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魔王  作者: mai
2/2

勇者

魔王との対面は、呆気なく幕を降ろした。

「よくきたな、勇者よ。これで・・ようやく解放される・・。」

レオンの姿を視界にとらえた、玉座にいた魔王とおぼしき人物は、呟くようにそう言うと、砂のように崩れ去ったのだ。

唖然とするレオンは、次の瞬間、ものすごい力で引っ張られ、玉座に座らされていた。

座った瞬間から、彼は長い夢を見た。


仲間たちの形見をもって、王宮にいくと、大歓迎され、魔王討伐の報告を王の前でした。

散っていった仲間の勇姿を事細かに伝え、形見を差し出した。

涙ぐむ者もいた。ちゃんと伝えられて一安心したその時、

「それで、勇者どのは、魔王とどのような戦いを?」

と尋ねられた。

レオンは言葉に詰まった。

(俺は・・。)

最後に魔王を倒す力を温存するため、レオンは最終局面では守られる側だった。

戦わなかったわけではない。

致命傷も与えたし、たくさん魔物を倒した。

だが、あったはずの魔王との死闘は、なかった。


言葉が出ないレオンに、微妙な空気が流れ、

「勇者どのもお疲れじゃろう?今夜は休みなさい。」

王の言葉でやっと退席する。

退席の際に感じた、周囲のひそひそ話や視線。

戸惑い、憶測、そして、疑惑。

それらは、直接責め立てはしないがレオンを消耗させ、その夜、彼を一睡もさせなかった。


パレードもパーティーもなく、レオンは村への帰途についた。

ミナに会える。

それだけが生きる力だった。

ミナと抱き合うことができたら、勇者としての自分などどうでもよくなる。

一人の男として、ミナと生きられるなら、村で静かに日々の営みを繰り返していきたい。

その当たり前の幸せのために、魔王討伐に向かったのだから。


村につくと、年老いた父と母が迎えてくれた。

温かい食事に、涙が出そうになる。

はやる気持ちを抑えて、

「ミナは?」

と聞くと、両親は一瞬微妙な表情を浮かべてから、

「村長の屋敷に・・。」

と言った。

そのあと何か言おうとしたが、レオンは堪えきれず飛び出す。

ミナに会いたい。

ミナを抱き締めたい。

ミナの声を聞き、ミナの温もりに触れたい。

村長の屋敷の扉を叩くと、中から声がして、扉が開く。

中から出てきたのは、ミナだった。

「レオン!?」

「ミナ!!」


!?



「よお、よく帰ってこれたな。」

抱き付かんばかりになったレオンは、そう言ってミナの肩を抱く男によって阻まれた。

「アルフ・・。」

ミナはレオンを見つめていたが、レオンが視線を戻すと目をそらす。

「ミナは、先月俺の妻になった。そういうことだから、これからは馴れ馴れしくしないでくれよ。」

その言葉と共に、屋敷の扉は閉じた。

ミナに、ほんの少し触れることもかなわずに。


家にすぐに帰れず、森にふらふらとはいったレオンは、小さなスライムをみつける。

以前なら、すぐにやっつけていた小さな魔物。

相手も攻撃の意思を隠さなかったが、今は戦いを挑むというよりは寄り添うように近づく。

(魔王が消えても、魔物は消えないのか。)


『マ・・オウサマ』

不意に声がして、見回すが、誰もいない。

目の前のスライムが発していると気づいた時、レオンは、魔王を受け継いだことを、急激なスピードで理解する。

これは、今までの幾多の勇者と呼ばれた者の末路。

そして、自分がたどる道。


夢は、奇妙な現実味でレオンをさいなむ。

時々うっすらと覚醒すると、そこは冷えきった魔王の玉座。

夢の中では、人間界での絶望。

自分が相対した魔王が、かつての勇者であったことはもはや疑いようもない。


そして、自分もここでむしばまれ、聖魔法は闇に染まり、次の勇者が来るまでに、魔王になっていくのだ。

(それもいいのかもしれない。)

戻って、現実で絶望を味わうくらいなら。

悪夢だけで、ここにとどまる方がましなのかもしれない。

(ミナ・・。)

ミナは本当にアルフと結ばれるのか。

待っているのではないか。

その可能性は頭をよぎったが、それでも、もしも、を考えると足がすくんで動けなくなった。



「・・ミナ?」

玉座で唯一考えた存在だからか。

人影が見えたとき、レオンの口から、その名がふともれた。

そんなはずはないのに。

ミナがここにくるはずはない。

毎晩夢を見ながら、どのくらい時が過ぎたか分からなくなっていた。

薄暗いせいでよく見えないが、髪が短い少年に見えた。

(もう、次の勇者が・・?)

「レオン?」


だが、その人影から聞こえたのは、愛する人の声だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


かつて、世界は魔物の恐怖に怯え、魔王の支配を恐れていた。


今も魔王領は存在する。

近づく者を聖なる力で阻む結界の中に。

そこは、かつて勇者が自らを犠牲に魔王を封じた場所。だから、魔物たちも多くがそこに封じられ、もう人々は恐怖に怯えなくてよい。


一説では、魔王封印には聖女も関わったとされる。


その物語は語り継がれ、皆が知る『神話』だ。


だが、結界の中には、楽園がある。

そこでは、行き場のない魔物達が、平和に暮らしている。

そして、仲睦まじいレオンとミナがその中心にはいる。


その物語もまた、魔物達の中で共有される『神話』だ。



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