咎人
かなりダウナーな感じです。グロとかホラーはない。
ある日、大量殺人をニュースで見た。道脇には花束が置かれ、多くの近くに住む人々から悼まれていた。
母は言った。
「周りの大勢を巻き込むくらいなら、自分ひとりで死んでしまえばいいのにね。何を考えているのかしら」
父は、全くだと同意した。
僕もその通りなのだろうと、同意した。
別の日に、若い子供が自殺をしたニュースを見た。この両親が記者会見で、涙を滲ませ子供の死を悼んだ。
父は言った。
「子供が親より先に死ぬなんて許されない。逃げてもいいんだ。それなのに死ぬなんて、何を考えているんだ」
母は、全くだと同意した。
僕もその通りなのだろうと、同意した。
ある日、共通の友と呼ぶものへの悪口を当たり前に口にする友人を見た。
あまりにも自然に言っていたので、この国ではそんな光景がごく当たり前のものなのだと思った。
ちっぽけな倫理観。
悪意を容認することへの拒否感。
子供の頃から成長出来ず、ある種の潔癖さを捨てられなかった僕には。
少し。ほんの少しだけ。つらい。
現実から逃げ出したくなる。
夢に逃避したくなる。
眠りの中に現実はない。
そこは、現実より少しだけ、死に近いヒュプノの世界。
死の世界へ逃げてはいけない。
「子供が親よりも先に死ぬのは許されないことだ」
言葉がのしかかる。
だからせめて、眠りに逃げさせて。
僕が世界に反発しないように。
僕の怒りが形を持って現れないように。
僕は馬鹿だから。
破壊とか、暴力とか。そういった形以外で、上手に怒りを表す方法を知らない。怒りを昇華して、生きるばねにする方法を知らない。あと、周りに上手に頼って、怒りを発散する方法も知らない。そもそもこの怒りの原動は、友人が友人への陰口をしている、というささやかな光景が底にある。友人に頼れるはずもない。友人を信じる方法を知らない。
せめてひとりで、ちっぽけな自分を抱えて沈んでいけたら良いのに。死の底まで。
「子供が親より先に死ぬのは、許されないことだ」
現実から逃げて、死の世界へは逃げてはいけない。
眠り続けては、現実では生きてはいけない。
生きていけない。
ああ。もう。むりだ。
苦しさに現実を巻き込み、生き延びるか。
苦しさを周囲へ押し付け、逃げ落ちるか。
暴力か。
死か。
悪意を容認できなくて。
現実は悪意にあふれていて。
だんだんと眠りの時間は伸びていく。
それでも死人でない僕は。
現実に生きる僕は。
少しずつ受け入れがたい悪意を受け入れ。
受け入れてしまっているという現実に心が苦しみ。
少しずつ狂っているような。
そんな気がして。思考が麻痺する。
悪意を受け入れられない僕は、狂人に近づいているような気がする。なんの言い訳にもならない。
全ては僕が悪いんです。
咎人は言う。
いつか本当に狂ってしまうとき。
現実を巻き込まず。周囲に責任を押し付けず。
誰も傷つけないように。
ひとりで逃げ落ちることができるだろうか。
今はとりあえず、本当に狂ってしまわないように。
願い。祈り。眠り。
未来の不安は、未来へと押し付け。
そんな無責任に、心を苛み。
それでも、生きよう。
全ては僕が悪いんです。
咎人は言う。傲慢な言葉を。
まともに現実を生きる方法を見つけられたら。
咎人は思う。夢見がちな思いを。
誰もが誰もに優しくいられますように。
咎人は願う。途方も無い願いを。
せめて狂ってしまうまでは。
咎人は祈る。都合のいい祈りを。
差し伸べられた他の掴み方を教えてください。
咎人は泣く。
「この手は何も掴めていないんだ」
だから。
全ては僕が悪いんです。
持たざる者の卑屈な話。
久々過ぎる…。
また、投稿済みの小説を整理するつもり。
剣道少女と思い出の味以外は一度消そうかと。
そう思いながら、一年近く。
気持ちが載っているわけではないことが丸わかり。書きたいことはあるのだけれどね。やる気と、継続力がなさ過ぎ。文章力?底の底まで探せば、砂つぶくらいはあると思う。うん…そう思おう。
おやすみなさい。