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531:ここにいるじゃねぇかよっ!

「肉体を失い、時が経つこと五百年近く……。この五百年の間、わしがどれだけの我慢を強いられてきたか、貴様に分かるか? すぐ手の届くところに、求めてやまぬものが埋まっているというのに……、この体たらくだっ! 肉体さえあれば、わしはあれを食えるのだぞっ!? さすれば以前よりも数倍、数十倍、いや数百倍もの力が手に入るっ!! この世界を我がものにする事すら可能となるのだぞっ!?? それを悠長に貴様は……、もう二十年もだっ!?!? 何故、わしに憑代を差し出さぬっ!?!!?」


狂気の沙汰で、罵声を上げる黒煙もくもく骸骨。


「先ほども申し上げましたように、私は貴方様にピッタリの憑代を探しているのです。生半可な憑代では、簡単に滅びてしまいます故……。紅竜人の寿命は、どれだけ長くても三百年足らず。そのうち後ろ百年は、体が不自由となったり、晩年は寝たきりになる者も少なくありません。そのような脆弱な肉体を貴方様に差し出す事は、私の本望ではございません」


先程と変わらず、穏やかに話すイカーブ。


「くぅう~……、ならば早くっ! 紅竜人以外の種族の者を捕らえて来いっ!! 寿命の長い、強靭な肉体を持った多種族の者をっ!!! 島外からでも良い、どうにかして調達しろっ!!!!」


「そうは言われましても、島外より我が国に訪れようとする者はそうおらぬのです。紅竜人は世界的に見ても危険極まりない粗暴で短絡的な蛮族。わざわざ命の危険を犯してまで、この国に乗り込んでくる物好きはなかなかおりません。かと言って、島外にこちらから出向くのは不可能。紅竜人は皆水が苦手で、泳げないのです。加えて、帆船などの巨大な船を操る事も、それを造る事すら、技術のない我々には難しい……」


「ぐぅあぁぁ~!? 言い訳はもう沢山だっ!! 今すぐわしを解放しろっ!!! 貴様が用意せぬのなら、わしが己で手に入れてくれるわっ!!!!」


「それは成りませぬ。最初に約束したはずです。貴方様を救う代わりに、私の願いを叶えて頂きたいと……。焦燥感から適当な肉体を憑代に選ばれてしまえば、この二十年が水の泡と化す。それだけは私も避けたいのですよ。貴方様はその内に強大な力を秘められておいでです。即ち、その力に耐え得る、完璧な憑代が必要なのです。寿命が長く、強靭で、不変の強さを持った肉体が……」


薄気味悪く微笑むイカーブ。


「あぁ言えばこう言いおってぇ……。貴様には分かるまい! わしはもう、この玉の中に飽き飽きしているのだ!! 数百年もの間、死して骨と化した傀儡(くぐつ)に閉じ込められ、それでもなお復活の機会を待っていたわしの前に、突然貴様は現れた。貴様が言うたのだぞ? わしを救うと!!! それが、気付けばもう二十年……、二十年も経っているではないか!!!! 寛容なわしでも、貴様のあまりのノロマさに、もはや堪忍袋の緒が切れる寸前だ!!!!! それを、わざわざ眠っているわしを起こしてまで、何を告げるかと思えばっ!!!!!! ……ん?? そう言えば貴様、何故わしを起こした???」


黒煙もくもく骸骨は、そういえば用事を聞いていなかったな、とでも言いたげなニュアンスで急にクールダウンし、イカーブにそう尋ねた。


……ボケてんのか、この骸骨?

そんだけ怒鳴っといて、今更何言ってんだよ??


「それでは本題に入らせて頂きます」


ぺこりとお辞儀するイカーブ。


んなっ!? こっから本題なんかぁあ~いっ!

前振り長いわこんにゃろぉ~うっ!!


「現国王カティア様の御子息であらせられる第一王子、チャイロ様を……、明日、蝕の儀式の生贄として、奈落の泉に沈める事と相成りました」


ぬぁっ!? なぬぅううぅぅっ!??

あっ、明日なのぉおおおぉぉっ!?!?


先ほど廊下にてティカとイカーブの会話を聞き、チャイロが生贄となる事が決定した……、ところまでは知っていたが、まさか明日とは……、急過ぎる。


「おぉ、あの忌々しい小僧が、明日にも処刑とな? くくくくくっ……、グァ~ハッハッハッ! ようやくわしの忠告を聞き入れおったか、下等種族共め!! 侍女共をちまちまと殺してきた甲斐があったのぉ!!!」


めちゃくちゃ悪い顔をして、大口開けて笑う骸骨。

その姿はあまりにも醜く、怖いしキモいし見てられない。


「えぇ全くです。それに加えて、外界から来た怪しげな鼠が、チャイロ様の夜言の真意を理解したのでございます。何故あの様な者に、そのような事が出来たのかは私には分かり兼ねますが……。夜言の真意を姫君方にお伝えしたところ、全員一致で、チャイロ様が生贄になる事が決まったのです」


イカーブの説明に、俺は心がチクリと痛んだ。


あの、ガリガリに痩せ細っていた、九人のお姫様達。

仮にも弟であるはずのチャイロを、全員一致で生贄にだなんて……、あんまりじゃないか。

彼女達には、心が無いのだろうか?


「グハハハハッ! さすが紅竜人!! 実の兄弟でも平気で生贄にするとは、まさに血も涙も無いっ!!!」


「チャイロ様が居なくなれば、貴方様への脅威は全て無くなったに等しい。御存知の通り、国王には既に呪いをかけてございますし、姫君方には、ご成婚されて子を持たれる前に、不慮の事故という形でこの世を去って頂きます故。さすれば、ククルカンの再来などと持て囃される王族の血を引く者は、この世に二度と生まれてきますまい。となれば、後は貴方様の天下です」


……ん? どういう事??

今の言い方だと、ククルカンの再来と呼ばれる者は、王族の中から生まれるって感じだけど。

それならゼンイは何なのさ???


「くくくくくっ。ククルカンなぞ取るに足らん。憑代を得て、奴を喰らい、力を得さえすれば、この世の神とて恐れる必要はない。わしが世界最強、世界最大、世界最高の存在となるのだっ! く~くっくっくっ。……やはり憑代が必要だ。この際王子の処刑などどうでもよい!! わしに憑代を差し出すのだ、 一刻も早くっ!!!」


骸骨は、めちゃくちゃ怖い見た目だけど……、あんまり頭が良くなさそうだな。

話が一周回って元に戻ってしまっているし、世界最強とか、最高とか……、中二病かよ? 言っている事がまるでギンロみたいだ。


「ほほほほ。そう焦らずとも、既に目星はつけております」


優しく微笑むイカーブ。

その笑顔が逆に怖い。


「なにっ!? ならばすぐさま差し出すが良いっ!!」


「私もそうしたい所なのですが……、生憎、物事には順序というものがございます故、今しばらくお待ちを」


「貴様……、わしを愚弄しておるのかっ!? いったい

いつまで待たせるつもりだっ!!? よもや、このまま未来永劫、わしをこの玉の中に閉じ込めておく気ではなかろうなっ!?!?」


「いえいえ、滅相もございません。明日、チャイロ様を亡き者とした後に、憑代となる者共をこの王宮へ迎える手筈となっております。この王都には、約二千もの兵士が働いており、王宮内部やその周辺には、半数の千人が常時待機しております故、王宮に入ったが最後、奴らは袋の鼠でございます。そうなってからゆっくりと、貴方様が憑代とされる者をご自分でお選びくださいませ。……ですがまずは、ククルカンの再来とされるチャイロ様を亡き者とする事が先決。五百年前の忌々しい出来事の二の舞になど、貴方様とてなりたくはないでございましょう? 邪魔者を排除し、それから復活なされるのが一番の得策でございます。強靭な憑代を手にされれば、貴方様が望む未来が訪れる……。貴方様はきっと、この世で最強の悪魔となれる事でしょう」


イカーブの言葉に、俺の耳はひとりでにピクリと動き、全身の毛がボッ! と逆立った。


この世で最強の、悪魔……?

つまり、今目の前にいる、黒煙もくもく骸骨が悪魔だって事かっ!?

くっそぉ~、俺の予想はまたしても外れてたってかっ!??

怪しいと思っていたイカーブは、実は悪魔などではなく、悪魔の小間使いをしているだけだったのか。

……いや、それでも悪い奴って事には違いないけどなっ!!!


……てか、ゼンイあの野郎、悪魔の痕跡はないとかなんとか言ってたくせにぃ~。

ここにいるじゃねぇかよっ! ここにぃいっ!!


「ほぉ? なるほどそういう事か……、悪くない。わしに楯突くククルカンの遺志をこの世から抹消し、新たなる憑代を手に入れる。くくくく……、いつもながら、貴様はなかなかの策士よのぉ」


「お褒め頂き、光栄でございます」


「ならばわしは、憑代を手に入れたその足で、奴の魂を喰らいに向かおう。それさえ果たせれば、このような辺境の島になど用はない。力を得て、世界を滅ぼさんが為に、わしは外界へと向かうぞ。……くくくくくっ、グハハッ! この世の全てを支配し、地獄と化してやろうぞっ!! グハハハハハハッ!!!」


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