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448:みんな

「えぇえっ!? 覚えてないのぉおっ!??」


驚愕し、叫ぶ俺。


「う……、うん。ごめんなさい……?」


かなり引いた表情で、苦笑いするメラーニア。


「覚えていないっていうのは、その……、前世の記憶がないって事? それとも、昨日の事も覚えてないの??」


冷静に尋ねるグレコ。


「えと……、なんて言えばいいのかな……。こう、すっごくぼんやりしてて……。水路からお城に入った所までは覚えてるんだけど、その後に起きた事と、その間に僕が何をしていて、何を思い出していたのかとか……、すごく曖昧で……。なんだろう……、あ、夢でも見ていた感じ!」


悪びれる様子もなく、あは♪ と笑うメラーニアに対し、グレコは小さく溜息をつき、俺は全身が小刻みにワナワナと震えていた。







三子岩のすぐそばに導きの石碑を建てた後、俺とグレコは、導きの腕輪を使って、ケンタウロスが蹄族の里までテレポートした。

石碑は族長タインヘンのテントの脇に設置されていて、テントの前には、族長の護衛の為に常駐している一頭のケンタウロスがいた。

屈強な身体を持った彼は、突如目の前に現れた俺とグレコの事を瞬時には理解出来ず、敵だと勘違いして剣を振るってきた。

余りに突然の出来事で、悲鳴をあげる間も無くて……、危うく俺の尻尾が無くなりかけたが……

すぐそばにいたゲイロンとレズハンが俺たちに気付いてくれて、なんとか事無きを得た。

護衛のケンタウロスは、俺とグレコに平謝りしていた。


その後俺たち二人は、再度族長タインヘンに許しをもらって、ゲイロンとレズハンを伴い、メラーニアがいるであろう前族長ビノアルーンの家へと向かった。

家の外では、ゴリラ顔の女ケンタウロス、ゴリラーンが薪割りをしていて、メラーニアは泉へ向かったと言われた。

仕方なく、俺とグレコは揃ってゲイロンの背に跨り、タウラウの森の中央に位置するヒッポル湖へと向かった。


湖は先日、湖の主とも言うべき河馬(ほま)神のタマスが力を取り戻した事によって、薄汚い緑色の水が浄化され、透明度の高い澄んだ水へと変貌していた。

何処からともなくやってきた青羽の渡り鳥の群が滞在していて、そこにはようやく、湖と呼べるに相応しい美しい光景が広がっていた。


そんなヒッポル湖のほとりに建てられた、一軒の小屋。

その真ん前にある切り株に、真っ白な姿の子供が腰掛けていた。

メラーニアは、いつになくぼんやりとした様子で、湖面の輝きを見つめていた。







「じゃあ……、ニベルーの遺産が何処にあるのかも、分からないわけね?」


「うん、分からない! ごめんなさい!!」


……メラーニア君、言葉と表情が合ってませんよ?

ごめんなさいって言う時はね、申し訳なさそうな顔をするんだよ普通は。

ヘラヘラ笑うんじゃないっ!


全く謝罪する気などないメラーニアの言葉に、俺は天を仰ぎ見る。

どうやら、ここへ戻ってきたのは全くの無駄足だったらしい。


「あ! 丁度いいや!! 二人とも手伝ってくれないっ!?」


へ? 手伝い??


「手伝いって……、何をするの?」


「うん。この小屋の地下にね、みんなが吊るされたままなんだ。カービィさんとモッモさんのおかげで水が引いたから、みんなを下ろして、土に埋めてあげたいんだよ。けど、僕一人じゃ無理だから……、ね? 手伝って!」


この小屋の、地下だと……?

おいおいおい、それって、あの白骨死体の事じゃないか??

悪魔となった十番目のテジーに殺されたという、九人の……、ホムンクルスのテジー達の遺体だ。


「何の事か分からないけど……、モッモ、手伝ってあげれば?」


「にょっ!? 僕っ!?? 嫌だっ!!!」


グレコの提案に、両手をぶんぶんと振り回し、全身で拒否する俺。


「だって……、私はこの小屋の中に入れないじゃない? 入ったら酷く目眩がするもの、手伝いなんて無理よ。モッモは大丈夫だったでしょ??」


「だっ!? だからってそんなぁっ!!?」


あんな気味の悪い地下室なんざ、二度と入りたくないっ!!!


しかしながら、俺の精一杯の抵抗も虚しく……


「じゃあモッモさん! 手伝って!!」


「あぁあぁっ!?!!?」


メラーニアにぐいっと手を引かれ、そのまま半ば引き摺られるような状態で、俺はニベルーの小屋の中へと連れて行かれるのだった。








ピチョン、ピチョン……、ピチョチョン……


「うぅう~……、こ、怖い……」


ニベルーの小屋の地下室の入り口に、俺は立っている。

その手には、柔らかな火が灯った小さなランプを持ちながら……


開かれた扉の向こう側は、またしても何処からか滲み出た湖の水によって、足首まで水嵩がきていた。

そんな中メラーニアは、ニベルーの杖を使って浮遊魔法を行使し、天井から吊るされたままの九体の白骨死体を、水浸しの床へ下ろしていく。

器用に鎖を外し、とても丁寧に、ゆっくりと……


その姿を目にした俺は思う。

果たしてこの場に、本当に俺が必要なのか?

既にこの場に来てしまっているので、一人で先に外に出るという選択肢はほぼ無いのだが……

しかしながら、どう考えても……、俺はここにいなくていいのではぁっ!?


「みんながね、これまで僕を支えてくれたんだ」


前触れなく、メラーニアの声が静かな地下室に響いて、俺は小さく身震いした。


「み……、みんなって?」


何を言い出すんだと、不安気な顔をする俺。


「ここにいるみんなさ。こんな場所で、こんな死に方をして……、さぞ無念だったろうね。けど彼女達は、いつでも僕に優しかった」


うわぁ……、何の話かと思えば……

オカルトですか?

ホラーですか??

怖いからやめてくだぱいっ!!!


「実の両親に監禁されて、なんとか逃げ延びた先では、人間だからという理由で虐められて……。姉さんも守ってくれたけど、姉さんは僕に強くなれって……、怖い顔して怒ってたなぁ~。そんな僕に、みんなはいつも優しかった。そのままでいいよって、言ってくれた……。里を移して、この小屋を見つけてから、僕は一人、ここで過ごす事が多くなった。いつしか湖に住む変な魔物と仲良くなって、魔法を教えて貰って……、僕は強くなった。だから、強くなった証として、森に入ってくる人間達を醜い姿に変えた。僕を苦しめた人間達を、許す事なんて出来なかった。でも……。みんなはそれを喜んでくれなかった。それが悔しくて、辛くて……、もう、みんなとは話さないって決めた。けど、モッモさん達があの国へ向かうって……、戦いを仕掛けるって決めたあの日、みんなが一斉に僕の所に来たんだ。そして言うんだよ、助けてって……。私達を助けて、みんなを助けてって……。正直僕には、何の事だかサッパリ分からなかったけど……。でもね、ハッキリとは覚えていないけど、モッモさん達と一緒に戦えて良かったって思うんだ。僕は、やるべき事をやったんだと思う。だからきっと、みんなは空へ向かったんだ。もうみんな、ここにはいない……」


そう言って、少し寂し気な表情で笑うメラーニア。

浮遊魔法を行使して、九人全ての白骨死体を床へと下ろした。


……メラーニアの言っている事は、俺にはよく分からない。

たぶん、九人のホムンクルスのテジーがお化けとなって、孤独だったこれまでのメラーニアを支えて来たって話なんだろうけれど……

俺には魔力もなければ、第六感とか、霊感とか……、そう言った類の力は皆無なのだ。

お化けなんて、先日のテジーが初めて見えたお化けであって、それ以上も以下もない。

出来れば金輪際、そんなものは見たくない! とさえ思うほど、俺はお化けが苦手だ。

だけど……


目の前の寂しそうな顔のメラーニアを見ていると、お化けは悪い奴ばっかじゃないんだなって思った。


「よしっ! 上まで運ぼうっ!!」


ザブザブと音を立てながら水の中を歩き、俺は水浸しの床に置かれた九体の白骨死体へと近付いた。


こ、怖いけど……

白骨死体だし、既に死んでるし、動くわけじゃないし……

メラーニアがお世話になったんだから、お、俺だってなぁっ!

ちょっとくらい手伝うぞっ!!


ぷるぷると震える手で、何とか白骨死体の頭蓋骨を持ち上げようと、勇気を振り絞る俺。

だがしかし……


「あはは! ありがとうモッモさん!! でも……、運ぶのは僕一人で出来るからさ、そこのドアを押さえててよ? そのドア、すぐ閉まろうとするんだ」


あ、そう……?

俺は、扉を押さえているだけでいいのね??

なんだなんだ……、くっ、もう少し早くそう言ってくれよ……


困った顔で笑うメラーニアを前に、俺は覚悟を決めて水の中に足を踏み入れた事を、すぐさま後悔したのであった。


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