645:「僕がやってみるよ」
ヴェルドラ歴2815年、ノヴァの月12日。
この日、およそ550年もの間謎に包まれたままであった、故アーレイク・ピタラス大魔導師が残した墓塔の調査が、遂にぞ行われる事となった。
墓塔には、生前のアーレイク・ピタラスが残した数多の歴史的遺産、または様々な解呪魔法が眠るとされているが、如何に……
調査に当たるは、世界有数の魔法大国フーガにおいて、国一番と名高い魔導師ギルド、白薔薇の騎士団、その精鋭達。
今まさに、今世紀最大とも言えよう重大プロジェクトが、開始される。
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【墓塔内部調査メンバー】
リーダー:ノリリア・ポー
副リーダー兼古語解読係:パロット・ガジェット
通信係:インディゴ・プラソン
衛生係:ロビンズ・ウィドゾネル
前衛:マシコット・ロロー
前衛:ライラック・ティガラ
予備衛生係:カービィ・アド・ウェルサー
古語解読係:グレコ・レクサンガス
古語解読係:テッチャ・ベナフグ・デタラッタ
予備前衛:ギンロ
予備前衛:ティカ・レイズン
精霊召喚師:モッモ
合計 12名
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「ポポポッ!? ポポポポポッ!!? ポッ!!?? ……だ、駄目ポゥ」
ノリリアも、駄目。
「ぬががががっ!? ふんぬっ!!? ぐぁががががががっ!!? ……ふぅ~、何がどうなっとるんじゃ?」
テッチャも、駄目。
「うしっ! おいらに任せろっ!!」
鼻息荒く前へ進み出たカービィも……
「くぉおっ!? なんっ!?? でぇえっ!?!? ……っつ! だぁあぁぁ~!!」
やはり駄目だった。
入口も出口も、窓の一つも見当たらない封魔の塔。
その裏側の壁面に唯一発見された小さな小さなその鍵穴は、塔を攻略せんと意気込む俺たちの出鼻を挫き、その行方を阻んでいた。
おいおい……、おいおいおいおい!
まさか、ここで立ち往生かよっ!?
こんな最初の最初で足止め喰らうなんて……、前途多難過ぎるぅっ!!!
すると、後ろに控えていたインディゴが、ずいっと前に出てきて、ジーッと鍵穴を見つめた。
そして、その細くて綺麗な指を、おもむろに鍵穴に差し込んだではないか。
うおっ!? 指入れたぞっ!??
てか……、指は入るのねっ!?!?
何故だっ!!???
「……なるほど。物理的に問題があるわけではなさそうですわね。カービィさん、鍵を貸してくださいます?」
カービィはちょっぴり悔しそうな顔をしながらも、金の鍵をインディゴに手渡した。
インディゴは、受け取った金の鍵の先端をジーッと観察した後、そっと鍵穴へと近付ける。
しかし……、やはり鍵は、鍵穴へと入っていかない。
その先端は鍵穴の寸前で止まってしまっていた。
まさかとは思うけど……、別の鍵が必要なのか?
けど、鍵になる物なんて、これの他には無かったはず……
どこかで取り逃がしたとか??
だとしたら、今日、ここから先に進むのは不可能なのでは???
さっきまでとは違うドキドキが、俺の小ちゃなマイハートを襲う。
しかしながら、インディゴは納得した様に頷いて……
「やっぱり……。これは、一種の封印魔法がかけられていますわ。見てくださいまし。小さくて見え辛いでしょうけれど、ここに結界の様なものが見えますの」
はへ? ふ、封印魔法?? 結界だと???
インディゴの言葉に、みんなは彼女の背後から身を乗り出して、小さな小さな鍵穴のその中を注視する。
俺も、首を傾げつつ、彼女が指差す先を見つめた。
……あっ! 本当だ!!
確かに、鍵穴へ入ろうとする鍵の先端を拒むかのように、両者の間に小さな小さな膜のようなものが見て取れるぞ!!!
それは、これまでに何度か見た事のある、淡い水色をした守護結界の放つ魔力のオーラによく似ていた。
「おぉっ!? なるほどそういう事かっ!!? じゃあ……、この結界を解かねぇと、入るもんも入らねぇって事だな!」
こちらも何やら納得したらしい、カービィがポンっと手を叩いた。
「そういう事ですわ。ですが……、この魔法陣、小さくて見え辛いですけれど、とても複雑な形をしてますわ。これはおそらく、我々が使う魔法とは別の代物。我々の解除魔法で、果たして封印が解けるかどうか……」
鍵穴に顔を近づけ、その内部を覗き込みながら、インディゴはそう言った。
「でも、ここ以外に、入口に繋がりそうな場所は見当たらないポよ。なんとしてでも、ここから中に入るしかないポね。物は試しポよ」
そう言って、ローブの内側から魔導書と杖を取り出し、鍵穴に向かって構えるノリリア。
インディゴは鍵穴から顔を離し、少し後ろに下がった。
「封印解放」
ノリリアが呪文を唱えると、杖の先端から赤い光が発生し、真っ直ぐに鍵穴へと向かって……、次の瞬間。
パチパチッ……、バリバリバリィッ!!!
「ポポポゥッ!?!?」
「ぬぉおっ!?!?」
「きゃっ!!!」
「熱っ!? 危ねぇっ!!?」
鍵穴から強烈な火花が発生し、真っ赤な火の粉が辺りに飛び散った。
なっ!? 何っ!?? 何が起きたのっ!!??
それはまるで、前世でいうところの、コンセントに刺しちゃいけない物を刺した際に起こる現象にそっくりだった。
突然の事に驚いて唖然としながら、みんな自然と数歩後ろに下がる。
「こりゃ~、一筋縄じゃいかねぇな……。さぁ~て、どうすっか?」
すぐさま平常運転に戻ったカービィが、ヘラヘラと笑いながらそう言った。
「どうするも何も、あたち達の魔法でどうにか出来る問題じゃないポよ。むぅ~~~ん」
完全にお手上げ状態のノリリア。
他に良い案を出せる者もおらず、一同は沈黙してしまう。
……え? どうすんの??
まさか、本当にここで、足止め食らって終わり???
その時、俺の頭の中に不思議な声が聞こえた。
『お前がやりゃ〜いいじゃねぇかぁ?』
……ふぉ? 何?? 誰???
突然響いた聞き覚えのないその声に、俺はキョロキョロと周囲をみる。
すると……
「僕がやってみるよ」
……え????
不意に聞こえたその声に、俺は目が点になる。
「ポポ? モッモちゃん、何か良い案でもあるポか??」
ノリリアがそう言って、俺を見た。
周りのみんなも、全員が揃って俺を見ている。
だけど……
え? え?? え???
俺今、何も言ってませんけど????
だけど、さっきの声は確実に俺の声だった。
俺自身は何も言っていないはずなのに、どっからか俺の声が聞こえて、「僕がやってみるよ」と言ったのだ。
何が……、どうなって……?????
混乱する俺とは裏腹に、ノリリアは期待の目で俺を見つめ、金の鍵を手渡してきた。
「モッモ、また反発するかも知れねぇから、気を付けろよ」
ヘラヘラとしながら、俺の背中を押すカービィ。
えと……、あん? 俺、何も言ってないんだけど??
とは言えないまま、手渡された金の鍵を持って、俺は鍵穴の前に立たされる。
だけど、良い案なんて一つも浮かんで無いし、魔力のない俺に出来る事など何も無い。
ど……、どど、どうしよう???
さっきよりも更に、鼓動が早くなっていく俺の小ちゃなマイハート。
周りの期待感がひしひしと伝わってきて、もはや逃げる余地は無さそうだ。
う、うぅ……
えぇ~いっ! こんなったら、もうヤケだ!!
「ていっ!!!」
ふざけた掛け声と共に、俺は普通に、家のドアの鍵を開けるが如く、金の鍵の先端を鍵穴へと差し込んだ。
……そう、差し込んだ。
「ポポゥッ!?」
「おぉおおっ!??」
「入った!?!?」
えぇええぇぇぇっ!?!??
周囲が驚きの声を上げる中、それを成し遂げた当の本人である俺が一番驚いている。
なんと、誰がやっても駄目だったのに、ふわふわの俺の手は、金の鍵を鍵穴に差し込む事に成功しているのだ。
つまりこれは……
「封印魔法が、解けた……? も、モッモさん! 鍵を回してみてくださいましっ!!」
インディゴに急かされて、俺はすぐさま鍵をクルッと回した。
すると、カチャリと音がしたかと思うと……
カカカカカカッ!!!
「なんっ!? なんだぁあっ!??」
眩い光が鍵穴から発せられたかと思うと、七色の光の筋が幾本も、塔の壁面に走ったではないか。
無数のその光の筋はまるで、生き物の如く塔全体に伸びていく。
「モッモ! 離れて!!」
「ぐぇっ!?!?」
後ろにいたグレコにローブのフードを掴まれて、半ば転びそうになりながらも、グレコの元へと引き寄せられる俺。
ノリリアやカービィ達も、ただならぬ出来事に驚き、目を見開きながら後退る。
そして……
「えっ!? あっ!!? あああぁっ!!! 扉がっ!!!!」
光の筋が塔全体を駆け巡った後、それが収まると、何も無かったはずの塔の壁面に、七色の光の筋で形作られた大きな扉が現れたではないか。
その扉には、金の鍵と同じ、あの五芒星の模様が刻まれていた。




