出てたものはおりますが……」


 郵便屋に訪れたシルフィだったが、どうも当てが外れたようだ。

 例えばギルド宛に出した郵便が途中で襲われて盗まれたとか、あるいは不慮の事故があったとかそういう事があったのではないかと思っていたが、しばらくの間調べてくれてそれでも無いというのだから仕方ない。


 だがそこで諦めていては記者は務まらない。なんとかとっかかりを掴まねば。


「そうだ。その日、配達に出た人から話を伺えますか?」


 そう尋ねると、応対していた人の顔が曇った。


「えーと……実は辞めちゃったんですよ」


「辞められた? いつでしょうか」


「その、記者さんが仰られた日の翌日です」


 つまり家族がギルド宛に依頼を出した日の翌日だ。だがこの配達員に話を聞かないわけにはいかない。


「今……どこにいるか、とかわかりますか。家の場所とか」


「家の場所はお教えしても構いませんが、多分無駄だと思いますよ」


「と、言いますと」


「故郷に戻らなきゃならなくなったと言ってましたので。多分もう家は引き払ってると思います」


 応対してくれた人も心底申し訳なさそうだ。嘘を言っているとは思えない。

 せっかく掴みかかった手掛かりもすぐに途切れてしまった。故郷がどこかと尋ねてみても誰も知らないようで、とりあえずは教えてもらった家にでも行ってみる他ない。


 *


 かくして訪れたのは、エマの中心街にある住宅地だ。さほど広い街では無いとは言え、やはり中心街になればなるほど家賃は高い。いい家に住んでたんだなというのが、シルフィの第一印象だ。


 管理人のところへ寄って記者を名乗るとそれだけで少し萎縮したようだったが、無事に鍵を借りれたので管理人と共に中に入ってみる。微妙な顔をしていたのが気がかりだが……


「うわ」


 思わず呟いた。入った部屋の中は雑然としており、家具などもほとんど残っている。

 引っ越したと言うのでここには何も無く、一応見るだけ見て引っ越しを手伝った人を探そうと思っていたのだが、良くも悪くも予想を裏切られた形だ。


「その記者さんが仰られた日の翌日に急に、家を出なければならないと言いましてね。もう荷物はまとめたからと言って、すぐに出ていっちゃったんですよ。それで部屋の片付けをしようと思ったらこれです。まったく、余計な出費です」


 管理人も困ったように言っている。明日にも廃品回収の業者に来てもらい、中のものを引き取ってもらう予定だったそうだ。そう考えるとギリギリセーフと言える。


「と言ってもこんな状況じゃなぁ。それこそ憲兵でも呼んで手伝ってもらうとかしないと……」


 誰ともなしに呟きつつぐるっと室内を見回すと、気になるものが目に入った。それは一冊の手帳だ。


 手帳を置き忘れるなんてなんて間抜けなと言うか、そもそもこの状況で見つけるのもベタな推理小説を読んでいるようでちょっと面白かったが、管理人が少し片付けをしたようなのでその際に出てきたのだろう。余程慌てて家を出たに違いない。


 中をめくると真っ先に、郵便を配達したと思われる日を探す。

 あった。丸印が付いている。

 次いでその前後の日にちを見てみると、配達した日の数日前に気になる書き込みがあった。


「"グロヌイと接触、打ち合わせ"? 誰かしら、グロヌイって」


 同行している管理人に聞いてみても、当然首を振るばかりだ。

 一応名前をメモに取り、他の日付も読んでみる。だが後は取り止めもない事ばかりで、特に重要と思える事は書いてなかった。


 他に目についたのはせいぜい聖輝教の聖書ぐらいだ。これ自体は敬虔な信者であれば持っているので不思議ではない。

 表紙に大きく書かれた二本の剣がクロスした十字架、剣十字が薄暗い部屋と相まってそこはかとなく不気味に見える。


 少し歩いたところで何か硬いものを蹴った感触があった。足元を見てみると、何か見慣れないものが落ちている。


「なにこれ」


 見たところ金属の棒の先にボタンのようなものが付いている、用途不明の謎のものだ。何だかわからないが、とりあえずポケットに押し込んでおいた。そのうち誰か知っている人がいれば御の字だ。


 *


 途中で屋台に寄り、新メニューを買ってから新聞社に戻る。鶏肉の揚げ物の弁当だそうだが、味付けに凝ったものだと屋台のおっちゃんが言っていた。


「美味しい~これはたまに買うのもアリね」


「いただきっ」


 絶妙な味付けの料理に舌鼓を打っていると、隣から一つ横取りされた。それもかなり手慣れた手つきだ。


「あっちょっと、ナイリィさん! 六百エルンもしたのに!」


「うーん、確かに美味しいわね。今度私も買ってみようかしら」


「もう、その時は一個くださいね?」


「はいはい。それでどうなの、収穫はあった?」


 言われてメモを取り出す。配達人の動向と家で見つけた手帳の話をすると、ナイリィは「ちょっと待って」と言って遮った。


「グロヌイ? グロヌイって言ったわね」


「はい。それが何か――」


「グロヌイは……いえ、私が言うより第一記者部で聞いてみなさい」


 そう聞くや昼食も忘れて、シルフィはメモ帳片手に第一記者部へとすっ飛んでいった。後に残された食べかけの弁当を見て、ナイリィは小さくため息を吐いた。


「まったくあの子は、気になることがあったらどこまでも真っ直ぐね。足を掬われなきゃいいんだけど」


 そう言って弁当から鶏肉の揚げ物をもう一つ摘まみ、口に放り込んだ。


「あーあ編集長、後でシルフィに怒られますよ」


「かもね。でも多分あの子、大きいネタを掴んだわよ。後は押し潰されなきゃいいけども」


 第一記者部へと飛び込んだシルフィは、他にいる記者の驚きの目線も無視して真っ直ぐに編集長の元へと向かった。


「第二記者部のシルフィじゃないか。いったいどうした……」


「グロヌイ。この名前を知りませんか?」


 名前を出した瞬間、第一記者部の空気が変わった気がした。


「グロヌイか――君も聞いた事はあると思うが、この周りで商人や小さな村を襲っている賊がいるのは知っているな?」


 シルフィは無言で頷く。こうなれば先の話は見えそうなものだ。


「その賊のリーダーとされる男だ。名前だけは知れ渡っているのに、それでいてなかなか尻尾を掴ませない。憲兵の方でも手を焼いているようだ」


 第一記者部の編集長は一旦話を区切ると、自分のデスクの引き出しからある資料を取り出した。


「これが、その賊が関与したとされる事件だ。これだけあっても捕まらない、政治や社会的な記事を載せる私たちも忸怩たるものだよ。そしてこれだ。君も覚えがあるだろう」


 指さされたページの記事を読む。

 見出しには聖暦五百二十七年七月、トレッタケール村襲撃事件の文字が躍っていた。忘れもしない、マックレイが死んでしまったあの時のものだ。


「あの……あの襲撃にも関わっていたのですか」


 震える声で尋ねると、編集長は神妙な顔をして頷いた。この一つの小さな村への襲撃がシルフィが記者になるのを志したきっかけだと言うのを承知で、第一記者部の編集長もこれを見せたのだ。


「その可能性が高い、と我々も憲兵でも判断している。この襲撃は特殊なパターンだったが、それでも捕らえた連中の口を割ったらこいつの名前が出てきたってわけさ」


 言われてシルフィは、あの襲撃の事を思い出してみる。そう、確か……


「その襲撃では主犯格は捕まったはずです。その中にグロヌイはいなかったのですか」


「奴は巧妙な男だ。村にしろ商人にしろ、襲撃する時には必ず自分とは別に実行者を用意する。それは自分の配下の時もあれば、全く関係ない小さな賊な事もあるようだ。

 とにかく本人はあくまで指示に徹する事で、万が一があっても自分に捜査の手が及ぶ危険性を低くできるというわけだ」


 成る程確かに、そうすればもし実行犯が捕まりグロヌイの名前が出たとしても、直接本人の逮捕にはなかなか繋がらないだろう。


 だがそうまで用心する人が、なぜその郵便屋には直接会ったのか。彼は一体何者なのか。

 思い返してみれば、あの襲撃の時に捕まった賊は「身なりのいい男に頼まれた」と言っていた。一度あの事件の頃から洗う必要があるかもしれない。


「すみません。この資料を、しばらく貸していただいてもいいでしょうか」


「そう言うと思ったよ。イルザさん(社長)からも言われてるし、君ならもしかしたら解決できるかもしれない。だが――」


 編集長は一度言葉を切って、しっかりと眼を見る。


「無理はするなよ。記者は引き際も大事だぞ」


 シルフィはしっかりと頷き、一礼して資料を受け取るや自分のデスクに戻っていった。

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