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547:本当の姿

「動くなっ! おとなしくしろっ!!」


「反逆者めっ!!!」


口汚く罵りながら、ガチャガチャという足音を立てて、沢山の兵士が部屋の中へとなだれ込み、ティカを取り囲んだ。

そしてそのまま、兵士達はティカを後ろ手に縛り、その場で取り押さえてしまったではないか。


はっ!? へっ!?? なんっ!?!?


状況が全く飲み込めず、ベッドの下で震える事しか出来ない俺。


「ティカ・レイズン……。あなたには、心底失望させられましたよ」


聞き覚えのある声に、俺の耳がピクリと動く。

この声は間違い無く、宰相イカーブだ。

よく効く俺の鼻は、一度嗅いだら二度と忘れないであろう、あの強烈な腐敗臭を嗅ぎ取っている。

そして、ベッドの下から見える景色には、沢山の兵士達の金属グリーブの足元に加えて、床につく程に長い白のローブの裾が見えていた。


「宰相イカーブ……。貴様の悪事は全てお見通しだっ!」


両脇を兵士に羽交い締めにされたままの格好で、ティカが叫ぶ。


「ほほほほ。何を言い出すかと思えば、とんだ戯言を……。あなたは兵士であるにも関わらず、本来ならば立ち入り禁止の書庫に入り、貴重な暦書を粉砕し、挙げ句の果てにはその悪事を目撃した大臣を手にかけた。これは、とんでもない重罪ですよ?」


ほくそ笑むような、イカーブの声。

書庫に入ったことは事実だが、貴重な暦書を粉砕しって……、あれは元々壊されていたぞ? 何言ってんだ??


「黙れっ! 貴様こそ大罪人だっ!! 正しき歴史を隠蔽し、民を欺き、罪無き侍女を次々と呪い殺し、国王と姫君方を病に貶め、果てにはこの国唯一の救いであろうチャイロ様までもを殺そうとしている!!! 貴様の目的はなんだっ!?!?」


ティカの言葉に、周りの兵士が騒めく声が聞こえた。


「ほほほほほほ。なんともまぁ、妄想もここまでくると甚だ愉快ですね。推測するに、あの外界の小鼠に何かを吹き込まれたのでしょう。可哀相に……。しかしながら、罪は罪。あなたをこのまま生かしておくわけにはいきませんね」


「何をっ!? 死ぬのは貴様だっ!!!」


イカーブに突進しようとするティカの体を、周りの兵士が必死に押さえ込む。


「最後に一つだけ教えてください、ティカ・レイズン。……あの小鼠をどこへやった?」


イカーブの口調が変わった事を、俺は聞き逃さなかった。

その声は、これまでの年老いた雰囲気とは一変して、低くて深みのある、それでいて恐ろしいまでに冷徹な印象を俺に与えた。


「モッモは帰った! 彼のいるべき場所へ!! 貴様はもう終わりだ、イカーブ!!! 直に彼は、正義の大群を率いてここに来るぞ。貴様の首を取る為になっ!!!!」


ティカの言葉に、周りの兵士は更に騒つき、動揺する。


あわわわわっ!?

ティカのやつ、何言い出すんだよっ!??

正義の大群とか、知らねぇしっ!!!

……てか、まず帰ってねぇし、ここにいるしぃっ!!!!


「正義の大群とは、聞いて呆れますね。我ら紅竜人を滅ぼさんとする外界の俗物の、いったい何が正義なのですか? どうやらあなたは、完全に敵側に取り込まれてしまったようですね、残念です……。この愚か者を地下牢に入れておきなさい。四六時中見張りを付け、決して逃さないように。明日の蝕の儀式で、この大罪人も生贄として泉に沈める事と致します」


「はっ! 仰せのままにっ!!」


イカーブの命令に従って、兵士達は一斉に動き始める。


「離せっ! このっ……、貴様は許さないぞっ!! イカーーーブ!!!」


怒号にも近い叫び声を上げながら、大勢の兵士に囲まれて、ティカは連れて行かれてしまった。


ややや……、ヤバイんじゃないのこれっ!?

どどどど、どうしようっ!??


ベッドの下で、心臓バクバク、冷や汗タラタラの俺。

そして目の前には、まだイカーブが残っている。


お前は残るなっ!

早く出てけっ!!

早く出てけぇっ!!!

早く出てけぇえぇぇっ!!!!


「私はチャイロ様の様子を見て参ります。この部屋には決して、誰も入れないように」


なぬぅうぅぅ~っ!?!??


外にいる見張りの兵士に声を掛けた後、イカーブは部屋の中に残ったまま、扉を閉めた。

ランタンの灯りのみが頼りの真っ暗な部屋で、俺はイカーブと二人きりになってしまったのだ。


ひょえぇええぇぇぇ~!?

なんでまたこんな事にぃいいぃぃ~!??


声にならない叫び声を上げ、ガタガタと震える俺。

もはや、身体中は冷や汗でビチョ濡れだし、心臓は口から出てきそうなほどにバクンバクンだ。


まさかあいつ、俺がここにいるって気付いてるっ!?

まさか俺、ここであいつに殺されるっ!??


ガクブルガクブルガクブルガクブル


しかしながら、ビビリな俺の予想に反し、イカーブは真っ直ぐに中部屋へと向かって行く。

そしてそのまま、チャイロの部屋へ続く扉を開き、中へと姿を消した。


あ……、ホッ……

なんだよ、ビビって損したわ。

俺がここにいる事、全然気付いてないじゃないかあいつ。

なんだよなんだよ、チャイロに用事かよ、ふぅ~。


……いや、ちょっと待て。

チャイロに何の用事ですかぁあっ!?!?


俺は慌ててベッドの下から這い出た。

そして、忍者のごとき足捌きで、足音一つ立てずに中部屋へ向かい、開かれたままの扉からチャイロの部屋をそっと覗き込んだ。


薄暗い部屋の中、チャイロはベッドの上にいるようだ。

天蓋から垂れ下がる薄いカーテンの向こうに、小さな影が見えている。

イカーブはというと、ベッドの真正面に直立していた。


ドキドキドキドキ


イカーブめぇ~、チャイロに何する気だ!?

何かしたら許さないぞっ!!

……いや、何かしようとしたらどうしようっ!??

勢いで追いかけて来たけど、俺一人じゃどうにも出来ないのではっ!?!?


焦る俺を他所に、すぐさまイカーブはチャイロのいるベッドから離れて、黒いカーテンが掛かっているこの部屋で唯一の窓へと向かっていく。

そして、おもむろにカーテンを取り払ったかと思えば、その窓に両の掌を向けて、何か呪文を唱え始めたではないか。


何を……、する気だ?


窓から光が差し込んで、部屋の中が一気に明るくなる。

逆光に照らされたイカーブの背を見つめていると、その全身から、黄色い光が放たれ始めたではないか。


あれは……、もしかして、魔力のオーラか?

やっぱりイカーブは魔法を使えるのか??

けど、紅竜人なのにどうして……???


イカーブの体を取り巻く光は、紛れもなく魔力のオーラだ。

幾度となく、仲間が魔法を行使する姿を見てきた俺には、ハッキリと分かる。


イカーブは、全身から魔力のオーラを放ち、それを両手の掌に凝縮させていく。

そしてその掌から、まるで光線のように真っ直ぐに、窓がある部分に光を放ち始めた。

その光は、鉄格子のような形の光る結界を、窓の真ん前に作り上げていく。

一見するとバリアのようにも見えるそれは、バチバチと小さな火花を散らしながら、電気のように波打っていて、触れるとかなり痛そうだ。


結界が完成した事を確認して、イカーブは魔力の放出をやめて手を下ろした。

そしてくるりと向きを変えて、こちらに歩き始めた。

チャイロがいる天蓋付きベッドには目もくれず、真っ直ぐに扉へと向かって来る。


やっべ!?

こっち来るぅっ!??


扉の隙間から中を覗いていた俺は、慌てて侍女の待機部屋へと引き返す。

しかし、ベッドの下に潜り込む余裕はなかった。

イカーブは思ったより足が速くて、もう既に中部屋へと到達し、チャイロの部屋の扉の鍵を施錠しているのだ。

どうやら、ティカが持っていたはずの部屋の鍵を、いつの間にか取り上げていたらしい……

今ここで、無理にベッドの下に潜り込もうとしてゴソゴソと音を立ててしまえば、俺がここにいる事に気付かれ兼ねない。

俺は、部屋の隅っこにそっと身を屈め、間違っても隠れ身のローブのフードが脱げないようにと、フードの端をギュッと握り締めながら、息を潜めてイカーブが立ち去るのをじっと待った。


イカーブは、チャイロの部屋の扉の鍵をかけた後、中部屋を通り抜け侍女の待機部屋へと戻ってきた。

そして、中部屋に続く扉の鍵も、ガチャガチャと施錠し始めた。

すぐ側にいるイカーブに対し、心臓が破裂しそうなほどにバクバクする俺。

その時だった。


俺は、見たんだ。

ずっと紅竜人だと思っていたイカーブの、本当の姿を。


……え? あれ??


扉の鍵を施錠しているその手を覆っているのは、赤い鱗ではなく、白くて皺のある皮膚だ。

恐る恐る視線を上げていくと、そこにいるのは先ほどまでのイカーブではなく、見覚えのない初老の人間だった。


どういう事だ?

イカーブは、人間だったのか??


白髪に深緑色の瞳、鼻はいわゆる豚鼻で上を向き、皺のある右頬には歪な形の黒い痣がある。

そして、顔の両側についている耳が異様に大きく、黒く、先が尖っていて……、どうやら普通の人間でもなさそうだ。


突然の事に、驚き戸惑って、俺は呼吸をする事すら忘れていた。


施錠を終えたイカーブは、外へと続く扉へと向かう。

ドアノブに手を掛け、フーッと大きく息を吐きながら、静かに目を閉じるイカーブ。


変身(アラーギ)


呪文を唱えたイカーブは、全身から再度黄色い魔力のオーラを放出したかと思うと、それで自身の体をすっぽりと覆った。

すると見る見るうちに、イカーブの姿は初老の人間から元の紅竜人へと変化したのだ。


まっ!? 魔法っ!??

変身魔法……、なのかっ!?!?


紅竜人の姿へと戻ったイカーブは、扉を開き外に出て行った。

ガチャリと、扉の鍵が施錠される音が聞こえた。


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