サディスティックな公爵様 ~巫女だった私は婚約破棄され、家を追放され、そして、公爵様に拾われる。実は世界最高の巫女だったと気づいても今さらもう遅いです~
私、リアは伯爵家の次女として生まれた。
そんな私には大きな悩みがあった。
それは姉によくいじめられること。
姉の名前はアンナだ。
……幼い頃から、私はいつも姉と比べられていたものだ。
私の姉は妹目線からでもわかるほどに美しかった。
父の金色の髪を引き継ぎ、まるで人形のような顔立ちをしている。笑顔は愛嬌があるし、怒った顔さえ絵になる。そんな人だった。
私の場合容姿は地味で、そして家族の誰にもいない黒髪だった。魔力の関係で、たまに髪色が変化してしまうのは聞いたことがあったが、まさかそれが自分に起こるとは思っていなかったし、家族たちもそう思っていた。
家族の誰もいない髪色は、分かりやすい争いを生む。父は母の浮気を疑ったこともあったし、使用人たちにもよからぬ噂をたてられてしまった。
魔力が影響するとはいえ、やはり色々と疑いたくなるのが人間だ。
それが原因で、私は家族に、そして屋敷の人間たちから嫌われていた。
そんな私に対して、優しく接してくれる人もいた。
今日はその優しくしてくれる人間であるレイゾンが屋敷を訪れてくれる日だった。
私は挨拶をするため、婚約者であるレイゾンの部屋へと向かう。返事があったので、扉を開ける。
私に気づいたレイゾンは驚いたように目を見開き、それを誤魔化すように笑みを浮かべた。
「……久しぶり、リア」
「はい、お久しぶりですレイゾン様」
「僕は子爵家の人間だ。そう畏まらなくもていいよ」
「……いえ、その。こうしていないと家族になんといわれるか」
「……ああ、そうだね」
いつものやり取りをして、苦笑する。
……レイゾンの調子は少し変だったけど、きっと気のせいだろう。
私はいつものようにレイゾンと話が出来て、嬉しかった。
私にとって、唯一心を許せる相手で、私にとっての大切な婚約者だからだ。
「レイゾン。今日は『祈り』を受けに来たのですか?」
この国の女性は皆、『巫女』という力を持っている。巫女たちは祈りを捧げることで、対象の相手を強化することが出来る。
まあ、強化出来ているのかは分からないけど。ただ、相手の無事を祈るための儀式のようなものだ。
レイゾンがこの家を訪れるのは決まってその祈りを受けに来るときなのだが……彼は渋い顔で首を横に振った。
「まだ、聞いていないのかい?」
「……えと、はい」
「そうか。……その――」
レイゾンは何かを口にしようとした時だった。
扉が開いた。そちらに視線を向けると、姉のアンナと父がいた。
父はちらと私を見て、それからレイゾンへと視線を向けた。
「ちょうどよかったリア。おまえにも今日の話に参加してもらう」
「……今日の話ですか?」
「ああ。おまえの今後と、レイゾンとの縁談についてだ」
……私の今後? それに、レイゾンとの縁談……?
私は首を傾げながら父についていった。
部屋に移動してからずっと、アンナはニヤニヤと笑みを浮かべこちらを見てきていた。
……アンナはあまり性格が良くないほうだ。というか、私に対してだけやたらと当たりが強い。
私が呼ばれた部屋には、両家の家族がそろっていた。
私の家の両親と、そして姉。そして、婚約相手の家の長男とその家族だ。
彼女は私から何かを奪うのが大好きだった。
おもちゃや食事、そして……人。
そんな生活を送っていたからたからだろうか――。
「レイゾンとリアの婚約を破棄する。そして、レイゾンにはアンナと結婚してもらう」
そう言われたときにも、不思議と驚きはなかった。
正確にいえば、驚いたけど、同時に受け入れていたとでも言おうか。
心のどこかではその日が来るのではないだろうかとも思っていたようで、冷静に状況を分析している自分がいた。
姉の笑みが一層強まったのを見て、ああ、今回の婚約破棄に関しては姉が絡んでいる部分もあるんだろう、と思った。
父が、詳しい説明をしていく。
「先日、レイゾンは魔物狩りに参加した時に、大活躍をしてな。……彼にはいくつもの縁談が届いているそうだ。婚約者がいながらもな」
父がちらとこちらを見てきた。……まるで、私はレイゾンの婚約者にはふさわしくないといったばかりの目をしている。
「だが、レイゾンとリアは確かに婚約者だ。……しかし、レイゾンがそれほどの力を持つというのなら、嫁をやるよりも婿として我が家を継いでもらう方が良いと考えたんだ」
……ああ、だからなんだ。
「ならば、彼にはリアではなく長女であるアンナの方がふさわしいという話があがってな。その方が良いと思ったわけだ」
まったくその通りだ。
私よりも容姿、能力と優れているとされるアンナの方が、それだけの戦果を挙げたレイゾンの婚約者としてふさわしいだろう。
私はレイゾンに否定してほしかった。私と結婚したい、と言ってくれれば……もしかしたら変わるかもしれない。
しかし、レイゾンは無表情のままこの状況を黙って見続けていた。
……仕方ない。レイゾンが悪いわけではない。私の父は伯爵だ。そしてレイゾンの家は子爵。
家の発展を考えれば、この提案を受ける方がいいに決まっている。
……物語のように、真実の愛を訴えるなんていうのは、この貴族社会において危険がありすぎる。
レイゾンとの幸せな生活を想像していた私は、突きつけられた現実に涙がこぼれそうになる。
「そしてリア」
ここで泣けば、ただ姉の嗜虐心をあおるだけだ。
だから、必死にこらえた私に父がさらに口を開いた。
「おまえは今日を以て家から追放する」
「……」
「もうおまえも成人だ。一人で生きていけ」
……『黒髪』を持つ私を、家に置いておきたくないんだろう。
どこかの貴族との縁談に使うにしても印象が良くないからだ。
私は唇をぐっと噛んでから頭をすっと下げた。「嫌だ、お願いだから残してほしい」。
そう思っていたが、我慢するしかなかった。
話し合いは終わり、私は明日には家を出ることになった。
廊下でレイゾンとすれ違った私は軽い会釈とともにその横を過ぎようとした。
姉の婚約者に対してするにはあまりにも失礼な態度だと自覚していた。
だが、ここで彼と話していても、私はきっと自分の中に渦巻く黒い感情を抑えられる気がしなかったから。
「……ごめん。家のためにも、こうするしかなくて」
レイゾンは小さくそういって頭を下げてきた。
私はそんな彼を見て、首を横に振った。そして、出来る限りの笑顔を浮かべる。
「……姉を、幸せにしてあげてください」
「……」
レイゾンは顔をあげ、唇をぐっと噛んだ。
それから私は一礼をして、自室へと入った。
旅立つにあたり、家は金を用意してくれるそうだ。そして、部屋にあるものなら好きなだけ持ち出しても良いそうだ。
何も与えられなかった私への、せめてもの情けか。
……いや、あるいは私にあとで何か言われるのが嫌なだけなのかもしれない。
部屋に入った私は、ベッドへと向かい、そこに倒れこんだ。
こらえていた涙があふれ、枕に顔を押し付けて嗚咽だけは押し殺した。
何か、何か違えばもしかしたらレイゾンの隣にいられたのかもしれない。
――もしも、私の髪の色が、この家にとってふさわしいものだったら?
――もしも、私が姉として生まれていたら?
もしも、もしも――。
そんなありえないもしもの世界のことについて考え続け、涙を流した。
「あら、汚い声が聞こえるわね」
そんな時だった。はっとなって顔をあげるとそちらにはアンナがいた。今日も彼女は美しい金髪を揺らし、美しい表情を意地悪くゆがめてこちらへとやってきた。
「……お姉さん。どう、されましたか?」
「いやね。婚約者、奪われた無能な妹の顔でも見ようかと思って」
「……」
姉はこちらを見て、嬉しそうに笑った。
「色々あんたから奪ってごめんね? でも、ほら奪われるほうが悪いのよ?」
「……はい、そうですね」
「あはは、でもこれで本当に終わりね。最後の希望を失ってどんな気分?」
……色々と渦巻くものあった。でも、今ここで姉の挑発に乗ったところで良いことはない。
そのまま何も持たされず家を追放される可能性さえ出てくる。
だから私は、すっと姉に頭を下げた。
「……あの、お姉さん。……レイゾンを……いえ、レイゾン様を、どうか幸せにしてあげてください」
「はぁ? あたしと結婚できる時点で幸せでしょうが?」
姉はそうはっきりと言ってから、部屋を出ていった。
そして私もまた。次の日に家を去った。
◆
私は何とか生活に困ることなく、毎日を暮らしていけていた。
元々、屋敷で引きこもり気味な生活を送らされていた――外に出して他の貴族に見られたくなかったため――ので私はわりとあらゆる知識を持っていた。
魔道具の作製はもちろん、ポーションなどの作製、魔物の育成など、色々な知識を持っていた。
そんな私は今地方の村にてひっそりと生活をしていた。
「おはよう、リアさん!」
「はい、おはようございます。あっ、商品の方ですか?」
「ああ、そうなんだ。悪いね!」
「いえいえ、ちょっと待ってくださいね。こちら、用意していたポーションになります」
私はそういって彼にポーションが入った箱を渡した。
「ああ、今日もありがとう。いやぁ、リアさんが来てから狩りでの怪我人が減って助かりましたよ!」
「そうですか? お力になれたようで良かったです。出撃前にまた祈りに向かいますね。10時でよろしかったですよね?」
「ああ、大丈夫だよ。そういえば、領主様が見に来るのは知っているか?」
「え? 領主様が?」
「ああ。なんでも最近魔物の納品数が増えたからか一度狩りの様子を見たいということで領主様が足を運ぶそうなんだ。領主様、冷徹で無慈悲で厳しい人だから、リアさん、目をつけられないように気をつけてね?」
「……そ、そうなんですね」
そんな恐ろしい人が来るんだ。
貴族とは出来れば関わりたくない私としては、今日の祈りに参加したくない気持ちもあったけど……村の人たちから反感を買うのも嫌だった。
この村は、私を優しく受け入れてくれた村だったからだ。
村人へのポーションの納品を終えた私は、それから巫女服へと着替える。
これは屋敷にいたときに持ち出したものだ。昔の女性たちはみな祈りを捧げるときにこの巫女服に身を包んでいたそうだ。
最近では、祈りは形骸化している部分がある。あくまで、安全を祈るだけのもので別にしてもしなくても効果が変わるとは思われていないからだ。
準備を終えた私は自警団の駐屯地へと向かう。
そして、自警団たちが持っている剣の手入れを行っていく。
武器は日々劣化してしまうため、きちんと魔法で強化する必要がある。いわゆるエンチャントと呼ばれる作業だ。
自警団は合計10人。その分のエンチャントを施していると、不意に落ち着いた声が耳を撫でた。
「エンチャントか」
私の方に地味な格好をした男性が声をかけてきた。
ただ、容姿はとても整っていた。厳しい目つきをした金髪の男性。笑顔をうかべたらさぞ綺麗だろうと、失礼なことを思ってしまった。
「はい。エンチャントを行っています。この村で行える人間は私だけでしたので……その狩りの手助けになれば、と思いまして」
「なるほどな」
誰だろうか? 見たこともない人だけど……商人とかだろうか?
周囲にいた自警団の人たちはあわあわとした様子でこちらを見ていたが、私はよく状況が分からなかった。
「この後の祈りもキミが行っているそうだな」
「は、はい……そうですが」
誰から聞いたんだろうか? 村の管理を任されている村長からだろうか? でも、ただの商人にそこまで話す?
「もうすぐ、狩りを行う。祈りを行ってもらってもいいか?」
いいのだろうか? 私が視線を自警団へと向けると、リーダーが慌てた様子でこちらに集まってきた。
いいみたいだ。
私は疑問を抱きながら、皆に祈りを捧げていく。
私が祈りを開始すると、魔法陣が出現する。その魔方陣から魔力がしばらく流れ、自警団の人、そして先ほどの男性を含めて祈りをつづけた。
魔力をしばらく込めたあと、私は大きく息を吐いた。
「それではみなさん、頑張ってください」
私がそういうと自警団の人々は男性を連れて狩りへと向かった。
男性が去ったところで、村長がこちらへとやってきた。自警団の駐屯地に家を持つ村長は、心配そうにこちらを見てきた。
「り、リアちゃん。領主様に絡まれていたけど……だ、大丈夫だったかい?」
「はい?」
あ、あの人……もしかして……領主様だったの?
◆
そして、狩りを終えた自警団の人々が村へと戻ってきた。
今日も無事に魔物狩りは終わったようだ。
「ご無事でよかったです」
近くの自警団の男性に声をかけると、彼は嬉しそうに鼻の下をかいていた。
「いやぁ、やっぱりリアちゃんに祈ってもらうと魔物が狩りやすくてな!」
「本当にな! なんかこう、魔物をうまく狩れる気がするんだよな!」
「なんでなんだろうな!」
そんな話をしていた時だ。
切れ長の瞳をした男性がこちらへとやってきた。
「気のせいではないだろうな」
「りょ、領主様! し、失礼しました。ち、知能の低い会話をしてしまって」
「そう慌てるな。別に怒ってなどいないのだからな」
じゃ、じゃあもう少し冗談交じりに言ってあげたらどうでしょうか……?
表情筋が壊死しているんじゃないかというほどにまったく動かずにそう言っているのだから、言われている側は怒られていると思ってもおかしくはない。
「リア、だったか?」
「は、はい。……も、申し訳ございません。この村にきてまだ日が浅く、先ほどは領主様だと気づかず失礼な態度で話をしてしまい――」
「いや、そんなことは気にしてはいない。キミの祈り、もう一度見させてもらってもいいか?」
「え、あっ、はい」
断ることなんてできない。私がすぐに祈りを行うと、領主様は納得したように頷いた。
「やはり、キミの祈りは普通の祈りとは違う」
「え? で、出来が悪いということですか?」
「良すぎるんだ。キミの祈りは、対魔物において異常なまでの能力を発揮するんだ。なんというんだろうな。魔物を攻撃するときの貫通力があがるというか……オレも少し戦ってみたが、まるで感覚が違ったんだ」
「……な、なるほど」
祈りってただ、安全を祈るためのものではなかっただろうか? 私の場合、少し違うといわれてもピンとは来ない。
「それほどの才能をこの村のみにとどめておくのはもったいない。どうだ? オレの元で仕事をしないか?」
「……え?」
「嫌ならば構わない。しかし、それなりの待遇を用意しよう」
「……よ、良かったですなリア!」
その時村長が嬉しそうな声をあげる。それだけではない。自警団の人たちも嬉しそうに言った。
「……な、なんでも貴族の家を追放されたって聞いていたからな!」
「ほ、本当にな! 領主様のもとに就職できるなんて……良かったなリアちゃん!」
「寂しいがリアちゃんの幸せのためだ、仕方ない! 頑張れよリアちゃん!」
……え、ええ。断れる空気じゃなくなっちゃった。
村に恩があったので、この村に残ろうかなと思っていたけど、皆がそこまで言ったことで私の就職はほぼ決まってしまった。
「……よ、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。オレはアレクセイという」
彼は手を差し出し、引きつったような不器用な笑みを浮かべた。
こうして私は、公爵家アレクセイ・ルードルガ家の巫女として、仕事を開始することになった。
◆
『レイゾン視点』
アンナの夫となった僕の初めての仕事は、魔物狩りだ。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「ええ、いってらっしゃい」
アンナから軽い祈りを受けた僕は、それから騎士たちを率いて領内に出現した魔物の討伐へと向かう。
しかし、それは失敗に終わった。
――なぜだ?
いつものように体が動かない。
いつものように魔物に剣が刺さらない。
いつものように――。
そんな僅かなズレによって、僕たちの部隊は魔物狩りに苦戦する。
大活躍したときのように動くことは出来ず、そして――。
「ぐあああ!?」
部隊のあちこちで悲鳴が上がる。怪我人が出た。
「れ、レイゾン様! 一度撤退を!」
……確かに、このままでは無為に皆を傷つけてしまう。
「わ、分かった! すぐに撤退の準備を開始しろ!」
……ありえない。
僕がまさか魔物狩りに失敗するなんて――。
がくりと肩を落としながら、僕は少なくない犠牲を払い、屋敷へと撤退した。
◆
『リア視点』
まさか、ここに戻ってくることになるとは思っていなかった。
私は自分の正装――巫女服に身を包み、自分の両親と向かい合っていた。
隣には、アレクセイ様がいる。
両親はアレクセイ様を見て、がちがちと体をこわばらせていた。
……アレクセイ様は地方の領主だ。その規模はあまりにも大きく、国内にある小さな国を任されているようなものだった。
国内では王についで権力を持つ、といっても過言ではない。
そんな相手が、なぜか無能だと追放した私とともにここにきているのだから、両親は驚きだろう。
なぜ、こうなったのか。
それは、アレクセイ様に私の生い立ちについて話をしたからだ。
それから軽く自己紹介をした後、アレクセイ様がにこりと微笑んだ。
「リアには我が家の巫女として仕事をしてもらっています。まさか、元々はこの家の子だったとは思っていませんでした」
「そ、そうなんですよ。ただまあ、その……もう彼女は私の家とは関係ありませんので、そのミスをしたとかは――」
……なるほど。どうやら父が慌てているのは、私が何か大きなへまをして、それでアレクセイ様を通して文句をつけられると思っていたようだ。
アレクセイ様はわざとらしくきょとんとした。
「そうなのですか。もうまったく、この家とは関係がない、と?」
「は、はい……そうなんですよ」
「そうですか、そうですか。それでは、お礼の言葉も必要なかったかもしれませんねぇ」
アレクセイ様がそれはもう楽しそうにそういった。
……アレクセイ様の屋敷で仕事を始めて三カ月ほどが過ぎていた。
私はアレクセイ様とよく一緒にいたため、彼については多少人となりが分かってきた。
サディスティックな公爵様。それが私の彼への印象だった。また始まったよ……と思いながら、私はその横に座っていた。
「お、お礼ですか?」
「ええ、そうです。彼女の巫女としての能力は素晴らしい。どうやら、彼女の祈りには魔物への特効があるようで祈りを受けたものは通常の二倍くらいには強くなります。人によってはさらにですね。身体能力が上がるわけではなく、ただ単に相性が良くなるといったものですので、鈍い人は気づかないかもしれませんが。とにかく、とても助かっていますよ」
「……なっ!? ま、まさかそれで――」
「まさか……とはどうしたのでしょうか?」
「そ、その……ここ最近、魔物狩りに苦戦し、失敗することが増えまして……」
「ああ、それはもしかしたらリアの、おかげだったかもしれませんね」
「……」
父の顔が青ざめていく。
「リアの才能はそれだけではなくてですね――」
アレクセイ様がここに来た目的は挨拶なんかではない。
彼はサディスティックな人だ。だから、私を利用してこうして私の家族をいじめたいのだ。
それからもアレクセイ様は私の優秀な部分についてこれでもかと語っていった。
「それでは、一度オレは席を外します。久しぶりの家族の再会ですし、部外者がいても迷惑でしょう。リア、またあとで」
アレクセイ様がそういって立ち上がる。久しぶりの家族との再会なんだからとか何とかいっているが、彼の本心は違うだろう。
久しぶりにお父さんと二人きりになった私に、お父さんは掴みかかってきた。
「り、リア! 今すぐに屋敷に戻ってきていいぞ! 公爵様との関係はもちろん、今我が領内はおまえの祈りがなくなって大変な――」
「申し訳ございません。もう戻れと言われましても家を追放されましたし……今更もう遅いですよ」
そういったら父がどんな顔をするのか。見たくて笑顔で言った。
……まずい。今のアレクセイ様のが完全にうつってしまった。
父は想像通り、絶望的な顔をしていた。私はそれに一礼を返し、廊下へと出た。
廊下に出ると、アレクセイ様が……アンナと話をしていた。少し、嫌な予感が脳裏をよぎる。
「アレクセイ様。お初にお目にかかります。私はアンナ、と申します」
「はぁ、そうか。それでどうしたんだ?」
アンナはそういって、アレクセイ様のほうに体を寄せる。
「ふふ。アレクセイ様。どうでしょうか? 私をリアの代わりに屋敷に連れていくというのは?」
「ほぉ、それはどうしてだ?」
「だって、リアよりも私のほうが美しく、そして才能もあるでしょう?」
「美しい? 才能? いやいや、何を言っているんだ?」
「へ?」
「リアの方が美しいし、才能もある。さっさと帰ってくれないかな?」
アレクセイ様が堂々と宣言をしたことで、アンナが驚いたようにこちらを見てきた。
「こ、こんな女に私が負けている……ですか!?」
「ああ、そうだよ。リアはとても綺麗で可愛らしい。そして、才能までもある。ところでキミは何ができるんだ? どうにも、今この領地は使えない巫女の祈りが原因で大変な事態に陥っているじゃないか。それで? オレはキミを領地に連れて行って、自分の領地を破壊しろ、とでも言いたいのか?」
……アレクセイ様は、人をいたぶるためなら平気でうそをつける。
まるで私に本気で恋をしているかのような表情で、アレクセイ様がそう宣言すると、アンナは涙目とともに逃げ出した。
アレクセイ様の顔を見ると……とてもほっこりとされていた。
ああ、人をいたぶって涙目敗走させるのがアレクセイ様の趣味みたいなところだからね……さぞご満足だったのだろう。
「アレクセイ様、思ってもいないことを言いすぎますと、発言力に影響が出てしまいますよ」
好きとか愛しているとか。仮にも公爵家の人間なんだから、そういった発言には気をつけたほうがいい。
「……まったく、欠片も思っていないわけではないのだがな」
ぼそりと小さい声でアレクセイ様は何かを言った。うまく聞きとれなかった。
「申し訳ございません。なんと言いましたか? ちょっと声が小さくて聞き取れなかったのですが」
「いや、なんでもない。キミは中々に意地悪なところがあるな、と思ってな」
……いや、アレクセイ様には負けますけど。
――こんな調子で、サディスティックな公爵様と私はこれからも暮らしていく。
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