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革命プレリュード

 黒紫の影が夜道を往く。背には、ランスが乗っている。自分の使命を果たすモノは留まることを知らなかった。それどころか、影は進化していた。盛大に溢れてくる力。だが、その力の使い道をカノジョが知るのはまだまだ先のことだった。

 今は機械に徹する。それだけがカノジョの存在理由だった。





  光が・・・・・・見える。俺―ランス―はその中で意識を取り戻した。一瞬、自然豊かな場所にいるように感じた。しかし、それは瞬時に否定される。なぜなら、この場所に等量に降り注ぐ光は、自然界のそれとは似ても似つかぬものだったからだ。

 温度がないのだ。常に感じているはずの温感、冷感がない。そして気付く。これが、この世界の絶対支配領域だということに。それは、なんだかおかしな感覚だった。

 その感覚をできる限り無視しつつ、俺は辺りを見渡す。この空間は、どういえば表現できるのだろう? 

 強いて言うなら、世界の形状を荒くして、切り崩したような・・・・・・。

 そんなことを考えていると突如、上空に光が凝縮し始める。それは、徐々に何かの形に変容していった。


 「殴ったりしてごめんなさいね。この世界に入るには、きっかけが必要だったから」


 完成したのは人、それも見覚えのある姿だった。


 「お久しぶり、ランス。ようこそ私の理想空間へ」

 「エ、エルシャ様!」



十数年前・・・・・・。



 その頃の俺はまだ駆け出しの使用人だった。今とは違い、自分の立場を確立できておらず周りの誰からも信用されていなかった。その頃の俺の仕事は、自分の居場所作りそのものだった。

 ある日、俺は上級貴族に命じられ、広大な王宮の一番端にある広場を清掃していた。


 「こんな所、掃除する意味ないだろ」


 つい本音がこぼれ出る。それも当然だ。この広場はめったに人が来ず、先週掃除した時から特に変わっている所はない。中央に据えられているベンチもまるで時が止まっていたかのように良い状態を保っている。しかし、その風景には一か所だけ違和感があった。それは微かに足跡が残っていることだった。よく見ると、その跡は広場の奥の森―王宮の裏は森になっている―に続いていた。

 

 「誰かいるのか?」


 よく見えない森の奥の方へ呼びかける。一瞬の静寂の後、誰かがこちらに向かい歩いてくる。

 それは、眼に雫を浮かべた皇女エルシャの姿だった。

 

 「見たことがない顔ね。もしかして、新入りさん?」

 「は、はい。使用人のラ、ランスと言います。あ、あの、どうしてこんなところに?」


 初めて話すエルシャ様に緊張し、声が震える。そして、その間フィーナ様は何かに逡巡しているようだった。


「新入りさんなら、この国に染まっていないから大丈夫かしら」


 ポツリそう呟き、俺に向き直る。


 「そんなこと、どうでもいいじゃない。それより、あなたは約束を守れる人?」

 「は、はい」


 それは媚を売り続け、人を貶めてきた人間の根拠のない戯言だった。


 「そう、なら頼みがあるの。私をここから連れ出して!」


 いつも国民の前でも、毅然としているエルシャ様がこんなに動揺しているところを見るのは、これが初めてだった。



 それから一週間後、王宮では舞踏会が開かれていた。エルシャ様曰く、この最中に連れ出して欲しいらしい。俺は貴族の世話をするために参加が認められていた。

 だが、俺は正直面倒くさく思っていた。なぜなら、エルシャ様の手伝いをすることによって俺の築き上げてきた立場が揺らぐかもしれないからだ。では、なぜ俺がエルシャ様の要望を断らなかったのか?

 そこが俺の愚かな点だった。俺は皇女という今までにないほど位が高い人間と出会い、自然と媚を売らなければという情動を抱いていた。それ故、俺はエルシャ様を拒むことができなかったのだ。

 目の前で、強欲の衣を纏った貴族や皇族が躍っている。俺の役目は、エルシャ様が逃げた際に追っ手を食い止め、サポートすることだった。もちろん、これだけでは俺に利益がない。ギブ&テイクの関係を作るために彼女が持ち出したのは、使用人の俺が見たことがないような額が書いてある小切手だった。そう、俺は買収されたのだ。

 その時は確実に近付いていた。エルシャが確認するように目線を投げかけてくる。

 しかし、俺がその視線に応えることはなかった。姿は見えずとも、エルシャが驚いてくるのが伝わってくる。

 そのまま滞りなく舞踏会は進み、ついに何も起こらなかった。いや、何も起こさせなかったという方が正しいだろうか。


 エルシャが死んだのは、その数日後のことだった。





 「あの時はよくもやってくれたわね。私が死んだのはあなたのせいだから」

 「申し訳ありません。あの時の俺は、自分のことしか考えていませんでした」


 これは、紛うことなき今の俺の本音だ。年を重ねるたびに、他人の重要性が分かってきた。


 「ずいぶん出世したみたいね。まあ、昔のことだからもういいわ。その代わり、今日からあなたは私の下僕だから」

 「僕を王宮から救ってくださるのなら、その条件は呑みます」

 「あら、ちょうどよかった。お互いの思想は一致しているみたいね。一人じゃ無理なことだから、最近出来た別の下部と一緒にやってもらうわ」

 「分かりました。それで僕は、何をすればいいんですか?」


 エルシャ様が次に告げた言葉は、俺にとって最高のモノだった。


 「ヒール王国を、ぶっ潰して!」


 瞬間、再び世界が切り替わる。先ほどのブラックアウトが襲う。現実世界に戻されるのは確実だった。



 



 


 















最後までお読みいただきありがとうございました!そして、毎度ながら更新遅れて申し訳ありません。

さて、今回は「立場を守るための代価」この一言に尽きます。

皆さんは、自分の居場所を守るがゆえに誰かを蹴落としたことはありませんか?

他人の重要性、それを見直してもらう一助になれば幸いです。この小説で、あなたの世界観に何か変化はあったでしょうか?

これからも応援よろしくお願いします!

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