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721:ユディンは、何処?

 封魔の塔の地下には、真っ暗で巨大な空間が広がっていた。

 ここは恐らく、塔の土台部分に当たるのだろう。

 明かりのひとつもない暗闇の中に、幾本もの、赤銅色で極太の金属の柱が並んでいるのが見てとれた。


『あ~、こう暗くっちゃ~、なぁ~んも見えねぇなぁ~。……おい、光を出せ』


 クトゥルーはそう言って、ノリリアを縛っている触手を少し緩め、ノリリアの片手を自由にした。

 そして、どうやったのかは知らないが、ノリリアの懐に入っているはずの杖を取り出して、ノリリアに渡したのだ。


「ポポ? 光……??」


『おう、光だ。周りを照らせ。おっと、妙な真似すんなよ? 言われた事だけしろ』


 ギロリとノリリアを睨み付けるライラック……、いや、クトゥルー。


「明かりを出す事も出来ないのポか? 神なのに??」


 小馬鹿にしたように鼻で笑うノリリア。


 ノリリア、さっきからいつになく、かなり好戦的だけど……

 あ、あんまり、挑発しない方がいいと思うんだけど……?


 ドキドキドキドキ


『まぁな! お前、さっきからな~んか勘違いしてるみてぇだから教えてやるが……、神とて生き物、万能じゃねぇ。出来ねぇ事なんざいくらでもあるさ。そもそもがだ、神だのなんだのと好き勝手呼び始めたのは、お前らの方だからな。ちょっと力の種類が違っていて、得体が知れねぇからって、ビビったり崇めたりしやがってよ……。それで、自由に生きようとした途端に封印だぜ? そりゃねぇ~だろうよ!!』


 ヘラヘラと笑いながら、クトゥルーはそんな事を口走った。

 つまり、自分は万能の神では無いと……?

 こいつ、本当は、いったい何者なんだ??


「ポポゥ……、悪い事をするから封印されるのポよ」


 ボソボソと悪態をつきながらも、ノリリアは杖を頭上へと掲げて、呪文を唱えた。


「#光__フォース__#!」


 杖の先に、眩いばかりの光が灯る。


「ポッ!? 魔法が使えるポッ!??」


 目をパチクリして驚くノリリア。

 自分で呪文を唱えておいて、何を言ってんだ? と俺が思っていると……


『はははっ! やっぱりな!! つまり、ここには魔封じの結界が張られてねぇって事だ。しかし……、さっきも言ったが、妙な真似はするなよ? 少しでもおかしな動きをしたら、こいつの腹に風穴開けるぞ』


 ……ん? ふぇっ!? 俺かよっ!!?


 刃物のように鋭利に尖った触手の先端を、俺のやわやわでプニプニなお腹に向けて、ノリリアを脅すクトゥルー。

 

 くっそぉ~、俺とノリリアを相互に囮にしやがってぇ~! 

 卑怯だぞこんにゃろめっ!!


「ポッ、分かってるポ」


 悔し気な表情ながらも、抗う術がなく、クトゥルーに従わざるを得ないノリリア。


『よし。じゃあ行くとすっか。おいモッモ』


「ぼっ!? なっ!!?」


 突然に名前を呼ばれて、ビクビク、あわあわとする俺。


『なにビビってんだよ、面倒くせぇ〜奴だな』


 びっ!? ビビって……、るよっ!

 ビビってるけど、それの何が悪いのさっ!??

 お前みたいな奴に名前を呼ばれて、ビビらない方がおかしいわっ!!


『お前、あれ持ってるだろ? ほら、欲しい物の在処を指し示すコンパス。空間魔法はかかってねぇようだが……、結構広そうだ。無駄に歩くの嫌だからよぉ、それ使えや』


「こっ!? ん……、分かった」


 くぅ~っ!?

 逆らえないと知ってて、次々命令しやがってぇえ~っ!??


 てか、なんで知ってんの?

 俺が、望みの羅針盤という、とっても便利なコンパスを持っている事を……??


 いろいろと気になるものの、もたもたしているとまたノリリアの尻尾が危険に晒されそうなので、俺は慌てて胸元から羅針盤を取り出した。


 本当は、こんな奴の為になんて、使いたくないけど……

 ノリリアを守る為には仕方がない。


「ゆ……、ユディンは、何処?」


 小さく声に出して問う俺。

 すると羅針盤の金色の針は、暗闇の中を真っ直ぐに指した。

 北を指し示している銀色の針とはほぼ真逆の、東と南の間を。


『そっちか。じゃあ……、モッモ、先を歩け。さぁ行け』


 クトゥルーにそう言われて、先の尖った触手で脅されながら、俺は歩き出した。

 一寸先もよく見えない、どこまで続いているのかも分からないような暗闇の中を。


 うぅ~、こ、怖い……

 後ろはクトゥルー、前は真っ暗闇とか……、なんの拷問だよっ!?


 ドキドキ、ビクビクしながら、俺は歩を進めていく。

 

 昇降機から一歩踏み出した先の地面は、完全なる岩だった。

 恐らく、周りを囲っている岩と同じものだろう。

 つまりここは、四方八方を岩で囲まれた洞窟なのだ。

 しかしながら、洞窟のわりには湿気が少なく、足元もカラッと乾いている。

 そして、何故だか分からないが、何処かで嗅いだ事のあるような品の良い香りが、微かに漂っていた。

 

 ヒタヒタと歩いて行くうちに、だんだんと目が慣れてきて、視界の先にあるものに俺は気付く。

 ぼんやりと光る、淡い、紫色の光だ。

 それも、一つではなく、幾つも……?


『あそこかぁ』


 後ろを歩くクトゥルーも気付いたらしい。

 にんまりと笑っているかのようないやらしい声で、そう言った。


 ど、どうしよう……??

 このまま、言われるままに、こいつをユディンの元に連れてっていいのか???

 ……いや、良くないだろう。

 でも……、じゃあ、どうしたらいいんだ????


 鞄の中には、プラティックから与えられた旧世界の神を倒す為のアイテム、邪滅(アポクティ)(・ビブリオ)が入っている。

 それを使えば、もしかすると、このクトゥルーをなんとか出来るかも知れない。


 だけど……、さっきクトゥルーが言ったように、俺はまだその中身を見ていないし、使い方も分かっていない。

 でも、クトゥルーを倒す為には、それ以外に方法が無いわけで……


 もし仮に、今ここで、邪滅の書を取り出したとして、クトゥルーはどうするだろう?

 使えないくせに、とか言って、鼻で笑うだろうか??

 それとも警戒して、あの触手で俺を攻撃してくるだろうか???

 そうなった時に、俺は俺自身を守れるのか????

 それに、ノリリアだって……、触手に縛られたままの状態で、助けられるだろうか?????


 頭の中が、グルグルと回っている。

 何をどうすればいいのか、今のこの最悪な現状を打破する為の、正解の行動は何なのか、全く答えが出ない。

 そうこうしているうちにも、俺たちは一歩ずつ、確実に、それへと近づいて行っていて……

 

 うぅう~、どうしたらいいんだぁあっ!?!!?

 

 パンクしかかった頭のまま、俺は辿り着いてしまっていた。

 史実には残されていないアーレイク・ピタラスの五番目の弟子であり、幼い頃からの友達であり、上級悪魔である彼の元へ……


『よぉ~、ユディン。五百年ぶりだなぁ』


 クトゥルーは、口元に笑みを浮かべながらそう言った。

 目の前にいる悪魔に対して俺は、緊張の面持ちでゴクリと生唾を飲んだ。


 淡い紫色の光を放つ、巨大で、複雑な模様の魔法陣。

 地面に描かれたそれは、まるで時計の歯車のように、一定のスピードで、静かに回り続けている。

 その中央にいる、見慣れぬ生き物……


 見るからに異質で不気味な黒い肌に、額には歪に曲がる青い角が生えており、背には角と同じ色の鳥のものでは無い禍々しい形の翼を有している。

 その姿は、先程写真で見た、まだあどけなさの残る子供のような、小さな悪魔ではなかった。

 身長およそ2メートルのその巨体は、痩せ細ってはいるものの、完全なる大人の姿だ。

 

 これが、アーレイク・ピタラスの五番目の弟子、ユディン……、なのか?


 ユディンと思しき悪魔は、その両目を閉じ、魔法陣の中央で、静かに直立していた。


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