49:手を繋ごうか?
北側の洞窟を抜け、セシリアの森に着いた俺とグレコ。
鞄の中をごそごそと漁り、豪華な装飾の箱から黒い爪楊枝を一本取り出して、プスッと地面に刺す。
ブォンッ!
小さな爆発音が鳴り響くと、ものの一瞬で、そこには新たな石碑ができていた。
世界地図を取り出し、青い光が増えている事を確認する俺。
北の山々にある聖地の光、テトーンの樹の村の光、その二つを直線で結んだちょうど真ん中辺りに新たな光が加わっていた。
そこにはしっかりと《セシリアの森・エルフの隠れ里》という文字が記されている。
俺の村の場所にはもちろん、《テトーンの樹の村》という文字が記されているのだが……
「ん? あれ??」
小さな異変に、俺は気付く。
北の山々にある聖地の光、そこにはこれまで《聖地》とだけ書かれていたはずなのに、今は《時なしの山・時の神の聖地》と表記が改められているではないか。
これはつまり、この世界地図は、『石碑が立てられた場所の名前が追加される』だけではなく、『俺の中で場所の認識が変わった際に、その場所の名前が改変して記載されるらしい』という事になる。
これはちょっと……、俺の頭の中が筒抜けというか……
便利過ぎて、逆にちょっと怖いなぁ〜、ははは〜。
苦笑いしつつ、世界地図を鞄に仕舞うと……
「さて、行こうか。……お?」
顔を上げて、首を傾げる俺。
つい先ほどまで、ぽっかりと穴が空いていたはずのエルフの隠れ里への入り口である洞窟が、綺麗さっぱりなくなっているのだ。
というか……、塞がっている?
目の前にあるのは、ただの岩の壁だ。
「ん? あぁ、私たちが外に出たから、扉が閉じたのよ」
当たり前の事の様に説明するグレコ。
だけども、俺にはもちろん理解出来ず……
扉? 何が扉なの?? これが扉なの???
取っ手も何もないじゃない……、開けられないじゃない????
不思議そうに岩壁を見つめる俺に対し、グレコが捕捉してくれた。
「えっとねぇ……、あ、ほらここ。ここにエルフの紋章があるでしょ? ここに【エルフィラン#鏡__きょう__#】を使って、太陽の光、または月の光を反射させれば、扉が開くのよ。エルフィラン鏡っていうのは、エルフの古代魔術がかけられた鍵となる鏡のこと。モッモも父様から預かったでしょう? まぁもっとも、セシリアの森には警備で辺りを見回っているエルフが沢山いるから、この村に入る時には必要ないと思うけどね。鏡はとても貴重なものだから、本来ならエルフ以外の者に渡す事なんて考えられないんだけど……。だから、モッモは特別よ♪」
ほほう、俺は特別なのか……
いいなそれ♪
途端に上機嫌になる俺。
「おほんっ! ではグレコ君、我が村へ帰ろうか!!」
俺は、意気揚々と、得意げに導きの腕輪を掲げる。
くすくすと笑うグレコ。
そして……
「テレポートッ!!!」
声高々に合言葉を唱え、勢いよく、導きの腕輪の青い石に手をかざした。
すると、瞬きするほどの一瞬の間で、テトーンの樹が群生する俺の村の前まで戻って来ることが出来た。
やったぁ!
初めての長距離移動に成功だぜっ!!
「ふぅ~。上手く行ったようだ……。どうだねグレコ君! 私の神の力は!?」
ドヤ顔で芝居がかったセリフを呟き、喜んだのも束の間、腰に両手を当てて振り返ると……
「ん? あれ?? グレコ……、んんん???」
そこにグレコはいなかった。
「ん~、モッモしか移動できないのかしら? 困ったわねぇ……」
むむむと考える、グレコと俺。
テレポートした後、テトーンの樹の村の石碑の前にポツンと一人立っていた俺は、訳が分からず辺りを探し回った。
しかし、どこにもグレコはおらず……
もしかして!? と思い、導きの腕輪を使ってエルフの隠れ里の石碑まで戻ってみると、キョトンとした顔のグレコが待っていた。
どうやら俺は、一人でテレポートしてしまっていたらしい。
というか……、どうすれば一緒に移動できるのか、なんて、考えてもみなかった。
「ゲームでは、一人が移動すると、みんな移動できるんだけどなぁ……」
ぼそっと呟く俺。
「ん? なんて?? げーぬ??? げーぬって何????」
めっちゃ気持ち悪い聞き間違いをするグレコ。
げーぬて……、一文字違うだけだけど、嫌だわその響き。
「あ、ごめん、こっちの話」
俺の前世の記憶の中にある、ゲーム。
前世の俺は、バーチャル世界の住人になって冒険を楽しむゲームが好きだった、……と思う。
そのシステムだと、移動呪文を行使した際には、自分も、一緒にいる仲間も、共に移動できていたのだが……
現実だとそうはいかないのだろうか?
しかし、もしそうだとしたら……
「不便すぎるな……」
ドゥルフのように眉間に皺を寄せて、またもやぼそっと呟く俺。
「ん? また何か言った??」
「あ、ごめん、またこっちの話」
とにかく、グレコだけ歩いてテトーンの樹の村まで来てもらうのは……、可哀想すぎる。
かと言って、旅立った手前、すぐにエルフの隠れ里に帰らせては気まずいだろう。
どうしたものか……
「ねぇ、ちょっとそれ、見せてくれる?」
「あ、はい、どうぞ……」
左腕にはめたままの腕輪をグレコに見せる。
「うわぁ、何これ……。すっごく複雑な魔法がかかっているわね」
あ、そういうの分かるんだ、すっげぇ~。
……俺、何にも分かんな〜い。
「でも、たぶん一緒に移動できると思うんだけど……。あ! 分かった!! モッモ、手を繋ごうか?」
なぬっうっ!?!?
「おうんっ!? てっ!?? 手を繋ぐのっ!?!?」
何の目的でですかぁあぁぁっ!?!??
「うん。体の一部が触れていれば、きっと同じ体として認識されるから……、そうすれば一緒に移動できると思うの!」
な、なるほどな……、しかし……
俺は、産まれて此の方、一度も、女の子と手を繋いだ事がないっ!
ましてや、グレコの様な、可愛いエルフの女の子となんてぇ!!
うううううっ!!!
きっ、緊張して……、手汗がぁあぁぁっ!!!!
しかしながら、ドギマギする俺の様子などお構い無しに、グレコは俺の手をギュッと握ってきた。
優しく、強く、ギュッと……
「はい、いいよ」
あああぁぁぁぁぁっ!?
そんなにギュッと握らないでぇっ!??
ぞっ、ゾクゾクするぅうぅぅっ!!???
(*注意*このゾクゾクは、手に生える体毛に不意に触られた事による、ピグモル特有の優れた触覚ゆえの自然現象です。決してやましいものではございません)
「ほら、モッモ、早く」
「あふっ!? はっ! はひぃいぃぃ~!!」
俺は小刻みに震えながらも、繋いだ方の腕にはめられている導きの腕輪に、反対の手を、なんとかかざして……
「おっと……、わぁっ!? できたねっ! やったぁっ!!」
無邪気に喜ぶグレコと一緒に、無事、テトーンの樹の村まで帰る事ができたのでした。
手が……、手の平がぁ~あん……
まだゾクゾクしてるぅうぅんっ!!!




