476:いまいちうぉ〜
バルン!? 何故ここにっ!??
一見すると、だだの赤いだけの小さなトカゲなのだが、バルンは列記とした火の精霊サラマンダーなのである。
その尻尾の先には炎が灯っており、本日も元気にメラメラと燃えてます。
どうしてだか分からないけど、俺を助けてくれる精霊達は、こちらが呼んでいないのに勝手に現れる事が多々ある。
例によって今回もそうだった。
「どっ!? どうしているのっ!??」
相変わらずヌボーッとした様子のバルンに対し、涙ちょちょぎれ状態の俺は、裏返った声で尋ねる。
するとバルンは……
『うお、音が聞こえた。モッモが泣く音……。うおの主、モッモ。だから助けに来たうぉ~』
なっ!?
バルンの言葉に、俺の目には再度、ブワワッ! と涙が溢れる。
バッ! バルン~~~!!
なんっっって、良い奴なんだ君はぁあっ!!!
「ありがとう! ありがとうバルン!!」
思わず叫びながら、バルンのツルンとした赤い鱗の手をギュッと握り締める俺。
冷たそうに見える爬虫類の手だが、予想に反してぬくぬくと温かい。
すると、またあの、ケケケケケケー! という喧しい警報が鳴り始める。
さっきイヤミーを召喚した時に鳴っていたあれだ。
気付かぬうちに鳴り止んでいたのが、バルンが現れた事によって再度発動してしまったのだ。
階下では、ローズの竜化によって慌てふためいていた警備隊達が、異常事態だと更にバタバタし始めている。
「何者ポ!? ま、魔物っ!??」
状況が全く飲み込めないノリリアは、俺の背後であたふたとしている。
「魔物じゃないよ! 味方だ!!」
泣き笑いしてグチャグチャな顔の俺の言葉に、ノリリアはかなり混乱している様子だが、そんな細かい事を気にしている時間はない。
何故なら、全く容赦のないローズが、またもや白い炎の球をこちら目掛けて吐き出したからだ。
「あっつっ!?」
「ポポポゥッ!?」
守護魔法の結界に守られながらも、やはり竜の炎の勢いは凄まじくて、さすがのカービィでも塞ぎきれないらしい。
焼け付くような熱風が、俺の体を包み込んだ。
「モッモ! 早く行けぇっ!!」
此方を振り向く余裕すらないカービィが再度叫ぶ。
「次でトドメだぁあぁ~!!!」
もはや人格崩壊してるんじゃ!? と思えるほどに、恐ろしい竜と化したローズが、またもや白い炎の球を吐き出さんと喉奥を滾らせ始める。
その炎の量からして、前の二発に比べると格段に威力が上がりそうだ。
あわわわわっ!?
あんなの食らったらおしまいだぁっ!??
「ば!? バルン!?? な、何とかできるぅっ!?!?」
出て来たからにはどうにか出来るんだよねっ!?
そうだよねぇえっ!??
目には目を、歯には歯を……、炎には炎をぉっ!?!?
『あ~い』
焦る俺とは裏腹に、のんびりとした動きで尻尾をザリザリと引きずりながら、バルンは歩く。
そして、守護魔法を行使しているカービィの前、つまりはローズの真ん前に、自ら立ち塞がったではないか。
「なんっ!? とっ、トカゲっ!??」
どうやら、カービィがきちんとバルンに会うのは今回が初めてらしい。
突然現れた赤いトカゲを前に、カービィはギョッとした顔でバルンを見つめる。
「何者だっ!? いや……、何者であろうとも、もはや消し炭になるのみっ!!! くらえぇえぇぇっ!!!!」
お上品な言葉はどこへやらっ!?
ローズはあらん限りに口を開いて、白い炎の球を吐き出した。
それはやはり、先程までのものとは比べ物にならないほどに大きくて……
「うぉおおぉぉぉっ!!!」
雄叫びを上げながら、最大限まで魔力を放出し、守護魔法を強化するカービィ。
「ポポポポポポ……」
頭を抱えて身を縮める事しか出来ないノリリア。
「バァッ!? バルンンンンン~ッ!!?」
もはや頼れるのはバルンだけ!
お願いっ!!
君の炎で弾き返してっ!!!
『いただきまぁ~す♪』
ふぁ? い??
……頂きます???
カービィの前に立つバルンは、その小さな口を目一杯開けて、真っ直ぐに此方に向かってくる白い炎の球を食べようとしている。
……いやっ!? 無理だろっ!??
大きさ的に無理だろうがっ!???
口の何倍あると思ってんだっ!?!!?
もう、助かる望みは消え失せた……、かと思われた、次の瞬間。
グゴゴゴゴゴォォ~……、パックンチョ!
はんっ!?
うっそぉおっ!??
なんとバルンは、ローズが放った白い炎の球を、まるでゼリーのように口に吸い込んで、一口で食べ切ってしまったのだ。
俺も、ノリリアも、カービィも、怒り狂っていたはずのローズでさえも、目が点になって動きが止まる。
そして、当のバルンはというと、白い煙が立ち上る口をモグモグと動かして、そのツルンとしたお腹を押さえながら、ちょっぴり残念そうな顔でこう言った。
『うぉ~……、いまいちうぉ~』
……お気に召さなかったらしい。
「なっ!? 小癪なぁあっ!!! もう一発くらえぇえぇぇっ!!!!」
はたと我に返ったローズが、瞬間湯沸かし器のように再度沸騰し、叫びながら大きく口を開く。
だがしかし……
「かっ!? かかっ!?? くっ……、力を、使い過ぎたか?」
どうやら、炎を吐き尽くしてしまったらしく、ローズの喉奥はカラッカラで、そこにはちょびっとの火の粉が舞っているだけだ。
それと同時に魔力も底をついたらしい。
ピカーッ! と竜の体が光り輝いたかと思うと、ローズは見る見るうちに元のゴスロリ幼女の姿へと縮んでいった。
そして、翼を失くしたローズは浮力を失って、ヒューっと落下していくではないか。
「危ねぇっ!? 浮遊!!」
すぐさまカービィが杖を振り、ローズの身体をふわりと宙に浮かせた。
ゆっくりゆっくりと、警備隊やコニーちゃんの待つホールへと下っていくローズの身体。
その表情は、まるで喧嘩に負けた子供のように、悔しそうな涙目でこちらを睨んでいた。




