sisters encount
「やっと着いた・・・・・・。」
故郷の村を出て数か月、私-ユウヒはヒール王国の王都リカバリアに到着した。幼い頃から一人娘として、苦労も知らずに育ってきた私にとって、この旅は本当に過酷だった。
宿代などはもちろん無く夜は野宿、満足に食事もできない。おそらく、私の人生において最も苦しい数か月だった。それを物語るように、私の身なりはボロボロになっていた。
ではなぜ、そこまでして王都リカバリアに来たのか?
それは、到着した今ですら確固たる理由は無かった。あるのは、幼い頃に見たデジタル上の可憐な皇女と直接会わなければならないという、根拠のない使命感のみだった。私はその望みを叶えるため、王宮へ向け歩き始める。正直、この格好で王都リカバリアを歩くことにためらいはあった。しかし、自分自身の願望を叶えるために、その感情を無視して進む。
周りを見渡す。さすがに、王都というだけあって街はとても賑わっている。
「現実にこんな魅力的な場所があるなんて!」
私の目に映ったのは、にわかにも現実とは思えない風景だった。めまいを起こすような数の群衆、村より十倍の高さはあろう建築物。都というものを知らなかった思春期の私にとって、それらは全て輝石のようなものだった。衝撃のあまり、もう少しこの場所を見て回りたいという衝動に駆られたが、それを塞き止め王宮へと向かう。
やがて、私の目的地だと思しきものが視界に飛び込んできた。それは、周囲の建物を一蹴していて、突出して巨大だった。足を止める。王宮のふもとについた私は、その佇まいに圧倒されしばらくその場で硬直していた。そして解放されると同時に、神が与えた運命というものを恨んだ。
「この世に生を受けた時点で、個人の価値は同じはず。それなのに、どうしてこんなに境遇の格差が生まれるの⁉」
生まれながらの生活空間にさえ劣等感を抱きながら、私は改めて王宮の門へ向き直る。正面には警備の兵士が二人、双璧をなして屹ている。その表情はけだるさに溢れていた。私はそこに歩みを進める。当然彼らも、王宮に堂々と侵入しようとする私を制す。
「止まれ、この王宮に何用だ⁉」
兵士がその片腕に携えた剣を、双方向から私に突き付ける。
「皇女様に会いに来ました。この場所に、おられるのですよね?」
兵士の渾身の脅迫に一歩も退かず、私は友人の家に入るようなごく軽い口調で問い返す。
「貴様、いきなり来て自分が何を言っているか解っているのか?」
「ええ、少なくとも正気は保っているつもりです」
「フハハハ、こいつは滑稽だ。貴様のような愚民が、皇女様に対面できるわけがないだろう」
兵士の嘲笑を間近にして、私の奥底からは、煮えたぎったマグマが湧き上がって来ていた。それは私の言動への揶揄に対するモノではなく、『愚民』という、たった一単語に反応してのモノだった。
「私が・・・・・・愚民」
「ああ、そうだ。それ以外に形容する言葉はないだろう」
兵士の言葉に、私は自然に反論する。
「じゃあ、あなた達は皇女様にお会いしたことがあるのですか?」
「俺達のような下っ端の兵士がお会いできるわけがないだろう。あの方は雲の上の存在さ」
兵士は、自虐的に告げる。彼らもまた、自分の立場に疑問符を抱いているようだった。
「それではあなた方も『愚民』・・・・・・ですね」
自傷的な発言で、ネガティブになっていた兵士の頬が、一瞬にして紅蓮に染まる。
「なんだと! そんな汚い服装のくせに無礼な! 仮にも王家とかかわる人間にそんなことを言うとはな。どうやら、余程の身の程知らずらしい」
「だってそうでしょう。皇女に会ったことがないという、私とあなた方のステータスは変わらない。ならば、今判明している情報のみを踏まえれば、私達は等価値の人間のはずです」
「ぐっ!」
兵士は言葉を何も形象できないようだった。この門をくぐるため、私は一気に畳みかける。
「問題なのはあなた方のように、偏見や外面的な要素のみで他人を評価し、その人の居場所を自分で勝手に形作る人間です。その人の価値は内面的にしか量れないはずなのに・・・・・・まぁ、そのような価値基準を持つのも仕方がないと思いますよ。世界には、このような思想を持つ価値のない人間が無数にいて、個人の考えを上書きしてきます。おそらく、あなたもそのマジョリティーに引きつけられた一人にすぎないでしょうから」
もう兵士は何も言わず、ただ歯がゆい表情を露出させている。どうやら論破したようだ。
「というわけで、私はあなた方と等価なのでこの門を通ることができます。どうしても阻害するというなら、私の論を覆してください」
自分自身でも少し理不尽だと思いながらも、私は強ちに門を通る。その時・・・・・・!
「な、何をするんですか⁉」
気付けば私は、動けなくなっていた。その理由は、兵士が私の両腕を抱え込んでいるからだ。
「言質で勝てなくなったから、武力を行使する。国家権力がこんなことをしてよいのですか⁉」
「だまれ! ダラダラ雑音を垂れ流しやがって。貴様は国家への反乱分子として、牢に入ってもらう。よかったな、念願の王宮に入れて。さあ、こっちへ来い」
強引な兵士に対して、私は抗う。
「やめて! 離してください!」
「うるさい、さっさと歩け!」
「待ちなさい!」
第三の声が上空から響く。その発信源は私がいる位置の斜上、二階の、めいっぱいに開け放たれた窓からのものだった。太陽に照らされる、一人の少女のシルエ。その影を見て、私は確信した。
この人が、私の求めていた人物だと・・・・・・。
「あなた、私と気が合いそうね。ちょっとこっちにいらっしゃらない?」
唐突な皇女の言葉。それを否定する理由はどこにもなかった。そして、私はここに来た本当の理由を、本能的に思い出していた。
公的に王宮に入った私は、リアルの信念を果たすため、王宮の内部へゆっくりと歩みを進めた。
最後までお読みいただきありがとうございました。本当の姉妹の過去、その片鱗が明かされてきました!
この先二人はどうなるのか。乞うご期待です。
この小説であなたの世界観に何か変化はあったでしょうか?
これからも温かく見守っていただければ幸いです。