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606:正しいと思う道

「かぁ~! みぃ~!! さぁ~!!! まぁあぁ~!!!!」


 雲一つない、真っ青な大空に向かって叫ぶ俺。

 ここは、四方を白い岩に囲まれた円形の広場。

 テトーンの樹の村のある幻獣の森より北にそびえ立つ、クロノス山の頂きに当たる場所である。

 神様と会い見える事の出来るこの場所は、聖域と呼ばれている。


 ティカをテッチャの家に残し、俺は一人で聖域へとやって来ていた。

 無論、二つの金玉を神様に渡す為と……、他にも、いろいろ聞きたい事があるからだ。


『やぁ、久しぶりだね』


 空にパッと現れて、スーッと降りてくる時の神、クロノシア・レア。

 見るからに高品質な白いローブに身を包み、左目には機械仕掛けの眼帯のような物を装着しているが、お顔は相変わらずの美少年で、ふんわりとした柔らかな雰囲気を持っている。


「お久しぶりです、神様! 今日は渡したい物があって来ました!!」


 鞄をゴソゴソと漁り、二つの金玉を取り出して、神様に差し出す俺。

 神様は少々困ったような、複雑な表情でそれらを受け取った。


『モッモ……。君は何か、勘違いしていないかい?』


 二つの金玉を、コロコロと手の中で転がしながら、神様は問うた。


「勘違い? ……とは??」


『僕は君に、世界の神々の様子を見て回って欲しいと頼んだんだ。なのに君は、不必要な、沢山の危険を犯している……。モッモ、僕は君に、それほどの事は望んでいないんだよ。分かるかい? 邪神に堕ちたモシューラを倒すのは、君の役目じゃなかった。君がすべき事は他にあった。よく考えてごらん、モッモ。君が為すべきだったのは、モシューラが邪神に堕ちているのだと、僕に伝えに戻る事だったんじゃないかい??』


 心配そうに、けれど少し怒っているかのように、真剣な眼差しを俺に向ける神様。

 勿論怖くはないけれど、神様の言っている事は至極当然で正しいので、俺はちょっぴり俯いた。

 だけど……


「僕は……、目の前で困っている人を、助けたかった。ただそれだけです。確かに、とっても危険だったけど……。でも、あそこでみんなに背を向けて、ここに逃げて来るほど、僕は弱くは無いです」


 神様の金色に光る瞳を真っ直ぐに見つめて、俺はそう言った。


 王宮の中庭でイグと対峙して、みんなで王都の外の森へと飛ばされた時、正直俺は迷っていたんだ。

 俺なんかが、邪神に堕ちたモシューラを止める事など出来るのか、イグを説得する事が出来るのかと……

 瘴気に包まれて滅びゆく王都を前に、何度も自問自答していた。

 だけど、そんな一刻を争う事態の中で、必死に惨劇を止めようとしているノリリアや騎士団のみんなに対して、今から神様のところに行って報告してくるから待ってて! なんて言えるはずがない。


 ……確かに、肉体的にはピグモルは最弱だ。

 でも、だからって心まで軟弱なわけじゃないんだぞ!

 俺は、やるときゃやる男なんだぞ!!

 俺の事なめんなよ、神様この野郎っ!!!

 

『ふぅ……、困ったものだね。まさか君も、アーレイクと同じ道を辿ろうとしているとはなぁ……』


 苦笑いしながら、神様はそう言った。


 アーレイク? 今、アーレイクって言ったよね??

 それって、もしかしなくても、大魔導師アーレイク・ピタラスの事だよね???


「あの……、神様。僕、前から聞きたかった事があるんです」


『何だい?』


「えっと……。かつての大陸を分断して、今あるピタラス諸島を生み出した……、500年前の、大魔導師アーレイク・ピタラスの事、神様は知っていますよね?」


 俺は、ずっと聞きたかった事、ずっと気になっていた疑問を、神様にぶつけた。


 大魔導師アーレイク・ピタラスは、時の神の使者だった……、出航前夜に、ノリリアに教えてもらった事だ。

 つまり、神様とアーレイク・ピタラスは、今ここにこうしている神様と俺みたいな、そういう関係じゃなかったのだろうか?

 神様が何か使命を与えたから、アーレイク・ピタラスは大陸を分断したのでは??

 だったら……、神様は全ての経緯を知っているはずなのだ。

 アーレイク・ピタラスが成し遂げようとした事とその意味、そして後世に残したものの全てを。


 俺の問い掛けに神様は、視線を逸らす事なく、俺をジッと見続けている。

 何かを考えているようにも見えるその表情、ピクリとも動かないその様子は、まるで時が止まっているかのように感じられた。

 そして……


『勿論、知っているよ。アーレイク・ピタラスは、僕が遣わした使者だった。けれど……、彼は僕の忠告を無視して、僕の元を去っていった』


 神様はニコリと微笑んでそう言った。

 その表情があまりに不可解で、俺は眉間にしわを寄せる。

 

 何故、神様は笑ってるんだ?

 今、笑う場面か??

 それに……、神様の忠告を無視して、去って行ったって……、どういう事???


 俺が疑問を口にしようとするも、神様は何も聞くなと言わんばかりに、開いた掌を俺の顔に向けた。


『昔の事を話す気は無いよ。だけど一つだけ……。アーレイクは正しい事をした。僕の意思には反するけれど、彼の行いは正しかった。現に今、こうして君がここにいて、彼の残した意志を紡いでいるんだからね。アーレイクの選んだ道は、正しかったんだ』


 神様の言葉は、ハッキリ言ってちんぷんかんぷんだ。

 何が何やら……、さっぱり分からない。


「あの……、神様、僕は……」


 いったいどうすれば?


『別に構わないんだ。僕は何も、君の行動を制限したいわけじゃ無い……。君は、君が正しいと思う道を進めばいい』


 正しいと思う道、と言われても……

 俺はどちらかというと、いつも周りに流されているだけで、俺が決断して何か事が進むことになったことなんて、滅多に無いような気がするんですけど?


 もじもじする俺。

 すると神様は、俺の肩にそっと手を置いて、俺の顔を覗き込むようにして、ジッと見つめてきた。


『ただ、覚えておいて欲しい。君には出来る限りの力を与えてあるけれど、所詮はピグモルだ。君は、愛らしいだけが取り柄の、魔力も腕力もない、世界で最弱の種族なんだよ。でもアーレイクは違った。類稀なる絶大な魔力とそれを操る才能、そして未来を予知する力を持ち合わせていた。つまり、いくら足掻いたところで、君には到底アーレイクの後継は務まらない』


 ……はん? 

 な、なんだとぉ~??

 神様の奴、なんかめちゃくちゃ失礼な事言ってないっ!?


 突然神様に面と向かってディスられて、少々イラッとした俺はプルプルと小刻みに震えた。


『けれど、行くというのなら僕は止めない。それに、君には頼りになる仲間が沢山いるからね。それで……、はい、これ』


 何かを差し出す神様。

 怒りながらも受け取る俺。

 手の中にそっと置かれたそれらは、見覚えのある形の、二つの耳飾りだ。

 一つは紫色の宝石が、もう一つは緑色の宝石がついている。


「え? これって……、絆の耳飾りですよね?? どうして???」


『仲間が増えただろう? だから必要かと思って用意しておいたんだ』


 先ほどと変わらずに、穏やかな笑みを湛えながら、神様はそう言った。


 確かにまぁ、ティカが仲間に加わったけど……

 何故二つ? 一つでよくない??

 てか……、さっきからの話といい、神様、今回は俺の事を見てたのかしらね???

 だったら、イグの事も……、チャイロの事も、見ていた????


「神様、イグは……、旧世界の神というのは、一体何者だったんですか?」


『旧世界の神……。その名の通り、遠い昔に、この世界を支配していた神々の事さ。彼らがこの世界に存在していたのは、もう何千年も昔の事で、僕が神と呼ばれる以前の話だ。だから、彼らが一体何者なのか、今どこにいるのか、そして今回君が出会ったイグが何故蘇ったのか、全ては謎に包まれている。彼らの持つ力は、僕のそれとは全く違っている。彼らの瞳が七色に輝いているのもその為だよ。つまり……、僕にとっても本当に、彼らは得体の知れない、正体不明の存在なんだよ』


 おおう、マジかよ……

 え? 神様にとっても正体不明とか、めちゃくちゃヤバくないそれ??

 よくもまぁそんな奴を、どうにかしようとしていたなんて……

 明らかに無理だろ、俺ってばよ!


『けれど、僕が知る限りでは、旧世界の神が蘇ったのは初めてだ。少なくとも、ここ五千年ほどの間ではね。だから、今後また同じような存在に出会う事は、まず無いと思うよ』


 ……本当に?

 なんか神様さ、前はさ、悪魔に出会う事は滅多に無いよとか俺に言ってたけどさ、ここに来るまでに俺、めっちゃ出会ってんだけど??

 しかも、毎回命狙われてさ……、いや今回は大丈夫だったけどさ。

 でもさ、きっと次のアーレイク島にも悪魔がいると思うのね。

 その……、神様の言葉の信憑性がこう、薄いっていうか……、ねぇ???


 神様に対し、不審な目を向ける俺。

 すると急に、神様が左目に装着している機械仕掛けの眼帯が、カチカチと音を立てながら回転し始めたではないか。


「ヒィッ!?」


 突然の事に驚いて、思わず声をあげてしまう俺。


『おっと、もう時間切れだね。いいかいモッモ? くれぐれも危険な真似はしないようにね。引き続き、世界の神々の様子を見てきておくれ』


 神様はそう言って、ニコリと笑い、スーッと空の中へと消えて行った。


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