477:なんともねぇさ!
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●魔法王国フーガにおける、ギルド設立運営法●
規定その1:ギルドを設立する為には、国が規定する同種の職業資格を持つ者が最低でも三名必要となる。
規定その2:ギルド設立に際し、一名が代表として【ギルドマスター】となる事。
規定その3:ギルドマスターの補佐となる者を最低二名、指名する事。
規定その4:ギルド運営をするに当たり、何らかの形で国の法律及び世界連合の法律を犯した場合は、その当事者とギルドマスターが責任を負う事とし、その他のギルド所属者は一切の責任に問われない事とする。また、ギルドの存続も、特例でない限りは問われない事とする。
規定その5:ギルドマスターは、ギルド所属者全員の長たる存在であるが為に、彼等を保護し支援する責務を負う。更には、彼等が法律を犯した場合は、彼等と共に、または彼等に代わって、警告、又は処罰を受ける事となる。
規定その6:万が一にも、ギルドマスターが法律を犯した場合は、その者のギルドマスターの任を解くか、ギルドそのものを解散させる事とする。
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崩壊しかかった白薔薇の騎士団ギルド本部内、一階中央ホールの入り口の大扉前にて。
「どうも、すまん事をした」
「誠に申し訳ない!」
「どうもっ! すみませんっしたぁっ!!」
「ごめんなさいですっ!!!」
「どうも、すみませんでしたポゥ」
五者五様、それぞれに深く頭を下げて謝罪の意を示す、白薔薇の騎士団の副団長、総勢五名。
右から順に、巨大白熊のライネル、長身スレンダーで美人な黒髪お姉さん、見た事のない木のような種族の馬鹿でかい男に、どこにでも居そうな感じの小学生みたいな金髪の人間の男の子、そしてノリリアだ。
彼等の名前とか、副団長がどんだけ偉いのかとかは俺にはよく分からないけれど……
その錚々(そうそう)たる顔ぶれに、周りの者達は皆、戦々恐々としている。
ずらりと並んだ警備隊の皆さんも、さすがにこの五人に深々と頭を下げられたとなっては、なかなかに文句を言う気にもなれないらしい。
今後は気をつけるように、という口上の警告だけで、特別のお咎めは無しとなった。
ギルド本部は今、沢山の者達で溢れ返っている。
そのほとんどがギルドに所属する魔導師達なのだが、竜化したローズが白い炎で滅茶苦茶にした建物内を、みんなで必死になって復興作業に勤しんでいるのだ。
怒っていたとはいえ、自分のギルドを、ここまで破壊しちゃうなんて……
あんなリーダーを持つと、下で働く者は大変ですね。
そのような慌ただしい光景を、ぼんやりと見つめる小さい影が二つ。
無論、俺とカービィの二人である。
中央ホールの端に寄せられていたベンチに腰掛けて、事の成り行きを見守っています。
もう本当は、すぐにでも船に帰りたいんだけど……
「ちゃんとローズ団長に納得してもらってから船に戻りたいポねっ!」
ノリリアの強い主張に負けて、俺とカービィは、まだここを動けずにいるのです、はい。
「なはは、みんな大変だなぁ~」
周囲に目を向け、呑気に笑うカービィ。
その言葉はいつも通りの無責任で、まるで他人事のようだけど……、まぁ今回ばかりは許そうじゃないか。
何故ならば……
「カービィさん!? あなた、笑ってる場合じゃないですよぉっ!!!」
アセアセとしながら、カービィの両手に治癒魔法をかけているのは、先程受付でお世話になったエルフのセーラだ。
どうやら彼女も白魔導師らしく、救急箱のような物を何処からか持ってきて、治癒魔法を行使しつつ、薬や包帯などを取り出してテキパキと手当を始めている。
その様子をチラチラと横目に見ながらも、あまりに痛々しいその光景を、俺は直視出来ずにいた。
竜化したローズの前に一人立ちはだかり、自分の身を盾にしながら守護魔法を行使していたカービィの両手は、重度の火傷を負ってしまっていた。
肘より先のピンク色の毛は全て焼け落ちて、可愛らしく小さな掌の肉球は、真っ赤に爛れて腫れ上がっていた。
見るからに痛そうで、俺は顔をしかめるが、それでもなおカービィは、いつもと変わらぬ平常心を保ち、ヘラヘラし続けている。
さすがと言うべきか、阿呆というべきか……
そんなカービィに対し、その言葉が多少無責任だとしても、俺に悪態をつくことなど出来るわけがない。
「カービィさん、手の具合はどうですか?」
警備隊達を見送り終えたライネルが、俺たちの元へとやって来た。
「おぉ、なんともねぇさ!」
……嘘つくなよ、強がりめ。
「ほんと、すまねぇです……」
「いいって! おまいが謝る事じゃねぇよ!! そいで……、そっちは大丈夫だったのか?」
「はい、まぁ……、何とかなります。幸いにも、この建物には団長の強力な結界が張られてますから、中がこんだけの被害でも外は無傷です。だから恐らく、後でお咎めがあったとしても、精霊召喚による警報発令の件だけで済むでしょう」
あ……、ご、ごめんなさい。
それは俺のせいですね、ごめんなさい。
「そっか。……ま、心配すんな! ローズは国王のお気に入りだからよ。こんくらいじゃ何にも言われねぇって!!」
「だといいんですがねぇ~!」
はははと笑って返してくる辺り、このライネルもなかなかに図太い神経の持ち主らしい。
まぁ、この白熊のなりで、繊細なわけないか。
「ライネル! カービィ!! 話なら上でしよう!!!」
少し離れた場所からそう言ったのは、警備隊に頭を下げていた副団長の一人、長身スレンダーな黒髪お姉さんだ。
お顔立ちがとても美しく、スッと通った鼻と切れ長の目がとってもセクシー。
声はかなりハスキーで、口調は軍人のようにハキハキしている。
「おう! ……なぁセーラ、もうそんなもんでいいぞ?」
セーラはかなりの心配性らしい。
火傷を負ったカービィの両手は、肘から先がギブスでもはめられたかのように太くなるまで、何重にも包帯でグルグル巻きにされていた。
「よし! できた!! ふぅ……。 カービィさん、しばらくはこのままでお過ごしくださいね。身の周りの世話は従魔に任せればいいんですし」
そう言って、俺を見るセーラ。
……くっ!? 俺は従魔じゃねぇえっ!!!
「あ~、なははっ! そうするよっ!! じゃあまた後でな~」
俺が従魔であると言われた事は否定しないまま、 カービィとライネルは黒髪お姉さんの元へと歩いて行く。
けっ!
なんで否定しないんだよ、カービィこの野郎っ!!
後で弁解させろよ馬鹿野郎っ!!!
「あら? あなた、着いて行かないの??」
その場に立ち尽くしたままの俺に対し、セーラが小首を傾げならが尋ねる。
その言葉、その表情からして、本気で俺の事をカービィの従魔だと思っているらしい。
もはや返す言葉もない。
しかしながら、俺は着いて行くべきなのか?
俺は呼ばれてないから、ここで待っていたらいいのかしらね??
「モッモ! 早く来いよっ!!」
あ……、やっぱり行かなきゃ駄目よね???
カービィに呼ばれて、まるで従魔のように慌てて駆け寄る俺。
もうこうなったら、とことん従魔してやるぜっ!
こんにゃろめっ!!
黒髪お姉さんとライネルと共に魔道式昇降機に乗り込み、着いたのは最上階の五階。
他の階とは違い、五階にあるのは大きな扉が一つだけ。
そしてその扉のネームプレートには、《団長室》と書かれていた。




