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598:さよならは言わないぞ

「みんな~、忘れ物は無いポかぁ~!?」


 騎士団のメンバーに向かって声を掛けるノリリア。

 俺も、忘れ物は無いかと辺りをキョロキョロと見渡した。


 太陽が空の真上に上った正午過ぎ。

 白薔薇の騎士団及びモッモ様御一行は、トルテカの町を去る事となった。


「本当に、なんとお礼を言えばいいものか……」


「ありがとう! あなた方の事は、生涯忘れません!!」


「ありがとう! 本当にありがとう!!」


 俺たちを見送ろうと集まった紅竜人達は、口々に感謝の意を叫んでいる。

 しかし、そもそも言葉が通じないし、紅竜人はどちらかというとみんな顔が怖いので……


「何なの? ギャウギャウ叫んで……、みんなどうしたの??」


 グレコは怪訝な顔で紅竜人たちを見つめながら、そんな事を言っていた。

 そうか、めちゃくちゃ今更だけど、紅竜人の話すケツァラ語は、知らない人にはギャウギャウって聞こえるわけか。

 知らなかったとはいえ、俺もギャウギャウ言っていたのかと思うと……、なんかちょっと恥ずかしいな。


「ノリリア副団長! いつでも発てますよ!! はいはいはいっ!!!」


 ミュエル鳥の首元に装着された手綱を握って、飼育係のモーブが叫ぶ。

 どうやら、紅竜人達がギャウギャウ言っているせいで、ミュエル鳥は気が立っているらしい、早くしないと今にも飛び立ってしまいそうな雰囲気だ。

 モーブの隣では、ヤーリュが必死にミュエル鳥を宥めていた。


「じゃあみんな! 飛行準備に入ってポ!!」


 ノリリアの指示に、騎士団のみんなはミュエル鳥に跨ったり、箒を取り出したりし始める。

 俺もグレコと一緒に、既にモーブがまたがっているミュエル鳥の背中に乗ろうとしていた、その時だった。


「ノリリア副団長」


 声を掛けられて、振り向くノリリア。

 そこに立っているのはゼンイだ。

 

「本当に……、本当にありがとうございました。この御恩はいつか、必ず、返します」


 真っ直ぐなゼンイの瞳に、ノリリアはニッコリ笑って頷いた。

 するとゼンイは、ミュエル鳥の背に跨っている俺を見つけ、近付いてきて……


「モッモ君も、本当にありがとう。チャイロの事は心配しないで。これからは僕が、チャイロを守る。せっかく同じ色の鱗を持っているんだ……、弟として育てるよ」


 あ……、そういえば、誰かが言っていたな。

 ククルカンの再来と呼ばれる者はみんな、王族の血筋から生まれるんだって。

 もしかすると、ゼンイとチャイロは……、いや、分からないな。

 そんな分からない事よりも、これからの方がきっとずっと大事だ。


 俺は、鞄の中からあれを取り出す。

 一見すると黒い爪楊枝のようなそれは、地面に突き刺すと石碑になる、神様アイテムの一つ導きの石碑だ。


「落ち着いたら、これを村の入り口の地面に刺して欲しいんだ。またいつでも、チャイロに会いに来られるようにね」


 ニカっと笑う俺。


「分かった。その時までに、みんなが幸せに暮らせる村を作り上げてみせるよ」


 この時俺は、ゼンイの笑顔を初めて見た。

 決して可愛くはないけれど、嫌味のない良い笑顔だ。

 ちょっと……、牙が怖いけどね。


「モッモ~!」


 遠くから声が聞こえて視線を向けると、そこにはティカと、ティカに支えられながら歩いて来るトエトがいた。

 トエトの腕には勿論、チャイロが抱かれている。


「ティカ! トエト!! ありがとう、見送りに来てくれたんだねっ!!!」


「モッモさん、もう行かれるのですね」


「うん! 明日の朝には船が出るからね!! 次の島へ行かないと!!!」


「そうですか……。この度は本当にお世話になりました。全てが変わってしまったけれど、チャイロ様をお守りするという私の気持ちは変わりません。どうぞお気をつけて。そしていつかまた、チャイロ様に会いに、ここへ戻って来てくださいね」


 トエトは視力を失い白濁してしまった目で、俺をじっと見つめてそう言った。


「キャウ! キャウ!!」


 腕の中のチャイロは、上機嫌で腕をバタバタさせている。


「チャイロ……。また会いに来るからね! 大きくなるんだぞっ!!」


 俺がそう言うと……


「ギャギャ! 次に会う時は、お前なんかチャイロに踏み潰されちまうかもな!?」


「ギャハハ! 言えてらぁっ!!」


 乱暴な笑い声が背後から聞こえた。

 そこにはいつもの二人組が立っている。


「あ!? スレイにクラボ!!」


 全身にムルシエから受けた傷がまだ残っているものの、ピンピンしているスレイとクラボ、そしてメーザとバレもやって来た。


「モッモ! また拉致されんじゃねぇぞっ!! ギャハハハハ!!!」


「そうだぞ! 次は全力で逃げろよ!? ギャギャギャ!!」


 お前ら馬鹿かっ!?

 次なんてあって堪るかよっ!!


「モッモ、気をつけて行きなよ。あんたは美味しそうに見えるから」


 やめろメーザ! 

 洒落にならねぇわ!!


「達者でな! モッモ!!」


 泣くんじゃないよバレ!

 あんた昨日から涙腺緩いわね!!


 俺が、冷やかし四人の登場に顔をしかめていると……


「モッモ」


 最後に声を掛けて来たのはティカだった。

 何やら神妙な面持ちで、俺を見つめている。


 ティカとはなんだかんだ、この島では一番長く一緒にいた気がする。

 俺の早とちりのせいで、カービィの作った違法薬物を摂取させてしまい、周りの紅竜人より二回りほど体が大きくなっちゃって、ムルシエに悪魔化されたせいで、身体中に黒い痣が出来てしまって、更には心臓を取られた痕が痛々しく胸に残ってて、紅竜人の群れの中にいても、めちゃくちゃ目立つ存在になっちゃったけど……

 

「ありがとうモッモ。君と過ごしたこの数日間は、自分にとってかけがえの無いものとなった。だから……、また、会おうっ!」


 ティカの言葉に、何故だか俺は泣きそうになる。

 ティカと過ごしたいろんな場面が脳裏をよぎり、感極まって……

 だかど俺は泣かないぞっ!


「うん……、うん、ティカ。また会おうね! 絶対!!」


 零れ落ちそうになる涙を我慢して、俺は世界最強のピグモルスマイルで答える。

 さよならは言わないぞ、またきっと会えるから!


「出発ポォ~!!!」


 ノリリアの号令で、一斉に飛び立つ俺たち。

 晴天の青空の下、自由を手に入れた、かつての奴隷達の村トルテカを、俺たちは後にした。

 

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