655:右に三回転、左に一回転、最後に真ん中を押し込む
「ポ……、次なる試練は、どこに行けばいいポか?」
尋ねるノリリア。
『次なる試練は第二階層にて用意されている! 我が与えし鍵でもって、上階へと迎え!!』
偉そうに答えるリブロ・プラタ。
「ポポゥ、これを使って……?」
ノリリアは、手の中にある、白い小さな丸い宝石を見つめた。
「ふむ、何やら魔力が込められているようにも感じられるが……。これをどのように使えと?」
未だリブロ・プラタを信頼していないらしいロビンズは、そう言ってリブロ・プラタを睨み付けた。
『愚かなる貴様らでも既に気付いているだろうが、ここは上階へと向かう昇降機の内部である! 中央の柱にそれを埋めよ!! そして貴様らの手中にある塔の一部でもって、昇降機を稼働させるのだ!!!』
偉そうながらも、きちんと使い方を教えてくれる、親切案内係リブロ・プラタ。
その言葉に従って、俺たちはみんな、部屋の中央にある柱へと向かった。
中央の柱はかなり太く、その上部からはどでかい鎖が生え出ており、遥か上の方に向かって延々と伸びている。
そしてその側面には、何に使うのか分からない、横向きに生える妙な突起があって、その突起のすぐ上の所、柱の表面には、小さな丸い穴がいくつか空いていた。
その穴にはそれぞれ、0~7までの数字が振られている。
「こりゃ~、あれじゃねぇかの? 歯車の出番じゃて」
柱の側面から飛び出ている突起をしげしげと観察しながら、テッチャが言った。
よく見るとその突起には、ネジの様な捻れた細工が施されている。
「なるほど! あれはハンドルだったのですね!?」
テッチャの言葉に一人納得して、カバンの中を漁るパロット学士。
取り出したのは、ピタラス諸島第一の島イゲンザ島にて、アーレイク・ピタラスの一番弟子と言われている500年前の故人……、だったはずのフクロウ獣人、イゲンザ・ホーリーより預かった、舵輪のような形をした歯車だ。
「確か……、右に三回転、左に一回転、最後に真ん中を押し込む、と記されておったはずじゃ」
テッチャがそう言うと、パロット学士は歯車を柱の突起に当てがって、右に三回転、左に一回転、最後に真ん中をググッと押し込んだ。
すると歯車は、カチリと音を立てて、柱の突起にピタリと装着された。
「ポポゥ! こういう事だったポか!!」
感心するノリリア。
「では、その宝玉は……、あ、ここは第一階層なので、1と書かれている穴に埋めれば良いのでは?」
インディゴの言葉に、ノリリアは少々背伸びして、歯車の上部にある柱の穴のうち、1と記されている穴の中へと、白い小さな丸い宝石を嵌め込んだ。
すると、宝石はピカッと光を放ち……
フューーーーーーン!!!
「なっ!? なんだぁっ!??」
突然、聞き慣れない音が辺りに響き渡り、皆は身構える。
なんだろう? 今の音、パソコンを起動する時みたいな音がしたけど……
どっかで何かが作動したのか??
と、次の瞬間。
ガコンッ! ガガガガガッ!!
「うわぁあっ!?」
「キャアッ!!!」
足元が大きく揺れて、俺たちは悲鳴を上げた。
『取っ手を回すのだ!!!』
リブロ・プラタが叫ぶ。
「ポポッ!? ラ、ライラック!!!」
「お任せくだせぇっ!」
中央柱に装着された歯車、改めハンドルに飛びかかり、取っ手部分をギュッと握りしめ、力一杯回し始めるライラック。
と同時に、柱の上部から生え出ているどでかい鎖が、ジャラジャラジャラと音を立てながら動き始めたではないか。
それはまるで滑車のような動きで、一部は下に向かって動き、また一部は上へ向かって動いている。
床はガタガタと小刻みに揺れ続け、周囲の壁は少しずつ下がっていく。
「ふむ、思った通りじゃな」
地面に両手をついたままのへっぴり腰な姿勢で、テッチャが言った。
「まさかとは思うたが……。コチャンめ、500年前に既に、これほどまでに複雑な仕掛けの、これほどに巨大な昇降機を完成させとったとは……、さすがは稀代の奇術師と呼ばれるだけの事はあるの」
つまり、この広い部屋全部が昇降機であり、床毎持ち上げて上階に向かっている、という事なのだろうか!?
「何これ!どうなってるの!!?」
未だ現状が把握出来ていないグレコが声を上げる。
「大丈夫だグレコさん! この部屋毎二階に向かってんだよ!!」
昇降機がなんたるかを知っているカービィが、ざっくりと説明をするも、世間知らずなグレコは余計に眉間に皺を寄せるだけだ。
「ほう、便利な物だな」
頭の作りが簡単なギンロは、何故か納得している。
騎士団のみんなは、当たり前に昇降機が何かを理解しているので、足元の振動に驚きながらも、冷静な顔付きに戻っていった。
巨大昇降機は、非常にゆっくりとした動きで上昇を続けた。
そして5分ほど後、ズシーン! という音共に足元の振動が止まって、俺たちは無事に二階へと運ばれた。
その間ずっとハンドルを回し続けていたライラックは、ホッとした様子ながらもかなり疲れた表情で額の汗を拭っていた。
『第二階層に到着! これより、第二の試練、開始!!』
フワフワと空中を移動して、上昇した事によって新たに現れた壁の扉の前にて、リブロ・プラタが叫んだ。
扉は金色の光に包まれており、扉の正面にはまた別の生き物のレリーフが象られている。
「あれは……、小鬼、のように見えますね」
マシコットが小さく呟く。
その言葉通り、扉正面に象られているレリーフは、額に小さな角を生やした、意地の悪そうな顔付きの、ゴブリンと思しきものだった。




