473:こんなとこで諦めてどうすんだっ!?!?
ケケケケケケー!
ケケケケケケケケケー!!
ケケケケケケケケケケケケケー!!!
……うるせぇ~。
鳴り響く奇妙な警報は、全く止まる気配がない。
そして、一階の中央ホールが、にわかに騒がしくなってきた。
「なんだなんだ? 何で警報が鳴ってんだ??」
「分かんないけど……、何かあったのかしら?」
「ねぇ、さっき上階で爆破音がしなかった?」
「したした! 確か……、あっ!? あそこっ!!!」
「うっわっ!? すっげぇ煙出てるぞ!?? 何があったんだ!?!?」
「火事かぁっ!?!!?」
中央ホールにお集まりの騎士団団員達(カービィ曰く下っ端の)の視線が、一斉にこちらに向く。
まぁ、無理もないな……、こんな状態じゃ……
イヤミーの虚無の穴のせいで、第五会議室の扉の両脇にある頑丈なはずの石の柱は、見るも無残に粉々となった。
そして、辺りには大量の粉塵が舞っているのだ。
警報が鳴っていた為に、爆破音が聞き取れなかった者も大勢いたようだが……、一人が気付けば勿論周りのみんなも気付く。
すると、中央ホールにある外へと続く大きな扉が勢いよく開かれて、かちっとした形の軍服のような、それでいてパステルカラーの何処と無く可愛らしい色合いの制服に身を包んだ者達が大勢、警棒のような物を手にドカドカと中に入ってきた。
彼等はおそらく、カービィの言っていた国営軍の警備隊ってやつだろう。
「非常事態警報が作動しました! この建物は完全に包囲されます!! この場にいる皆さんは警備隊の指示に従って外へ避難してくださいっ!!!」
警備隊の先頭に立つ、アヒルみたいな風貌の獣人がそう叫ぶと、ギルド本部内は更に騒がしくなる。
警備隊に誘導されるままに、中央ホールにいた団員達は皆、慌てて外へと逃げ出した。
そして、警備隊達は散り散りになって、何やらギルド本部内を捜索し始めたではないか。
完全に、良くない状況だ……
早く逃げないとヤバイぞ! と、俺の中の小動物的勘が叫んでいる。
「ど……、どうするポかぁ~!?」
今のこの事態を誰よりも理解出来ているらしいノリリアは、顔面蒼白となって頭を抱えた格好で、無くなった柱の向こう側、会議室からまだ出て来られずにいる。
「どうするも何も、船に戻るんだよ。大人しくそんなとこにいたんじゃ前に進めねぇぞ? おまいの目的は騎士団にいる事じゃねぇ、村を救う事だろ??」
そう言ってカービィは、失われた柱の隙間から、ノリリアに向かって手を指し延ばす。
「ポポ、でも……。団長に逆らうなんて……、騎士団そのものを敵に回すのと同じ事ポね。それは同時に、他の副団長や、騎士団のみんなを裏切る事になるポ。そんな事……、あたちには出来ないポ。みんな、仲間……、ポポポ、仲間以上の存在なんだポ。みんな、あたちの家族なんだポよ」
俺の位置からでは、カービィの丸い背中が邪魔をしていて、ノリリアの表情までは見て取れない。
だけど聞こえてくるその声は、これまで聞いた事がないほど弱々しく、震えている。
ノリリアは、とっても真面目だ。
責任感も人一倍強い。
カービィの言う、ノリリアの目的とか、村を救うとか、何が何なのか俺には全く理解出来ないが……
果たして本当に、ノリリアが船に戻る事は、騎士団のみんなを裏切る事になるのだろうか?
いやいや、そんな事にはならないはずだ。
だって……、そもそもノリリアは何も悪くないのだから。
過去にローズといろいろあって、話をややこしくしているのは他ならぬカービィであって……、更に言うと、無理を言ってこれまで同行させてもらっていた、俺たち四人に問題があるのだ。
責められるべきはノリリアではない。
「んな難しく考えんなよ。裏切る事になんてなるもんか。ただちょっと……、ちょっとだけ、反抗するだけだ。それに、無事に墓塔を攻略して、アーレイク・ピタラスが残した解呪の術を得られれば、国王直出のクエストを達成する事になる。そうなりゃローズだって認めざるを得ないさ。まぁ、それでもあいつは何かいちゃもん付けてきそうだけど……。でもそん時は、おいらがローズに直談判してやるよっ!」
いやいや、カービィさんや……
自信満々に仰ってますけど、あなた、ついさっき、その直談判しようとしてる相手に殺されかけてたでしょう?
何をどう直談判すると??
無理な事は言いなさんな。
「ポポゥ……、でも……」
「あ~も~、早くこっち来いって! 忘れたのか!? おまいの故郷では、おまいの帰りを待ってる奴らがいるんだろっ!?? こんなとこで諦めてどうすんだっ!?!?」
痺れを切らしたらしいカービィが、珍しく声を張り上げた。
怒っているわけではなさそうだけど……
カービィはきっと、ノリリアに諦めて欲しくないんだな。
そしてノリリアも、きっと諦めたくなんてないんだ。
カービィのその言葉に突き動かされるかのように、ノリリアはカービィの手を取った。
そして俯きながらも、壊れた柱の隙間を通って、第五会議室の外へと出て来た。
ようやく見えたその可愛らしいお顔は、いつになく情けない表情で、つぶらな瞳には大粒の涙が溢れていた。
だけど、それを見た瞬間俺は、あぁ、なんだかんだ言ってノリリアも普通の女の子なんだな~、って、少し安心してしまった。
「よっし! それじゃあとっとと船にか」
カービィが俺に、船に帰ろうと言いかけた……、その時だった。
「カァ~~~ビィイィィ~~~!!!!!」
地の底から響くかのような、怒りに満ちた声が下階から聞こえてきた。
俺は背筋が凍るのを感じながら、眼下の中央ホールへと目を向ける。
そこにいるのは、お揃いの制服に身を包んだ警備隊の皆々様と、その大勢の中にいて一際存在感を放つ、少々汚れた白服のゴスロリ幼女。
あれは間違いなく、騎士団の団長ローズ。
だけど……、何あれ、ヤバくない?
ローズは、酒場で遭遇した時とは桁違いの魔力を全身から放ちながら、先程とは違ったきっつぅ~い目付きで、こちらを睨み付けていた。
「ぎゃっ!? うっわ……、めっちゃ怒ってるよっ!??」
視線だけで相手を仕留めてしまえそうなほど、その眼力は凄まじい。
あまりに危険なその視線に、俺はローズを直視する事が出来ず、無意識に数歩後ずさった。
「ポポポポッ!? カービィちゃんっ!?? どうするポかぁあっ!?!?」
何時如何なる時も冷静だったノリリアが、今はパニックに陥っている。
それほどまでに、あのローズは恐ろしいのだ。
しかしカービィは……
「うっし! 直談判すっか!!」
半ばふざけているとしか思えないヘラヘラ顔で、鼻からフンッ! と息を吐いたかと思うと、落下防止の為の柵の上にぴょいと飛び乗って、自ら下から丸見えの場所に偉そうなポーズで立った。
そして……
「なんだローズ!? おいらならここだぞっ!!」
あまりにも堂々と、あまりにもヘラヘラとそう言ったカービィに対し、俺とノリリアはあんぐりと口を開けて固まった。
な……、何してんだよぉおっ!?
ローズなんか無視して、船に帰ればいいじゃないかぁあっ!??
心の中でそう叫びながら、ふと階下に目をやると……
「ヒィッ!? なっ!?? 何あれぇえっ!?!?」
小さなローズの全身から、白い光を帯びた膨大な魔力が溢れ出し、それがどんどんと膨らんで、何か巨大な物を形作っているのだ。
角があって、牙があって、尻尾があって、そして翼がある。
あれは……、あれはまるで……
「ポポポポ……、まずいポよぉお~……!? 竜化だポぉおっ!!?」
どっ!? ドラゴン・アラーギ!??
なっ……、何それぇえっ!?!?




