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614:出発ポォ〜!!!

「うっ! うちも!! 連れてってくれないかいっ!!?」


 ガレッタが突然そう言った。

 鬼気迫る表情で、強い眼差しを俺達に向けている。


「連れてってって、おまい……、なんでだ?」


 普通に疑問を呈すカービィ。


「じ、実は……、仲間が一人、連れ去られたんだよ」


 俯くガレッタの言葉に、偉そうに樽に腰掛けていたザサークが血相を変えて立ち上がる。


「まさか……、ルオか!? 生きてんのか!??」


 る、るお? 誰それ?? また新キャラ???


「ガレッタ、諦めろ!」


「ルオはもう無理だよ」


「そうだ、あの怪我じゃ、もう……」


「それに、その足じゃどうしようもないだろう?」


 ガレッタの周りにいるソーム族達が、悲しげにガレッタを諭す。


「まだ分からないじゃないか!? まだ、生きているかも知れないじゃないかっ!!?」


 ポロポロと涙を流すガレッタ。


「ルオというのは、どなたの事ポ?」


 ノリリアの問い掛けに、ザサークが答える。


「ルオはガレッタの弟だ。けどガレッタ、お前……、ルオは死んだって、昨日そう言ってたじゃねぇか?」


 ザサークの問い掛けに、ガレッタは歯を食いしばる。


「死んだって思った方が、楽だから……、死んじまったって考えた方が楽だから! そう言ったんだよ!! けどルオは、あの時、まだ生きていた……、生きてたんだよっ!!!」


 叫ぶようにそう言ったガレッタは、その場に泣き崩れた。

 ガレッタの説明だけでは、正直何が何だか分からない。

 すると、ガレッタの隣にいたおじさん顔のソーム族が、経緯を説明してくれた。


 三日前の晩、初めてハーピー達が奇襲を仕掛けてきた夜のこと。

 予想だにしなかったハーピー達の攻撃に、アルーの町は大パニックになった。

 ソーム族達は町を守ろうと、武器を手にハーピー達と戦ったそうだ。

 しかし、次から次へと飛来するハーピー達を追い払う事など、到底不可能だった。

 それでもガレッタとルオの姉弟は、一人でも多くのソーム族を助けようと、瓦礫と化した町から生き残っている町民を救出して回った。

 そして、自分達も避難先である洞窟に向かおうとしたまさにその時、頭上から落下してきた岩に足をやられて、ガレッタは動けなくなった。

 更には、ガレッタを助けようと奮闘するルオに、ハーピーが襲い掛かったのだ。

 ルオは、ガレッタの目の前で、ハーピーの鋭い足爪にやられて、倒れて動かなくなったという。

 そしてハーピーは、動かなくなったルオを掴んで、夜空に飛び去っていった……

 

「倒れて動かなくなったルオを、ハーピーは連れ去った。もう駄目だって思ったけど……、聞こえたんだ。真っ暗な空から、ルオは叫んでいた。生きろ、生きてくれって……」


 大きな瞳から溢れ出る大粒の涙を拭いながら、ガレッタは言った。


「けどガレッタ、あんたは三日前の晩からずっと熱を出して意識不明だったんだ。だから……。あんたが聞いたルオの声を、他の誰も聞いてない。もしかしたら、その声はあんたの思い過ごしかも知れないだろう?」


 周りにいるソーム族は、優しくガレッタにそう言った。

 しかしガレッタは、首を横に振るばかりだ。


「生きてる! ルオは生きてるんだよぉっ!!」


 その言葉があまりに悲痛で、俺は居た堪れなくなる。


 俺にも兄弟がいるし、ガレッタの気持ちは痛いほど分かる。

 以前、ガディスに双子の妹達を攫われた時にはもう、本当に生きた心地がしなかったもんな……

 けど見た感じ、とてもじゃないがソーム族は戦闘向きの体格をしていない。

 さっき、これまでにも森や海岸でハーピーに遭遇した時には手を焼いていた、とガレッタ本人が言っていたくらいなのだ。

 何羽を相手に手を焼いていたのかは知らないけれど……

 目の前のなまず型魚人が華麗に戦う姿なんて、俺には全く想像出来なかった。

 つまり、通常でも戦闘に不向きなソーム族の、しかも両足が使いものにならなくなっているガレッタを同行させる事なんて、万が一にも不可能だ。


「ポポゥ……。ガレッタさん、辛い気持ちは理解出来るポが、その足であたち達に同行する事は無理ポね。連れて行く事は出来ないポ」


 ほらね、そうでしょうとも。

 ただでさえもノリリアは、クエストの遂行の為とはいえ、超絶足手まといなプヨプヨでヘナヘナな俺の事も守らなくちゃならないんだ。

 これ以上のお荷物はごめんだろうよ。


「うぅ~……、ルオぉおぉ~……」


 気が強そうに見えたガレッタだったが、泣きじゃくる姿を前にすると、どうやら普通の女の子だったようだと俺は思う。

 するとザサークが……


「分ぁ~かったよっ! んなメソメソなくんじゃねぇ!! 俺様がルオを助けに行く!!!」


 これまた、予想外の発言をした。


「えっ!? ザサーク船長、森に入るのっ!??」


「おおよ。こいつらとは付き合いが長くてな、ルオは俺様にとっても弟みたいなもんなのさ。生きている可能性があるんなら、助けに行ってやらないとな。おい、ビッチェ! 支度しろっ!!」


「あいあいキャプテン!」


 ザサークの言葉に、副船長ビッチェが船へ走る。


「あたしも行こうか?」


 ダーラが申し出ると、カービィとギンロが揃って目をキラリと光らせた、が……


「いや、俺様とビッチェで行ってくる。船の方を頼むぜ」


「あいあいキャプテン」


 ザサークが断ったので、カービィとギンロは無表情になった。


「ザサーク、頼むよ、ルオを……、どうかルオを……」


 今まで我慢していたのだろう、涙が止まらないガレッタ。


「分かってる。安心しろ、ちゃんとお前のとこに返してやるさ」


 そう言ったザサークに、笑顔は無かった。

 もしかしたらザサークは、ルオは既に死んでいると考えているのかも知れない。

 それでも探しに行くのは、きっとガレッタの為だろう。


「よぉ~し! そうと決まったらちゃっちゃと行こうぜ!? もう夜はとっくに明けてんだ!!」


 カービィの言葉通り、東の空には太陽が顔を出していた。

 眩しい朝日が辺りを照らし出す。


「ポポッ、みんな! 行くポよ!!」


 ノリリアの号令で、騎士団のメンバーは各々、ミュエル鳥や箒にまたがった。

 俺はグレコと共に、いつも通り、飼育師のモーブが手綱を握るミュエル鳥の元へと急ぐ。

 するとギンロが……


「モッモ、我は、ザサーク殿とビッチェ殿と共に、地上を行く」


「えっ!? そう!??」


「うむ。テッチャが増えた故な、譲る事にしたのだ」


「あ、なるほど、そうゆう事か」


 いつもギンロがペアになっている岩人間のブリックは、既にテッチャと共にミュエル鳥の背にまたがっている。

 なんていうか、そうやって並んでいると兄弟みたいだね、二人とも肌が茶色いから。


 ……にしてもテッチャよ、ビビり過ぎでは無いかい?

 真顔で太い腕でガッシリとブリックにしがみ付いている様がもう、情けないのなんのって。

 空を飛ぶのは苦手ですか? ぶふっ。


「モッモ、自分も地上を行こうと思う」


 声を掛けてきたのはティカだ。

 その背にはバーバー族から貰った槍を担いでいるのだが、どうやら長さが気に食わなかったのだろう、何か棒が継ぎ足されて長くなっている。

 想像するに、タイニック号のお風呂場の掃除用モップの柄に違いないのだが……

 それ、勝手に取ったわけじゃないよね? 誰かに許可を得たよね??


「あ、うん。そうだね、ティカは体が大きいし……。でも大丈夫? 傷は完治してるみたいだけど、一応病み上がりだし」


「大丈夫だ。ギンロに出来るのなら、自分にも出来るさ」


 ふぁ? 何故そこでギンロが出てくる??

 ギンロは今、怪我なんてしてないけどな……???


「え、う、うん分かった。……てかさ、前から気になってたんだけど、なんで槍なの? 王宮に居た時は、剣を二本装備してたよね?? そんな継ぎ足しの槍より、剣の方が良くない??? 剣なら船に予備があったと思うから、ザサークに頼めば貸して貰えそうだけど」


「いや、これで良い。実のところ、自分は槍の方が扱い慣れているんだ。体の大きな兄に対抗する為に、幼い頃から訓練では槍を用いていたからな。王宮の近衛兵は双剣を装備する事が義務付けられていた故、剣技も磨いたが……。今はギンロが双剣を装備している故な、自分もとなると、装備がかぶるだろう?」


 ふぉ? またギンロ??

 ……あ、まさかティカめ、ギンロに対抗心ですか???

 やめて欲しいな、面倒臭い。


 ニヤリと笑い、くるりと背を向けて、ズカズカとギンロの元へと歩いて行くティカ。


「む? ティカも地上を行くのか?? ならば我と共に行こう」


 ギンロは嬉しそうに言った。


「よろしく頼む」


 ティカは笑顔でそう答えたけど……、なんか、目がギラついてる。


「……ティカ、なんだか様子が変ね」


「えっ!? そ、そうっ!??」


 グレコに言われて、ドギマギする俺。

 たぶん、ティカはさっきケツァラ語で俺に話し掛けていたから、グレコには会話の内容が伝わってないはずだけど……


「ギャウギャウ語のせいで何言っているのかは分からなかったけど、何度かギンロの名前を口にしてたでしょ? それに、ティカの表情がね……、悪者みたいだったわ」


「うっ!? そ、そう……?」


 さすがグレコ、なかなかに鋭いな。


 船上のお手並み拝見では、武器が壊れて引き分けだったから……

 ギンロはあんまり気にして無さそうだけど、ティカはライバル心メラメラっぽいよね。

 まぁ、滅多な事はないと思うけど……、仲間内でややこしいのはやめてよね、ほんと。

 

 前方で、ヴォンヴォンヴォンヴォンと、カービィの煩い箒の音が鳴り響き始める。

 またしてもあのエンジン付きの箒で行くらしい。


 こっちはこっちで、相変わらず面倒臭い奴だな。

 森には悪魔が潜んでるかも知れないってのに……、馬鹿じゃないの?

 だがもう、毎度の事過ぎてノリリアも諦め顔だ。

 

「出発ポォ~!!!」


「おぉおぉぉ~~~!!!」


 俺達は一斉に空へと飛び立つ。

 

 ノヴァの月10日、午前7(たぶんそれくらい)

 雲一つない快晴の空の下、ピタラス諸島最後の島、アーレイク島の冒険が今、始まった。

 

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