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719:これから、どうなるの……?

「ポォッ! ライラック、これ見てポ~♪」


 解呪術全書を高く掲げながら、嬉しそうにライラックに駆け寄るノリリア。

 ライラックに起きている小さな異変には、どうやら気付いていないようだ。

 ライラックは何も言わず、微笑んでいるような顔でノリリアを見下ろしている。

 その優しげな瞳は、何時ぞやの彼を思い出す、煌めく虹色で……


「モッモ! 今すぐそいつから離れて!!」


 グレコが叫ぶ。


「ライラックは既に此方にいる!」


 ギンロも叫ぶ。


「ライラックは、おいらと一緒に試練に敗れてたんだ!」


 カービィも叫ぶ。


「戦え! 取り逃すなっ!!」


 ティカも叫ぶ。


「聞こえとるんかモッモ!? 返事をせぇえっ!!?」


 テッチャも叫ぶ。


 耳元が騒がしい中、俺の思考は完全に止まっていた。

 視界の先には、嬉しそうにライラックに話し続けるノリリアと、それを見下ろすライラックの姿が。

 そして、ゆっくりと、ライラックがノリリアに向かって手を伸ばしていき……


「はっ!? 離れてノリリア!!!」


 俺は、そう叫ぶだけで、精一杯だった。


「ポ? モッモちゃん……??」


 ブチョチョッ……、ズュロロロロロ~~~!!!


 それは、本当に一瞬だった。


 水気を帯びた何かが地面を這い回るような、気味の悪い音を響かせながら、そいつは現れた。

 ドス黒い紫色をした、何本もの太い触手。

 タコとかイカなどのそれと酷似しているが、表面に吸盤は付いておらず、なめくじの体表のように艶かしくヌメヌメと光っている。

 大きさといい、質感といい、色といい……、気色悪いの極みである。

 見た目もかなりのインパクトだが、それよりも強烈なのが臭いだ。

 海の……、真夏の太陽に照らされて渇いた磯の香りを凝縮したかのようなその臭いは、嗅覚が良すぎる俺には余りに耐え難いものだった。


 猛虎人であるはずのライラックの背から、そのような触手が一気に生え出た様は、なんともグロテスク且つ恐ろしくて……

 だけども、恐怖している暇など俺には無かった。


「ノッ!? ノリリアァ~~~!??」


 触手は、すぐ側に立っていたノリリアの体に巻き付き、その上半身をグルグルに覆ってしまったのだ。

 そしてそのまま、ノリリアの体を宙へと持ち上げた。


 バサッと音を立てて、床に落ちる解呪術全書。

 何が起きたのか分からず、目を見開いて驚くノリリア。

 しかしながら、身動きが取れないどころか、触手に口まで塞がれてしまっている為に声も出せずにいる。


 触手を出した張本人であるライラックは、尚も微笑みながらノリリアを見つめている。

 その背からはまだ何本もの触手が生え出ていて、ウネウネと蠢き続けているのだ。

 あまりの光景に俺は、吐き気を覚えると共に言葉を失った。

 そして……


『さぁ~、始めようじゃないか』


 虹色に輝く瞳を此方に向けて、ライラックはそう言った。


 は……、始める?

 な、何を……??

 てか……、え、待って……

 こいつはもしかして……???


「モッモ!? 何が起きたの!??」


「返事をするのだモッモ!!!」


「おいっ!? 大丈夫かモッモ!!?」


「武器を持てモッモ!!!」


「モッモーーーーー!?!?」


 耳元が騒がしい。

 だけど、周りはとても静かで……

 ドキドキと鼓動が速くなっていく俺の心臓の音が、相手にまで伝わりそうなほどだ。


『外野は放っておけよ』


 そう言って、ライラックはその掌を此方に向けた。


 ひっ!? 何する気っ!??


 身構える俺。

 すると次の瞬間、スッと光が視界の端に流れたかと思うと、みんなの声が聞こえなくなった。


「え? み……、みんなっ!?」


 耳に着けている絆の耳飾りをトントンと叩きながら、慌てて声を出す俺。

 しかし、交信は途絶えてしまっているらしく、みんなからの返事は無い。


『こっちへ来い、モッモ』


 ライラックはそう言って、背中から生えている触手で手招きしている。

 その隣では、体を触手にグルグル巻きにされて、宙に吊り上げられたままのノリリアが、青褪めた表情で目をパチパチしていた。


 絶対……、絶対に、ヤバいぞこれ。

 どう考えたってこいつ、あいつだろ?


 いくら勘の悪い俺でも、目の前のライラックが本当は何者なのか、察しがついた。

 同時に、さっさとこの場から居なくなったプラティックに対し、なんとも言えない感情が湧き出てきた。

 だけども、そんな俺の複雑な心中を、目の前の触手野郎が慮ってくれるはずもなく……


『お~い、聞こえてるよな? 早くしねぇ~と、こいつの尻尾、引き千切るぞ??』


 そう言って、狸紛いなノリリアの尻尾に、一本の触手がグルリと巻き付き、強引に引っ張り始めたではないか。


「ふぅーーーー?!?」


 ノリリアが、目をギュッと瞑って叫ぶ。


「やっ!? やめてっ!!?」


 俺は慌てて走り出した。

 まるで夢でも見てるかのように体がフワフワするし、床を蹴る脚はガクガクだ。

 両手は、血が通っていないかのように冷たくなっている。

  

 正直、怖い。

 怖いし、気持ち悪いし、臭いけど……

 でも、頭の中でうだうだ考えていたら、ノリリアが殺されちゃう!?


 金の扉を抜け、封魔の塔の昇降機内へと戻り、触手を生やしたライラックと、グルグル巻きのノリリアの元に駆け寄った俺。

 恐怖の為か、大した距離を走ったわけでもないのに汗だくで、全身がカタカタと小刻みに震えている。

 

 こ……、これから、どうなるの……?


『鍵は手に入ったのか?』


「か……、鍵?」


『そう、鍵だ。地下に向かう為のな』


「あ……、うん……、はい……」


『よし。こっちに寄越せ』


「うっ!? は、はい……」


 逆らう事など出来るはずもない俺は、ニュッと伸びてきた一本の触手に、握り締めたままだったあの黒い宝玉を渡した。

 先程プラティックから授かった、ユディンが眠る地下へと向かう為の、昇降機の鍵だ。

 

 絶対、渡しちゃいけない気がするんだけど……

 でも、仕方ないじゃないっ!?

 この状況で、俺にどうしろとっ!!?


 触手は、ウネウネとしながら空中を移動して、黒い宝玉を昇降機の柱の穴へと埋め込んだ。

「0」と数字が振られたその穴に、宝玉がすっぽりと嵌って、そして……


 ガガガガガガガガッ!!!!!


「うわっ!?」


 地震のような揺れと共に、昇降機は動き出した。

 これまでとは違い、下に向かって。

 ぐんぐんぐんぐんと、下降していく昇降機。

 そのスピードは速く、ここに来るまでに通ってきた様々な階層の金の扉が、流れるように通り過ぎて行く。


『さて……。はっ、ビビってんのか?』


 俺を見て、ニヤリと笑うライラック……、改め触手野郎。

 真っ直ぐに俺の目を見つめる、キラキラと光る虹色の瞳は、俺の心の内など完全に見透かしているように感じられた。


 ビビっているかだと……?

 ビビっているに決まってんだろっ!?

 しょしょ、触手だぞっ!!?

 得体の知れない触手が、背中から生えた化け物だぞっ!!??

 ビビるに決まってんだろがっ!!!


『まぁ、それが普通の反応だな。この世界じゃ〜、俺みたいな存在は稀有だ。はははっ、異物、とも言えるか?』


 ヘラヘラと笑いながら話す様は、これまでのライラックでは見られなかった表情である。

 なんていうか、ライラックはこう、いつもキリッとしていたから。


 でも、なんだろうな……?

 こいつ、きっと敵なんだろうけど……

 喋り方がフランクなせいか、ちょっぴり怖いのがマシになってきたぞ。

 触手も……、怖いし臭いけど、俺に何かしてくる様子も無いし……


 少しばかり恐怖心が和らいだ俺は、未だ触手に巻き付かれて宙に浮かんだままのノリリアへと目を向ける。

 口から下が見えないので、若干表情が読み辛いけれど……

 その視線から察するに、かなり怒っているようだ、触手野郎をギロリと睨み付けている。


 とりあえず……、ノリリアは大丈夫そうだ。

 尻尾を引っ張ってた触手も、今はもう離れている。

 となると……、こいつが何者で、何をする気なのか、聞き出した方がいいのかな……?


「あ……、あの……。あなたは、その……」


 話し掛けてみるものの、やっぱり怖いので、なかなか言葉にならない俺。

 すると、触手野郎はまたもヘラヘラと笑いながらこう言った。


『あぁ、俺か? 俺はクトゥルー。ずぅ~っと昔に、好き勝手やり過ぎたせいで封印されちまった、神々の一柱さ』


 ………………で、ですよねぇ~?


 余りにサラッと自己紹介されて、俺は半笑いになる。


 いや、まぁ、そうだろうなって思ってはいたんですよ。

 けどね、ほら、アーレイク先輩の予知は外れたとかなんとか、プラティックさんが仰ってたんでね。

 クトゥルーさんに出会うのは、もう少し先かな~? なんて、思ってたんですよ~。


 と、心の中で思いつつも、そんな軽口は絶対に叩けない俺。


 だけど……、ここに現れたって事は、アーレイク先輩の予知が当たってたって事で……

 え!? その場合って、俺、こいつに殺されるんじゃ……!!?


 先程よりも激しく、見た目にも分かるほどに、ガタガタと震え始める俺の体。

 全身から噴水のように汗が吹き出し、表情は氷のように固まっている。


 そんな俺を見て、クトゥルーは……


『んあ? 本当にビビリだな〜お前。よくそんなので、調停者なんて大役を引き受けたなぁ』


 尚もヘラヘラと笑いながら、俺をディスるクトゥルー。

 触手が生えてはいるものの、姿がまだライラックだからか、笑っているのを見ていると、またしても少し恐怖が和らいでいく。

 そして、俺は思った。


 もしかして……、もしかすると……

 こいつ、実はそんなに悪い奴じゃないんじゃないか?

 イグも、いかれてはいたけど、チャイロの友達だからって理由で、俺の事、一度は逃してくれたしな。

 ていうか、そもそも……、こいつがここへ来た理由も、まだちゃんと聞いてない。

 プラティック曰く、アーレイク先輩の予知では、このクトゥルーが、ユディンの力を使って世界に時空穴を沢山発生させる~、とかなんとか、そんな感じだったわけだけど……

 こんなにヘラヘラ笑う奴が、そんな事するだろうか??

 万が一にも、俺のビビリを目の当たりにして、見逃したりしてくれたり……、しちゃったりして……???


『まぁでも、調停者は調停者だ。邪魔だてするなら、お前も消すからな』


 ライラックの顔で、その大きな口で鋭い牙を見せながら笑うクトゥルーの言葉に、俺の頭の中は真っ白になった。

 

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