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お詫びと謝罪

 魔法と科学の入り交じった国、中立国家ラクシス。東西南を魔法国家にかこまれ、北方の科学国家とも国交を持つ、不安定な国。

 小さな吸血鬼によってつくられた、不思議な小国家――。

 そんな国の魔法の学舎、エイルーク魔法学園の一角でのある日の出来事。

「さあ謝れ、親友!」

「……なぜに?」

 校舎の裏の日陰にて、リュータは疲れきって地面に腰を下ろしながら、ぷかぷかと浮かぶ妖精を見上げた。

「……というかさ。いま、お前がおこしたトラブルで人に謝ったばかりなんだけど」

 ちっちっちっ。

 妖精のエミルは片手を腰に当て、もう一方の手の人差し指をこちらに向けて振りながら言ってきた。

「それで気づいたわけだぜ。あたしが謝るより、親友が謝ったほうが許してくれやすいっ。……ので。前も言ったように、いい加減誰かに追いかけ回されるのも面倒だし、あたしが迷惑をかけた奴らに親友が謝りにいくということで――」

「ふざけんなっ! なんで僕がお前の代わりに謝んなきゃならないんだ」

「そりゃ親友だし。っていうか親友、あたしにだけ態度が横柄じゃね?」

 妖精が小首を傾げる。

 見かけだけなら可愛らしいその仕草を見つめながら、リュータは言った。やや、ため息混じりに、

「そんなの、お前がろくでもないことばかりしてるせいに他ならないだろ」

「同じせりふの中で二回も『ない』が入ると語呂悪いな」

「お前なあっ!?」

 叫ぶ。

 が、エミルはいつものように、全く気にした風もない。

「はいはい。んじゃ、親友。アイリも呼びに行こうぜ」

 宙をくるくると回転し、自らの光の残滓を空中に漂わせながら、エミルが第三実験室の方向を指さす。

 そちらを向きながら、リュータは気乗りしない声で答えた。

「そりゃアイリもいてくれたほうがうれし……雰囲気がいいだろうけど、実験の授業ってそんなに早く終わらないんじゃないか? 謝りにいくだけのことにつき合わせるのも迷惑だろうし」

 リュータの指摘に、妖精は顔をしかめた。

「むぅん……」

「なにか、絶対にアイリがいなきゃいけない訳でも?」

「……万が一魔法で攻撃されても、アイリなら冷静に対処してくれそうじゃね?」

「お前な……」

 本当に魔法で攻撃される可能性も、否定しきれないのは事実だったが。それはエミルがどれだけ他人から恨みを買っているかによるだろう。

 がっくりと肩を落とすリュータに、エミルが続けて言った。

「それに、ほら。二人で謝るより三人のほうが許してくれそうな気がするし」

「…………」

「とりあえず実験室に行ってみて、授業が続いてたら――」

 ドッカーン!

 ど派手な爆発音が学園に響きわたり、第三実験室からもくもくと煙が立ち上る。

 二人は顔を見合わせた。次の瞬間、エミルが一気に飛び出す。

「まて、エミルっ」

「待てるかっ、アイリが大変かもだぜ!」

 叫び返しながら超速で消えていったエミルを追いかけようと、リュータも腰を上げた。

 と、少しもたたないうちに彼女は帰ってきた。

 すごい形相の教師たちを後ろに引き連れながら。

「今の爆発、またお前かぁあああ!?」

「あたしじゃないし!? ふざけんなぁああっ!」

 必死に教師から逃げる妖精を見ながら、これは自業自得なんだろうなぁ、などとリュータは思った。

 そして、なんであんな妖精と友達になってしまったのかと自問しながら、リュータは誤解を解くために教師たちを追いかけ始めた。


 教師たちの誤解も解けてだいぶ時間がたち、

「さあラスト一人! 案外みんな許してくれた!」

「いや……、許してくれたっていうか。謝罪なんかいいから近寄るなって意見が大半だったけど」

 リュータは皮肉げに言ってみたが、妖精に気にする様子はなかった。

 彼らが最後にやってきたのは煉瓦づくりの、屋敷のような趣のある建物である。校舎のように模したものではなく、正真正銘の煉瓦造り。とはいえここも学園内の端にある建物の一つで、各地から熱心に集められた様々な書物が納められているらしい。これから先も本を集める為なのか、この大きな建物にはだいぶ空き部屋があり、本の陳列以外の為に貸し出されている部屋も少なくはない。

 そしてリュータたちが用があるのは、そんな貸し出されている部屋の一つだった。

 受付の人に場所を聞いてから、その部屋へ向かう。

「あたし、この建物初めて入ったぜ。なんかたいくつそうでさっ。言ったっけ?」

「それもどうかと思うけど……まあ、僕も宿題のレポートで何回か入っただけか」

「まっじめだなー、親友は! そんなことしたって別に魔法が使えるようになる訳じゃないってのに」

「うぅ……」

 知識的な面で鍛えられるので無意味とは言えないけれども……基礎のできていない人間が、それで魔法を使えるようになるわけではない。

 身も蓋もない妖精のもの言いに、リュータは情けない声を漏らした。と、エミルが小さな手で背中を叩いてくる。

「泣かない、泣かない。そのうちあたしが魔法の使いかたぐらい教えてやるって」

「べ、別に泣いてないだろっ」

 そう反論するが情けなさは拭えない。ごまかすように、リュータは足を止めた。受付の人に聞いた話だと、目的の部屋はこの辺りのはずだ――。

 と、

「きゃっ――」

「うわっ!?」

「ちょ、親友!?」

 もしかしたら、足を止めたのがいけなかったのかもしれない――誰かにぶつかられて、突然の衝撃にこらえることもできず地面に倒れる。その痛みに目を細めながら、リュータは体の上に重さを感じて、自分にのしかかっている相手を見つめた。

(う、うわっ――!?)

 少女だった。そして、なぜだか――メイド服を着ている。年齢はどう見積もっても同い年より上には思えない。つまりは教師でないので、指定の制服をボイコットしていることになるのだが、まあこの学校でそういう人物は珍しくもなかった。

(……メイド服の女の子なんて、初めてみたけどね)

 彼女の手にはホウキとチリトリがそれぞれきつく握られていたが、チリトリに入っていた茶色い土の欠片は、ぶつかった拍子に床へと散乱している。

 少女は状況を理解できていないのか――失礼だがとろそうに見えた――、ぽけーっとリュータの上にのしかかったまま辺りを見回している。

 そして不意に、リュータは自分も状況を理解していなかったことに、ようやく気づいた。

(お、女の子が、上にのっかってる!?)

 間近に顔があることに、赤面する。とっさに彼女を受け止めようとしていたリュータの手が、少女のさらさらな髪と、腰辺りに触れていた。少女が顔を動かすたびにその身体も揺れ、メイド服越しに彼女の柔らかい肌の感触も指に伝わってくる。そのことにリュータは興奮と、それと同等以上の罪悪感を感じた。

(で、でも――)

 恥ずかしさに硬直し、どう声をかけたらいいのかわからない。誰かに助けてほしかったが、そばを通る何人かの学生はかかわり合いになりたくないのか、なにも見ないように通り去っていく。

 リュータが心の中で謝罪と神様への祈りを始めたとき、ようやく、彼と一緒にいた妖精が少女に声をかけた。

「んーと、なにやってんの?」

「はいー? あ、妖精さんだー」

「あのさ、さっさと退かないと、親友が顔真っ赤にしたまま死んじゃいそうだけど」

「あ、ごめんなさい。重かったですかー?」

「……うーん、顔真っ赤なのはそういう理由ではないと思うぜ?」

 妖精の言う通りではあったが、リュータは無視した。立ち上がると、彼は退いてくれた少女に声をかける。

「あの……心配しなくても大丈夫だから」

「そうですか……よかったです。私、おっちょこちょいで」

 どことなく困ったような笑みを浮かべ、彼女は言ってくる。

 ぺこんと一礼して、彼女はこの場を立ち去ろうとし――

 リュータは慌てて引き留める。床を指さし、

「ちょ、ちょっと待って。ゴミがこぼれてるんだけど」

「はい? あ、ほんとうです」

 わざとらしいほどびっくりした表情の彼女。身を屈め、黙々とホウキで土の欠片をチリトリに入れる彼女に、リュータはなんとなく気まずさを感じて尋ねてみた。

「あ、あのさ。ところで、歴史研究部ってしらない? この辺りに、間借りしてる部室があるって話を聞いたんだけど――」

「はいはーいっ。歴史研究部副部長、ユウミ・フローリンです」

 突然ぴょこんと手を挙げ、メイド服の少女が名乗ってくる。

 あまりのことにリュータは驚きを隠せなかった。

「へ? 副部長? あ、いや……ちょうどよかった。僕たち、部長さんに用があるんだけど、部室はどう行ったら」

「ええとです。そこの曲がり角を右へ行って、えと……二番目か三番目の部屋が歴史研究部です」

 自信なさそうに目を泳がせながら、彼女は言ってくる。

「用事があってついていけませんが、ネームプレートがあるので分かると思います。大丈夫ですっ」

「うん。ありがとう」

「いえいえっ」

 少女に礼を言って歴史研究部に向かおうとすると、プカプカ浮かぶ妖精が気楽に片手を上げた。

「ねぇねぇ、あたしもしつもーん。どうしてメイド服なんか着てんだ?」

「趣味ですー。いえ、過去にあったサンタグマンタという国で着られていたものを再現したのですが」

「ふーん。そういや歴史研の副部長だっけ」

「はいー。ではでは、私はちょっとゴミ捨て場へ行って参ります。それではっ」

 片手で敬礼しようとしたらしい。持っていたホウキが彼女の手から離れ、それを慌てて追いかけていったメイド服の少女はど派手に転んで、再びチリトリの中のゴミを散らかしていた。

 その姿を見て、リュータと妖精は嘆息する。

「まぁ、なんだ。いこうか……」

「あー、そだね……親友」


「あ……」

 歴史研究部の部室。

 まばゆい閃光が視界に広がり、そして消えていった。一瞬のうちに彼が判断を下して横飛びできたのは、単に幸運だったと言うほかない。瞬間、彼の手につぶされた妖精が突然のことに悲鳴をあげた。

 そして、衝撃波が、床の赤い絨毯を破きながらリュータがいた場所を通り過ぎていく。

 魔法を唱えているのは、年若い少女だった。どこか大人びた顔立ちは、部長という役職をしっかりつとめている影響だろうか。彼女の長い髪が、魔法の余波に揺れていた。

 歴史研究部部長は、怒りの叫びを部室に響きわたらせる。

「よくも――よくもあたしの前に姿を見せられたな、くそ妖精っ!!」

 部長をつとめる少女が再び攻撃魔法の構成を組んでいるのを見て取って、彼はエミルを片手につかんだまま、棚の陰に身を隠した。

 さすがに歴史資料を壊す勇気はなかったのか、部長の魔法が棚をそれて、部屋の扉にぶつかって消えた。

 誰にも止めようもない部長の怒りに、

「え? あたし、そんなに怒られるようなことしたっけ?」

 戸惑いつつも、けろりとした表情の妖精。

 リュータは叫んだ。

「いったいなにを謝りにきたんだよっ、お前は!?」

「え、いやぁ。たしか……あいつの楽しみにしてたっぽいジュースを、勝手に飲んじゃっただけだぜ?」

「怒るだろ、そりゃ」

「だからってこんな攻撃魔法使うほど――」

 エミルやリュータを逃がさない為なのか、攻撃魔法は発動の間隔を置かず牽制するように激しく続いていた。

 と、一応話は聞こえていたのか、部長がこちらに向かって叫んでくる。

「ふざけんなっ。せっかく苦労して作り上げたエウデン壺のレプリカ! 盗んでいったのはお前だろう!」

「ちょっ!? な、なんだそりゃ!?」

 エミルが驚きの声を上げる。

 そんな妖精の様子に、リュータは目を瞬かせた。たしかにエミルはいろんな面倒を人にかけるが、こんなつまらない嘘をつくような性格もしていない……はずだ。

 彼は、おそるおそる部長へと訊ねた。

「ひ、人違いじゃないんですかっ?」

「壺がなくなったとたんにその妖精がやってきたんだぞ。ほかに考えられるもんか!」

 部長が即座に叫び返してくる。

 さすがに疲れてきたのか、魔法の威力も落ちてきていた。が、当たって無事ですむとも思えない。

 部長の言葉を聞いて、リュータはすぐさま反論した。

「ちょっと待ってくださいっ。無理ですよ、だって――今までずっと建物の外で、ほかの人たちに謝っていたんですから!」

「ええ? い、いや、そこのすばしっこい妖精なら一瞬で持っていけるはずだ!」

「壺なんか持ってって、どうするつもりなんだよあたしは!?」

「む……、くぅ」

 うめきと共に、次第に攻撃魔法がやんだ。リュータはおっかなびっくり棚の陰から顔を出すが、危険な魔法は飛んでこない。

 部長が、宙に浮かぶ妖精を指さし、気まずそうな声で聞いてくる。

「あのさ、前に電撃魔法使ってたよな。専門はそっちの方なのか……?」

「主に風と電気。自然系はとりあえず」

「ランクは?」

「D。いろんなことしてたからセンセに目ぇつけられてさ。やっと進級試験の資格を手に入れたから、さっさとCになるつもりだぜ。なんで?」

「いや……この部屋の鍵、閉めてたなと思って。話を聞いても、性質的にも、鍵開けとかの方面は得意そうじゃないし。BとかAなら他の分野にも手を出すんだろうけど……」

 自然な様子で部長が目をそらす。勘違いであれだけ攻撃魔法を放ったと知れば、気まずくもなるのだろう。

 目ざといことに、部長の仕草を見逃さず、妖精がふらふらと近寄っていく。

「まー、気にすんなって。誰にだって間違いはあるさ。うんうん」

「う、うっさいっ。ここぞとばかりに変な慰めをしてくんなっ。だいたいお前がジュース飲んだことに変わりはないんだ!」

 顔を真っ赤にして怒鳴る部長。

 と、エミルがこちらを向き、

「ほら、親友!」

「へ…………、ああ。その節はすいませんでした」

「なんでその子が謝ってんだよ」

 半眼で部長が言ってくる。言われた妖精は右手の指で頬を触りながら、悪気ない口調で、

「いや、あたしが謝っても誠意が足りないとか言われそうで」

「他の人に謝らせてる時点で誠意が足りないと思うけど」

 部長が指摘してくる。彼女の言うことは全くその通りだったが。

 ともかく、これですべての謝罪は終わったことになる。

 だが、リュータはこのまま帰る気にもなれず――というよりはどこか当事者にされた気分で、部長に訊ねた。

「あの……壷が盗まれたって、どういう状況だったんです?」

「ん……、ああ。手伝ってくれるのか」

 妖精を軽くにらみつけていた部長が、まだ顔を赤くしたままリュータに向き直った。

 彼女は簡単に。

「どうってほどでもないよ。昨日、壷ができあがって、鍵をかけて帰ったんだ。で、今日部室に来たらなくなってた」

「それはたしかに……鍵を開ける魔法でもないと無理、ですかね」

「いいや、そうとは限らないかもだぜっ。親友っ!」

 エミルがぴっ、と指で銃の形を作った。

 部長がそちらを疑うような目で見る。

「……つまり?」

「たとえば、あたしみたいな妖精とかだったら、身体の密度を変えられるから、扉の隙間から入れるはずだぜ」

「なるほどお前が犯人……な、わけないよな。残念だけど、この部屋は魔法防御が働いてて、扉の隙間から入れたりはしないよ。あたしの魔法食らっても扉は傷一つないだろ?」

「むぅん……」

 部長の言葉に、難しい表情をとりあえず作っているというポーズで悩みこむエミル。

 だが彼女はすぐさま顔を上げた。

「そうだ! じゃあ透明になれる魔法を使える相手が壷を盗んでったってのは? それだったら部長に気づかれずに部屋に進入できるぜ?」

 自信満々にエミルが言う。

 だが、その考えを、部長はあっさり否定した。

「今日、あたしが入ってきたのと同時に部屋に進入したなら、壷があたしの目に入んなかったのはおかしい。真っ先に目につく場所に置いてあったからな。壷を透明化する暇もないはずだ。そして……」

 部長が、ちゃりん、と懐から鍵を取り出す。

「この鍵がないと扉を閉められない上に、夜間は部屋にだれかいたら警報が鳴るようにできてるらしい。昨日の間に犯行を行うことも、壷と自分を魔法で透明化して部屋に潜んでいることも、不可能って訳だ。さあ、どうするね。くそ妖精」

「うーん……、盗みそうな心当たり、いないの?」

「いねえよ。趣味で作ったレプリカ盗んで、だれが得するって?」

「むぅ」

 考えが煮詰まってきたのか、エミルが宙に浮いたまま、三百六十度回転を始める。

 そんな中でリュータは逆に、考えがまとまってきていた。

「先輩、壷がなくなったのに気づいてから、すぐに僕たちが来たって言ってましたよね。てことは、先輩も来たばっかりだったんですか?」

「ん……? ああ。あたし古物関係の方向に進もうと思ってるから、実験の授業も案外多くてさ」

 その言葉に、リュータは納得した。

「ということは、これまでも実験で遅くなることはあったわけですよね。だとすると、その間部活は――」



 犯人が判明して、しばし時間がたった。そして、部屋に少女が入ってくる。

「よう、遅かったみたいだな」

「いえいえっ。実験終わったんですね、部長」

 その少女は朗らか一歩手前の、笑おうとしても笑えないという、実に素直な表情を浮かべていた。

 ドジっ娘メイドな副部長、ユウミ・フローリンは、耐えきれなくなったのかリュータの方に顔を向けてきた。

「えーと、ちゃんと部屋がわかったみたいでよかったですっ。私、安心しまし――」

「そいつに聞いたんだが、チリトリとホウキ持ってたんだってな。……普段掃除しないお前がどうしてそんなの持ってたんだ? ええ?」

「い、いえっ。そろそろ部屋も散らかってきましたしっ。あの、その……」

「昨日エウデン壷作って部屋を掃除したあたしに、散らかってきたとか抜かすかこのドジメイド!! そろそろじゃなくて、お前が今日、部屋を散らかしたんだろうがっ。あー、あー、盗まれたとかいう先入観があったからお前を犯人候補から抜かしちまったんだよな! このドジばか、壷壊しやがって! そりゃお前はスペアの鍵持ってんだから、トリックもなにも存在しねぇよ!!」

「ひゃっ」

 部長の剣幕におびえたのか、ユウミが身をすくめる。正直、見ているだけのリュータも怖くなるくらいだった。

 だが部長はそんなことを気にとめた様子もなく、ユウミに問う。

「で、壊した壷の破片、どこに持ってった……?」

「……その、ゴミ捨て場です」

「破片さえあれば魔法で修復できるのに、か?」

「え? あ!」

 ユウミがわざとらしいほど大げさに、忘れてた、というリアクションをとる。

 部長が目尻をきつくつり上げ、すごい気迫でユウミに近寄っていった。

「こんにゃろ……お仕置きしてやる!」

「ひゃあんっ!? そ、そんなところ叩かないでくださいっ。……ご、ごめんなさぁいっ!」

 リュータやエミルの見守る中。

 ユウミの悲痛な謝罪の声が、歴史研究部の部室に響きわたったのだった。


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