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783:なんか、夢が壊された気分~

 白亜の大貝は、船の上で見ていた時に考えていたよりも、もっともっと、ずーーーっと、大きな貝だった。


 巨大エイ、ラージャの背中に乗り、海をゆくことおよそ5分。

 ラージャの泳ぎが穏やかで、スピードがとても緩やかだからとはいえ、なかなか辿り着かないな~と思っていたのだが……

 その理由は、実は白亜の大貝が、タイニック号から随分と遠くに出現していたからだった。

 あまりに巨大なその全貌は、まるで山のようである。

 近付くほどに、その巨大さを増していく白亜の大貝に対して、恐怖を抱いていたのは俺だけではあるまい。


 俺たちをまとめて背中に乗せてしまえるほどに、大きな体を持つラージャ。

 そのラージャが、まるで豆粒かのように思えるほどにバカでかい白亜の大貝は、形は完全にシャコガイである。

 ビロードのように大きく波打つ、歪な形をした対になる二枚の貝殻は、ピタリと閉じていたはずの口を僅かながら開いており、その隙間からラージャは白亜の大貝の内部へと進んで行った。 

 そして、その内部の景色を目の当たりにした俺たちは、それぞれに感嘆の声を上げる事となる。


「うっわぁ~~~!!!」


「すっげぇっ!?!?」


「何これ? とっても綺麗……」


「なんとも、美しい輝きであるな」


「…………虹色だ」


 大貝の内部、その巨大な貝の内側は、虹色に輝く銀一色だ。

(読者の皆様も、一度は二枚貝の裏側を見た事があるでしょう。いわゆる真珠層と呼ばれるものですね、はい)

 太陽の光を反射して煌めくそれは、光の加減からか、うにゃうにゃと生き物のように蠢き、揺らめいている。

 左右に聳え立つ、城壁さながらのその銀色の壁は、頭上遥か高くまで伸びており、その巨大さを物語っていた。


 うっはぁ~……、荘厳。

 今まで見てきたどの建造物よりも、美しくて偉大だ。

 魔法王国フーガのお城、クリスタル城も凄いっちゃ凄かったんだけど……

 なんていうかな、自然の凄さっていうか……、人の手によって造られたものじゃ無いから故の美しさが、あるような気がする、うん。


 そんな、荘厳かつ美しく、壁に囲まれているが故に少しばかりの圧迫感を感じさせる空間を、ラージャはゆっくりと泳いでいく。

 すると、少し離れた場所に、人魚の集団が姿を現した。

 その数おそよ二十体ほど、この貝内部の中央部分にあたるであろうその場所に、丸く陣形を組んで、此方を待ち構えているでは無いか。

 彼らは皆一様に、人に似通った上半身を持ち、首筋にはエラのような器官が見て取れるので、水の中にあって今は見えない下半身は、おそらく魚類のものであろうと推測できる。

 ただ少しばかり、その容姿は想像と違っていて……

 

 あ~っとぉ~?

 んんん??

 な、なんか……、ちょっと……

 い、いかつい顔の、人魚が多い……、な???


 そうなのである。

 俺のこれまでの旅において、人魚という種族の者に出会ったのは、フェイアただ一人だった。

 だから勝手に、人魚族というのは、可愛い容姿の者、または美しい容姿の者であると、思っていたのだが……


「なんだぁ~? なははははっ! 魚みたいな顔の奴ばっかだなぁ~」


 ヘラヘラと笑いながら、遠慮なく目の前の現実を口にするカービィ。

 しかしながら、今回ばかりは俺もツッコミを入れられない。

 だって俺も、全く同じ事を思っていたから。


 二十体ほど並んで浮かんでいる人魚達は、お胸部分を貝殻や海藻で隠しているので、恐らく女性なのだろう。

 しかしながら、そのほとんどが、いわゆる魚顔なのだ。

 完全なる魚とは勿論違うのだが、口が魚のように前に突き出ていたり、目が魚のようにギョロギョロしていたり、輪郭がエラ張っていて四角かったりと、何処となく人間よりも魚に似ているといった顔貌の者ばかりなのである。

 これには、さすがの俺もショックを受けていて……


 え~……、なんか、夢が壊された気分~。

 いや、まぁ、俺の勝手な妄想なんだけどさ……

 人魚ってこう、美しくって~、魅惑的で~、どんな男でもほだされちゃうような、そんな憧れの存在! だったはずなのに……

 何? これが現実なの?? 真実なの???

 だとしたら、余りに無慈悲なんだけども………


 人魚に対する夢を、見事に打ち砕かれた俺は、眼下でギンロの隣に座っているフェイアに視線を向ける。

 フェイアは、ジャネスコにいた頃のエルフの姿は勿論可愛かったが、人魚の姿に戻ってからのフェイアもとても可愛いのだ。

 つまりこの場合、フェイアが特別可愛いだけで、人魚という種族の全員が可愛いわけでは無い、というのが、現実なのだろう。

 

 するとギンロが……


「フェイア殿は、やはり美しい」


 ボソッと、心の声を漏らしてしまった。

 ムフムフとしたその表情は、分かりやすく勝ち誇った顔をしている。


 まぁ、そうなるよね~。

 さすがのギンロも、相手がフェイアじゃ無くて他の魚顔人魚だったなら、迂闊にキッスをされる事も無かっただろう。

 そりゃまぁ、自分の妻が、同族の他の者より数段美しかったら……、嬉しいよねぇ~。


「うふふ♪ ありがとうございます、ギンロ様。けれど、皆様に聞こえてしまいますから、もうお口はお閉じになって」


 ニコッと笑いながら、やんわりと、黙っていろとギンロに指示を出すフェイア。

 ギンロ、ステイ! アーンド、シャラップだ!!


 ラージャはゆっくりと泳ぎ、人魚の集団の真ん前で動きを止めた。

 降りた方がいいのかな? と、動き出そうとした俺に対し、フェイアがスッと掌を向けてきた。


「モッモさん、そのままで……。皆さん、少しお待ちください」


 そう言って、フェイアはラージャの背から降り、水中へと潜った。

 ものの一瞬で、人魚の集団の元まで泳いで行ったフェイアは、一体の人魚の前に頭を出し、お辞儀をして、何かをコソコソと耳打ちしている。

 その人魚は、ギョロギョロとした大きな目を持つ顔貌で、頭の上には小さめではあるが、冠のようなものを被っている。

 冠を被っているからして、恐らく彼女が、人魚の女王様なのだろう。


 なんだ? 何を話しているんだろう??

 よく聞こえるはずの俺の耳でも聞き取れないぞ。

 小声のせいもあるけど、もしかすると、俺の知らない言葉で話している???

 てか……、フェイアって、小さかったんだな。


 そう、フェイアは、周りにいる人魚達に比べると、体がとても小さいのだ。

 つまり、周りの人魚達がデカいのである。

 フェイアは、体格的にはグレコよりも一回りくらい小さく、身長は160センチにも満たないくらいだが……

 周りの人魚は、そんなフェイアの体よりも随分とデカく、大きい者だと顔が3倍くらい大きい者もいるのだ。

 総じて……、やはりフェイアは、人魚の中でも、特別に可愛いのだ。


「何を話しているのかしら? モッモ、聞き取れないの??」


 いつの間にか、右隣に立っていたグレコが、俺にコソコソと話しかけてきた。


「う~ん……。多分だけど、フェイアは僕の知らない言葉で話してて……。なんとなく音は聞こえるんだけど、意味が分からないんだよ」


 俺も、コソコソと答えた。


「はは~ん、なるほど……。つまり、これは罠だな。モッモ、気をつけろ~」


 こちらも、いつの間にかすぐ左隣に立っていたカービィが、物騒な事を呟いた。


 えっ!? 罠っ!!?

 罠ってそんな……、どんな罠なわけっ!?!?


 一気に心臓の鼓動が跳ね上がる俺。

 すると、これまたいつの間にか、真後ろに立っていたティカが……


「すぐ、戻る、準備を……、しておけ」


 あ……、はい、分かりましたっ!


 ティカの命令に俺は、導きの腕輪がちゃんと腕に装着されている事を確認して、ドキドキしながら、相手の動向を見守る。

 そして……


其方(そち)が、時の神の使者なる者か?」


 超音波のようなグラグラと震える声で、小さな冠を被った魚目の人魚が、俺を指さしてそう言った。

 それと同時に、ここにいるほとんどの人魚が俺を凝視してきて……


 きょっ!? きょきょきょ……、きょわいっ!!?

 怖すぎて、ちびりそうぅ~っ!?!?


 一斉に向けられた、無表情の人魚達の視線に、俺はグッと膀胱に力を入れる。

 今俺は、ギンロに肩車してもらっているので、危うく漏らしてしまうとギンロが可哀想なのだ。

 下手に声を出すとやっちまいそうなので、俺はビシッ!と手を上に上げて、分かり易く大きく頷いた。

 すると……


「では、其方の第一従者は?」


 ふぁ? だ……、だいいち、じゅうしゃ??

 にゃにそれ???


 突然の言葉に、その意味が全く理解出来ず、固まる俺。

 すると、右隣に立っていたグレコが、スッと一歩前に進み出たではないか。


「私です。時の神の使者モッモの第一従者、グレコです」


 はんっ!? そうだったの!!?

 ……えっ、そうだったの!?!?


 第一従者を買って出たグレコは、堂々とした立ち姿で(ちょっと偉そうに見えるのは気のせいかな?)、冠の人魚を真っ直ぐに見つめている。


「第一従者グレコ、其方に問う。旅の目的は如何に?」


 ぬん? 何その質問??

 旅の目的は、えっと……、えっとぉ……

 てか、俺には聞かないのね???

 まぁ、助かったけども……


 冠の人魚の問い掛けに、グレコは俺達の旅の目的を話し始める。

 スラスラと言葉を紡ぐグレコを横目に見つつ、何処から何処まで話すのかな? と、俺が思っていた……、その時だ。


『時の神の使者、私を見つけて』


 はっ!? なんだっ!??


 頭の中に、澄んだ、高い声が響いた。


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