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44:ハネスとユティナ

「うおぉ~! 近くで見ると、おっきぃ~なぁ~!!」


石造りの巨大な塔を見上げ、俺は完全に圧倒されていた。


 料理屋を後にした俺とグレコは、北側の断崖絶壁に立つ、巫女様の待つ石造りの塔へとやって来た。

塔は、里にある他の石造りの建物同様に、俺の体ほどある大きな石が緻密に積み上げられて、上へ上へと伸びている。

 見上げるほどに大きなその塔は、いわずもがな、俺がこれまで生きてきた中で遭遇した、一番大きな建造物に違いない。


 こりゃ~凄いな! 立派だ!!

 ちょっとばかし造りが雑にも見えるが、建物の壁面に蔓延る蔦科の植物の繁殖具合からして、長年崩れる事もなくここに立っているのであろうと推測できる。

しかしながらそれにしても、自分自身が小さいせいもあるかも知れないが、この塔は大きすぎやしないか?

 この、お世辞にも建築技術が発達しているとは言えそうにないエルフの隠れ里で、これだけ大きな塔を建てるなんて、発案者には天晴れだ!!!

 ただ……、気のせいかな? 少し、後ろに傾いている気がするんだけど……??


「地下三階、地上五階まであるわ。里の建物はほとんどが平屋だから、この塔が大きく見えるのは無理ないわね。けど、これだけ大きいと支えるのが大変だから、上の階は少しずつ狭く造られてるの。だから少し、崖に寄りかかってるように見えるでしょ?」


なるほど、それで……、後ろに傾いてるように見えるわけか。

そうだよな、こんなクレーン車もないような超原始的な里で、まっすぐな五階建ての塔を建てられる方がおかしいもんな。

けど、それでもこれだけでかい建設物を造れるものなんだな。

さっきも思った事だけど、なんていうか、まず造ろうと思った事が凄いと思う、うん。

テトーンの樹の村なんて、俺が産まれる前はみんな……、すぐ崩れる土の家で何年も何年も、なぁ……、笑える、ぶふっ。


「さ、行きましょっ! 巫女様が待ってるわ!!」


グレコに促され、俺は塔の中へと足を踏み入れた。


 中は、なんだかひんやりとした空気で満ちている。

 位置的には里の北西に当たるのだが、意外と日当たりは良いはずなのに、あまり温かくない。

 なんだかこう、独特の静けさが漂っているのだ。

 通路の壁には等間隔にランプが吊るされていて、足元には綺麗な緑色の絨毯が敷かれていた。

 

 言葉を交わす事なく、通路を歩く俺とグレコ。

 時折、通路の先から見知らぬエルフが歩いてくるものの、グレコは軽く会釈をするだけで、特に誰とも話をする事は無かった。

 それに加えて、なんとなくだけど、誰も俺を見てないような気がする。

 意識的に見ないようにしているかのように、不自然なくらい、誰とも目が合わないのだ。


 なんだろう? なんか、外の雰囲気とは随分と違っているな。

 道を歩いていた時は、結構歓迎されているような気になっていたのだが……、もしかしてそうでもないのかな??

 やっぱり、禊の儀を邪魔したから、実は嫌われているのかも……???


 通路を歩き、階段を上って、巫女様と謁見する部屋があるという三階へと向かう。

 そして、辿り着いたその部屋の前には、何やら見覚えのあるエルフの男が立っていた。

 その隣には、知らないエルフの女も一緒だ。


「グレコ、遅かったな」


 グレコと俺に気付いた男が話し掛けてきた。

 その声を聞いて、相手が誰だか思い出す俺。


 あっ!? こいつはぁっ!??

 セシリアの森で俺の後頭部に矢を突き付け、神の力を宿しし者だとは信じない、とかなんとかかんとか言ってた奴だっ!

 覚えてる、俺は覚えているぞぉっ!!

 確か名前は……、ハネス、だったはずだ。

 変な名前だな!!! や~いや~い!!!!


 俺は、生まれて此の方、あんなに歪んだ表情で、あんなに憎そうな目で、まるで汚物でも見るかのような視線を向けられた事なんぞ、ただの一度もなかったのだ。

 だから、結構傷ついたんだぞ、この野郎め。

 一生忘れないからな……

 一生っ!

 絶対にっ!!

 忘れないからなぁっ!!!


 と、叫びたいのを我慢する俺。


「ちょっとね、畑を見ていて……、もう入れるのかしら?」

  

 尋ねるグレコ。


「ああ、もう既に、皆揃われている」


 そう言うと、ハネスは足元にいる俺をチラリと見下ろして、フンと鼻で笑った。


 なっ!? おいお前っ! 

 鼻で笑う前に、俺に何か言う事あるだろっ!??

 謝れっ!!

 あの時は酷い扱いしてごめんなさいって、俺に謝れぇっ!!!


「ねぇ、この小さいのが、巫女様の供物にされかけたっていう鼠?」


 ハネスの隣にいる、見知らぬ女エルフがグレコに尋ねる。

 髪の毛がこう、両側にぴょーんと撥ねていて、癖毛に悩んでいるだろうなって感じの髪型だ。

 顔はみんなと同じで綺麗で可愛いのだけど、なんていうかこう……、とても気が強そうだ。

 そして、俺に関する情報が酷過ぎる。


 供物てっ!?

 鼠てぇっ!!?

 キィイィィィーーー!!!


「えぇ。名前はモッモ、絶滅したと考えられていたピグモル族の青年よ」


 女エルフの酷い言葉を特に否定する事もなく、俺を紹介するグレコ。

 なんか、グレコもグレコで、酷いよね、うん……


「へぇ~、そうなんだぁ~。ま、確かに可愛いわね。侍女が、喋るお人形みたい! って、わいわい騒いでいたわ」


 そう言った女エルフの、ふふん、と笑った顔が、俺を小馬鹿にしている感満載だ。


 なんだよ、いいんだよ、こちとら愛らしさだけが武器なんだよ……、文句あっか!?


「モッモ、紹介するね。私の従妹のユティナと、幼馴染のハネス。ハネスには会った事あるよね? あ~……、出会い方はまぁさておき」


 おいグレコよ、話の濁し方下手過ぎるだろおい。

 そして、女エルフの方はユティナというのか。

 名前は結構可愛いのに……、なんとなく不釣り合いだな。


「俺はまだ、お前が神の力を宿しし者だとは認めていないからな」


 うげげっ!?

 ハネスよ、この期に及んでそのような事を言うとはいい度胸だな……

 下痢の呪いかけるぞこらぁっ!!?


「まぁまぁ、いいんじゃない? 本人がそう言っているんだしさ。けどグレコ、私は負けるつもりないから。あんたが旅立つって聞いて、私も旅に出る事にしたの」


 俺の話なんてサッサと終わらせて、自分の事を話し始めるユティナ。


「えっ!? どうして? どこに?? 誰と??? ……なんの目的で!??」


 驚いて、矢継ぎ早に問い掛けるグレコ。


「も~うるさいなぁ~。巫女様からもう許可はもらっているのよっ! あんたに何言われようと聞かれようと、答える義理はないからねっ!! じゃ、私は一足先に旅立つわ。またどこかで会えたらいいわね~♪」


 ユティナという女エルフは、俺に一言の挨拶もなく、ひらひらと手を振りながら去って行った。


 ……なんだったんだぁ?


「もぉ~……、なんなのよぉ~????」


 眉間に皺を寄せるグレコ。


 ねっ! ほんとにねっ!!


「おい、モッモ」


 はんっ!?

 おいハネス、気安く呼び捨てにすんじゃねぇよっ!


「お前が投獄されていたのと同じ独房にいたドワーフが脱走した。お前、何か知っているだろ?」


 ドキリッ!?!?


「ちょっとハネス! 何言ってるのよ!?」


 憤慨するグレコ。

 その隣で、明らかに動揺する俺。


「まず、こいつが抜け出せたのもおかしな話だ。たまたま看守の奴が腹痛で席を外していたとはいえ……、不思議だと思わないか?」


 ひぃいぃぃ~~~!?!!?


 ドキドキドキドキ


 イケメン顔のハネスから、俺は不自然に視線を逸らす。

 そんな俺を見て(見下して)、ハネスは……


「ふっ、まぁいいさ……、せいぜい巫女様の前でも、嘘がばれないように気をつけるんだな。グレコを騙せても、俺の目は騙せないぞ。じゃあな、グレコ」


 不敵な笑みを浮かべながら、この場を去って行った。


 ドキドキドキドキ、ドキドキドキドキ


「なによもぉ~! 二人して意味分かんない!! モッモ、気にしなくていいからね」


 うぅ……、グレコぉおぉぉぉ~!

 エルフって怖いね、エルフってぇえっ!!


 涙がちょちょぎれそうになっていると、目の前の謁見部屋のドアが内側から開かれた。


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