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91:やってられっかぁ!!

「え~っと、エルフの方が一名様、獣人の方が一名様、で……、そちらの小さい方は?」


 そう言って、不思議そうな顔で俺を見つめる、猫型獣人のお姉さん。

 小洒落た感じのカウンターに立つ彼女は、この村唯一の宿屋の受付嬢である。


「あ、私の従魔です」


 サラッと答えるグレコ。


「あら、従魔ですか! 初めて見ました!! じゃあ、そうしたら……、ベッドはどうされます? 二つベッドの部屋と、三つベッドの部屋をご用意しておりますが、二つベッドの部屋の方が料金が安いんですよ。従魔といえど、靴も履いていて、服も着られているし……、此方と致しましては、その子もベッドを使用して頂いて構いませんが」


 従魔だと紹介された俺の事を、遠慮なく「その子」呼ばわりするお姉さん。


「あ~……、部屋の料金って、どのくらい違うんですか?」


 え? グレコ??

 まさかと思うけど……、俺のベッドをケチる気なの???


「二つベッドの部屋が一泊400センスで、三つベッドの部屋が一泊800センスです」


 えっと……、どういう料金設定なのそれ?

 ベッドが一つ増えるだけで、倍の値段になってるじゃないか。

 ぼったくりじゃね??


「なるほど……。あの、例えばなんですけど、二つベッドの部屋に、この子用の寝床を別に用意してもらうとかは出来ますか?」


 ……は???

 グレコが妙な事を言い出したぞ。


「それなら、お子様用の可動式ベッドがありますので、二つベッドの部屋に、そちらをご用意させていただきましょうか? 特に追加料金などは発生しませんので」


 お子様用の、可動式ベッドだとぉ~?

 いやいやいや、さすがにそれは無いだろう。

 大きさ的には恐らく問題無いが、きっとこう、ベッドのフワフワ感というか、寝心地が違うはずだ。

 せっかく、生まれて初めて宿屋に泊まるのだから、ちゃんとしたベッドで寝たいぞ、俺はっ!


 と、思ったのだが……


「なら、そうしてください」


 なんんんっ!?

 おいグレコ!!?

 勝手に俺のベッドを、お子様用のにするんじゃないよっ!!!


 俺の小さな願望は、倹約家なグレコの決断によって、見事に打ち砕かれたのでした。

 チーーーン……


「かしこまりました。それでは……、あ、お食事はどうされますか? こちらで夕食と朝食を召し上がられる場合は、一食につきお一人様100センスずつ頂戴致します。お二人分ですので、先程の宿泊料金に400センス上乗せさせて頂く事になるのですが……、いかが致しましょう??」


 まるで後出しジャンケンのようだな。

 ここで食事をつければ、結局は800センスになるじゃないか。

 そもそも、こんな小さな村の宿屋に、ちゃんとした料金設定があるのかどうかが怪しいな。

 しかも、お二人分って……、それ、絶対に俺の分入ってないだろっ!?


「二人分? えっと……。あの、この子の……、従魔の分の食事は用意してもらえないんですか??」


 問い掛けるグレコ。


「あ~っと~……、申し訳ありません。生憎こちらには、従魔用のメニューがございませんで……。なにぶん、従魔を連れたお客様は、貴方様方が初めての事でして、作ろうにも何を作ればいいのか……」


 困惑するお姉さん。


 いや、あの……、俺、普通のご飯なら、基本なんでも食べられますよ?

 従魔用のメニューってつまり、ペット用のご飯って事ですよね??

 ……いやいや、そんなのじゃなくて、普通に普通の食事で大丈夫ですよ!?


「なるほど。じゃあ、食事は結構です。この近くに、食事が出来る場所はありますか?」


 良かった、グレコがまともな決断をしてくれた。

 危うく、俺の晩御飯と朝飯が無くなるところだったぜ!


「この近くだと……、はい、五軒ほど飲食店がございます。どのお店もこぢんまりしていて、客層は村の常連ばかりですけれど、従魔連れでも入店可能だと思われます。ちなみに、この通りの角に位置する酒場は夜中までやっておりますし、向かいの料理屋は朝一から開いておりますので」


 ニコッと笑うお姉さん。

 宿屋での食事をゴリ押ししてこなかったところを見ると、根は良い人そうだ(猫だけど)


「ご親切にどうもありがとう。それじゃあ、一泊素泊まりでお願いします」


「承知致しました。それでは……、二つベッドのお部屋に、お子様用の可動式ベッドをお運びして……。食事は無し、お二方の一泊素泊まりで……、はい、400センスになります。前払いでよろしいですか?」


「はい、大丈夫です。モッモ、お財布出して」


「あ……、はい」


 すかさず、神様鞄から財布を取り出して、グレコに手渡す俺。

 そんな俺をチラリと横目で見て、「良い子だね~♪」って感じで微笑むお姉さん。

財布を受け取り、ささっとお会計をするグレコ。

 ず~っと、黙っているギンロ。


 そして、はたと気付く、なんとも言えない違和感。


……ねぇ、なんだかおかしくなぁ~い?


 ここまで、受付のお姉さんとグレコのやり取りを、隣で静かに見守っていた俺だったが、その心の中はモヤモヤでいっぱいになっていた。


 確認なんだけど……

これは、俺の旅だよね?

 主人公は、俺だよね??

なのに、俺は従魔とかいうペット扱いで、ベッドは可動式のお子様用で、食事は用意出来ないだって???


「はい、確かに400センス、頂戴致しました。それでは、お部屋にご案内しますね。こちらへどうぞ」


受付のお姉さんに案内されて、部屋へと向かうグレコ様御一行。

 グレコ様、御一行………


くっそぉ……、なんだってんだよぅっ!

この物語は、俺が主人公なんだぞっ!!

 畜生っ!!!












 小さな拳をドンッ! とテーブルに打ち付けて、俺は叫んだ。


「なぁ~にが従魔だっ! やってられっかぁ!!」


 薄暗い酒場のカウンター席に腰掛けて、ほんのりと甘酸っぱい味がする高原ベリーのお酒を片手に、怒りをぶちまける俺。


「まぁまぁ、落ち着くのだ。仕方があるまい、お主の正体が周囲にバレれば、何がどうなるか分からぬ故……、しばしの我慢であるぞ、モッモよ」


隣のギンロが宥めにかかる。

 それでも俺は、心の内から溢れ出る憎悪の感情を押さえ込む事が出来ず、ワナワナと震えていた。


 夕刻、無事に宿屋で宿泊手続きを済ませた俺達三人は、夕食を済ませようと町へ繰り出した。

 宿屋の受付のお姉さんがおすすめしてくれた料理屋で夕食を済ませた後、グレコは一人先に宿屋へと戻り、俺とギンロは二人で酒場へとやって来たのだった。


何故、ギンロと二人で酒場へ? と、読者の方は疑問に思うだろう。

 その訳は、夕食にと選んだ料理屋にて、これまでモッモとして生きて来た中で最大、最悪の、耐え難い屈辱を味わったからである。

 ギンロは、食事を終えて店を出ても、見るからにお怒りモードの俺の様子を見兼ねて、グレコに断りを入れ、飲みに行こうと誘ってくれたのだった。


「さっきのウェイトレスは酷過ぎるっ! 「えっ? 従魔も食器を使うんですか??」 ……だってさ!! 何っ!? 何なのっ!?? 僕は、食器すら使っちゃ駄目なのっ!?!?」


 そう……、俺は、先程の料理屋にて、《完全なる従魔としての扱い》を受けたのである。

 まぁ、入店時にグレコが、店の人に、俺の事を従魔だと伝えたから、仕方が無いっちゃ無いのだが……

 それでも、通されたテーブルには椅子が二脚しかなく、その脇に犬用の水桶みたいなものをポンッと置かれたわけだから、さすがにカチンと来たのだ。

 いくら従魔といえど、服を着て靴を履いて、二足歩行している俺に対して、その扱いは酷過ぎるだろう。

 グレコが抗議して、水桶を下げてもらい、椅子を増やしてもらい、なんとかかんとか注文をして、いざ料理が運ばれてきたところ、俺の分のナイフとフォークはありませんでした。

 ……で、さっきのウェイトレスのセリフである、はい。


「まぁまぁ。……うえいとれす、とはなんだ?」


 無知なギンロが尋ねるも、俺の耳には届いておらず……


「宿屋のお姉さんもだよ! 子供用のベッドって言ってたけど、あれ、赤ちゃん用でしょ!? 何あの柵っ!?? あんなのなくても、ベッドから転げ落ちたりしないんだけどっ!??? あんなの、もはや檻じゃん!?!??」


 記憶を遡って、更に怒る俺。


「確かに……、少々、檻のようではあったな」


 うんうんと頷くギンロ。


「グレコもグレコだよっ!? 「従魔は部屋のお風呂使っちゃいけないんだって、どうするモッモ?」って……。産まれて初めてのお風呂だよっ!?? そこは入らせてくれよぉっ!!!」


 グレコがここにいない理由は、その言葉があったからだ。


「風呂の何が良いのだ? 水浴びで充分であろ??」


 風呂の良さを知らないギンロ。


「充分じゃないのっ! 全然っ!! 違うのぉおっ!!!」


どうにもこうにも、イライラが収まらない俺は、やり場のない怒りを、ギンロにぶつけ続ける。

幸いにも、酒場はかなり賑わっており、小さな俺がカウンター席でピーピー言っている事に興味を持つ者など一人もいない。


「はっはっはっ! 兄ちゃん、さっきからお守りが大変だなぁ!! ほれ、わしからの奢りだ」


そう言ったのは、カウンターの向こう側に立つ酒場のマスターだ。

恰幅の良いその猫型獣人は、小皿に盛った生ハムのような物をギンロに差し出した。

 それを見て俺は……


「僕にもちょうだいよっ!!!!」


 キッ! とマスターを睨み付け、生ハムをおねだりした。


「おお? おチビちゃん、肉が食えるのかい??」


 なっ!? なんて事をぉおっ!!?

 キィイィィー!!!

肉くらい食べるぞ、俺はぁっ!!!!


 完全に面白がっているように、ニヤニヤと笑うマスターに対し、俺の怒りのボルテージが噴火しそうになる。

 しかしながら、人が良さそうなマスターは、ちゃんと俺にも生ハムを出してくれた。


「ハムハムハム……」


おぉ~、絶妙な塩加減でとても美味だ。


 美味しい生ハムを齧りながら、少しばかり気持ちが落ち着く俺。


「落ち着いたようだな。あんまり飼い主を困らせるんじゃないぞ、おチビちゃん、はははっ!」


けっ! 勝手に言ってろ、クソジジイ!!


「ところで主人よ。お主らは、なんと言う種族なのだ? 普通の獣人ではなかろう??」


珍しく、ギンロが話し掛けた。


「おお、兄ちゃん分かるのかい? 何を隠そう、ここに暮らす者達は皆、【魔獣】の血を引いているのさ。種族の名は【マーゲイ族】という。遠い昔、わしらの祖先は、かの有名な無法地帯、ここより海を超えて南に位置する【ピタラス諸島】、その最北の島に暮らしていたと言われている」


 ガラス製のお高そうなグラスを拭き拭きしながら、マスターはそう言った。


「ふむ、やはり魔獣族であったか……。ではお主達は、獣化の術、及び人化の術を行使できるのだな?」


「いや~それがなぁ~。もう随分と前から、この村には【獣人型】の姿の者しかいねぇんだよ。みんな、ここで暮らすうちに、獣化も人化も忘れちまったんだろうな。かくいうわしも、産まれてから今日まで、ずーっとこの姿さ。まぁ、必要がねぇんだ、仕方がねぇな」


 何の話かさっぱり分からない俺は、黙って生ハムをハムハムしております。


「なるほど、そうであったか……。時にマーゲイ族は、ここにしか存在せぬ種族であるのか?」


「いや、そんな事もないと思うが……。だが、どこか別の場所にマーゲイ族の村がある、なんて事は聞いた事がねぇな。ここから他の町や村に移住して行った奴は沢山いるが……。有名な奴で言えば、【小ちゃなカービィ】って奴がいるぞ。お前さんら、旅をしているのなら、聞いた事くらいあるだろう?」


ピクリ……、小ちゃな、だとぉ!?

今、俺の前で小さいとか、小ちゃなとか、坊やとかおチビちゃんとかいう言葉は、NGワードだぞっ!!?


「いや、存ぜぬが……」


 首を横に振るうギンロ。

 俺は、むすっとした顔でマスターを睨むだけだ。


「おや? そうかそうか、あいつもまだまだって事か?? はっはっはっ! まぁ、旅を続けていけば、いつか耳にするかも知れねぇから……、せっかくだから覚えておいてくれや。かの有名なカービィは、ここオーベリー村の出身のマーゲイ族だって。あいつぁ~、わしらの誇りだよ」


 マスターはニコニコと微笑みながらそう言った。


 けっ! 誰だか知らんが、覚えるもんかっ!!

 俺だってな、テトーンの樹の村出身で、ピグモルみんなの期待の星なんだよぉっ!!!


「ふむ、覚えておこう。マーゲイ族のカービィか……」


そんなの覚えなくていいぞギンロ!

俺を見ろっ!!

 俺が主役だぞぉっ!!!


 ……結局、生ハム如きでは、俺のご機嫌は直りませんでした。

その後、時間が許す限り俺は、甘酸っぱい匂いのする高原ベリーのお酒を、グイグイと煽り続けたのでした。


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