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759:クリスタルのお城

「う~っわぁ……、なんじゃこりゃ? ツルッツルの、ピカッピカ……??」


 小声ながらも、俺は思わずそう呟いた。


 魔法王国フーガの王都フゲッタ、その中央に位置する小高い丘に、国王が住まう王城は存在している。

 マウンテンゴリラのような獣人の衛兵が門番をしていた、七色の輝きを放つ透き通るようなクリスタルの城壁の向こう側、城門をくぐった先に現れたのは、これまた馬鹿でかいクリスタルのお城。

 夜の中にあって自ら光を放つその姿は、正しく『神々しい』いう言葉がピッタリであった。

 

 城には扉が無く、アーチ状にくり抜かれた入り口を通って中に入ると、そこは広々としたエントランスホールだった。

 全面クリスタルで出来た外観とほぼ同じく、城内もその全てが、眩いばかりの輝きを放つクリスタルで形成されているようだ。

 どこを見てもピカピカのツルツルで、目がチカチカしてきた。

 そして、そんな眩い空間の中にあって、周囲の輝きに全く飲み込まれる事の無い、物凄く存在感を放つ物体が一つ……


「んん? あれは……??」


 エントランスホールのど真ん中に位置するその場所に、なんだか見た事があるような無いような、光り輝く巨大なビー玉が宙に浮かんでいるのだ。

 大きさにして、直径およそ10メートル。

 玉の中は、まるで宇宙のようにも見えて……、粘性のある液体の様な深い藍色をしたその中に、キラキラと煌めく星々が無数に散りばめられており、それらはゆっくりと渦巻きながら動いている。


 見た目のインパクトもさながら、何故だか目が離せないと感じるのは、何かとてつもないパワーを秘めているものだからに違いない。

 俺は無意識にそれへと近付いて行き、至近距離で、食い入る様に見つめていた。


「今日も~、よぉ~くっ! 回っておりまぁ~すっ!!」


 後ろからやって来たカービィが、ヘラヘラと馬鹿な言葉を口走る。

 しかしながら、俺にはその馬鹿に付き合う余裕が無く……

 

「カ、カービィ……? これは……、何??」


 巨大なビー玉が放つ圧倒的な存在感に、俺は震える指先をそれへと向けて問うた。


「んあ? これはほらぁ~、【星雲の光玉】だよ。前にぃ~、ノリリアのペンダント使ってぇ~、フーガに戻って来た時に一度見たろぉ?? ……はっ!? モッモ、まさかおまい……、覚えてねぇのかぁっ!??」


 わざとらしく、面白おかしく驚いて見せるカービィ。

 だが、その言葉をも俺はスルーする。


 おぉ、これがあの……、噂の星雲の光玉かぁ……

 なんでも、ノリリアやカービィ、騎士団のみんなが首から下げている、土星みたいな形をしたペンダント、その名も【星雲のペンダント】を使えば、この世界の何処からでも、この場所に戻って来られる……、っていうあれだ。

 つまりは、俺の神様アイテムでいうところの、導きの石碑である。

 ただ、その使用感は、導きの腕輪のそれとは随分違っていて……

 

「まぁ、覚えて無いって言うか……。僕あの時、気を失ってたからね」


 そう……、星雲のペンダントを使った空の旅は、やわやわな俺には過酷過ぎたのです。

 上空で意識を失った俺は、気絶している間にフーガに到着。

 そのままギルドの宿舎へと運ばれた為に、この星雲の光玉をちゃんと見るのは初めてなのです、はい。


 不意に頭上を見上げると、随分と高いエントランスホールの天井には、ポッカリと大きな穴が空いていて、クリスタルのお城に負けず劣らずな、煌めく夜空の星々が見てとれた。


 は〜ん、なるほどなるほど……

 あそこから飛び込んでくるわけだな、ふむふむ……

 ま、出来ればもう二度と、これのお世話にはなりたかないけどね、ははははは〜。


 一人苦笑いをする俺。

 すると、背後からカツカツと、苛立っているかの様な足音を立てながら、歩いてくる人物が一人。


「どうしてっ! (わたくし)がっ!! こんなっ!!! 真夜中にっ!!!! 城になんかっ!!!!! 来なくちゃっ!!!!!! ならないのっ!!!!!!! よぉおっ!!!!!!!!」


 ギュッ! ギュッ!!

 ギュギュギュギュギュゥウゥゥーーーーー!!!


 ブチ切れながら、腕に抱いていたコニーちゃんを、ボロ雑巾のように力一杯絞るローズ。

 可愛いお顔に似合わない額の青筋と、全身から立ち上る燃える炎の如き真っ赤なオーラが、その怒りの凄まじさを物語っております。


 あちゃ~、思った通りにキレてる。

 ……いや、思った以上にキレてるな。

 しかもキレてる理由は、カービィとは全く関係無くて、王様に呼ばれた事にキレてる。

 つまり……、ここでカービィが余計な事を言うと、また更におキレになるに違いない。

 それだけは絶対に阻止しなければっ!


「ロ……、ロー、ズ……? ちぎっ……、千切れ、ちゃう…………」


 歪んだ口では、そう言うだけで精一杯なのだろう。

 哀れコニーちゃんは為す術なく、ギリギリと捻られております。


「ポポポッ!? だっ、団長っ!!? コニーちゃんは何も悪くないポよっ! だから許してあげてポッ!!??」


 足速に歩くローズを必死に追いかけながら、両手をバタバタとさせて焦るノリリア。


「お黙りノリリア! コニーちゃんはこの為に生まれてきたのよっ!! くぅ~~~……、腹立たしいっ!!! 実に腹立たしいわっ!!!! 国王なんかじゃなければ、あんな糞ガキの言いなりになんてならなくていいのにぃっ!!!!!」


 ギュウッ! ギュギュギュギュウゥッ!!


 怒りが収まらない様子のローズと、もはや原型が分からないほどに絞られるコニーちゃんと、焦るノリリアは、星雲の光玉の脇を通り過ぎて、更に奥へと歩いていく。


「なははっ! ローズのやつ、やっぱブチ切れてんなぁ~!!」


 ばっ!? カービィ!!?

 そんな大きい声で、そんな物騒な事言わないでっ!

 ローズに聞こえたらどうすんのっ!!??


「おうモッモ、おいら達も行くぞぉ~。あっちに昇降機があるかんなぁ~」


 ヘラヘラ笑いながら、フラフラ歩き出すカービィ。

 その視線の先には、エントランスホールから続く通路の先で足を止めて、ギロリと此方を睨んでいる不機嫌ローズ、その腕の中のシワシワコニーちゃんと、めちゃくちゃ不安気なノリリアが待っていて……


「ったく……、さっさと来なさいよっ!!!」


 ヒィイィィッ!?

 ローズが吠えてるぅっ!!?


 今にも口から火を吐きそうな勢いで、俺とカービィに向かって叫ぶローズ。 

 見た目は幼女だからそこまでだけど、以前ドラゴンに変化した所を見ているせいもあって、怒り狂ってる様が本当に恐ろしいっ!


 身の危険を感じた俺は、前を行くカービィの丸い背中を、小走りで追いかけて行った。







 

「ひっさしぶりに来たけど……、相変わらず、チッカチカしてんなぁ~!」


 だいぶ酔いは覚めたらしいが、まだ酒臭い息を吐きながら、ヘラヘラと笑うカービィ。

 その言葉通り、目に映る光景は、まるで万華鏡の中に入ったかの様にキラキラで、チカチカで……

 周りを取り囲むクリスタルの壁面が、上へ上へと、どこまでもどこまでも続いているのだが……


「てかっ!? どこまで登るのこれっ!!?」


 俺は思わずそう叫んだ。

 

 今現在、俺、カービィ、ノリリアとローズの四名は(コニーちゃんもね)、馬鹿でかい超高層ビルのような王城の、天辺に位置するという玉座の間へと向かう為、上へ上へと運ばれている最中なのです。

 運ばれている、というのはつまり……、直径およそ3メートルほどの、宙に浮いた状態の薄っぺらいクリスタルの盤の上に、俺達四名は立っているのです。


 きょ、きょわい……、きょわ過ぎるぞっ! これはっ!!

 

 ガクガクと震える、俺の両膝。

 それも仕方のない話、俺達が乗っているクリスタルの盤は、ちょっとした衝撃で割れてしまいそうな、かなり薄っぺらなものに見えるのだ。

 そして、割れてしまえば最後……、為す術の無い俺は、遥か下の方に見える一階エントランスホールまで一直線に落下して、全身を床に強打し、目も当てられないほどのグチャグチャピグモルになってしまうに違いない。

 ……と、俺は不吉な妄想をしながら、ぶるりと体を大きく震わせた。

 

 王城一階のエントランスホールにて、先を歩いて行ったローズとノリリアが待つ場所へと辿り着いた俺とカービィは、知らぬ間に(知らなかったの俺だけだと思うけど)、このクリスタルの盤の上に乗っていました。

 そして、俺が上に乗ると間も無く、何の合図も発進音も無いままに、いきなり上昇が始まったのです。

 緩やかな動きではあるものの、俺が驚いたのなんのってもう……、チビったわっ!

 カービィ曰く、これも列記とした昇降機らしいのだが、俺が知っている昇降機とは全く違っている。

 鎖や紐で繋がれているわけでもなく、魔力を動力とする為の装置も着いていない。

 もはや何がどうなって上昇しているのか、俺には皆目見当もつきませんです、はい。

 

 足元に視線を落とすと、薄らと透けているクリスタルの盤を通して、遥か遠くに王城一階のエントランスホールの床と、巨大であったはずの星雲の光玉が小さく見えました。

 その光景に、先程の不吉な妄想も加わって、寒気のようなスッとした恐怖を感じた俺は、またしてもチョロっと漏らしてしまいました。


「ポポゥ……、でも何故、団長まで……?」


 ローズの顔色を伺いつつも、沈黙を破り、問い掛けるノリリア。

 するとローズは、シワシワになったコニーちゃんを、今度は大事そうに両腕でギュッと抱き締めてこう言った。


「まぁ、大方の予想はついていてよ。けど、だからこそ、腹立たしい……。あの糞ガキに、また交換条件を突き付けられるなんて……、想像しただけでもハラワタが煮え繰り返りそうぅ~」


 大事に抱き締められていたはずのコニーちゃんは、今度はローズの腕の中で、締め上げの刑に処されてます。


「嫌なら嫌って言っちまえ! あいつの面倒事に、おまいがいちいち引っ張り出される義理も無いだろうよぉ!?」


 無責任に笑うカービィを、ローズは鬼の形相で睨み付ける。


「元はと言えば……、全部っ! 全部貴方のせいなのだからっ!! カービィ・アド・ウェルサー!!! 分かっているんでしょうねっ!? こうなったからには、貴方には私に利があるように動いてもらうわよっ!?? いいっ!!??」


 姿形は可愛いくせに、カッ! と目を見開くローズの様は、もはやドラゴンである。

 その全身から立ち昇る、龍の如き威圧感がもう……、半端ないっ!!

 こんな調子じゃ、ローズがいつ本来の姿に戻るのか分からないぞっ!? と、俺がヒヤヒヤしていると……


「お? もう着くぞ~♪」


 マイペースなカービィがそう言って上を見ると、何やら天井のようなものが迫ってきていた。

 そして、俺達を乗せたクリスタルの盤は、ゆっくりと上昇を終えた。


「到着ポ。モッモちゃん、こっち側に来てポよ」


 ノリリアの言葉に従って、クリスタルの盤の上から足を踏み出す俺。

 ここは、床には銀色の絨毯が敷かれ、これまでとは少し違った印象の空間である。

 しかしながら、壁や天井は、以前として光を放つクリスタルで覆われていた。


 ローズを先頭に、銀色の絨毯が敷かれた通路を静かに歩いて行くと、前方に、これまた馬鹿でかいクリスタルの扉が一つ現れた。

 その扉の表面には、銀色の、威厳のあるドラゴンのレリーフが象られている。


 着いたはいいけど……、ありゃ? 誰も居ないぞ??

 てか、そういえば、お城に来てからというもの、城門の前にいたあのマウンテンゴリラの衛兵以外、誰にも会って無いぞ???

 お城って、こんなに人が少ないものなのか????


 俺が小首をかしげていると、何処からとも無く、声が聞こえてきた。


『ようこそ、我がクリスタル城へ。さぁ、入りたまえ』


 城門にあったそれと同じく、目の前の扉が、下の方からゆっくりと消えていって……

 扉の向こうに現れたのは、屋根の無い、星々が煌めく夜空が丸見えの、玉座の間と呼ぶに相応しい空間だった。


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