45:グレコの母ちゃん
「この度は、我等が巫女が居られる禊の場へ許可も無く足を踏み入れたとはいえ、巫女によりてそのお命を落とされかけたこと……、我々ブラッドエルフ一同、心より謝罪申し上げます」
見るからに偉いんだろうな~という恰好のブラッドエルフたちが、俺の前に列を成して並んで、深々と頭を下げて謝罪している。
あまりに仰々しく、あまりに異様な光景。
皆一様に真っ黒の髪、真っ赤な瞳をしていて、此方が謝られているはずなのに、何故か萎縮してしまう俺。
それに、外にいたエルフたちはこう、みんな若い印象だったのだが、今目の前にいるエルフたちは顔こそ若いけれど、雰囲気がこう、なんていうか……、とても年配な感じなのだ。
だから余計にこう、威圧感が半端なくて……
「いやっ! そのっ!! 知らなかったとはいえ、大事な儀式の邪魔をしてしまって……。こちらこそ、すみませんでしたっ!!!」
あまりに大勢の、(たぶん)偉いエルフたちに頭を下げられたもんだから、なんだか逆に申し訳ない気持ちになって、俺は深々と頭を下げて謝罪をし返した。
すると……
「そうですか、そのように言ってもらえるとこちらも助かります。では、本題に入りましょう」
スパッと話を切り替えられましたよ。
おぉおぉ、えらい軽いなおいっ!
あんまり申し訳なかったって思ってないだろおいっ!!
……で、本題とは?
謝罪を終えたエルフたちは、ぞろぞろと移動して、部屋の左右の壁際に並べられている椅子にそれぞれ着席する。
そうすることでようやく、最初から真正面に座っていたらしい、巫女様らしき者の姿が見えた。
しかし巫女様は、その周りを簾のような薄いカーテンで覆われている為に、影しか見えない。
俺とグレコは、侍女がその場に運んできた椅子に、静かに着席した。
みんなが席についた事を確認すると、先程俺に謝罪の意を述べていた、ここにいるエルフの中でも一際偉そうな長髪の、口元に立派なお髭を生やした男エルフが前に出てきて、巫女様に向かってお辞儀をした。
そして……
「この度、巫女のお告げの通り、巫女見習いであるグレコが、西の魔獣の森にて神の力を宿しし者を見つけ出し、里へと連れ帰って参りました。これより、巫女より新たなお告げを賜りたく存じます。我等が巫女よ、何卒、我等にお導きを」
「我等にお導きを~」
髭エルフがそう言って頭を下げると、他のエルフたちも皆、最後の言葉を復唱して同じように頭を下げた。
うっわぁ~……、やっべ。
思っていた通り、こいつらやばい宗教団体みたいだ。
来ちゃいけない場所に来てしまった感が半端ないぞ。
……てか、お導きも何も、俺はこれからグレコと旅に出るつもりなのですけれど?
「二人きりで、話がしたい」
薄いカーテンの向こう側から、聞き覚えのある高い声が聞こえてきた。
「……と、仰りますと? グレコとでしょうか??」
髭エルフが、薄いカーテンの向こうに向かって尋ねる。
「いいえ。私はそこの、モッモと、二人きりで話がしたいのです」
あわわわわ……、御指名入りましたぁっ!!!
「しょ、承知仕りました……。皆の者、一度部屋の外へ」
髭エルフの指示で、ガタガタと椅子を立ち、部屋を出て行くエルフたち。
「じゃあモッモ、私も外で待っているからね」
隣に座っていたグレコも部屋を出て行った。
部屋には、俺と、カーテンの向こうの巫女様のみ。
なんだろう、凄く嫌な予感がするような、しないような……?
「モッモよ、もっと近くに、来てくださいな」
「うっ!? はいっ!!」
椅子から立ち上がって、急ぎ巫女様の前まで歩く俺。
しかし、無闇に近づいて平気だろうか?
ついこないだ、この巫女様に殺されかけたばかりだぞ俺……??
「もっと、もっと近くに……、御簾を上げてくださいな」
言われるままに近付き、そっと薄いカーテンを上げる俺。
ドキドキドキドキ
そして、そこに現れたのは……
「あっ……、やっぱり」
巫女様の顔が見えて、俺はそう呟いた。
巫女様は髪の毛が真っ黒になっていて、出会った時とは全く異なる印象なのだが……
その顔は、グレコに瓜二つだった。
「初めまして、モッモ。私の名はサネコ。グレコの母です」
あ~、お母さんなんだ……、えっ?
えぇえっ!? お母さんなんだっ!??
「ふふふ、驚いたでしょう? グレコは何も言っていないだろうから」
「あ、はい……、え……? はい」
「ふふふふふ、可愛いお顔ね。食べちゃいたくなるわ」
……既にあなたは、僕を食べた事がありますよ?
「堅苦しいところでごめんなさいね。議会の方々を通すと話がややこしくなりそうだから……、あなたと直接話がしたいと思って」
「あ~はい、僕も堅苦しいなと思ってました」
「あら、うふふふふふ。そうでしょう? もうね、毎日息が詰まるのよ、ほんと」
あ~、笑って話す感じがグレコそっくりだなぁ~。
優し気な巫女様の笑顔に、俺は緊張がほどけていくのを感じた。
「単刀直入に言うわ。あなた、グレコと旅に出て頂戴」
懇願する様な巫女様の言葉に……
「あ……、はい、実は……。そのつもりでした」
即答する俺。
「そう! なら話が早いわね。実はあの子、この里の次の巫女にならなくてはならないのよ。それで、修行も兼ねて、世界を見て回っておいた方がいいと思ってね」
あ~なるほどね、そういう事か……
「生まれて此の方四十年、あの子はこの里からほとんど出た事がなくて……。けど見ての通り、おてんばだから、男子に混ざって、周りの森で狩りや戦闘の訓練なんかはしていたみたいなんだけど、さすがにそれだけじゃねぇ……。乙女の青春にしては、刺激が足りないわ」
ブハッ!?
何を言い出すかと思えば、乙女の青春てっ!!?
……ん? てかグレコ、四十歳なのかっ!?!?
いや~、全然見えない、信じられない……
そうかぁ~……、めちゃめちゃ年上だったぁ~、ははははは~。
「だけど、少し気を付けて欲しいの。ブラッドエルフは長期間血を断つと、渇いてしまって……、あ、ごめんなさいっ! もうあなたは経験済だったわね。あの時は本当にごめんなさいね!!」
慌てて謝罪を口にする巫女様。
グレコの母ちゃん、天然だなこれ。
今更思い出して謝るなんて……
「あ、もう治ったから大丈夫です」
「そぉ? なら良かったわ」
あ、いや……、良くもないんだけどね。
エルフってみんな、切り替え早いなおい。
「それと一つ、これは私的なお願いなんだけど……」
ん? グレコの事は私的なお願いでは無いのか??
他にも何か……???
「はい……?」
「実はね、ある物を探してほしいの。だけど、これはあなたにだけお願いしたくて……。グレコには決して言わないって、約束してくれる?」
思いつめた表情の巫女様。
なんだろう? 探して欲しいって……??
「何を探せばいいんですか?」
キョトンとした表情で尋ねる俺。
すると巫女様は、意を決した様子で、両手の拳に力を入れてこう言った。
「この世界のどこかにあると言われている、【安寧の果実】という果物を……、探し出し、私の元へと持ってきて欲しいの」
……ほう? 果物とな??
巫女様は、スイーツがお好きなんですか???




