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空の支配者と七人の英雄たち  作者: あまつか飛燕
《学校編》ドラゴンとの出会い
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ある時ある場所にて〈2〉

 夕暮れ、川の近くの土が盛ってある場所に、金髪の男と茶髪の男の二人の青年が腰かけて何やら話していた。


「……それでよ、まさかウチにこんな場所があったなんてと思ってその地下室に入ってみたんだ」


「お前の家に地下室ねぇ。どう見ても普通の家なのに」


「俺だって今日までそう思ってたよ! それでな、その地下室ってのがどうも書斎らしくてな? どんな本かと手に取ってみたんだよ」


 そう言って金髪の男は、一冊の本を鞄から取り出した。見るからにボロボロなのだが、表題だけは辛うじて読む事ができる。


「"野生化した竜の生態"……?」


「そうそう。あの空の王者とか言われる竜のよ、ビックリするような秘密が書かれてたんだ」


 言われて中をペラペラとめくってみると、最初の方に確かに驚きの文が並んでいた。


 "空を舞い狂暴な肉食獣ですら物ともしない、空の王者とも呼ばれる竜(あるいはドラゴンとも呼ばれる)。だがしかし、その生態を調べれば調べる程、野生の進化から逸脱した物だと考えられるのだ。

 そもそも竜の起源とは、何から進化して斯様な姿となり得たのか。人間はかつて海から来たと言う論説がある。尾てい骨は尻尾の名残だという者もいる。先の大戦と長い研究の隔絶によりそれらは何の証拠も無い推論に過ぎなくなってしまったが、竜だけは元の生物を想起する事が出来ない……。"


 そのような一文から始まり、後は延々と竜の研究資料と思われるものが続く。竜の棲み処を観察した記録、死骸を偶然発見し解体した記録、そしてその解剖結果。


 普通の野生動物では考えられない動き、それは火を噴く事である。天敵に見つからないように擬態したり、あるいは集団で追い払ったりすることは自然界ではままある話である。


 しかし火を噴くと言うのは後にも先にも聞いた事が無い。そもそも竜に天敵は存在しないとされるが、仮にいたとしても炎を噴いてまで撃退しようとするだろうか。棲み処の森の近辺で聞き込みをしても、不審火が起こったりしたという話は全く効かない。では何故火が噴けるのだろうか。


 それは喉元に存在する食道とも気道とも違う謎の臓器があるからだ。俗に"火炎器官"と名付けられたそれは、しかし火を生み出す理屈までは分からず仕舞いである。とにかく竜は自然界で進化していったものとしてはあまりに不自然で、逆説的に人が何かしらの介入をしたとしか思えないというような事が書いてあったのだ。


「な? すげぇだろ?」


「ホントだな……竜は人が作ったかもしれないなんてなぁ」


「こんな感じの本がまだまだ家にあってさ。今度はお前も来てみないか?」


「そうだな、面白そうだ。今日はもう遅いけど、すぐにでも行くよ」


 *


 その夜。本を持ってきた金髪の男の家の前に、話していたもう一人の茶髪の男が立っていた。手には一つの鞄と、液体の入った容器を持っている。


 家はせいぜいバラックを少し立派にしたような粗末なものが普通なのだがその男の家は前代の家の外観を留めており、二階が吹き飛ばされてはいるが一階はそこそこ原型を留めていた。門構えだけは前史のそれと変わらない。


 鍵の無い戸を開け易々と家に侵入すると、音も無く金髪の男とその一家が寝ている部屋へ忍び込む。


「来てやったぞ」


 茶髪の男はそう呟きながらおもむろに鞄の中から厳ついマスクと小さな黒光りする球を取り出すと、マスクを付け球を床に落とした。


 たちまちのうちに球から煙が出てきて、それは家中を包み込む。煙は催眠ガスだった。一息でも吸えば半日は間違いなく眠るような強力なものだ。

 茶髪の男はそれに満足すると、地下室への入口を探しはじめた。


 やがて入口を見つけると静かに降りて行く。家の者は間違いなく起きては来ないので音を出してもいいのだが、それでも音を殺すのは癖なのかこれからする事に対しての罪悪感なのか。


 地下室に降りると確かにそこは書斎だった。一面に本が並んでいるが、どれも娯楽用ではなく学術研究に用いるような難しそうな本ばかりだ。


 茶髪の男は無学だったが、それでも最低限の字は読める。書架に並ぶ本も難しいものは読めないが、それでも大半のものは読む事が出来た。


 やがて容器の中の液体を床にぶちまける。本来は独特の臭いがある液体なのだが、マスクをしているのでわからない。次に鞄の中から小箱と先端が赤い棒を取り出し火を付けた。

 無表情で火を床の液体の上に落とすと、一気に地下室は火に包まれる。


 茶髪の男はそれを一瞥すると急いで地下室を出て、家からも出る。やがて火は中の人間共々、この家と地下室を焼き尽くすだろう。


 これでいいと独り言ちると、つい数時間前まで話していた金髪の男を思いやる。数少ない友人だったが仕方ない。仕方ない事なのだ。


「お前は知りすぎたんだ」


 一言そう言うと、人差し指で心臓の上あたりから右下へ、親指でその対角線に右上から左下へ体をなぞる。そして最後に十字を、剣十字と呼ばれるものだ。そして魂の安寧を祈る。

 自ら焼き殺しておきながらその安らかなる事を祈るなど矛盾しているが、茶髪の男にとってそれは矛盾にはあたらない。


 祈りを終えると胸元から一つのネックレスを取り出す。吊り下がっているのは十字架にクロスする二本の剣、茶髪の男が信ずる神の象徴である。


 それを額の前に掲げると、ボソボソと祝詞を呟く。自らの行動がいかに理不尽であろうとも、いかに不条理であろうとも、本人にとってはこれで許されるのだ。"知りすぎた者"の御魂を輪廻へと返し、再び神の寵愛の元に生まれ直すことは宗教的には善とされる。それを手伝ったまでだ。


 祝詞を呟き終えると、燃え盛る家に背を向ける。揺れる火に照らされて、十字架の裏に刻印してある"Rvinog"の文字が光った。

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