52:ポカーン!!!
「ここは、世界的にも有名な未開の地、時の神クロノシア・レアが守る幻獣の森。巷では、時の神の名をとって、【レア・フォレスト】とも呼ばれておる。他にも、禁忌の森とか、禁断の地などという異名もついておるの。ワコーディーン大陸の東部南端に位置するこの地は、北をクロノス山脈に、東西と南を海に守られておる。クロノス山脈は、世界有数の巨大山脈で、大陸からこの森を分断するように東西に広がっておる。あまりにも雄大なこの山脈を、【クロノスの壁】と呼ぶ者もおるの。クロノス山脈は、立ち入る者の時を止めてしまう恐ろしい山じゃ。時を止めるということは、体の動きも思考も、呼吸でさえも止めてしまうということらしいんじゃが……、まぁ、噂に過ぎんかったの! わしは生きとる!! ガハハッ!!! しかしながら、周りの海は岩礁が酷く多い。船で近付く事など到底できん。じゃからここは、外の世界から見れば、誰も足を踏み入れる事のできん未開の地。幻獣の森は、まさに未知なる秘境なんじゃよ」
小川の水で体についた泥土を落としながら、テッチャはそう説明してくれた。
西へと沈みゆく夕日が、辺り一帯をオレンジ色に染めていく。
テッチャのツルツルの頭は、その光を反射して、眩しいくらいに輝いていた。
「でも……、そんな、幻獣の森だなんて……。ねぇモッモ?」
「う、うん……」
互いに目を合わせて、動揺する俺とグレコ。
俺は、つい最近まで村から出た事もなく、ここがどんな森なのかなんて全く知らなかったし、言われた今でもピンとこない。
それはグレコも同じの様で……
「そうは言うけど、私の仲間は、普通に外界遠征へ行っているわよ? だけどそんな話……、この森が未開の地だなんて、聞いた事もないわ」
怪訝な表情で首を傾げている。
「そりゃおめぇ、外に出た奴らが、大した情報も得ずに帰って来とるんじゃろうな。もしくは、身を守る為に、外の者とは必要以上に関わりを持たんようにしとるか……、どっちかじゃの。おめぇさ、ブラッドエルフじゃろ? ブラッドエルフといやぁ、ピグモルには劣るが、世界的に見てもそりゃ~珍しい種族じゃて。あちこち旅したわしかて、出会ったのは初めてじゃ。リーフエルフとか、ムーンエルフとかなら、出会った事があるがのう」
「リーフエルフ? ムーンエルフ?? 知らないわそんな種族。私たちブラッドエルフはもともと、ゴンゴール大陸のハイエルフの血筋だから」
「なんとっ!? ブラッドエルフはハイエルフから生まれた種族かっ!? それが真実なら、わしはもう大発見者じゃな!! ガハハハッ!!!」
高らかに笑うテッチャに対し、グレコは面白くなさそうに小さく溜め息をつく。
「えっと、その……。じゃあ僕たちは、ピグモルもブラッドエルフも……、外の世界では、とっても珍しい種族だってこと?」
「そういう事じゃ。ピグモルなんぞ、もう絶滅したものと思われておるからの。およそ五十年前、とある魔法使いが絶滅の危機を救おうと立ち上がったが、間に合わなかったと言われておる」
なるほど、そうだったのかぁ……
確かに、絶滅した種族が生き残っていたとなれば、見つけた人は大発見だよね~。
「魔法使い殿は、しかとピグモルを守ったぞ。間に合わなかったなどと出鱈目をほざきおって……」
急に機嫌を悪くして、低く唸るガディス。
「おぉっ!? 怒るんじゃぁねぇよぉ~。あくまで世間一般の見解じゃ、わしの意見ではないぞ」
一度埋められた恐怖からか、テッチャは縮み上がる。
「じゃあ、えと……、話をまとめると、テッチャはこの地に鉱石を探しに来たんだよね? その、未開の地だから、新しい鉱石があるかもって、思ったんだよね??」
まとめにかかる俺。
「そうじゃ。じゃがしかし、今思えば、あの時わしが感じた好奇心は……。モッモ、おめぇに出会う事を、予期していたのかも知れんのぉ~」
にししと笑うテッチャ。
その顔が何故か、どうにもいやらしく見えて……
「ぼっ!? 僕に!?? ……ど、どうして?」
妙にドギマギする俺。
何故、俺にっ!?
もしかして、テッチャはそっち系っ!??
いやぁあぁぁ~っ!!!!
俺は完全なノーマルですよぉっ!!!!!
有り得ないとは思うけど、人の趣味趣向はそれぞれなのである。
まさか……、まさかそんな事……?
「おめぇの指さ着けているもん、何か分かっとるんかぁ?」
テッチャが指さす先にあるのは、俺の右手の薬指にはめられている、時空の指輪だ。
ゆ、指輪?
よ……、良かった~、目当てが指輪でぇ~。
てっきり俺は、テッチャが、もふもふ好きの同性愛者なのかと心配して……
「その指輪についとる石……、わしも噂に聞いた事しかなかったが、おそらく……。それは【時空石】と呼ばれる代物じゃ。時空石とは即ち、時の神クロノシア・レアのみが創り出すことのできる秘石。その七色の輝き、放たれる魔力、隠しきれない神の力……。モッモ、おめぇは、時の神に選ばれし使者じゃな?」
うっ!? ドキリッ!!?
キラリと光るテッチャの目と、またしてもドギマギし始める俺。
仰る通り……、おそらくそうですっ!
てか、ほぼほぼそうですっ!!
でも……、それって、言ってもいいのだろうか?
俺が、神様に選ばれし者だって、名乗ってもいいのだろうか??
たぶんそうなんだけど、神様に言われたわけじゃないから、確定事項では無いわけで……
もし仮にそうだとしてもだ、あんまりそういう事、大っぴろげに公表しない方がいいんじゃないか……???
「すごぉ~い! 石だけでそんな事まで分かるのねっ!!」
わぁ~おっ!?
君がばらすのね、グレコさんっ!!?
俺まだ、言おうか言わまいか、悩んでいたんですけどぉおっ!!??
「やはりのう。ならばわしは、ようやく見つけたという事か……」
小さく呟くようにそう言って、テッチャは川から上がり、恭しく上着を羽織って、ツルツルと光る頭にキチッとトルコ帽を被り直し、ドカッ! と俺の前に腰を下ろした。
そして、試すような表情で、俺の顔を覗き込んできたではないか。
な……、何を、言われるのだろう?
ドキドキドキ
もう一度言うけれど……、俺は断じて、ノーマルだっ!!!
「改めて名乗ろう。わしの名はテッチャ・ベナグフ・デタラッタ38世! アンローク大陸に現存する、ドワーフ族の最古の王国……、その名も【デタラッタ王国】!! わしはその国の、次期国王に当たる者じゃ。予言者の言葉に従い、長年に渡って、時の神の使者を探して世界を旅しておった。そして今、ようやく出会えたのじゃ……。モッモよ……、おめぇの村、わしが栄えさせてやろう!!!」
ピカーン!!! と光る、テッチャのツルツル頭。
自信満々にそう言い放った、ドヤ顔全開のテッチャに対し、俺は……
え? 何?? 村を栄えさせる???
……ど、どういう事????
グレコとガディス共々、まさに、ポカーン!!! だった。




