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63:悲劇の種族

日が沈み、夜が来て、ダッチュ族の里では宴が始まった。

しかしながら、これを宴と言うのだろうか? と、俺は内心首を傾げていた。


控えめな焚き火を中心に、ぐるっと円を作って地面に座るダッチュ族の皆様方。

長と俺たち三人は(なぜかグレコも一緒)特別なのだろう、藁の敷物を敷いた上に座っている。

中味がお酒であろうと思われる、細長い土製の壺を持ったダッチュ族の女が五人ほどで、この場にいる一人一人に酒を汲んで回る。

その間、余興は一切なし、辺りはシーンと静まり返っている。

運ばれてきた料理は、そのほとんどが、昼間俺たちに差し出された果物や虫で、メインは小さな動物(たぶん、ウサギと思われる)の丸焼きだ。


「皆に酒は行き渡ったかの? では、宴を始めよう。此度は、我らが里を救いしギンロ様、モッモ様、そのお仲間のグレコ様を招き、感謝の意を表するがための宴である。皆々共よ、首を垂れよ」


長の言葉に、周りのダッチュ族たちは一様に、長い首を深く下げた。


おいおいおい……、仰々しいな。


「我らが救い主に、感謝を込めて……」


パンッ! パンッ!!


ダッチュ族たちは、長の言葉の後に、頭の上で二回手を叩いた。


……うん、ちょっと怖いな。

やばい宗教チックでちょっと怖いな。


こうしてようやく、宴が始まった。








「息子は帰らぬ~♪ 娘も帰らぬ~♪ 残された私は途方に暮れて~♪ 命を絶とうと思えども~♪ それは許されぬ願いにて~♪ 今日まで命を繋ぎます~♪」


悲しい歌を歌うのは、宴の余興をせよと長から命令されて、前に出てきたダッチュ族の女だ。

選曲にかなり問題があると思われるのだが、ダッチュ族達はみんな、静かにその歌に聞き入って、中には涙を流す者までいる。

辺りは悲しみに包まれて、これは誰のお葬式ですか? と問いたくなるほどである。


隣を見ると、グレコが、死んだ魚のような目をして前を凝視していた。

お口に合わないと考えたのだろう、出された食べ物には一切手をつけていない。

無理もないな……、あの、料理がとてつもなく美味しいエルフの里で育ったんだもの。

 ダッチュ族が出してくれたもの全て、グレコにはきっと、ゴミにしか見えていないだろう。


今目の前にあるのは、お世辞にも美味しそうとは言えないものばかり。

大して発育の良くない果物は生のまま、虫はこんがり焼かれてて、メインの肉も焼かれているもののおそらく味付けがされていない。

鞄に入っている岩塩を少々トッピングすれば、いける口かも知れないが……

生憎、余興の暗い歌で食欲が失せたのか、グレコはそれも拒否していた。


俺は、一番食べやすそうな、葡萄のような見た目の小さな果物をつまみつつ、長~い余興の歌を聞いていた。

 歌の内容を要約するとこうだ。


ダッチュ族は昔、平和な草原に暮らしていて、その頃は食べ物も豊富にあって、生活はとても豊かだった。

だけど、北から突然敵がやってきて、ダッチュ族の若者たちを一人残らず攫っていった。

残された者たちは、命からがら、この虫型魔物がうようよ生息する森へと逃げおおせた。


なんて! なんて悲しいんだ!!

ダッチュ族は悲劇の種族だったのか!!!

……って、なるわけないじゃないか。

確かに、昔が大変だった事は認めよう。

しかしだな、村を救った英雄を前に、このしっぽりしすぎの宴はどうかと思うぞ?

ほら、いくら優しいギンロだって、ピシッと石のように固まっているじゃないか。


同じ悲劇の種族でも、ピグモルとはえらい違いだ。

ピグモルのお気楽さと言ったらもう……、昔の事なんて、みんな綺麗さっぱり忘れている。

 一番年長で、昔の事もよく知っているはずの長老ですら、頭がお花畑みたいなところがあるしなぁ~。

宴なんて開こうもんなら、みんな、どんちゃん騒ぎのパッパラパー! だしなぁ~、はははは~。

 

そんな事を考えつつ、テトーンの樹の村のみんなの顔を思い出し、微笑を漏らす俺。


まだ旅立ったばかり、大丈夫だけど……、やっぱりちょっとホームシックな感じ?

いやいやっ! 駄目駄目っ!!

 早すぎるだろう俺ってばよ!!!

情けないこと言ってたら、それこそみんなに笑われちゃう。

 グレコとも無事再会出来たし、しばらくはお強いギンロも同行してくれるんだから、しっかり頑張らないとっ!!!!


何故か、一人奮起する俺。

 その後も、お葬式のような宴は続き、夜は更けていった。









「あ~……、全然眠れなかったぁ……、二日目~」


朝もやの中、俺はポポの家に用意された寝床からこっそりと抜け出し、家の外に出た。

家の隣には、グレコの簡易テントが張られている。


「私は里を救ったわけではないので、お世話になるわけにはいきません。外で寝ます」


そう言って、自分だけ快適なテントの中で眠る事を選択したグレコを、俺は一生忘れまい。


 くっそぉ~……、俺だってなぁ~、本当はテントで寝たかったんだっ!

 一人抜け駆けしてぇ~!!

忘れないぞグレコ!!!

 今日という日を、俺は忘れないぞっ!!!!


俺は、狭いダッチュ族の寝床でギンロと二人、身を寄せ合って寝たのだが……

さすがはギンロ、あの落ち葉の掃き溜めを住処と言うだけあって、ダッチュ族の寝床でも心地良さそうにスヤスヤと寝ておられました。

だけども俺は、慣れない場所、さらにはギンロと密着しているということもあってか、ほとんど寝れなかったのです。

二日続けての、ほぼほぼ徹夜は、ちょっとキツイ……


「ふっ、くぁ~あっ!」


大きな欠伸をして、ぐっと伸びをする。


さて今日は、この森を南へ戻らなくてはならない。

首に下げた望みの羅針盤を取り出して、金の針を見る。

望みの羅針盤は、俺の今の願いをしっかりと把握しているかのように、南西を指している。


とりあえず、ドワーフの貿易商会の支部とやらを探そう。

テッチャの無事を伝えて、ウルトラマリンサファイアを売り捌いて旅の資金にしてくれるというテッチャのお手伝いをして貰わなくちゃね。


一瞬、このダッチュ族の里にも導きの石碑を建てておこうかと悩んだが……

 特に思い残す事もないし、再度ここに来る用事もないだろうと考えて、やめておいた。


もう一度、う~んと大きく伸びをして、グレコの簡易テントを横目に見つつ、俺は渋々、ポポの家の中へと戻っていった。


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