1~魔王誕生 ~
物心ついた頃から「勇者」という職業に憧れていた。━━魔物から人々の安全を守り、感謝され、魔王を討伐し、お姫様と結婚する。俺が子供の頃よく読んだ本に書いてあったことだ。
しかし、今の世の中は安全そのもの。魔王なんてものは遥か昔に討伐されたし、魔物すらほとんど見かけない。
今の時代、いくら強くなろうと勇者になんてなれないのだ。
ただ、俺は諦めなかった。もし魔王が復活し、勇者を王都が募集したら━━━そんなことを夢見て、山に篭もった。
修行は辛かった。ふかふかの布団で毎日寝ていた俺には野宿は苦痛以外の何物でもなかった。だから、創作魔法を覚えて家を建てた。土地が余っていたので気持ち大きめに造った。城みたいになったがそれはご愛嬌ということで。
しかし、住む場所はあっても肝心の修行が捗らない。
そこで俺は、時空間魔法を覚えた。自分にかかる時間を早くすることで、修行効率を何倍にもあげるためだ。自分でも何を言っているのかよくわからないが、まぁ、そういうことだ。
時間を気にせず修行に打ち込めるようになってからは、めきめき力が伸びていった。ゴミ箱にちり紙を100%の確率で投げ入れられるようになったり、電球のひも相手のボクシングもなかなか様になったりした。
修行に疲れたときには、気分転換に魔法の練習をした。電球のひもボクシングをしていて、死角が多いことに気がついた俺は、魔素を周囲に張り巡らせることによって半径100キロ程までなら正確に状況を把握できるようになった。
ただ、修行を疎かにしてはいけない。分身した自分に輪ゴム鉄砲をしてもらい、顔に輪ゴムを向けられても目を背けずにいられるようになった。また、タンスの角に足の小指をぶつけても涙目にならずにいられるようになった。
数年後、こんな感じで厳しすぎる修行をしていた俺に朗報が届いた。
「魔王が復活した!?」
◇◆◇◇◆
「それは本当かね!?」
トレビアン王国の現王、バラクは驚愕していた。
「はい。先日、5年に1度行われる王国全土の一斉パトロールが行われたのは王も周知のことでしょう。そこで辺境の地にある名もなき山の上で巨大な城が建設されているとのことです。」
「城ぉ?どこぞの貴族が建てたんじゃないのかね?」
「えぇ。どこにも権利書は出されておらず、周辺の地域の住民に聞くところによると突如として建設されたとの事です。」
「何でその住民は役所に報告しなかったのかね?」
「これといった被害もなく、めんどくさかった。とのことです。」
「はぁ.......」
この国ではよくあることだ。魔物が減って平和になった今、国民の心には余裕が生まれている。犯罪をするものもほとんどおらず、罰則規定などもされていない。なのでたびたびこういったことが起こるのだ。
しかし、今回のは大問題だ。王都直属の宮廷魔導師によると、その山付近には、常時濃い魔素が展開されているという。それも、通常ではありえない量だ。伝説級の魔物が突如として出現したという可能性もあるが、それならば食料を求め山を降りるだろう。何かしらの知性を持った魔物とみてまず間違いないだろう。
知性を持った大量の魔力を持つ魔物=魔王。
考えたくもないがそうなってしまう。幸いにも、まだ被害は起こっていない。魔王も準備中ということだろう。今なら一網打尽に叩けるかもしれない。ただし、平和に暮らしてきた昨今、騎士団含め、宮廷魔導師等王都の部隊は弱体化している。どうしたらいいんだ?儂の生きているうちにこんなに責任重大なことが起こるとは思わなかった。責任を負いたくない。国民から叩かれたくない。
━━━━━そうだ、一般公募しよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「実は王都直属部隊は弱かった!?」なんてことをネットニュースに書かれて国民に叩かれたくないので、ここは一般人に責任をなすりつけよう!という考えの元、一般公募を始めてはや1ヶ月.......。
どこに隠れていたんだ?みたいな屈強な人間が多く集まった。
どう見ても我が騎士団より強そうだ。これなら魔王討伐も夢ではないだろう(現実逃避)。
「では、これより次期勇者選抜試験を始めるっ!!」
自分が出せる限り1番野太い声で場を仕切る。王が直々に試験官になることで、王様仕事してんじゃん!と国民に思わせるためである。税金で良い飯食って好きなときに寝て、好きなときに起きている罪悪感もあるので、こういうところではしっかりやるのだ。
「じゃあ後は頼むぞ」
そして、バラクは隣に控えた騎士団長に声をかけ、自室に戻り、ネトゲの続きに勤しむのであった━━━━