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673:天邪鬼

「尊敬する相手から、欲しい言葉をかけてもらえる鏡……。ポポ、確かにそれなら、鏡の前に立ったあたち達全員に共通する事かも知れないポね」


 ノリリアはそう言って、マシコット、パロット学士、ライラックに目配せする。


「そうですね。僕は父を尊敬していますし……、ずっと心残りだった言葉を貰えましたから」


 マシコットが頷く。


「言わずもがな、私はディアノ・メノス学士を心より尊敬しております! しかしながら、ロビンズさんの推測が正解であるのなら、先程の学士の言葉は私の望んだものという事になり、学士自身の言葉では無いという事になって……。少々複雑です」


 ちょっぴり残念そうなパロット学士。


「自分も、トゥエガ師匠は恩師であり、目標であり、掛け替えの無い存在でさ。ロビンズの推測が正しいかと」


 そう言って、ライラックがノリリアを見ると……


「ポポゥ、これで鏡の正体は分かったポね。自らが尊敬する者が映し出され、自らが望む言葉をかけてもらえる鏡。さて……、ここからが問題ポね。これの何が、どう試練なのポ?」


 短い腕を組み、むむむと考えるノリリア。


 確かに、ロビンズの推測が当たっているとして……

 だからって何なんだこの鏡は?

 尊敬する相手から褒められる事の、どこが試練なんだ??


「おまいはどうだったんだ? さっきのエルフのお姉さんは誰だ??」


 カービィがロビンズに問い掛ける。


「先程の淑女は、セレーネ・ルナジェナ・ブルーナシス。ムーンエルフの祖であり、我が故郷ルナジェナの建国者だ。ムーンエルフは、祖であるセレーネを女神と崇めている。無論、私もその一人だ」


 あ~、なるほど……、つまり宗教問題ですかね?


「ほぉ~! で……、何言われたんだ?」


 ニヤニヤと笑うカービィに対し、ロビンズは……


「答える義理は無い。ノリリア、試練はまだ続いている。おそらく全員が鏡の前に立つ必要があるのだろう。残りの者も順番に試した方がいい」


 ほぼ無視に近い返答をして、ノリリアに試練の続行を促した。


「ポッ! そうポね!! じゃあ次は……、インディゴ、試してみてポよ」


「承知しましたわ」


 いつも通りの優雅な動きで、鏡の前の石の上に立つインディゴ。

 するとすぐさま、鏡の表面がウネウネとうねり、景色が滲んでいって……

 そこに現れたのは、インディゴにそっくりな顔立ちの、赤毛の女性だ。


「そんな……、バーガンディ? どうして??」


 インディゴは、みんなには聞こえないであろう小さな小さな声でそう呟いた。

 何か、予想外の相手だったのだろうか?

 こちらからでは、その表情は伺い知れないが……、怒っているのだろうか、ギュッと握り締めている両手の拳が、微かに震えている。


「ポポ? インディゴにそっくりポね??」


 インディゴの異変に気付かないノリリアは、そう言って首を傾げた。

 インディゴは、何も言葉を発しないまま、こちらにクルッと向き直り、いつものお上品な笑顔でニッコリと笑った。


「問題ないですわ。次の方、どうぞ」


 石の上から降りるインディゴ。


「今のは誰ポ?」


 尋ねるノリリア。


「私の双子の妹ですわ。今は領主として、我が故郷を納めておりますの」


「ポッ!? 領主様なのポッ!!? 凄いポね~!!!」


「はい、自慢の妹ですわ」


 インディゴは、にこやかにそう答えているものの、どうしてだか、ギュッと握り締めた両手の拳はそのままだ。

 そして……


「少々船の様子を見て参りますわ、波に攫われては大変ですし」


 ノリリアにそう告げて、インディゴは一人で小舟へと戻って行く。

 俺の横を通り過ぎた時、少しばかり俯き加減のその表情は、何故かとても悔しそうだった。


 なんだろう? 

 なんだか様子が変だけど……、大丈夫なのか??


「ポ、鍵はまだ現れないポね……。次はモッモちゃん達の番ポよ」


 ノリリアの言葉に、俺はインディゴを心配しつつも、視線を鏡へと戻す。


「私から試すわ!」


 ずいっと前に出るグレコ。

 何やらヤル気満々のようだが……、鏡に映るだけなのに、そこまで気合を入れる必要があるだろうか? 否、不必要であろう。


「さぁっ! 来なさいっ!!」


 鏡に向かって、何故か喧嘩腰のグレコ。

 いったい何と戦うつもりなんだ?


 すると、先程と同じように、鏡の表面がウネウネとうねり始める。

 しかしながら、そこに映し出されたのは……


「んあ? グレコさんじゃねぇか」


 カービィの言葉通り、鏡の向こう側にはグレコが立っている。

 本人が普通に映るという初めての結果に、俺達は皆揃って首を傾げた。


 まさかとは思うが、グレコは、自分で自分の事を尊敬しているのか?

 だとしたら、ちょっと痛いような気が……


 だけど、少々違和感がある。

 それは、石の上に立つグレコ本人と、鏡の中のグレコとでは、何故か服装が違っている点だ。

 グレコ本人は、いつもの動き易い冒険服なのだが、鏡の中のグレコは、まるで寝間着のようなネグリジェ姿なのだ。

 そして俺は、その姿に見覚えがあった。


 あれは……、どっかで見たような……?

 どこだっけか??

 どっか、海の近くで……???


「言われなくても分かってるわ!」


 突然グレコが、鏡に向かって叫んだ。

 そして、何やらプリプリと怒った様子で石から降り、こちらに戻ってきたではないか。


「ど、どうしたポ? 何が……??」


 不機嫌そうなグレコに対し、ノリリアが遠慮がちに尋ねる。


「さっきの、みんなには私自身に見えたでしょうけど……。あれは私じゃない。あれは、私の母様よ」


 お? え……??

 あっ! そっか!!

 あの服装、どっかで見た事あると思ったら……

 グレコの故郷であるエルフの隠れ里の海辺で、グレコの母ちゃんが着ていた服だ!!!


「ポポゥ、お母様だったポか。そっくり過ぎて分からなかったポよ。てっきり、グレコちゃん自身かと……」


 何か言いたげながらも、言葉を切るノリリア。

 うんうん、これ以上掘り下げない方がいいよ、グレコの機嫌が更に悪くなりそうだもの。


「して、母上はなんと?」


 よせばいいのに、ギンロが尋ねた。


「母様ったら、同じ事ばっかり言うんだから……。いっつもそう、顔を合わせれば決まって言われるのよ。あなたは巫女になどならずに自由に生きなさい、ってね。そんなの言われなくたって、私は自由に生きて行くし、現にそうしているもの! なのに、いつもいつも……。そう何度も同じ事を言われると、まるで私が自分の意思で自らの生きる道を選んで無いって言われているみたいで……、心底腹が立つのよ!!」

 

 あ~、そういう感じのやつね~。

 グレコって、母ちゃんのこと、尊敬はしてるんだろうけど、結構コンプレックスっぽいもんな。

 けどさ、この鏡は映った人の真の願いを映すわけだから……、うん、腹が立つのもきっと、図星だからだよね。


「うむ……。次は我が行こう」


 グレコに返す言葉が見つからなかったのであろう、ギンロがスッと逃げて行く。

 石の上に立ち、ジーッと鏡を見つめるギンロ。

 ウネウネと鏡の表面がうねり、現れたのは……


「ポポポッ!? 魔獣!??」


「フェンリル!!??」


 真っ黒な毛並みの、巨大な狼のような魔獣、フェンリル。

 鏡に映った虚像とはいえ、その迫力は凄まじく、身構える騎士団のメンバー達。

 しかしながら、俺達は焦りもしなければビビリもしなかった。

 何故ならそこに映っているのは、俺の故郷であるテトーンの樹の村の守護者、ガディスだからだ。

 巨大なはずの鏡いっぱいに映るその姿に、やっぱりガディスはデカイんだなと、俺は改めて思う。


「ガディス殿……。我はまだ、貴殿には遠く及ばぬ。故にそのような言葉は、まだ我に値せぬ!」


 鏡の中のガディスに向かってそう言って、こちらも何やら不機嫌そうに戻ってくるギンロ。


「ギンロちゃん……、さっきのは、知り合いポ?」


 恐る恐る尋ねるノリリア。


「うむ。我が目指す、我の叔父上である」


 めちゃくちゃ不愉快そうな顔でギンロは答えた。


「なんて言われたんだ?」


 相変わらず空気が読めないらしい、ヘラヘラと尋ねるカービィ。


「ぬぬぬ……、ガディス殿は我の事を、とても強くなった、世界最強と名乗れるほどだと仰られた。しかし、己の力は己が一番よく分かっている。我はまだ、世界最強どころか、ガディス殿の足元にも及ばぬだろう。この鏡、真の願いを映すと言うが……、それ故に、己の現状、己の力量を思い知らされるのだ。何とも腹立たしいものであるな」

 

 グルグルと喉を鳴らして怒りながら、ギンロは歯を食いしばった。


 グレコもそうだけど、自分が尊敬する相手から自分の欲しい言葉を言ってもらえたからって、皆が皆幸せな気持ちになるわけじゃないんだな。

 他人からの賞賛を素直に喜べない……、俗にこれを、#天邪鬼(あまのじゃく)という……、ドドン!


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